ーーーー3年前の放課後、階段裏。月が空にのぼり出した頃、運動部以外はほとんど誰も居なくなった学校で、ギターの音がした。
その音は凄く美しくて、ふわふわしてて、でも芯があった。この演奏には聞き覚えがある。
吹奏楽部かとも思ったが、さきほど一斉に帰宅していたはず。じゃあ、予想できるのは…
「あ、ひとりか。こんな遅くまで頑張ってるな。」
「え、あ…ごめんなさい!あっ…信くん?」
幼馴染の後藤ひとりだ。小学校からずっと一緒の学年、一緒のクラスで、中学校に上がってから、近所で会えば喋るぐらいで、学校ではあまり喋らない。でも、たまに彼女の家からギターの音が聞こえてくる時があって、ばったり出会った時にその音色を褒めている。すると…赤面して液状化しだすのだ。
本当に、可愛すぎる。
「見、見ちゃった…かな」
なぜ、恥ずかしそうにするのだろうか。とても美しい音色なのに。
「うん、少し聞いたけど、凄く良かった。ひとりの弾くギター、俺は好きだ」
「!?、!?…!!!???」
赤面して訳の分からない言葉を話すひとり。いつもそんなひとりが可愛くて、小学校の頃はよく褒めてあげてた。
今はクラスも違うし、もう時間も夜だ。もっとひとりと喋りたいけど、そろそろ帰った方がいいかな。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。バイバイ!」
「ちょっと…待って…ほし…いの。」
ひとりが俺の制服の裾を掴む。
「あの…私…信くんと一緒に…帰りたい…」
うーん、可愛すぎ。だめだ、これは。好きな人に一緒に帰ろうと言われて、少し泣きそうになったが、我慢した。せめて、快く。
「うん、じゃあ一緒に帰ろう!ひとり!」
俺はサドルに乗り、ひとりを自転車の後ろに乗せてペダルをこぐ。夜だから少し道が暗くて、不安になる。でも、ひとりが俺に寄りかかっているから、少し嬉しい。肌に当たる風が涼しくて気持ちいい。
あれ?今日なんでこんな積極的なの?俺の勘違いだろうか、なんだか積極的な気がする…
「…あの、信くん…」
「なんだ?」
「あの…私ね…大きくなったら…信くんと結婚…したい…」
「!?○?!」
卵も割れるほど驚いた。
いきなり何を言い出すかと思ったら俺と!?結婚!?
聞き間違いか!?
待てよ、それほど最近顔もよくないし、これと言った特徴もない俺なんかに…ひとりが!?いや、ひとりだからこそ!?
とにかく真偽を確認したい!
「ちょっと待ってくれ!今何て言ったんだ!?」
「だから…大きくなったら信くんと結婚するの…」
「本当に、俺でいいのか…なら…ありがとう。」
ひとりは顔を真っ赤にしながら頷く。嬉しいなんてレベルじゃない。とても心が救われた。しかも、今日はとても月が綺麗で、火照ったひとりの顔が月明かりに照らされて綺麗で…
「だって…信くんは昔から私を褒めてくれるし…音楽も分からないなりに私のギターを理解しようとして…練習に付き合ってくれたことがあるし…それに昔…私が給食で苦手なものが出た時…誰にも言えない私の代わりに食べてくれた…よね。」
ああ、そうか。
俺とひとりは小学校の頃、すごく距離が近かった。だって、ずっと独りぼっちでいるひとりを、放っておけなかったから。
俺も、幼稚園の頃から友達作りが苦手で、独りだった。でも、小学校に上がってから、同じように独りぼっちだったひとりと出会った。
類は友を呼ぶとでも言うのだろうか。その時から、俺はーーーー
後藤ひとりに、惚れてしまっていたのだ。
「ひとり、俺は絶対に君を、幸せにする。」