異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
ディスティニーコンダクターによってミナトが送られた異世界日本には、魔都という異界が存在する。
数十年前に突如として日本に発生した東京都ほどの広さがあるこの異界には、桃と呼ばれる資源と、
魔都は門と呼ばれる日本各地に存在する出入り口から行き来することが可能であり、この門には政府が管理する固定化された門と、日本の何処かに突発的に短時間発生する門と2種類が存在している。
門は日本にしか発生せず、固定化された門は政府が管轄下に置いたため、必然的に魔都はこの異世界日本が管理することとなった。
桃はこの草木1本も存在しない不気味な空の下荒野が広がるばかりの魔都に存在する果実であり、現世に存在する植物とは異なる魔都の木などに成る存在。
この桃を摂取した人間は、男性であれば特になにも起こらないが、女性は人を凌駕する恩恵と特殊な能力を発現する。
彼女たちのもたらす異界の力はそれまでの世界秩序を変え、女尊男卑の体制を作り上げた。
そして、もう一つの存在である醜鬼。
多くは人型の異形として生まれるこの怪物は、それまでの人類の火器を一切受け付けず、また人類に対して敵意を持つ存在だった。
門を超えて魔都に足を踏み入れた人類が初めて接触した醜鬼は魔都を知らなかった人類に大きな脅威として立ちふさがり、そして門を超えて日本に這い出てきた醜鬼たちと当時の日本政府の生存を賭けた壮絶な戦いが繰り広げられた。
醜鬼は、人類では対抗できない。
しかし、魔都に実る桃の力があれば、醜鬼に対抗が可能だった。
魔都の桃の力を得て、魔都の脅威である醜鬼より人々を守る者たち。
人々の平和を守る彼女たちの所属する組織は“魔都防衛隊”、通称魔防隊と呼ばれている。
「なるほどねぇ──じゃねえんだよトンチンカン!」
4メートルにはなろうかという巨人の化け物、醜鬼が振り回す巨大な拳をなんとか地面を転がって交わし、起き上がる。
僕は今、醜鬼というこの異世界日本に存在する怪物から逃げ回っている最中だ。
そしてその最中で空から突然紙飛行機で降ってきたきしめん頭からの手紙を見て、今送ることかよとキレ、八つ当たりで走りながらその紙を破り捨てた。
「ブラント、化物は!?」
「頭が高くて見失っておるようだ。木偶の坊であるな、クハハハ! 見せてやれ盟友よ、ライドである!」
「待ってそんな余裕ないよ、逃げます!」
鞄から顔を出して後ろを見張ってくれているブラントに、醜鬼とかいう化物の様子を尋ねる。
どうやら醜鬼は僕を潰そうとして空振りしたさっきの一撃で起きた砂煙で見失ったらしく、辺りをキョロキョロしているという。
その隙にライドを使えとか言ってきたけど、正直そんな余裕ない。それにライドは結構目立つから、見つかっちゃう。今のうちに逃げたほうがいいと僕は判断します。
それに、この世界には魔防隊とかいう人たちがいるみたいだから、醜鬼という化物は専門家である魔防隊という人たちに任せたい。
そもそもこっちの異世界日本に来たのは星を救うための召喚ではなく、きしめん頭の手違いによるものだ。つまり僕はこの世界のよそ者も同然なので、この異世界日本の問題は僕の領分じゃないし、この世界の人たちが勇者に救いを求めているとは思えない。
醜鬼とかいう化物が何なのか僕にはわからないし、たとえ人に危害を加える存在だとしても今追いかけてきている個体が人を殺したとは限らないし、よそ者の僕が勝手に殺生するのはどうかと思うから、逃げられるなら逃げる。
僕はあまりこの異世界日本に干渉したくない。
それに、異世界日本の人たちが味方とは限らないし。ライドやコールの力を使ったとき、その存在を知られたらどんな目に遭うかわからないからね。そういう経験は向こうの世界でたっぷりしてきたから。
というわけで、逃げます。
こそこそ逃げます。無様でもいいし!
逃げるのも立派な戦略だ。おかげで僕の背中には逃げ傷ができたけど、最終的に勝てば関係なかったから!
