灰原哀こと宮野志保ちゃんと出会った時の回想です。
もちろんシェリーとして登場します
この二次創作の整合性を取るために、哀ちゃんの年齢を18歳の設定から20歳に変更します。原作設定では15歳で博士号を取るとのことですが、さすがに少し早いかな?と思い、ある程度経験を積んでもらいたいと思いこの設定にしました。ご配慮の程よろしくお願いします
5年前
「一体なんのつもり?」
ものすごい形相で睨め付けた天才薬科学者、宮野志保は、仙水悠の共同研究のための研究計画書をみる。
「何のつもりも何も、あなたの創薬研究に僕が開発している量子コンピュータを組み合わせたら、薬品合成が圧倒的時短になりますよ。と言ってるだけなのですが...」
「時短も何も、あなたまだ量子コンピュータそのものが完成してないじゃない。完成していないものにどうやって頼れって言うのよ。それが説明できないようじゃ研究者失格ね。」
「これまた手厳しい。だから、理論はもうできてるんです。開発費も頂きました。あとはもうデバイスを作るだけなんですよ。あなたもご存知のように、サンライズ計画は組織の重大プロジェクト。完成してから議論をしているようじゃ遅いんです。」
藤原製薬第七研究所出向初日。
予定していた会議はとっくに終わり、宮野志保の居室で終わりの見えない討論が繰り広げられる。ここの開発責任者は彼女だ。彼女さえ、彼女さえ説得できれば、僕の開発中の量子コンピュータを利用してもらえる!
そんな思いで必死に説得中なのだが、なかなか折れてくれない。
「私の研究では、もうテロメアに直接作用させてガンを死滅させる遺伝子組み換え技術を確立させているの。だからそんなものに頼る必要は」
「けど目当ての作用は未だできてはいない。と??」
「くっ...あなた、どこでそんなことを」
驚いたような顔をし、やがて怒りの眼差しで悠を見る
それに対して悠はそれを見越していたかのようにとある名前を口にする
「ピスコ」
「っ....!」
「このコードネーム、あなたが知らないわけないですよねぇ?宮野志保さん?」
ピスコ。組織の大物幹部の1人で、この共同研究を打診し、許可をいただいたのもこの人。表ではトヨタグループの代表取締役だが、その実はあの方の側近の1人だ。
幼い頃から馴染みの深いこの名前に、志保は懐かしみを覚えつつ、不安と恐れから冷や汗を書きながらじっと悠を睨みつける。
「そう。最初から私には選択肢がなかったってことね。だったらこんな討論することなく最初からそう言えばよかったじゃない。なぜこんな回りくどい真似をしたの?」
「僕はね宮野さん。あなたに権力を振りかざしてまで共同研究したい訳じゃないんです。」
「じゃあなんのために?!」
「そんなに難しく考えないでください。僕は単純にあなたと科学的、技術的な議論を交わしたいだけなんです。」
「今更議論なんて、組織のやり方にしては随分と綺麗事ね。」
こちらをあざ笑うかのように見下した目でこちらを見る。
「そんなこともないさ。彼らは自分の目的を達成したいがためにあなたの言葉を随分と蔑ろにしてきたらしいが、それにちゃんと耳を傾けて聞くと、あなたの言葉の一つ一つが実に論理的かつ一切の無駄がない。ここが大学だったら今すぐに名誉教授にされても不思議では無い。」
「...」
その言葉に志保は黙り込んでしまう。
しかしそれを気にせず悠は続ける。
「そしてあなたは組織、いや、世界でも有数のアンチエイジングの第一人者。薬学の膨大な知識量を駆使して未だ世にすら出ていない数々の医薬品を生み出してきた。その気になればノーベル医学・生理学賞だって取れる程の世界の誰もが認める程の才能がある。しかしその全てを組織のために使っている。それは何故なのか。本当に組織のために忠誠を誓った者でもこれほどまでの成果は出せるはずがない。」
「...だったら.....だったらなんだと言うのよ!?」
それまで平静を保ってきた志保が怒声をあげる。
「私はお姉ちゃんが...お姉ちゃんが自由な生活が出来たらそれで良くて、組織の目が届かない暮らしをさせたい一心でここまで!「それは違うな」..なっ....?!」
志保の打ち明けた心からの想いを否定によって遮った。
相変わらず平静を保つ悠は続けた。
「確かに。組織に命じられたから。亡くなった両親の思いを受け継ぎたかったから。一般人のお姉さんを守りたかったから。そんな大義を考えたらキリがないだろうね。だけどそれはどれも本質じゃない。」
「じゃあ....じゃあなんだって言うのよ!!!!!!」
「それはね、純粋に科学を愛しているから。」
「ぁ.....」
あまりにも単純な言葉に志保は言葉をなくした。
それは誰もが持つそして一番気づきにくい想い。
「君は幼い頃から組織から英才教育を受け、ハーバード大学で飛び級を重ね、ほんの15歳で主席で卒業。18歳で博士号を手にした。いくら組織が強制していたとはいえ化学への純粋な興味なしにこれほどまでの実績は得られまい。 そして大学教員や一般企業に就職するよりずっと給料の歯ぶりが良く、研究費をいい値で指定できるときた。つまり好きな研究に没頭するには実に理想的な環境といえる。」
