名探偵コナン外伝〜闇黒秘儀の機密文書〜   作:Yunice

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1月にダボス会議をユーチューブで見て書きたくなりました。。。

特に物語に展開はありませんが、温かく見守っていただけると幸いです。


世界経済フォーラム

スイス連邦

 

チューリッヒ・クローテン国際空港

 

 

 

 

 

スイスに降り立った瞬間、空気の密度が変わったことを仙水は即座に理解した。

 

湿度は低く、音が少ない。人の気配はあるが、騒がしさがない。すべてが管理され、整理され、意図的に保たれている空間だった。

 

 

チューリッヒ空港からダボスへ向かう車内で、彼は久しぶりに端末を閉じた。

 

移動中に資料を読み続けることもできたが、あえてそうしなかった。

ここに来る前に詰め込むべき情報は、すでに頭に入っている。

 

 

窓の外を流れる雪景色は、どこか現実感が薄い。

この静けさの中で、世界の行方が語られる。その事実だけが、逆に異様だった。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

グラウビュンデン州

 

ダボス

 

 

 

ダボス会議の会場は、過剰な装飾を排した無機質な空間だった。

 

 

 

 

各国政府の要人

 

巨大企業の代表者

 

金融機関の責任者。

 

 

 

 

名札と肩書きがなければ、ただの人の集まりに見えただろう。

 

 

 

 

 

 

«Il rischio è irreversibile.»

 

「リスクは不可逆です」

 

 

«Una capacità di calcolo, una volta liberata, non si ferma ai confini nazionali.

Le crittografie vengono infrante, i sistemi finanziari ristrutturati,

e la sicurezza degli Stati è costretta a inseguire gli eventi.»

 

「技術は常に、想定より早く社会に浸透する。

我々が“準備が整った”と判断した時には、

すでに手遅れであることが多い」

 

 

イタリアの首相がそう口にしたとき、仙水は軽く頷いただけだった。

 

 

未来を語る言葉の多くは、希望の形をしている。

だが彼が見るのは、常に失敗した場合の数字だった。

 

 

アメリカGoogle社の経営幹部は、技術革新による「人類の進化」を語った。

 

量子技術は、国家が管理すべき戦略資源ではなく、人類全体に解放されるべき知であるという立場だった。

暗号が破られることも、既存の産業構造が揺らぐことも、彼にとっては避けるべき危機ではない。

それは次の技術と秩序を生み出すための、必然的な通過点にすぎなかった。

国家安全保障という言葉は使われたが、それは制約ではなく、最適化の対象として扱われていた。

市場と競争が十分に機能すれば、技術は自律的に最良の形へ収束する。

人類の課題は、制御することではなく、加速を止めないことなのだと。

 

 

 

 

 

仙水は、その言葉の裏にある前提条件―

 

―Google一社による一括管理、統制、選別―

 

―あえて語らないことが、

烏丸グループへの牽制になっていることを悟った。

 

 

仙水はそれに一石投じる。

 

 

“The phrase ‘liberated knowledge’ sounds appealing.

But when the architecture of that liberation is designed by a single entity,

what you have is not decentralization, but concentration.”

 

「“解放された知”という言葉は美しい。

しかし、その解放を設計する主体が単一である限り、

それは分散ではなく、集中です」

 

 

“The assumption that markets and competition will naturally converge on an optimal solution

only holds when symmetry is preserved.

When computational resources, data, and evaluation criteria are centralized within a single organization,

anyone claiming that competition will still work is simply speaking from self-delusion.”

 

「市場と競争が自律的に最適解へ収束する、という前提も、

十分な対称性が保たれている場合にのみ成り立つ。

計算資源、データ、評価基準が一社に集約された環境で、

競争は成立すると思っているなら、独りよがりな物言いっていうものです。」

 

 

 

 

はあ…

 

科学技術の浸透に神経質な首相に独りよがりな企業…

 

全てが陳腐だった。

 

まだ我々の方がちゃんと国について考えてるぞ

 

 

 

 

 

 

と思いながら次の自分のセッションへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

円卓の中央からやや外れた位置で、仙水は量子技術に関するセッションに参加していた。

 

名札には、烏丸グループCEO代理、そして東北大学大学院理学研究科客員教授という二つの肩書きが並んでいる。

 

 

 

円卓には、欧州研究機関の代表、イギリスの元首相、オランダの大手半導体メーカーCEO、中国科学院大学の名誉教授というビッグネームが連なっていた。

 

 

 

 

 

 

 

中国科学院大学の教授は、静かに、しかし断定的に語った。

 

 

“China has been one of the countries making the largest contributions to quantum computing,

from basic theory to practical implementation,

and has already invested enormous national resources and talent at a state level.”

