異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
今日、イベント会場で助けたおじさんにご飯を奢ってもらうはずだった僕は、現在ファミレスではなく魔都に存在する魔防隊五番組寮に来ています。
来たというか、正確には連行されました。
夜雲さん達はイベント会場で発生した魔都災害にておじさんを救出した時の様子を映した映像の動画をネットで発見し、僕の身元について調べてこの日本に存在しない人間であることを突き止め、捜索をしていたとのことです。
ちなみに、僕の原付免許証にあった住所は異世界日本では中学校でした。
……うん、普通に考えたら偽造だって判断されるよねコレは。
夜雲さん達は僕が家族と偽ったマスカレードの外見が外国人だったことから、僕を海外の魔都の資源を狙う違法組織、テロリストの類であると推測し、僕のライドやコールの能力を不正な手段で得た桃から獲得した能力と見て捜していたとのこと。
しかしマスカレードの扮する異母兄のレドは当然ながら、ネットカフェに寝泊まりし身分や年齢を偽って深夜バイトしていたこともあって僕の方もなかなか見つけられなかったとのこと。
こうして見つけたのは、助けたおじさんに接触して寝泊まりしているネカフェの場所を聞き出してたどり着いたとのことです。
そして魔防隊五番組寮に任意という体裁とはいえほとんど問答無用で連行され、夜雲さん達から事情聴取を受けるに至った次第です。はい。
本名、住所、年齢、家族構成などなど。
あえてライドやコールに関することをいきなり訊かれることはなく、身元を調べるための質問からされているのですが、この時点で僕は割と口をつぐみ答え難い状態になっていました。
嘘つくの得意じゃないので……。
「さて、まずはミナトちゃんの本当の名前教えてくれるかナ?」
「朱霧──」
「えーとね、あの後調べたんだけどさぁ……ミナトちゃんの名前って戸籍にないんだよねー。それ偽名でしょ?」
「“蒲焼さん太郎”です」
「……偽名思いつくの下手なのかな?」
「な、なんでバレた……!? じゃ、じゃあ“樋口一葉”!」
「じゃあとか言う時点で偽名だってバレてるから」
「……ノーコメントで」
まず名前はすんなり答えたのですが、異世界日本に“朱霧ミナト”という名前の人物はいないので、日本人のふりをしても無駄だと詰められて雑な誤魔化しをするしかなくなりました。
それっぽい偽名名乗ってもすぐ嘘だとバレるし、友人の名前を名乗ってもまた調べられたら異世界日本に存在しないことがばれそうだと思えたので。
「次に住所はどこかな? 前に見せてもらった免許証、あそこにあった住所は中学校だったけど、流石に学校住まいってことはないよね?」
「中学!? あ、えーと……じゃ、じゃあ──」
「じゃあってまた言っちゃってるよ」
「うぐっ……! の、ノーコメントです……」
「……ミナトちゃん、いくらなんでも嘘つくの下手すぎない? ちょっと夜雲さんも心配になるくらい素直なんだけど」
次に住所。
原付の免許証にあった住所は本物ですが、それはあくまで僕の故郷の世界の日本でのこと。
異世界日本においてこの住所は中学校なので、先に本当のことを言う選択肢を封じられたので、僕は早々に降参しました。
いつも陽の気が溢れる夜雲さんも、流石にこの早期降伏は予想外だったらしく残念な生き物を見る目を向けられましたが。
調書を隣で取っているカイコさんが少し驚いているところを見ると、夜雲さんにこんなリアクションさせるのはよっぽどのことみたいですね。
「そういえば、お兄さんはいないのかな?」
「……ノーコメントで」
「ありゃ、残念。夜雲さん、またレドさんに会いたかったのになぁ」
生年月日はすんなり信じてもらえたのですが、家族構成についての質問に差し掛かるとそういえば以前迎えに来たレドはどうしているのかと尋ねられ、僕はまた言葉を紡ぐことになります。
マスカレードをコールして異母兄妹という設定にしたことで生まれたレドという人物だけど、当然のことながら存在しないので。
確かに会わせようと思えば、コールすればいいだけなのでできますけど、そんなことのためにマスカレードに来てもらうのは申し訳ないし、桃を食べてないのにコールの能力を見せたら「それは何?」って詰められたら説明できないし……。
