異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
1話
20XX年──
男女平等という概念は失われていた。
数十年前、日本に突如として出現した異界、
魔都には“桃”と呼ばれる資源と、異形の怪魔たちである“
桃は女性にのみ恩恵を与え、醜鬼は桃の力がなければ討ち果たすことができない。
必然的に女性の社会的地位は上がり、世界は女尊男卑の構図を作り上げた。
──というわけで、ごめんよ
by“ディスティニーコンダクター”
「ふざけるなよあのクソガム!」
仰々しくも曖昧な内容と必要最低限の注意事項だけ記したような説明が並ぶ前半と、ふざけているとしか言いようの無い後半の文言が記された手紙を見て、僕が最初に出したのが元凶に対する激怒の雄叫びとなったのは必然と言えるだろう。
あまりの怒りから、そのふざけた置手紙をビリビリに破り捨てた。
「ハア……それで、ここがその魔都とかいうところなの?」
置き手紙に怒りをぶつけたことで少し冷静さを取り戻した僕は、疲れたため息をこぼしながら周囲を見渡す。
日本に帰してくれる予定だったのに、目を開いたところ視界に入ってきたのは既にご臨終なされた置き手紙と、紫色の薄暗い空の下に草木1本無い荒野が広がる不気味な世界だった。
──唐突な話をするけど、この僕“
異世界と言っても、地球では無いどこかに存在する星である。もしかしたらいずれ人類が到達できるかもしれない。
そんなロマンな話はともかく、僕を召喚したのは“ディスティニーコンダクター”と名乗る、赤いガムを額に貼り付けたようなふざけたメイクをしている謎のおっさんだった。
しらたきみたいな髪の毛をしていたので、僕はクソガムさん、もしくはきしめん頭と呼んでいた。
さて、そのきしめん頭が僕を異世界に呼んだ理由は、この星を滅ぼそうとする強大な邪教の宗主とかいう存在を倒して星を救ってくれというものだった。
一介の高校生に過ぎない僕にそんな大層なことを任せるなと言いたかったけど、きしめん頭は戦う力として僕がはまっていたカードゲームの舞台である惑星クレイの住人たちを憑依させたり召喚したりする能力を与えた。
その時惑星クレイは存在し、単なるカードゲームと思っていたそれは実際に惑星クレイで行われているバトルだという話を聞いた時はちんぷんかんぷんだったけど、カードのキャラクターたち──ユニットが実際に現れ、動き、喋り、そしてともに戦ってくれたことで、それが現実だと僕は受け入れることとなった。
さて、僕の能力は絆を紡いだユニットを自身に憑依させる“ライド”と、仲間としてユニットを召喚する“コール”がある。
このカードゲーム──ヴァンガードにはまっていた僕は結構なコレクターでもあり、紡いだ絆はかなりの数があったから、ディスティニーコンダクターは僕を召喚する事にした、らしい。
僕は召喚された先で現地の協力者も得ながら、ユニットたちの力を借りてディスティニーコンダクターの言う通りに邪教の組織を打ち倒し、半年の月日を要して無事に宗主を封印して星を救うことに成功した。
役目を終えた僕はきしめん頭に地球へと帰してもらうことになったのだけど、しかしきしめん頭が送還を発動して目を覚ましたらこうなっていたというわけである。
……ふざけんなよあのクソガム! きしめん頭! トンチンカン!
何が異世界日本だくそったれ! 誘拐して命の危険がバンバンある強制労働に従事させといて、送迎すらまともにできねえのかよ! 5年くらいとか、なんで本命の異世界よりも時間かかるんだよ、長いな5年!
家に帰りたいよ、ヴァンガードしたいよ、友達に会いたいよ〜!