 

「中国は量子コンピュータの基礎理論から実装に至るまで、最も大きな貢献を行ってきた国の一つであり、すでに国家規模で莫大な予算と人材を投入している。」

 

 

“In quantum communication, quantum cryptography, and quantum computing alike, these achievements are not accidental;

they are the result of a long-term national strategy.”

 

「量子通信、量子暗号、量子計算のいずれにおいても、それは偶発的な成果ではなく、長期的な国家戦略の結果だという。」

 

 

“In contrast, Japan’s quantum technology remains largely at the research stage.

While the quality of individual research and talent is high,

in terms of national-level investment, implementation decisions, and integration into societal infrastructure,

Japan lags far behind.”

 

「それに対し、日本の量子技術は、依然として研究段階に留まっている。

個々の研究成果や人材の質は高いが、国家としての投資規模、実装への意思決定、社会基盤への組み込みという点で、大きく後れを取っている――」

 

 

教授はそう評価した。

量子技術は理想や可能性を語る段階をすでに過ぎている。

問われているのは、誰が最初に「使う側」に回るのか。

その現実から目を背けるべきではない、というのが彼の主張だった。

 

 

 

"Some people say that Japan is lagging behind in quantum technology. What is your view on this?"

 

「日本は量子分野で遅れている、という見方がありますが。あなたはどのように考えてますか?」

 

欧州の研究機関の代表がそう前置きした。

 

 

 

“It is true that, compared to China, Japan receives less national funding,

and that quantum technology holds a lower priority in terms of national security.

However…”

 

「確かに中国と比較すれば国からの予算は少なく、安全保障としての優先順位が低いのは確かです。しかし…」

 

 

仙水は静かに否定し、日本の量子技術をアピールする。

 

 

“Quantum technology is an area where Japan has the potential to lead the world.”

 

「量子技術は、日本が世界をリードする可能性を持っています。」

 

 

その一言で、周囲の視線が集まった。

 

 

"At present, Japan—led by Fujitsu and RIKEN—has succeeded in developing a 256-qubit superconducting quantum computer.

 And that is not the only approach."

 

「現在、日本では富士通や理化学研究所が中心となり、

 256量子ビット規模の超伝導量子コンピュータの開発に成功しています。

 それだけではありません」

 

 

"Spin qubits, Topological quantum computers, and so on.

 We are not yet at the stage of choosing a single winner.

 We are deliberately exploring every possible method in parallel."

 

「スピン量子ビット、トポロジカル量子コンピュータなど、

 方式の優劣を決める段階ではなく、

 あらゆる可能性を同時に試している段階にあります。」

 

 

"However"

「ただし」

 

 

仙水は一拍置いた。

 

 

"Developing quantum computers alone does not unlock their true potential.

 Just as an economy depends on supply and demand,

 quantum computing requires the exploration of real-world applications."

 

「量子コンピュータは、開発しただけでは意味を持ちません。

 経済が需要と供給で成り立つように、

 量子計算も用途の探索があって初めて価値を持つのです。」

 

 

数名の研究者が、静かに頷いた。

 

 

"If we only compete on performance,

 quantum computers will remain nothing more than expensive laboratory equipment.

 The real question is where and how they connect to society."

 

「演算性能を競うだけでは、

 量子コンピュータは“高価な実験装置”で終わります。

 重要なのは、

 何に使われ、どこで社会と接続されるのかです」

 

"And so, what is the position of the Carasuma Group?"

 

「では烏丸グループとしては?」

 

司会者が問いかける。

 

仙水は、東北大学のロゴが表示されたスライドを映した。

 

"Our focus is not limited to hardware development.

 We will actively invest in discovering and validating practical use cases."

 

「我々は、量子コンピュータの開発だけでなく、

 その使用用途の探索に重点を置きます」

 

 

淡々と、しかしはっきりと続ける。

 

 

"We have decided to invest approximately one trillion yen

 in joint research with Tohoku University,

 particularly in the field of computational science using quantum computers."

 

「東北大学が進める量子コンピュータを用いた計算科学分野に対し、

 今後、総額一兆円規模の投資と、長期的な共同研究を行うことを決定しました」

 

 

会場が、わずかにざわめいた。

 

 

"What we are investing in is not the improvement of computational capability itself, but the advancement of research that makes effective use of such capability."

 

「我々が資金を投じるのは、

“計算能力の向上”ではなく、

計算能力を生かした研究の発展です。」

 

 

 

仙水は視線を上げる。

 

 

"In the long run, economic leadership and national security

depend not on raw computational power,

but on the ability to validate, interpret, and act upon its results."

