異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
夜勤明けの疲れた帰り道で3度目の醜鬼との遭遇を果たした日から約1週間。
被害の大きさもあるので、連日のニュースは一面今回の札幌市南区で発生した魔都災害一色となっていました。
配達した新聞もこの札幌市南区の魔都災害のものがほとんど。
現在でも行方不明者が1,000人以上おり、1週間経った今でも消防などが懸命な救助・捜索活動を続けています。
被害は判明しているだけで死者400人以上、負傷者2,000人以上と、前回のイベント会場における魔都災害を遥かに上回る規模のものとなっています。
時間帯が日の出も迎えていない早朝だったこともあり、多くの人が屋内で就寝中だったため、特に倒壊した建物に巻き込まれて亡くなった人が多く、それが被害を拡大させた要因になっていたみたいです。
一発の咆哮でこれだけの被害だったのだから、あれが二発三発と放たれていたらどれだけの被害が拡大したのか想像できません。
とはいえ、そもそもこの超大型醜鬼は銀髪オッドアイが僕の力とかを調べるつもりで嗾けてきたので、この被害が生まれた原因の一つには間違えなくこの異世界日本にとって異物である僕の存在があります。
二発目の咆哮を阻止し被害を食い止めた。
今回の魔都災害の原因の一端である身の上でそんなことを思えるはずもなく、むしろあの時マクリールで自分を守るよりも超大型醜鬼に攻めかかって咆哮を絶対にさせないように動いていれば街を巻き込まずに済んだのではないかと後悔しています。
超大型醜鬼と街に入り込んできた醜鬼達はあのあと夜雲さんたち五番組と、他の組からも派遣された応援部隊で無事駆逐に成功したとのこと。
短い期間で2度も発生した大規模な魔都災害にて勇敢に立ち向かったとして魔防隊五番組は大人気です。
この辺りに異世界日本ならではの空気を感じますね。僕のいた日本では何かを非難していないと気が済まない人たちがいるので、間違えなく魔都災害を防げなかったとして魔防隊と政府に非難の嵐がぶつけられていたと思います。
……僕の世界の世間って、ひょっとしてかなり冷たい?
今回は街も寝静まっていた時間帯ということもあり目撃者もいなかったらしく、銀髪オッドアイや僕のことはネットの方でも話題にすら上がっていませんが、マスカレードやネヴァン、デムナ達が醜鬼と戦い街の人たちを守る姿が多くの人たちに目撃されており、ネヴァンにイベント会場で活躍した謎のコスプレ女の疑惑を向けられていました。
それについては別にもう諦めてるのでいいけど、ネットの声に多かった“プロポーション抜群の二代目”だの“前回の子は顔とスタイル残念”だのには流石にムカっとくるものがありました。
確かにネヴァンの方がスタイルいいし美人だし大いに同意するけど、顔面偏差値が残念なのも認めるけど、もっとこう……オブラートに包んでくれませんか!?
比較するかのようにネヴァンと隣り合わせの画像を貼ったページ見た時には、そこに寄せられてるコメントとともに心に来るものあったんですけど!
おじさんに突き飛ばされたところを上げて“妖艶なヒロインと芸人のひろいん”って題名つけているのみた時とか、思わず「おいコラ!」って叫んでまた隣の部屋の人に迷惑かけることになりましたから。
せめてヒロインで統一して。平仮名にされると命の危機の場面なのにギャグ映像感が出てくるから!
