異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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10話

 

 魔都災害──醜鬼の襲撃を受けたり魔都に迷い込んだらする確率はかなり低いらしく、事件に巻き込まれるより低いらしい。

 それこそ数日の間に2度も醜鬼に襲われるというのは、雷に打たれたり、宝くじで大当たりを引いたりするくらい珍しいことになるのだとか。

 

 つまり、今回また醜鬼の襲来に遭遇した僕はその雷に打たれるくらいの不運、もしくは宝くじで大当たりを引くくらいの幸運に遭遇したということ。

 うーん、嬉しくない。

 

「醜鬼だああああぁぁぁ!」

 

 イベント会場スタッフのアルバイトで来た会場にて、魔都と現世をつなぐ門が出現し、そこから複数の醜鬼が出現。

 醜鬼だと叫ぶ悲鳴を皮切りに、スタッフだけでなく会場の外にはイベントに参加する観客もちらほら集まりつつあったイベント会場は大混乱に陥った。

 

「お知らせいたします。当イベント会場にて魔都災害が発生、醜鬼が会場に出現しました。スタッフ並びに観客の皆様は、係員の誘導に従い落ち着いて指定のシェルターに避難してください」

 

 ステージ上に出現したクナドから現れた醜鬼は並べられた椅子やせっかく設営した会場のスピーカーなどの機材を次々に破壊し、逃げ惑うスタッフ達を襲おうと追いかける。

 クナドの出現と醜鬼の襲来に伴い、会場には避難を促す呑気なアナウンスが流れ、そんなアナウンスなんて聞いていられるかと会場にいたスタッフは我先に逃げる。

 当然パニックになりながらの避難は混乱をうみ、焦って転んだら他人を突き飛ばしたりといった事態も多発した。

 

「退け!」

 

「痛ッ──ぐえっ!?」

 

 突き飛ばされたと言えば、僕もその1人になりました。

 先程までライブ映像を撮影するためのカメラの設置を優しく教えて一緒に作業していた先輩スタッフさんは、醜鬼の襲来にパニックとなり僕を突き飛ばして逃げて行きました。

 そしてすぐに逃げてきた人たちに踏み潰され、カエルみたいな人に聴かれたくない悲鳴が溢れます。

 ふざけているように見えるかもしれないですけど、パニックになった人たちに踏まれるのって冗談抜きに死ぬこともあるので笑える状況じゃないです。

 

「なっ!? た、たすけ──」

 

 しかし突き飛ばされたのは幸運だったのか不運だったのか。

 逃げていった先輩の前にもクナドが出現し、そこから伸びた腕が先輩を掴んで魔都に引き摺り込んでいったのです。

 先輩についていったら僕もあの醜鬼の餌食になっていたかもしれないと思うと……先輩はお気の毒としか言えないですが、幸運だったのかもしれません。

 

「ひい!?」

「こ、こっちにも来た!」

「戻れ!」

 

 そして不運だったと言えば当然。

 先程僕を踏み潰していった人たちが、先輩が持っていかれたクナドから出てきた新手の醜鬼に、回頭180度してこっちに再び走ってきたことです。

 

「どけよハゲ!」

「ぐっ!?」

 

 その際に前髪の生え際が頭頂部を突破しそうな中年のスタッフさんが、ひどいことを言われながら突き飛ばされてしまいました。

 直後に他の人に足を踏みつけられ、苦悶の表情を浮かべます。

 やっちゃったかなあれ? 挫いちゃった(やっちゃった)よねあれ。見てるだけで痛そう……。

 

 いや、そんなことより群衆がこっちにきてる! このままではまた踏み潰されて潰れたカエルの出す断末魔みたいな下品な悲鳴を出したり、さっきのおじさんみたいに踏まれた衝撃で骨をやっちゃったりしてしまいます。

 

「ぐえ!? 痛ッ!? ちょっ、踏まないで──ぐえ!?」

 

 結局群衆に2度も踏み潰されました。

 多分ギャグ漫画とかだと背中に足跡いっぱいつけられているか、頭に星が飛んでいるか、紙みたいにぺったんこにされていそうな状態になりました。

 

 僕を踏み潰して逃げていった人たちですが、今向かって走っていったのは先ほど逃げてきた方向。

 つまり醜鬼が出てきたステージの方に向かったわけでして。

 

「ぎゃああああ!?」

「助け──」

「離してくれぇぇぇ!」

 

 パニックになっていたとはいえ逃げる方向を完全に間違えた人たちの悲鳴が聞こえてきました。

 悲鳴以外にもぶちぶちと肉が引きちぎられる音とか血がドバドバ落ちる音とかも聞こえるので、苦悶の表情を浮かべながらもステージの方を見上げた生え際が後退している中年のスタッフさんが顔を青くして目を逸らした反応からもモザイク必至の光景が繰り広げられているのは想像に難くないです。

 

 そして僕には悲鳴を聞いて堪能するような趣味はないので、ステージの方の醜鬼が僕を踏んで行った人たちを襲っている間にさっさと逃げることにします。

 先輩が連れていかれたクナドから出てきた醜鬼もいるし、いつ見つかってもおかしくない。クレイのみんなの力を借りても醜鬼には無力な僕にできることは、逃げることしかない。

 

「おじさん立って。今のうちに逃げるよ」

 

「あ、ああ……」

 

 足を挫いた中年スタッフさんに肩を貸し、醜鬼に見つかっていないうちにその場から離れる。

 このまま見つからずに会場の外へ──

 

「待て、置いてかないでくれ!」

 

 行けませんでした! 