 

「長期的に見れば、経済的主導権や国家安全保障は、

単なる計算能力ではなく、

その結果を検証し、解釈し、意思決定につなげる能力に依存します。」

 

"Computational power has no value on its own unless it leads to new understanding."

 

「計算能力は、それ自体では価値を持ちません。

新たな理解に結びついて、初めて意味を持つのです。」

 

 

 

 

仙水の言葉が終わった瞬間、

会場には一拍、沈黙が落ちた。

 

 

司会者はすぐに言葉を挟まず、

一度、視線を下げてからゆっくり顔を上げる。

 

 

"……Thank you, Professor Sensui.

That was a very thought-provoking perspective."

 

「ありがとう仙水教授。とても考えさせられる視点でした。」

 

 

軽く笑みを浮かべながらも、

その目は明らかに“想定外の回答”を受け取った人間のそれだった。

 

 

"Unfortunately, we are out of time for this session.

The discussion clearly deserves more than the few minutes we had today."

 

「残念ながらセッションのお時間となってしまいました。

しかしこの議論が、本日与えられたわずかな時間以上の価値を持つことは明らかでしょう。」

 

 

そう前置きしてから、会場全体に向けて手を広げる。

 

 

"Ladies and gentlemen, please join me in thanking our panelists

for this insightful discussion on the future of quantum technology."

 

「「それでは皆さま、

量子技術の未来について示唆に富んだ議論を交わしてくださった

パネリストの皆さまに、拍手をお願いいたします。」

 

 

 

 

パチパチパチパチ

 

 

 

拍手が起こる。

 

その音に包まれる中で、

このセッションは静かに終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

阿笠邸

 

 

 

 

研究室は、夜でもないのに薄暗かった。

 

 

モニターに映るのは、APTX4869の分子構造と、仙水から渡された解析データ。

 

灰原は、もう何時間もそれを追い続けていた。

「……やっぱり、ここが問題ね」

 

 

独り言のように呟いて、キーボードから手を離す。

 

 

 

 

 

思考が一段落した、その“休憩の時間”。

 

 

 

 

灰原は地下研究室から出て階段を上がり、大きなリビングに移動する。

 

 

 

 

ソファに腰掛けると今度はノートPCを取り出しyoutubeを開く。

 

 

 

 

 

 

YouTubeライブの配信画面には、スイス・ダボスからの中継映像が映っている。

 

 

もともと目まぐるしく変化する世界経済に関心があった灰原は、特に理由もなくこのライブを開いていた。

 

新聞の片隅で、スイスのダボスで世界経済フォーラムが開催されることを知り、軽い好奇心からチェックしていたのだ。

 

幼少期からアメリカに留学していたため、英語はペラペラで、セッションの内容も字幕なしで理解できた。

 

 

 

 

 

 

灰原は手元のマグカップにコーヒーを注ぎ、湯気を吸い込みながら何気なく画面を眺めていた。

 

 

いつものように軽い気持ちでセッションを追っているはずだったが、どこか違和感を覚える。

 

 

「なに...?」

 

 

目を凝らして画面を見返す。

 

 

 

 

 

画面の中央、円卓に座る人物たちの間に、一際落ち着いた雰囲気を漂わせる男の姿があった。

 

 

 

 

「なっ...!?」

 

 

見覚えのありすぎる名前

 

 

 

その名札には、確かに「Sensui」と書かれていた。

 

 

 

 

――仙水悠。

 

 

 

 

 

灰原は思わず息を呑む。

 

 

組織の一研究員である彼がどうして、しかもダボス会議のセッションに参加しているとは、夢にも思わなかった。

 

 

 

カメラが仙水の手元のスライドにズームする。

 

 

東北大学のロゴが映し出され、まるで教授として堂々と発言している姿が画面越しにも凛とした印象を与えていた。

 

 

 

 

「……悠、あなた……!」

 

 

 

 

言葉が自然に出る。驚きと戸惑い、そして少しの安堵。

 

 

灰原の指先がマウスの上で止まり、コメント欄をスクロールすることも忘れてしまう。

 

 

 

 

画面越しに聴衆の拍手が聞こえそうなほどの臨場感。

仙水の口元に、わずかに笑みが浮かぶ瞬間まで確認できた。

 

 

 

 

 

 

灰原はその姿をじっと見つめながら呟く。

 

 

 

 

「……まさか、こんな形で、あなたと、また再会することになるなんてね……」

 

 

 

 

 

 

 

驚きと安堵

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あなたは今、何を考えているというの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




めちゃくちゃ硬派な二次創作になってしまった…

とりあえず難しい話はここでおしまいにして、
この次はちょっとだけ劇場版に関わる話をします。

お楽しみに
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