「やっぱり世間は顔なのか……女尊男卑でも顔面偏差値39点に風当たりが強いのは変わりないのさ」
「我をぬいぐるみ扱いするな」
「そしてネット社会の手のひら返しは異世界日本でも変わらないのね……」
「ネヴァンに注目が集まれば望み通り鎮火し忘れられるであろう。目立つのが苦手なポートちゃんにしてみれば好都合ではないのか?」
「そういえば今日だった!」
お菓子工場と新聞配達のアルバイトを終えて、ネットに上がる辛辣な意見で受けたショックをブラントに癒してもらっていると、そういえばとイベント会場で助けたおじさんにお礼としてご飯を奢ってもらえる約束の日だったことを思い出す。
そのとき、部屋の電話が鳴ります。
「何かあったのか?」
「うん、この前助けたおじさんにお礼にご飯奢ってもらう約束していたんだけど、一応このネカフェに寝泊まりしてることは伝えていたから。フロントからだし、多分おじさんが来てくれたんだよ」
「怪しい勧誘とかではないのか?」
「そんなことないと思うけど。そうだとしてもネカフェに寝泊まりしている相手に高価なツボなんか売れない事くらいわかるだろうし」
「だといいのだが……念の為デッキを持っていくのだ」
「うん。いつまた醜鬼に襲われることがあるか分からないからね。……もう自分の不運は受け入れてるよ」
「そ、そうか……では、気をつけて行くのだぞ」
「オーケー、行ってきます」
電話はやはりフロントからのもので、僕に来客とのこと。
おじさんが来たと思い、心配するブラントに見送られてフロントに向かう。
だが、そこにいたのはおじさんではなく。
「こんちゃー☆」
魔防隊五番組組長であり、僕の命の恩人でもあり、そして前回の銀髪オッドアイに超大型醜鬼をぶつけられた日に不法入国者の身バレを恐れて逃げた相手である、蝦夷夜雲さんが居たのです。
「……三十六計逃げるに如かず!」
「おおっと、今回は逃がさないよ!」
「──へぶっ!?」
想定外の人物との邂逅に一瞬絶句した僕は、再び逃走を選択してブラントを回収するべく背中を向けて走り出そうとしたのですが、そうはさせないと夜雲さんが足元に風を起こしたことでズッコケさせられました。
顔面からいく転け方する僕は、確かにヒロインより芸人呼ばわりされる方があっているかもしれない……。
「大丈夫? ごめん、加減間違えちゃった。まさか顔面から行っちゃうとは……ミナトちゃんって体幹弱い?」
「いや結構な風でしたよ!? 桃食べた超人基準にしないで!」
ライドしてないと僕、ひ弱な普通の人間ですから!
転ばせといて心配してくる夜雲さんに、思わず反射的にツッコみます。
……こ、このままでは芸人呼ばわりを否定できなくなる。
すると僕のツッコミを受けた夜雲さんは鳩が豆鉄砲を食ったような表情となって目をぱちくりさせて驚いた様子となりました。
その反応にそんな驚くことかなと思い、直後に自分の失言に気づいて僕の方も思わず「あっ……」と漏らします。
「ミナトちゃんって、まだ桃食べてなかったの?」
「……ノーコメントです」
我ながらものすごい雑な返答で誤魔化そうとしたけど、当然通用するはずもなく夜雲さんが目を輝かせながらずずいと詰め寄ってしました。
「桃の能力じゃないなら、あの変身ってどうやってるの!? ミナトちゃんって、ひょっとして超能力者か何かなのかナ!?」
「の、ノーコメントで……」
知らないことを前に、その未知を純粋に知りたいという好奇心からくる子供のような目で尋ねられ、その無邪気な目に隠し事しているのがとても悪いことのように感じてしまいます。
でも、真実を話したところで信用されるわけもないし、よしんば信用されたとしても精神病院か感染症研究の施設みたいなところに隔離される未来が見えるので、言えないです。
またノーコメントで凌ごうとしますが、まるで聴こえていなかったかのように夜雲さんがさらに詰め寄ってきました。
ち、近すぎませんか……?