 ステージの方に逃げて醜鬼に襲われた1人が僕たちを見つけたらしく、醜鬼に掴まれながら置いていくなと助けを求める声を出し、その視線を追った醜鬼達が僕たちを見つけたのです。

 

 直後に醜鬼の一体が僕たちの方に向かってきました。

 足を挫いた人に肩を貸しながら歩く僕たちではすぐに追いつかれる速度、逃げることは無理です。

 

「く、くるな! 来ないでくれ!」

 

「ちょっ──!?」

 

 しかもパニックになったおじさんが僕を突き飛ばしてしまいました。

 当然足を挫いた状態で支えている人を突き飛ばせば立っていることなどできず、おじさんも転けます。

 パニックになるのはわかるけど、突き飛ばすのはやめてください。これ結構痛いからね! ライドしないと、僕普通の無力な人間だから。クレイにいるヒューマンとは違うから。

 

 足は挫かなかったけど、状況は悪い。

 魔防隊がいつ来るかわからないし、このままだと来たとしても僕らが食べられる方が早いことは確実なので、迷っている暇はない。

 

 念の為というか、もはや肌身離さず持ち歩くのが癖になっているヴァンガードのカードを取り出し、クレイのみんなの力を借りることにします。

 醜鬼は倒せなくても、逃げるくらいならばできるから。

 当然、選択するのはスピード自慢のユニットが揃うこのクランです。

 

「スタンドアップ、ヴァンガード! 我、先導者、朱霧 ミナト! 絆に応え、来れクレイの友、スパイクブラザーズ!」

 

『了解だ盟友。行くぞ、試合開始(キックオフ)だ』

 

「ライド! “メカ・トレーナー”!」

 

 今回は逃げるのは困難でも、ライド口上を述べてライドを完了するくらいの余裕はあったので、ライド成功。

 今回選択したクランは“スパイクブラザーズ”。選択したというか、持ってきたデッキがこれしかなかったからというのが大きいけど、この場面では一番頼れるユニット達である。

 

 スパイクブラザーズはその名の通り、アメフトチームをモチーフにしているクラン。

 クレイで開催される武器も魔法も何でもありな過激なスポーツ“ギャロウズボール”の強豪チームであり、暗黒国家ダークゾーンに拠点があるということもあって悪役チックなユニットが多い。

 

 そして何といってもこのクランのユニット達はパワー自慢と足自慢が多い。

 おじさんを抱えて醜鬼の巨体から逃げなければいけない今の場面にはうってつけの頼れるユニットたちなのだ。

 

「ま、まさか桃を──!?」

 

 そして特撮ヒーローよろしく変身した僕を見て、おじさんは魔都の桃の能力だと思ったみたい。

 常人から見ればこんな意味不明な変身も勝手に納得してもらえるとか、魔都の桃って割と何でもありみたい。うん、都合がいいからいいや。

 

 ファーストヴァンガードのメカ・トレーナーから、早速グレード1のユニットにライドする。

 

「ライド、“ジャイロスリンガー”!」

 

 快速ワーカロイドから、フルフェイスのオーガにライド。

 ブラントがオーガの二番煎じと呼んでいる醜鬼と違い、向こうと比べて小柄でもジャイロスリンガーは正真正銘のクレイのオーガ。本物のオーガだよ。

 

『本物のオーガの力見せてやるよ、来い!』

 

 そしてこのオーガは僕がわざわざコールしなくても自前で新しいユニットを呼ぶことができます。

 ジャイロスリンガーにライド後、飛びかかってきた醜鬼の拳を避けながらおじさんを拾う傍らで、ジャイロスリンガーがコールしてくれた新たなユニットが姿を現す。

 

『ワンダーボーイ参上!』

 

 稲妻を飛ばしながら登場したジャイロスリンガーと比べるとはるかに普通の人間であるヒューマンのユニット、ワンダーボーイ。

 外見は人間のアメフト選手だけど、当然クレイの住人なので普通の人間とは一味も二味も違います。

 まず稲妻まとって走れる時点で人間じゃないよね。クレイ基準では人間だけど。

 

 颯爽と登場したワンダーボーイは、僕たちを狙ってきた醜鬼に強烈なタックルをかまして転倒させる。

 傷つけることはできなくてもコケさせたりすることは可能みたい。

 ワンダーボーイ以外にも平気で自分よりはるかに巨大で強靭な相手を止めてしまうタックルを得意とするユニットはいるから、この場面でスパイクブラザーズは本当に頼りになる。

 足向けて寝られないね。

 

『マイヴァンガード、今のうちに!』

 

「分かってる! 逃げるよおじさん捕まって!」

 

「わ、分かった!」

 

 ワンダーボーイが作ってくれた機会、無駄にはしない。

 ジャイロスリンガーが持ってるボールを向かってきた別の醜鬼の顔面に投げつけて怯ませた隙に、中年スタッフさんを拾い上げ、会場の外に向かって走りだす。

 

 ジャイロスリンガーは本物のオーガ。大人を1人抱えて巨大なオーガもどきから逃げるくらい朝飯前なのだ! 

