ただのおじさんと、アイドル。   作:水が死んでる

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衝動的に書きました。

続きは...需要があれば...あと気が向いたら...。


01

俺の名前は田中義景。現在35歳。

元アイドル、と言えば甘いマスクだとかをイメージするかもしれないが、全然そんなことはない。

どちらかと言えば、俺の顔は渋いと言われてきた。

顔の渋さを活かすため、と言う事で常にオールバックだったのに慣れたせいで、今でも髪型はオールバックだ。

 

アイドルは別に、スキャンダルだとかでアイドルを辞めたわけじゃない。

35歳がアイドル業界で若くないということは理解しているが、すぐに辞めるような歳でもないことも理解している。

ただ、嫌気がさしただけだ。

 

自慢じゃないが、俺はアイドルとしてはかなり売れた部類だろう。

ソロで活動していた俺が、ドームを埋められるようになるまでになったのは、俺だけじゃなくて周りの助力が大きいとは理解しているけれど、それでも業界の裏の部分は嫌でも目に、耳にしてきた。

 

思い出したくもないが...事務所の名を売るためにアイドルたちを使いつぶして、だとか。

 

紆余曲折あり、今は、こじんまりとした喫茶店を開いている。

バイトも雇う必要がない程度には狭い店内だが、それなりのコーヒーの味なら出せると思う。

まだ1年も経っていないのだから、固定客もいないのだけれど。

 

「...今日も客は0、だな」

 

時刻は17時過ぎ。

外は雨が降っており、これから客が来るとは思えない状況だった。

天気予報では雨は降らないとなっていたはずなのだが、まぁ予報は予報だ。毎回天気をドンピシャであてられると期待していなし、降水確率というのも出ていたはず。

 

とはいえ、このまま開けていても意味はなさそうだ。

スピーカーと繋いでいるPCを操作して店内に流れている音楽を止めて、店を閉めようかとカウンターから出たタイミングで、誰かが慌ただしく店内に入ってきた。

 

「す、すみません、少しの間、ここで雨宿りさせてもらうことは可能でしょうか!?」

 

外を走って来たのか、少し弾んでいる息を整えながら、その青い髪の少女は顔を上げて俺に問いかけてきた。

 

勿論、俺の答えは決まっている。

 

「ああ。今タオルでも持って来よう。少し待っていてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

 

青い髪の少女にタオルを渡して、コーヒーの準備をしながら、俺は少女の事をちらりと盗み見た。

 

最初見たときは、『なんだこいつ?』だった。

 

既にアイドルを辞めたとはいえ、目の前にいる人間がアイドルかどうかは、流石に判断できる。

ただアイドルが街中を歩くときは、大体は変装しているものだ。

 

だが、今俺の店に駆け込んできた少女は、変装もせず、しかしそのオーラを隠そうともせずだ。

 

ただのおじさんとなり下がった俺でもすぐに一目見ればアイドルだとわかるその少女は、どうしてこんなところに来たのだろう。

 

「雨に打たれて体が冷えているだろう。よければコーヒーはどうかな。これでも味には自信があるんだが」

 

「...では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

かなり水を含んだタオルを受け取りながら、席を指してコーヒーを勧めると、案外丁寧な言葉づかいで少女はコーヒーに手を付け始めた。

 

若い子には、それも女子には珍しい、ブラックで行ける口か。

 

「砂糖とミルクは、と思ったけど、その必要はなさそうだね」

 

「はい、美味しいですから」

 

少女が素直に褒めていることが分かった俺は、今の淹れ方で間違いなさそうだと頭の中のノートに書き記す。

 

豆だとか、淹れ方にこだわりがあるわけではないが、知人からある程度情報は仕入れていたのだ。

確か、お湯には適温があるだとか、フィルターに入れたコーヒー粉にお湯をかける時、2段階ある、みたいな話とか。

勿論自分で実際に飲んで確かめたし、色々試したりもしたけれど、土台はその情報たちだ。感謝してもしきれないだろう。

 

さて。たまたま来た少女の話を参考にしていることからわかるように、この店には本当に客が来ない。

 

そもそも、店が中央通りから外れた、脇道にあるのが良くないのだろう。

知る人ぞ知る名店みたいな場所にあるくせに、味はそこそこ。

 

まぁ、だらだら過ごしても暮らせる程度には稼いだんだ。老後の娯楽...にはまだ早いけど、そんなものだと俺は割り切っている。

 