そんな僕の心の叫びは誰にも聞こえず、クソガムの罵倒も誰も聞いてくれずに終わる。
異世界日本とか言いながら、明らかに日本の景色じゃ無いでしょう、だからきっと魔都とかいうこの異世界日本特有の世界だろうなという荒野の中で1人取り残された僕は、その場に膝を抱えて座り込んだ。
「やっと帰れると思ったのに……」
「一難去ってまた一難とはこのことだな、ポートちゃんよ」
「……ん?」
僕の愚痴を聞いてくれる相手もいないだろう。
そんな風に思っていた中、僕の背負う鞄から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
……あれ? 気のせいだよね。
「気のせいでは無いぞひよっ子先導者。我、遊星骸王。終末なき宇宙を旅する星の王であり、先導者の
その声の主は、きしめん頭に召喚された星で僕を助けてくれた恩人であり、ともに邪教と戦い星を救ってくれた盟友であり、永劫の宇宙の旅を続けているという遊星の王に君臨する存在。
その声、口調、ミナトという名前からつけたポートちゃんという渾名、すべて紛れもなく彼のものだった。
でも、クレイで安らぎのひと時を過ごしているとかほざいている彼は、あの星を救った先で帰るべき星は異なるもの同士だからと道を違えたはず。
異世界日本とはいえ、仮にも地球に送られたこの場にいるはずが無い。
でも、それは確かに彼の声だった。
盟友の声、僕は聞き間違えたりしない。
鞄を下ろし、その口を開くと、中に彼はいた。
「ブラント……!」
「うむ、我が名を呼ぶ盟友よ。ポートちゃんよ。我、遊星の王ブラントである」
「……ブラント?」
まぎれもなく、鞄の中にいたのは彼だった。
……けれども、なぜかぬいぐるみになっていた。
「え? なんでぬいぐるみ?」
「我にもわからぬ」
もう2度と会えないと思っていた盟友。
その再会には胸の中が嬉しい感情でいっぱいになったけど、よくよく考えたらついさっきも会っていたし、何よりブラントの外見がぬいぐるみになってしまっていたのでムードはぶち壊されてしまった。
「……かわいい」
「盟友よ、我にその賛美は似合わぬ」
ムードは壊された。
けど、ぬいぐるみのブラント。どうしよう、すごくかわいい。抱きしめたい。モフモフしてそうだからもふもふしたい。頬ずりしたい。
思わず本音が溢れちゃった。
ブラントを拾い上げる。
「……これ、我を抱き上げるな盟友よ。我は遊星の王、終末なき宇宙の旅を続けるブラントの王、根絶者を尖兵とし星骸に連なる者の頂点に立つ存在、そしてかの星を救いし救世主である──おいコラ、抱きかかえるでない! 下ろさぬか!」
「かわいい!」
「頬ずりするでない! 我は遊星の王であるぞ、恐れられる存在なるぞ! そんな我をマスコットやぬいぐるみ扱いするでない! ……ポートちゃん、意外と豊満なのだな」
「このまま行こうブラント!」
「これはこれで心地が──いや、しかし断る!」
もとの姿もカッコいいけど、ぬいぐるみとなった今の姿も僕は好きだ。むしろこっちの方が好きかもしれない。
鞄から拾い上げ、抱きしめればまさにぬいぐるみ。もふもふで暖かくて気持ちい。
思わず抱きしめて頬ずりする。
ブラントはポコポコと暴れて抵抗したけど、もふもふにポコポコされるのはむしろご褒美だし、異世界日本に来た影響か動くぬいぐるみとなったブラントは弱かったので抜けられることはなかった。
このままマスコットとして抱きかかえて行きたいと提案したけど、一瞬迷いながらもそれは嫌だと拒否される。
ショックだけど、ブラントは僕にとって盟友であり恩人であり、この異世界日本において2人ぼっちの異世界人だ。そんな仲間に嫌われたくはないので、大人しく鞄に戻す。
そして顔を出しているブラントを入れた鞄を背負い直すと、このままこんな何もない場所にいつまでもいても仕方ないので、魔都とかいうこの世界の出口を探して歩くことにした。
「でも、魔都ってなんだろ? クソガムの説明が雑すぎてわからない」
「あのトンチンカンの仕事の雑さ加減は諦めて受け入れるほかない」
「やっぱ1発殴っておけばよかった」
きしめん頭の雑な仕事をブラントと愚痴り合いながら歩く。
しかしかなり広いのか、出口らしき場所が見えない。
……まあ、出られてもその先は異世界日本。僕にとってはどっちも異世界だけど。
それからしばらく歩く。
この魔都には桃とかいう魔都特有の果実と、醜鬼とかいう怪物がいるとのことだけど、今の所は不気味な空の下に広がる荒野ばかりで僕の目にはどちらも見えない。
そして1番探している出口も見えない。
……そもそもどうやって出るのかもわからないんだけど。
「出口が見えない……」
「ユニットの力を借りるときではないか?」
「うーん、もう少し歩いて何も見つからなかったらクレイのみんなの力を借りようかな」
ブラントがクレイのユニットをコールすることを提案してきた。
クレイのみんなの力をこんなことで借りたくはないけれど、このままではラチがあかない。もうすこし歩いて何も見つからなければユニットをコールすることにした。
異世界に召喚された時にきしめん頭が与えた力、ユニットのライドとコールの能力は問題なく使える感覚がある。
本来なら平和な日本に帰れば必要なくなるから返す予定だったけど、向こうの手違いで危険な日本に放り出されたことから自衛の意味も込めて延長されている。
こういう気遣いできるなら、もっと仕事を真面目に正確にこなせよと思う。なんだよあのきしめん頭。
そんな風に心の中で愚痴をこぼしながら歩いていた時だった。
──グググ……グゴォォオオオオ!!
「……なに、あれ?」
あそこまで行ってなにも見つけられなければ、ユニットの力を借りることにしようと、目安にしていた岩。
その岩の陰から、それは姿を現した。
灰色の体に、到底会話が通じるとは思えない醜悪な顔を持つ、二足歩行の人型の巨大な影。
「これが、醜鬼……?」
「そのようであるな」
異世界日本で遭遇した第一村人は、まさかの異形の怪物だった。