異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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19話

 

 僕は、夜雲さんに初めて会った日のことを打ち明けることにしました。

 信じようと信じまいと、もうこの命の恩人に対して隠し事をすることができなくなったので。

 ……決して嘘が下手だからというわけじゃない。僕は嘘が苦手なだけで、本気を出せば誰でも騙せる嘘の一つや二つはつける……はず! 

 

 今はカイコさんが調書を書く手を止めているので、夜雲さんが用意してくれた誰にも教えないから打ち明けていいと言う場なのでしょう。

 記憶の混濁が見られるとか、妄想癖が酷すぎるとか、最悪精神病院に送られることがあるとしても、きしめん頭が5年後には今度こそ故郷に戻してくれる予定なので、醜鬼の脅威を忘れてそこで引きこもるのもありかもしれません。

 ……あれ? そう考えると、本気で病院送りになってもいいと思えてきました。

 

 い、いやいや、入院生活だけで5年も過ごしたらそれこそ引きこもりが加速──もとい、本当に精神が病む可能性がある。なんとかそうならないように祈りながら、夜雲さんの良心を信じて真実だけを語ることにします。

 

「……あの日、僕は──異世界から帰還するはずが、この世界に、魔都に放り出されました。夜雲さんにはその時に助けてもらったんです」

 

 きしめん頭に召喚され、邪教の組織と戦い、時に遊星の尖兵である根絶者たちとも戦い、ブラントと和解して盟友となり、邪教の教祖を倒した。

 そしてようやく帰れるというところで、僕を召喚した元凶たるきしめん頭のせいで故郷ではなく、こちらの世界の日本に飛ばされることとなった。

 しかもよりにもよって魔都に。

 

 そして魔都にていきなり出現した醜鬼に襲われ、食べられそうになったところを、偶然巡回中に見つけてくれた夜雲さんに助けられました。

 

 僕は確かに魔都災害の被災者にあたるかもしれません。

 しかし、この世界から見れば異世界の日本を故郷とする僕は、魔防隊の保護対象には当たりません。

 夜雲さんたちから見れば異世界の人間であるため、僕には戸籍も住所もなく、それどころかこの世界に存在していた痕跡すらあの日まで存在していなかったのです。

 

 夜雲さんたちが僕を調べて何もわからず、テロリストを疑ったりしたのも、それが理由。

 何しろ本来はこの世界に存在しないはずの人間なので、前半生なんて調べようがないです。比喩でもなんでもなく、文字通り存在そのものがあの日まで無かったのだから。

 

 僕が異世界日本の人間であること。

 きしめん頭に──夜雲さんには神様的存在として説明しておきましたが──ある理由で異世界に飛ばされ、そこから帰るところでこっちの日本に飛ばされてしまったこと。

 そしてライドとコール、夜雲さんたちが変身能力や召喚能力と呼び魔都の桃の能力だと思っていたものは、きしめん頭に授かったものであり、レドもそれを使ってコールしていた存在であること。

 

 それらを説明したところ、夜雲さんは最初こそ「こいつ頭大丈夫か?」と言わんばかりの怪訝な目を向けたりもしました。

 

「異世界から魔都に、かぁ……なるほどね、ミナトちゃんは異世界人だから戸籍がなかったのか! いやぁ、調べても調べても何もわからないんだもん。夜雲さん二度と会えないんじゃないかって心配したよ」

 

 しかし、一通り初めて出会いそして命を救われた日のことを話すと、真実しか言ってないにも関わらずその本人である僕がこんなの信じてもらえなさそうだなと思った話をあっさりと信じて、むしろ僕のことを調べても何もわからなかった理由に納得したのです。

 

「……いやいやいや、自分で言うのもなんですけどまさか信じたんですか!? 僕自身説明しながら荒唐無稽すぎて作り話だって思ってしまうような内容ですよ!」

 

「でも、夜雲さんは信じるよミナトちゃんの話」

 

 これには思わず僕の方が困惑しました。

 思わず待ってとつっこむも、夜雲さんはそれでも信じると言ってます。

 

「あの……何で、信じてくれるんですか? 僕にとっては真実ですけど、でもこんな話……」

 

 でも、普通信じられるような内容じゃないでしょ? 

