名探偵コナン外伝〜殉黒の抹消記録(Raven's Report )〜旧闇黒秘儀の機密文書   作:Yunice

26 / 26
続きです。
今回はやや短いですが、ちょっとだけ物語が動きます。


帰ってきた新一〜既視感〜

「お疲れさま、工藤君」

 

 

事情聴取を終えた仙水が声をかけてきた。

 

 

「……どうも」

 

「昨日も思ったけど、君は随分、証言の確かめ方に慣れているんだね」

 

新一は仙水を見る。

 

「何件も事件に関わってますから」

 

「そうだろうね。桜子さんにピアスを買った時期を聞いた後、質問の仕方が変わった。あの時には、もう大場さんをかなり強く疑っていたんじゃないかな」

 

胸の痛みとは違う緊張が、新一の中に生まれた。

 

その時、仙水は離れた場所で警察の指示を待っていたはずだ。だが、こちらの質問も、その前後の変化も見ていた。

 

 

「……先生、ずっと俺を見てたんですか」

 

「ずっとではないよ。警察からも、そこにいてほしいと言われていたしね。君の声は聞こえてたし」

 

仙水は穏やかに答えた。

 

「推理の結論より、どうやって確かめるのかに興味があったんだ。昨日、研究と似ているって話したでしょ?」

 

説明としては、何もおかしくない。

 

現場に居合わせ、推理に関心を持ち、話を聞いていた。それだけだ。

 

だが、新一は思い返していた。鑑識員が遺体の周囲で動いていた時のこと。大場が犯行を否定した時のこと。彼が父親の死について語り始めた時のこと。

 

その間、仙水の注意はどこへ向いていたのか。

 

 

「工藤君?」

 

 

新一は、仙水の目に視線を戻す。

 

「……何でもありません」

 

 

昨日、こちらが何を確かめようとしていたかを見抜かれた。今日は、誰を疑い、いつ判断を変えたかまで気付かれていた。

 

好奇心の強い研究者。

 

それで説明はできる。少なくとも、それ以外だと決める材料はない。

 

 

 

 

しかし、新一には気になった。

この人が知りたいのは、事件の真相でも、自分が披露した推理でもない。

 

どの情報に反応し、どの時点で判断を変えたのか

――そこを、妙に細かく見ている。

 

 

 

ドックン。

 

新一の肩が、わずかに揺れた。

 

 

「やっぱり、具合が悪いんじゃないか」

 

 

仙水が一歩近づいた。

新一は反射的に身体を起こす。

 

 

「大丈夫です。すみません、連れを待たせてるので」

 

 

仙水は足を止めた。それから、蘭のいる方へ目を向ける。

 

 

「そうだったね。引き留めて悪かった」

 

 

追及も、制止もされなかった。仙水は道を空け、新一を通す。

 

 

「僕はこれで失礼するよ。毛利さんにも、よろしく」

 

「……ええ」

 

新一は歩き出した。背中に視線を感じたが、振り返らなかった。

今、これ以上あの人の前にいるのはまずい。

 

 

身体の変化を隠さなければならない。その焦りに、仙水への警戒が重なっていた。

 

 

蘭のいる席へ戻る前に、新一は足を止めた。廊下の壁に手をつく。熱が引かない。胸の奥が脈打つたび、身体の輪郭まで揺さぶられるようだった。

 

 

あと少しでいい。

 

 

席へ戻って、顔を見て、続きを話す。その時間さえあれば。

 

だが、指に込めた力が抜けた。

 

小さな足音が近づいてくる。

 

 

「……間に合ったみたいね」

 

顔を上げた新一の前に、コナンの姿をした灰原が立っていた。

 

「灰原……」

 

「ここでは駄目。こっち来て」

 

 

新一は、彼女の差し出した荷物を見た。

 

子供の服。

それが何を意味するか、分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

レストランの席で、蘭は待っていた。

 

 

店内の騒がしさは少しずつ収まり、片づけられたテーブルには新しい客が案内され始めている。二人で見た夜景も、先ほどと変わらない。

 

椅子が引かれる音に顔を上げた。

 

そこにいたのは、新一ではなかった。

 

 

「……コナン君?」

 

 

少年は、すぐには答えなかった。

空いた椅子と、テーブルの上を見てから、蘭を見上げる。

 

 

「新一兄ちゃんから、蘭姉ちゃんに伝えてって」

 

 

蘭の表情が止まった。

 

 

「……また、事件?」

 

 

コナンは頷くこともできなかった。

 

 

蘭は目を伏せた。膝の上で重ねた手に、力が入る。

 

 

「さっき、今日はどこにも行かないって言ったのに」

 

 

コナンは唇をかんだ。

 

そこにいる。

 

ずっと、目の前にいる。

 

けれど、その言葉は言えない。

 

 

「……ごめんね」

 

 

蘭が顔を上げる。

 

 

「どうして、コナン君が謝るの」

 

慌てて言い直そうとしたが、うまく声にならなかった。

 

