「物凄く遺憾の意であります」
「それはこっちのセリフだバカ女、喧嘩売ってんのか。いいから離れろ」
私、キューメイはソファでくつろぐ夫──マホーに後ろから抱きついていた。
「あ! またバカって言った! こないだから何度も何度もバカバカって、学生時代私に1度たりともテストで勝った事ないくせに!」
「あ゙ぁ゙ん゙!? てめぇ言うに事欠いて出すのがソレとかガキもいい加減にしろ!」
「ガキで悪かったな! こちとらアンタとの思い出は不定期によこす手紙以外だとあの時しかないんだよ!」
そう、私は〝勇者候補と共に旅へ出ていた〟マホーに抱きついていた。
「卒業式の日に私が告った時言ったよな? 魔王討伐のメンバーに誘われてる、死ぬかもしれねぇから今は返事を言えないって」
「…………あぁ」
「その後に続いて、旅が終わった時お互いが相手を想い合っていたら結婚しようって」
「…………おう」
「そこまではいいさ、マホーは約束通り私と即結婚して同棲まだしてくれたもん。そこはいいんだ……てめぇなんで日中ずっと部屋にこもって研究三昧なんだこの野郎」
「…………」
思えば再開した時の顔もおかしかった、ずっとずっと、ひたすら〝見えないナニカ〟を警戒していた。あの時は戦いが終わった直後故、戦場での癖が抜けてないだけかと思った。
けど違った、マホーはこの家で暮らすようになってからもずっとナニカを探し、殲滅する為の魔法を研究し続けた。はっきり言って──
「異常だ」
「分かってるよ」
「いいや、分かってない」
「分かってるって言ってんだよ!」
マホーは怒鳴りながら私を振り払い、向かい合いながら叫んだ。
「寧ろ分かってねぇのはてめぇの方だ!」
「ほぅ、一体何が?」
「全部だよ! 俺がナニに対して怯えてんのかも、俺がどんな事を恐れているのかもわかってねぇじゃねぇか!」
「そりゃそうだ、そんなの分かるわけない」
「ほら見た事か」
「マホーが何も話してくれないからね」
「…………は」
私はマホーに歩み寄り、古傷だらけの両手を包み彼の目を見る。
「私は貴方が何時傷を負ったのかも、どんな傷を負ったのかも知らない。だって私はその場に居合わせなかったから、私は逆立ちしたってその傷を無かった事になんて出来ない。でもさ、だからってその傷を隠されたら癒す事だって出来ないじゃない」
私は、私の思いを必死に彼へ見せつけた。
「マホーが素直な奴じゃない事くらい知ってるよ、けど私の前では素直になってよ。私にくらい弱さをぶちまけてよ、私にくらい貴方の傷を癒す役割をちょうだいよ!」
気がついたら泣きながら声を荒らげていた、愛しい彼が思い詰めた顔で毎日苦しんでいた。そんな彼を助けられない自分が情けなくてしょうが無かった。
プライド高い彼が素直に私を頼ってくれるなんて思ってない、けれど私にだって意地がある。
「悪いけど、惚れた男を釘付けに出来ない事に納得できる程、私の愛は軽く出来てないのよ」
「……知ってるよ、俺みたいなのを死ぬ迄待つ覚悟するくらいだからな」
それから彼は話してくれた、〝魔王〟という存在との戦いの苛烈さを、異常さを。そしてソレが本当に終わったのかという実感が持てない事を、気が抜いたらその瞬間今ある物全てが一瞬にして消されてしまうんじゃないかという事を。
「ありがとう、話してくれて」
「いや、僕の方こそすまなかった。キミをずっと待たせてたのに、この体たらくで」
「ううん、ソレは仕方ないよ。マホーはそうなるほど迄に頑張り過ぎたんだよ、これから少しづつ肩の力を抜けばいいんだ」
「そうだな、そうするよ……」
さて、話すべき事は話したしそろそろやるか。
「ところでマホー、さっき話してる時サラッと家の周りに対魔族罠を設置したって言ってたよね?」
「ん? あぁ、魔族や害意を持つ者が近付くと地面からゴーレムが現れて対処する結界だな」
「ソレはマホー本人の魔力や意識と連動してるの?」
「いや、寝込みを襲われた時にも対処出来るように魔石を組み込んだオート式にしてあるから安心して欲しい」
「そっか、なら平気だね!」
「なにがっておい!」
私はマホーの腕を引っ張ると私の自室に引きずり込み、ベッドに放り投げた。
「お、おい! なんのつもりだ!」
「ん? そっちこそ何言ってるの?」
「は? どういう……」
「こっちは数年待たされた上で1ヶ月焦らされてんだ、恋の炎も大炎上じゃすまされない程に熱がこもってんだよ」
「えっと、キューメイ?」
「女をここまで待たせたんだ、男として甲斐性をしっかり見せてくれるよね? マホー♡」
「……善処する」
「本気出せ♡」