少女がコーヒーを飲んでいる間に、PCを操作して止めていた音楽を流す。

店内が木を中心にできていたら、クラシックでも流していたのかもしれないけど、中途半端にコンクリと木で出来た店なものだから、最近の流行りの曲をネットで探して、自動再生にして流しっぱなしにしている。

 

その曲がアイドルの曲に偏るのは、もう仕方のないことなのかもしれない。

 

そのまま特に会話も無いまま時間は過ぎていき、流れていたアイドルの曲が数回ほど切り替わったところで、少女はずっとコーヒーへと向けていた顔を上げて、俺に問いかけた。

 

「アイドル、好きなんですか?」

 

流れている曲がアイドルばかりだからだろう。

話題に困って聞いた、というわけではなく、ただ単純に気になったから聞いただけなんだろう。

 

ただまぁ、その答えは決まっている。

 

「嫌いだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、雨が降りそう、という天気なだけで、実際に雨が降る予報では無かった。

みのりに『折り畳み傘を持って行ってね!』と言われたものの、家にある折り畳み傘は壊れていた。

仕方ない、と、目的を果たしたらすぐに帰るつもりで、私は制服からお出かけ用の服に着替えて、家を出た。

 

目的地は、路地裏にあるひっそりと営業している雑貨屋。

最近アイドル活動を再開した私たちだからこそ、拾えるネタは拾っていかなくては。

 

そんな気持ちで歩き始めた矢先、突然雨が降り始めたのだ。

 

「思ったより強い...こんなところに喫茶店? でも、ちょうどいいかも」

 

どこか雨宿りでもできる場所を探そう、と辺りを見渡しながら走っていると、見るからに人の入っていない喫茶店が見えた。

この通りは、住宅街が多く、道幅も広く夜も明るい。不審者こそ出にくいと思うが、こんなところで店を開いていては、客が来ないのは子どもの私でも予想できることだった。

 

とはいえ、見知らぬ人の家に『雨宿りさせてください』なんて言えるはずもなく、私はその扉を開けた。

 

扉の先にいたのは、渋めだが、非常に整った顔をしている男性だった。

カウンターの奥にいるのではなく、店内で私の方を見て驚いた顔をしているところから、もしかしたら今日は閉めるつもりだったのかも。

 

だとしたら、と、私は正面にいる男性が優しいことにかけて、雨宿りさせてほしいと頼み込んだ。

すると男性は快く了承するどころか、水分をふき取る用の無地のタオルに、体が冷えただろうから、とコーヒーまで用意してくれた。

 

男性の好意を有難く受け取りながら、ばれないようにコーヒーを横目に彼を見る。

 

見れば見るほど。彼の声を聞けば聞くほど、似ている。

 

私がアイドルを続けていた時の、心の支えであった彼に。

 

きっと、今も昔も、彼のことが好きなんだと思う。

彼と一緒に共演した時は、これまでの人生の中でもドキドキしていた覚えがあるし、彼がアイドルを辞めると発表した時は、私も辞めてしまおうかとも思うほどだった。

 

彼からしたら、私は妹の様に見えていたのかもしれない。

でも私からしたら、初恋の人だ。

 

彼が手首を回すだけで骨を鳴らす癖、ミントの香水の匂い、手は右利きだけど足は左利き。

その他にも、彼を彼たらしめる要素はあるけど、そのどれもが今目の前にいる男性に当てはまっていく。

 

まぁ確定要素は、オールバックだろうか。

彼のチャームポイントたるその髪型は、アイドルの中では彼だけが許された髪型だと、アイドルの中では半ば神格化している。

 

ただコーヒーが美味しいだけならみのりたちにも店の事を教えていたのだけど...だめだ。

こればかりは教えられない。ほぼ確実に、彼女たちも彼の魅力に気が付いてしまう。

 

彼のことは私だけが知っていればいい。

 

彼の声を聞きたくて、何か話題がないかと思考を巡らせていると、耳に入ってくるのが今流行りのアイドルの曲ばかりなのに気が付いた。

 

アイドルを辞めた理由は聞いていないけれど、こうしてアイドルの曲を流しているのは、何か関係性が有るのかもしれない。

そう考えた私は、コーヒーへと向けていた視線を上げて、彼へと尋ねた。

 

「アイドル、好きなんですか?」

 

私の問いかけに、彼は____。

 

「嫌いだよ」

 

清々しい笑顔で、私、桐谷遥の初恋の男性、田中義景はそう答えた。

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