至近距離にある夜雲さんの顔が直視できない陽キャの光を放っている美人なので、顔面偏差値39点には眩しすぎて思わず顔を背けます。
しかし夜雲さんは背けた方に回り込んできたので、再び至近距離で顔を合わせることになりました。
「ちょっとちょっと、どうしたのさ。夜雲さんにミナトちゃんの可愛い顔もっと見せてよ」
「か、かわ……!?」
そして夜雲さんからお世辞だろうけどストレートに可愛いと言われ、驚きと恥ずかしさから顔に血が一気に登ってきました。
顔に熱が集まってるの自覚できるくらいなので、多分今の破壊力抜群の一言に僕の顔は真っ赤になっていると思います。
そう、同級生にブスだの顔面偏差値39点だの彼女にしたいランキング常に圏外だのと言われてきた僕の顔が、りんごのように真っ赤に。
……なんかそう思うと急に冷静になれました。
「おお、顔真っ赤になってからの急に元通りになるの初めて見た。ミナトちゃん、感情振れるの激しい方なの?」
「ごめんなさい、顔面偏差値39点の分際でお世辞を真に受けて顔赤くするとかキモいですよね。ハハッ……」
「大丈夫? 何かあったのかナ、夜雲さんが相談に乗るよ?」
「い、いえ大丈夫ですお気遣いなく。では、僕はこの辺で──」
「失礼させないゾ!」
「通じなかったぁぁぁ!」
自然な流れで逃げようとしたのですが、乗ってくれていた夜雲さんは意外と冷静であり全く引っかかってなかったです。
即座に肩を掴まれて確保されました。
「ふっふっふ、夜雲さんを出し抜こうなんて100年早い」
「見逃してください」
「直球でこられてもダーメ。ミナトちゃんは夜雲さんのハーレムに入る宿命なのだから!」
「いや何言ってのこの人」
直球で懇願してもやはり却下されます。
さらにハーレムだなど意味不明なことまで言ってきたので、思わずツッコミが出ました。
え、ひょっとして夜雲さんって……いや、そうだとしても多様性の時代だしそういう分け方は良くないですね、はい。
ハーレム発言に困惑している中、夜雲さんは逃げられないようにと肩を組んできました。
再び至近距離に接近してきた、今度は横から見てくる夜雲さんの顔に、密着していることもありまた顔に血が登ってきました。
「や、夜雲さん……!?」
「はい、夜雲さんだよ! ふふふ、近くで見るとやはり夜雲さんの目に狂いはなかったことがわかるネ。顔も可愛いけど──」
「ちょっ!? どこ触ってるんですか!」
「服の上からじゃ分かりにくいけど、いいもの持ってるじゃん! ひょっとして夜雲さんのより大きい?」
いや、この人捕まえるために肩組んできたんじゃない。
まるで異性を口説いているように顎をなぞってきたかと思いきや、その目が下に動いた直後に後ろに回り込んで胸を揉んできたのです。
ちょっ、スキンシップ違うコレ!
いや確かに後ろから抱きつくとか友達同士でよくやりましたけど、胸は揉まないですって! いやコレもうスキンシップじゃない、セクハラだよね!?
「や、やめてくだっ──ひぅ! やめてください!」
「良いではないか良いではないか!」
「あーれーは帯引っ張るもので胸揉みしだくものじゃないよね!?」
「あはは! 夜雲さんも敬語よりそっちの方がいいよ! 次からは砕けた口調で行ってみよー!」
「言われなくてもそうするよ! つーか、いい加減胸揉むのやめろ!」
「うるせえぞ!」
「まったく、何しているんですか貴女は」
「ごめんなさい!」
「痛っ! 縦は地味に効くからせめて横で叩いて欲しいナ☆」
嵐のような夜雲さんに振り回されて騒いだカオスな状況は、うるさいのを嫌がる隣の部屋に寝泊まりしている人からの抗議と夜雲さんについてきたカイコさんがバインダーを縦にして夜雲さんを叩いて注意したことによりようやく収集されました。
……あの部屋、フロントから結構な距離があるはずなんだけど、僕の声ってそんなにうるさいかな?