 

 会場内にいる醜鬼の数は6体。

 ワンダーボーイのタックルとジャイロスリンガーの顔面に投げつけてボールで足止めした2体以外に、ステージでおやつタイムに興じるのを除いた1体の醜鬼がこちらに向かってきている。

 それを足止めするために、ユニットをもう一体コールする。

 

「コール! “スイーティ・ガード”!」

 

『背中は任せな!』

 

 コールしたユニットは、スイーティ・ガード。

 その名の通り防御プレーにおいて真価を発揮するデーモンの女性選手。

 見た目はギャロウズボールに出られるとは思えない細身のお姉さんだけど、その魔法はどんな屈強なプレイヤーの攻撃も止めてしまうとか。

 実際、彼女の防壁は醜鬼の拳も容易に止めます。

 

「よし、今のうちに──!」

 

 ワンダーボーイとスイーティ・ガードの援護もあり、醜鬼の追撃を振り切って会場の外に逃げることに成功しました。

 

「ふう……ここまでくれば大丈夫かな」

 

 会場の外でも暴れる醜鬼と逃げ惑う人たち、そしてようやく駆けつけて戦闘に入った魔防隊がいる。

 それらの喧騒を置いて見つからないように素早く離れ、ひとまず近場に醜鬼がいない場所への退避に成功したところで足を止める。

 抱えていたおじさんを下ろし、ライドを解除して落ち着くことにしました。

 

「ありがとうみんな、おかげで命拾いしたよ」

 

『次のゲームを楽しみにしている』

 

 助けてくれたスパイクブラザーズのみんなにお礼を言ってカードに戻ってもらったところで、おじさんが声をかけてきました。

 

「その……さっきは突き飛ばして本当に申し訳なかった。それと君のおかげで命拾いしたよ。本当にありがとう」

 

「気にしないでください。あんなことがあってパニックになるのは仕方ないですから」

 

「はは。君みたいに謙虚で人ができたお嬢さんは今時珍しいよ」

 

 僕を突き飛ばしたことについて生え際の後退している頭を下げて謝罪してきたおじさん。

 突き飛ばしたのはやはりパニックになって衝動的にやってしまったことらしく、こうして落ち着いたところで年下相手に真摯に謝罪とお礼を言えるのはいい人の証だと思います。

 もちろんパニックになってやってしまったことは承知しているし、怪我とかしているわけではないので、僕の方も水に流します。

 それを聞いたおじさんは今時珍しいお嬢さんだと言いました。

 ……あ、そう言えばこの異世界日本は女尊男卑が当たり前の世界だったねと今更気付かされます。

 

 醜鬼の方は魔防隊が手早く駆逐した模様。

 いつのまにかイベント会場の方でなっていた醜鬼の咆哮や銃撃音などは落ち着いており、今はパトカーのサイレン音や多少落ち着いた人々の喧騒などが聞こえるくらいになっていました。

 

「おじさんも避難所に行ったほうがいいかもしれないですね。その足じゃ歩けないでしょうから、肩を貸しますよ」

 

「ありがとう。落ち着いたら、お礼にご飯を奢らせてくれないかな」

 

「えっ、いいんですか!?」

 

 おじさんは足を怪我しているし、避難所まで肩を貸すことを提案したら、ご飯を奢ってくれる約束をしてくれました。

 現在お金が不足している僕にとってそれは願ってもないことです。

 

 雷に打たれるくらいの不運に見舞われた日、優しいおじさんとの出会いという幸運に恵まれました。

 ……あれ、なんかこの文面危ない捉え方もできそう。

 いやいやいや、字面の通りだから! 誤解しないでください! 

 

 

 

 

 

 

 とまあ、ミナトがそんなしょうもないことを思っていた一方。

 破壊されたイベント会場の方では、その惨劇の跡を遠くから見ていた小柄な銀髪の少年の姿があった。

 

「…………」

 

 銀髪と色白の肌、そして左右で瞳の色が異なる虹彩異色という外見から、どこか現世離れした神秘的な雰囲気の漂う少年。

 その少年の緑と紫の瞳が見据える先には、到着して迅速に醜鬼を駆逐した魔防隊五番組の隊員、そして会場から離れた場所で足を負傷した中年の会場スタッフに肩を貸して避難所を目指すミナトの姿が映っていた。

 

「桃の恩恵──否定。該当する能力者、確認できず」

 

 10歳前後と思われる少年は、小さく、そして機械音声のような無機質な声で呟く。

 

「接触の必要性有りと認定」

 

 ミナトから視線を外した少年は、いつの間にか背後に生じていた小規模なクナドを通り魔都へ姿を消した。

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