 なんでと尋ねた僕に、夜雲さんは僕の話を信じてくれた理由を話してくれました。

 

「いやね、夜雲さんも根拠なしに信じたわけじゃないから。今の話、初めて会った日にされていたら流石の夜雲さんでも信じられなかったよ」

 

「だったら──」

 

「でもねー、ミナトちゃんのことが気になって調べるとさ、何も出ないんだよね。ミナトちゃんも、レドさんのことも。ほんとに綺麗さっぱり、痕跡ひとつなく、目撃者ひとつなく、それこそ不自然すぎるくらいに綺麗さっぱり。どんなに徹底して過去を消しても、ここまで綺麗に消せるなんてそうそうないからね。逆に言えば、あの日までこの世界に存在しなかった人間なら、これだけ綺麗に過去が何もない説明がつくわけヨ」

 

「…………」

 

「それに、夜雲さんとお話しした時間は長くないけど、嘘がつけないミナトちゃんが今の説明はちゃんとできたからネ。これは嘘じゃないって夜雲さん分かっちゃった」

 

「ぼ、僕そんなに嘘下手ですか……?」

 

「びっくりするくらい下手だネ☆」

 

 夜雲さんが僕の話を信じてくれたのには、根拠がありました。

 確かに、言われてみれば片親が違うとは言え全く似ていない兄妹、しかも兄の方は外見が堅気に見えないと言う目立ちぶり。なのにあの日以前の痕跡が何ひとつないなんて、そりゃ不自然ですよね。

 

 ついでに僕の嘘が苦手な気質も加味されていました。

 そんなに下手なのかと訊くと、満面の笑みで肯定されました。

 笑顔がすっごく可愛いですけど、なんか納得いかない……。

 

「魔都なんて摩訶不思議なものがあるくらいだし、異世界人とかいてもおかしくないかなーって。それにさー、ミナトちゃんを保護したあたりでクナドは観測されなかったんだけど、異世界から飛ばされたならクナドがなかったとしても魔都にいたことの辻褄が合うからさ。そのライドとコールだっけ? それも桃じゃなくて異世界人だからってなればあり得るよねって納得できるからってのもあるネ」

 

 魔都なんて不思議世界が存在している異世界日本の人間ということもあり、夜雲さんは一見すれば荒唐無稽でも調べてみたらその方が納得できるという話を信じるタイプのようです。

 ゴーイングマイウェイな人なのに、根拠と照らし合わせて真実と納得できる方を採用するなど理性的な判断ができるとは、なんと言うか意外です。

 もちろんいい意味でですよ! 

 

「……なんと言うか、意外に冷静なんですね夜雲さん。もっとこう、面白ければ全て良しで解決したことにする嵐みたいな人だなって思ってたので」

 

「ちょっとー、ミナトちゃんは夜雲さんのことなんだと思っているのかナー?」

 

「い、いえ! もちろんいい意味で意外だってことです!」

 

「訂正しなくても大丈夫。大抵の人はそう思っているから」

 

「ちょーい、2人して夜雲さんいじめて楽しいのか! これでも夜雲さん組長だからネ!」

 

 つい思ったことが口から出てしまいました。

 しかしカイコさんも同意したし、大抵の人からはそう思われているとのこと。やっぱりそうだよね……もうこの人と関わると振り回されるだろうってのがすぐわかるから。

 そして危うく忘れそうになるけど、夜雲さんは魔防隊の幹部。いくら実力主義でも脳筋が務まる席じゃないだろうから、理性的な一面があってもおかしくないです。むしろゴーイングマイウェイが演技という可能性も出てきます。

 能ある鷹は爪を隠すということですか。

 

「そ・れ・に、ミナトちゃんは夜雲さんのハーレムメンバー入りする運命だから、特にしっかりと調べたからネ☆ それでも何も出ないなんて、もうあの日突然出現したくらいしか考えられないからさ〜」

 

「…………」

 

 念入りに調べられた理由を聞いて、ゴーイングマイウェイなのは演技じゃないことに確信が持てました。

 後ろでカイコさんが疲れた様子でため息をこぼしているのが見えますが、夜雲さんは全く気づいていません。

 

 この人を抑える役目は苦労が多いでしょう。

 自分の世界に浸っている夜雲さんの後ろにいるカイコさんにお疲れ様ですとペコリと一礼すると、それに気づいたカイコさんが笑顔を向けてくれました。

 

「アレだよミナトちゃん! きっとこっちの日本に来たのは、夜雲さんと運命の赤い糸に結ばれているからだヨ!」

 

「違う。それはないゼッタイ」

 

 醜鬼を相手に戦う魔防隊の組長。

 身元もわからない僕を助けてくれた命の恩人。

 荒唐無稽と片付ける方が正しいような話も根拠があれば信じてくれる理知的な一面。

 異世界人と分かってもハーレム要員として受け入れてくれる度量の深さ。

 この嵐みたいなところさえなければ素直に尊敬できるすごい人なのに、どうして感動的なところで自らぶち壊しにかかるのかなこういう人たちって……。

 