「.....」
「だから僕は君に興味が湧いたんだ。こんな真っ黒なことしかしていない組織に君がいるって知って。倫理より好きを優先する君に」
「っ.....」
志保は悠の鋭い言葉に気負いし黙り込む
そして重い口をやっと開いた。
「私、私は...お姉ちゃんには悪いけど、今の研究が好き。化学が好き。彼らがどんな存在だってことは分かってる。けどそれでも、それでも!」
「うん。だから君を選んだんだ。化学を誰よりも愛する君に。だから誰よりも傍で応援したい。」
「....なんだか愛の告白見たいね」
「僕としては共同研究出来ればそれでいいんだけどね」
「あら、こんな健気な天才少女を振るってわけ?」
「はは、これは随分と難しい選択に迫られたもんだ」
「...あなたは...」
「悠でいいよ」
「悠...さんは....どうして私がここにいるって....」
「さん付けも要らないんだけどね。うん。それは、君のお父さんから聞いたんだ。」
「え...?」
「君のお父さんとは学会で知り合ってね。僕がまだ小さかっただった頃、物理にしか興味なかった僕に薬学部の父親に、少しは他の世界も見ろって言われてね。それで日本薬学会に誘われて連れ回されたんだよ。」
「...」
黙って話を聞く志保の姿を見つつ、話を続ける。
「そのとき、ちょうど君のお父さんの厚司さんがテロメラーゼ活性に関する研究について発表していてね。もしこの理論が正しかったら人類有史の夢である老化を根絶できるとして、当時、飛んだ夢物語だとして学会の研究者たちはあざ笑って一蹴してきたが、彼の目はとても活気に満ち溢れていた。当時の僕には何のことかさっぱりだったけど、野心に燃える熱い眼差しだったのをよく覚えているよ。僕はそんな人になりたいということで発表直後にすぐ彼の元に向かって質問したんだ。あなたが突き動かすものはなんですか?ってね。」
「...それでお父さん、パパはなんて言ったの??」
「好きだから。研究が好きで楽しくてしょうがないって。」
「そう、そうだったのね....」
その答えに志保は少し目を潤ませながら目を閉じた。
「あぁ。まあそれから厚司さんとはたまに会うようになって、研究の話をよく聞かされたもんだった。で、分野は違えど僕も厚司さんみたいな研究者になりたいってことでアカデミアの世界に飛び込んだんだが...まあ上手くいかなくてね。で、その数年後、君が生まれるって話を聞いたんだ。」
「そう、そういうことだったの...」
「たしか学会を追放された直後だったかな?とある企業から熱烈なオファーがあったんだ。」
「あ....」
何かを思い出したかのように志保は息を止める。
「その企業はまあここのことなんだけど、僕も前々から黒い噂を耳にはしていた。ただ桁違いの年収ってこともあって厚司さんはそこに入社することになったんだが...あとは、わかるよね」
「...」
「基本的にうちはすごい技術を持っているのに学会で発表しないって言うので有名だったから。彼がその後どうなったのか、どんな成果をどしたのかは分からないが、その代わりに1人の名も無き少女がアメリカの薬学会に突如として現れ、その手の第一人者でさえ唸らせるほどの研究成果をバンバン報告していったという噂を耳にした。後に君のことであるとわかったんだが、彼の娘も同じ道を選んだのなら、他の人とは違う何かがあるに違いない。そう直感したんだ。」
「そう...それで...なのね」
「まあここには専ら別の理由で就職したんだが、ここで働くなら、君と共同研究することで君が一体どんな思いで研究しているのかを身近で見たいと思ってね。」
「なるほど、私を品定めしに来たってわけね。この宮野志保が、父の厚司の娘としてたりうる存在なのかどうか。」
「そこまで言っちゃいないさ。ただ僕はそんな化学大好きっ子と一緒に研究したいってだけだよ。」
「大好きっ子って...」
「ま、僕が言いたいのはそんな素晴らしい君とお互いに全くの異なる分野を複合研究したらどんな化学反応を起こすのか見てみたいってこと。どうかな。」
悠は畳み掛けて自分の要求を改めて志保に伝えた。
しばらく時間が流れ、やがて志保は口を開いた。
「...わかった。協力する。」
「よしっ!!!」
「だだし、私たちはただでさえお金が無いの。だからそのための研究費はあなた持ちね。あと、研究費の申請は必ず私を通すこと。これが条件よ。」
志保は人差し指と中指の2つの指を突き立て条件を提示した。
「ちゃっかりしてやがる....まあそこのところは問題ない。じゃあ早速複合研究の予算組んでくきます!」ビシッ
そう悠は敬礼しながら言うと全力疾走で研究室を出ていった。挨拶もなしに。
「はあ」
ぬるくなったコーヒーを飲み、椅子の背もたれにもたれかかる。
そして、彼女の口元が少し緩んだことは彼女も気づいていない。
あけましておめでとうございます。
自分も最近忙しく、投稿頻度が極端に減っておりますが、少しずつ続けていきたいと思います。
2024年もよろしくお願いします