こことは異なる日本の人間で、きしめん頭にライドとコールの能力を与えられて宇宙の彼方のどこかにある星に召喚されて、そこに蔓延る邪教の組織や遊星の侵略者達と戦って、送還してもらうはずがきしめん頭のミスでこっちの世界の日本に飛ばされてきちゃったんです。5年くらいお世話になりますね(キラッ)──なんて説明しても信じてもらえないし、信じられても隔離生活になる可能性が高いから、事実を言うわけにもいかないですし。
家族構成に関する質問までを終え、結局普通の身元確認みたいな質問ですらまともに答えられない状況に、夜雲さんは困ったように腕を組み背もたれに体を預けて天井を見上げるような姿勢になります。
「んー……ミナトちゃん、悪い子には見えないんだよねぇ。むしろこんな嘘つくの苦手な子がわざわざあんな偽物の免許証まで用意するようなテロリストとか、夜雲さんはないと思うけどなぁ」
「確かにそうですね。私も彼女が嘘をついているとは思えませんし、おそらく名前は本名なのでしょう」
「桃を食べてないってのも、多分本当だね。軽い風で盛大に転んじゃったし、抵抗する力も弱すぎたからサ」
「日系外国人の線も考えましたが、入国管理局でも彼女の名前は確認できませんでした。或いは我々の推測が全く異なるかですが……」
夜雲さんはカイコさんといろいろと可能性を推察しています。
日系外国人が日本人風の名前で滞在しているなら、確かに国内に戸籍なくてもあり得ると言う可能性があるのかと2人の会話で知りました。
ちなみに正解は後者の“全く異なる場合”に当てはまるのですが、多分その想定のさらに外側になるかと……異世界召喚なんて言っても信じてもらえないだろうし。
本名不明、住所不明、家族構成不明、国籍不明、桃を食べた記録はないが桃の能力でなければ説明つかない変身・召喚能力があり、しかし桃を食べた人間ではありえないほど身体能力が低い。そして嘘がとても下手。
怪しさ満点ながら、むしろ満点すぎて逆にスパイやテロリストに見えないという困った存在に、ミナトの正体が掴めず夜雲もカイコも困ったようにため息をこぼす。
「──よし、ならに質問を変えるね!」
すると夜雲さんは吹っ切れたようにのけぞっていた姿勢を戻すと、机に頬杖をついて身元確認の質問をやめてあの日の事について尋ねてきました。
「ミナトちゃん、あの魔都で初めて出会った日、何があってあそこにいたか。それだけ教えてくれないかな?」
「…………」
あの日に何があったのか。
それを説明すれば、確かに僕の正体を伝えることもできます。
でも信じてもらえない可能性の方がはるかに高いし、仮に信じてくれたとしても病院に隔離される可能性が高いので……さてどう誤魔化そうか。もう僕が嘘下手なのも知られているので、簡単には誤魔化せないですし、ここもノーコメントで切り抜けるべきかもしれないですね。
「難しい顔してるね?」
「!?」
そんなことを考えていたら、夜雲さんが僕の顔を両手で挟んできました。
突然のことに驚く僕に対し、夜雲さんは僕の頬をコネコネして遊びながら優しく諭すように、普段の嵐のような我が道を突っ走る時とは異なり落ち着いた様子で言います。
「大丈夫。ミナトちゃんが何を悩んでいるのか夜雲さんは分からないけど、どんなことを言ったとしてもちゃんと信じるしミナトちゃんが悪くなるようにはしないから。だから、あの日のことだけでいいから、夜雲さんに言ってみない? なんだって相談に乗るよ。だってこう見えて、夜雲さん長女だからね☆」
「…………」
よく見ると、カイコさんも調書を閉じてペンを置いています。
セクハラしてくるし、根っからの陽キャだし、周りのこと顧みないゴーイングマイウェイな人かと思ってましたが、夜雲さんには頼れるお姉さんの面もあるみたいです。
「…………」
命の恩人ということもあるし、こうして僕自身が不利になる内容だとしても場合によっては庇ってくれる姿勢を見せてくれました。
これ以上黙っているのはもう耐えられないので、信じてもらえるかもらえないか分かりませんが、ひとまず夜雲さんに打ち明けてみることにしました。
「……あの日、僕は──」
そして、僕は初めて夜雲さんに会った日のこと。
異世界で盟友と共に邪教の教祖を打ち倒し、奴等の崇める存在を封印して勝利し、そしてきしめん頭の手違いでこの異世界日本に落とされ、醜鬼に襲われ、そして夜雲さんに出会った日のことを打ち明けることにしました。