 予想外なことに夜雲さんに異世界人である事を信じてもらえました。

 ある意味今まで隠し通していたことが信じてくれる根拠を揃える時間に繋がったので、こっちの日本に来て保護された日に全てを打ち明けなかったのは正解だったというのが複雑な気もしますけど、この点はブラントに感謝しなければですね。

 

 夜雲さんが根拠を持って僕の話を信じてくれたこともあり、カイコさんも僕が異世界日本の人間である事を信用してくれました。

 

 こうして僕は、異世界日本で初めてこの境遇を知る人を得ました。

 得たのですが……

 

「ミナトちゃん、ネカフェで寝泊まりしてるんでしょ? そこで夜雲さんから提案なんだけど、ミナトちゃん五番組寮の管理人になってくれないかナ? 住み込みだし、危険がある職場だから給料もたくさん出るよ! もちろん夜雲さんたちが責任持って守ってあげるからサ!」

 

「…………はい?」

 

 彼女たちからみれば相変わらず得体の知れない異世界人である僕を、この魔都に存在している魔防隊五番組寮の管理人として働かないかと提案してきたのです。

 仕事の内容は五番組の皆さんの寮でのお世話。寮の掃除、洗濯、炊事などの雑用が中心とのこと。

 寮は魔都に存在するので醜鬼の襲撃などの危険がある分給料が高く、寮自体は結界で守られているため基本的に内部にいれば安全であり、管理人は魔防隊員ではないため醜鬼と戦う義務はないそうです。

 

 確かに、異世界日本には家もない僕にとっては住み込みで働ける場所は嬉しいですが……魔防隊の寮って機密も多いのでは? 魔都の資源を狙う海外のテロリストも多いという世界ですし。そんなところに僕みたいな身元不明の人間を入れていいものなのですか? 

 

「あの……異世界人ですよ? テロリスト以上に身元不明な不審者なんですよ? そういうのって、魔防隊の寮に合法的に出入りできる仕事させていいんですか?」

 

「いいの! 夜雲さんがいいって言うならそれでヨシ! むしろウェルカム!」

 

「んなわけあるか!」

 

 思わず大声でツッコミが出てしまいました。

 理由があれば納得できますけど、「いいって言うならそれでヨシ!」はない。それだけは絶対ない。

 むしろウェルカムとか、もうそれ夜雲さんの私情だよね!? 異世界人だとしても迎える意思は変わらないのかそのハーレム計画に! 

 

「異世界に行った人間ですよ!? 異世界から来た人間ですよ!? 変な病気とか持ってないかとか、そういうの気になりませんか!?」

 

「それは保護した日に全身くまなく念入りに調べたからOK!」

 

「何してくれてんだあんたは!?」

 

 ならばと異世界人、変な病気を持っていたらどうするのかと問うも、まさかの保護した日に全身くまなく調べられていたという事実を聞かされました。

 治療のためという面があることは理解できますが、できれば知りたくなかったなぁ! 

 むしろ夜雲さんが関わっていると言われると、ナニをされているのか不安になるから余計に怖いです! 

 夜雲さんのフリーダムっぷりに、自分から病院隔離人生を望んでいるようなことをツッコむ僕。

 この時点で完全に僕の立ち位置も決まったと言っていいかもしれないです……。

 

「決まったならさっそく申請しないとネ! やろうぜ管理人!」

 

「僕まだ承諾してない! 気が早い! 人の意見聞かない! そしてもう書類用意している!? そこだけはなんで用意周到なわけなのさ!? どうしても僕を管理人にするつもりなのかあんたは!」

 

「オフコース!」

 

「即答するな!」

 

「ミナトちゃんやっぱり面白い! これは採用!」

 

「まだ申請してねえよ!」

 

「じゃあ申請しちゃおう! すぐしようネ!」

 

「するか! そんな雑な誘導に引っ掛かるか!」

 

「なら代わりに夜雲さんと結婚して!」

 

「僕これでも女だよ!」

 

「だから夜雲さんのお嫁さんになって!」

 

「だからじゃねえよあんたも女だろうが!」

 

 僕、ですます口調が基本なのに、もう夜雲さん相手になると乱暴な口調になってしまいます。

 そして疲れます。

 大声でツッコミし続けるので、もう疲れます。対して夜雲さん全く疲れた様子がないので、フリーダムっぷりも全然止まりません。

 

 

 

 

 

 ……ちなみにこのあとしばらく下らないやり取りしていたら、いつのまにか魔防隊五番組寮管理人の申請用の書類が完成していました。

 い、いつのまに!?

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