「新一兄ちゃんも、謝ってた。ちゃんと話したかったって」

蘭は黙っていた。

 

「また会えた時に、今日の続きを話したいって。だから……」

 

コナンは、彼女から目を逸らさないようにした。

 

「今度は、最後まで聞いてほしいって」

 

蘭は小さく息を吐いた。目元を指で押さえ、少しだけ横を向く。

コナンは何も言わずに待った。

 

やがて、蘭が向かいの椅子を示す。

 

「……座ったら。そんなところに立ってないで」

 

コナンは頷き、椅子によじ登った。先ほどまでなら、何も考えずに座れた高さだった。

 

店員が、二人分のデザートを運んできた。

蘭はスプーンを手に取り、しばらく皿を見つめた後、ぽつりと言った。

 

 

 

 

「今度会ったら、ちゃんと怒ってやるんだから」

 

蘭、少しだけ困った顔をしながら笑った。

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際、蘭がふと思い出したように言った。

「そういえば、仙水先生も心配してたのよ。新一、顔色が悪かったから」

 

コナンの手が止まった。

 

「……先生、もう帰ったの?」

 

「うん。少し前にね。私にも挨拶してくださったわ」

 

蘭はそれ以上、仙水のことを話題にしなかった。コナンも、質問を重ねなかった。

 

仙水悠。

 

被害者と会うはずだった研究者。警察に協力し、体調を崩した高校生を気遣い、帰り際にはその連れにも声をかける。

 

今日の彼の行動を並べれば、それだけだった。

なのに、二度会って、二度とも同じことが起きている。

 

こちらが彼を観察しているつもりで、気づけば自分の方が観察されていた。

コナンは、ビルの出口へ目を向けた。

 

 

 

 

 

思い出すのは、文化祭で交わした会話だった。

 

 

スイスでの会議。その後のドイツ。マックスプランク研究所の知人。

 

あの説明が正しければ、何か確かめられるはずだ。

 

今度は、目つきや印象だけではない。経歴から、一つずつ確認する。

 

「コナン君、行くわよ」

 

蘭の声に、コナンは顔を上げた。

 

「うん!」

 

その後を追いながら、コナンはもう一度だけ、明るいロビーを振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの脇に停めた車の中で、仙水は携帯電話を閉じた。

助手席に置いた鞄を直し、キースイッチに手をかける。

 

そのとき、歩道を横切る見覚えのある姿に気づいた。

 

毛利蘭だった。隣には、小学生くらいの少年がいる。眼鏡をかけた、小柄な子供だった。

 

 

「あれは、確か、志保の友達の江戸川コナン君……」

 

 

仙水は、発進させかけた車を止めた。

 

 

コナンが一度、ビルを振り返る。その顔には、考え事をしているような硬さがあった。

 

 

蘭が何か声をかけると、少年はすぐに向き直った。小走りで彼女に追いつき、顔を上げて話し始める。

 

 

 

「……工藤君は、一緒じゃないのか…?」

 

  

 

仙水は二人の後ろにも目を向けた。だが、先ほどの高校生探偵の姿は見えない。

 

 

途中で別れたのかもしれない。少年は、毛利さんの家族か何かだろうか。

 

 

二人は並んで歩き、やがて人通りの中へ紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの後ろ姿……………どっかで見た気がする」




全く関係ないですけど、VIVANTめっちゃおもろい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

キラ・ヤマトになってしまった… プラント√(作者:星乃 望夢)(原作:機動戦士ガンダムSEED)

旧『やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか』、現『キラ・ヤマトになってしまった…』のIf√。▼もしもあの日、アスランと一緒にプラントへと引っ越す路があったのなら、世界はどんな風に変わっていたのか?▼ユーラシア連邦がティエレン教になったり、アズラエルが腹黒ヤクザビジネスマンになったり、オーブが世界最強武装中立国家になったり、イングリットがNTRさ…


総合評価:4761/評価:8.39/未完:5話/更新日時:2026年06月10日(水) 09:15 小説情報

マーリンなオリ主と降谷零(作者:ラムセス_)(原作:名探偵コナン)

FGOのマーリンに成り代わった転生オリ主が降谷さんとアヴァロンでまったりするお話。▼※pixivにて投稿済み▼


総合評価:8077/評価:8.55/連載:68話/更新日時:2026年10月31日(土) 08:52 小説情報

ネオン父に転生したのでふんわりした未来知識で成り上がる(作者:パラレル・ゲーマー)(原作:HUNTER×HUNTER)

父親の葬儀を終えた翌朝、二十二歳のライト=ノストラードは前世の記憶を取り戻した。▼そして気付く。▼自分は『HUNTER×HUNTER』に登場した、ネオン=ノストラードの父親である。▼娘の未来予知能力《天使の自動筆記》を利用してマフィア社会を成り上がり、その能力を失った途端に没落していく――そんな未来が待っている男だった。▼「うわぁ……よりによってネオンの親父…


総合評価:24384/評価:8.7/連載:20話/更新日時:2026年10月14日(水) 19:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>