「ポートちゃん、逃げる気か? あんなオーガの二番煎じのような化物ごとき──」
「静かにしてよ!」
──グゴォォオオオオ!!
「バレたじゃん!」
「どちらかというとポートちゃんの方が騒いでいた気がするのは我の気のせいであるか……?」
僕が逃げを選択したら、逃げるのは嫌だというブラントが騒ぎ出して、その声を聞きつけた醜鬼にバレてしまった。
咆哮を上げて追跡してくる醜鬼から、ただひたすら走って逃げる。
「ポートちゃん、爪が来るぞ!」
「うひゃい!?」
醜鬼は大きいけど動きが遅い。
……と思ったけど、意外と速い。割と簡単に追いつかれた。
振るわれる爪を避けられるのは、異世界で培った戦闘経験とブラントが後ろを見てくれるからタイミングを合わせられるからで、ライドしていない今の無力な僕では一撃でひき肉にされるの必至である。
「怖い怖い怖い怖い!」
「ポートちゃん、ライドだ!」
「きしめん頭のせいで前口上とか色々必要なことあるの知ってるよね!? あいつどう見ても邪教の連中みたいに律儀にこっちの準備待ってくれるようなやつじゃないよ!」
「だが逃げきれぬぞ!」
確かに、クレイのユニットの力を借りればあの醜鬼を倒せるかもしれない。実際、非力なただの人間の僕にとっては恐ろしい存在でも、クレイのみんなの力を借りれば苦戦するほどそんなに強そうには見えないから。
でも、クレイのユニットを僕自身に憑依させてその力を借りるライドには致命的な欠陥がある。
きしめん頭はなにをトチ狂ったのか、ライドに関してはカードをセットしてユニットに呼びかけるための前口上をしなければライドを発動できないというふざけている仕様を仕掛けていた。
おかげで前口上とかの準備をしなければライドができず、そしてそのライドをしなければ仲間となるユニットを召喚するコールも使えないため、面倒な準備をしなければライドをできない僕は無力な人間なのだ。
邪教の連中は律儀に僕の前口上をはじめとする諸々の準備を「なにをする気だ!?」とか「面白い」とか言いながら律儀に待ってくれたから問題なくライドできたけど、この醜鬼はそういうの一切聞いてくれなさそうである。
まあ、こっちが普通なんだろうけどさ!
立ち止まれば即ひき肉なので、ライドする余裕なんてない。
逃げ切れるまで必死に逃げるしかないけど、醜鬼は学習したのか爪で地面をえぐってもしっかりと視線を落として僕を目で追いかけてくるので最初の幸運の再来はなかった。
「ライドしなければ息がきれるであろう! ポートちゃんは今非力で無力な人間なのだぞ!」
「分かってる、けど! そんな余裕ないんだってば!」
「ポートちゃん、頭をさげるのだ!」
「危なッ!?」
ブラントの合図に合わせて、その場に転がるように頭をさげる。
直後に横に振るわれた醜鬼の爪が、さっきまで僕の上半身のあった場所をすり抜けていった。
「──って、こけてる場合じゃない!」
すぐに立ち上がって、醜鬼の股の間をくぐり抜けるように走る。
しかし醜鬼はしっかりと僕を目で追っており、方向転換して追いかけてきた。
「出口はどこなの!?」
「右の気がするぞ!」
「信じる!」
ブラントの勘を信じて、右に曲がる。
直後に方向転換してから一瞬立ち止まったと思った醜鬼が跳躍してきた。
あと少しでも右に走り出すのが遅ければ、あの巨体によってペシャンコになっていたのは間違えない。
「ブラントありがと!」
「礼はヤツを振り切ってからにせよ!」
「あいさー!」
巨体のくせにすごいジャンプをしてきた醜鬼から逃げる。
その背中に、醜鬼が迫り爪を振るってくる。
「来るぞ!」
ブラントの合図に合わせて横に転がる僕。
その横を地面をえぐるように後ろから振り回されてきた爪が通過し、三条の傷を地面につけた。
「僕ってひょっとしてついてないのかなぁ!?」
「トンチンカンに選ばれて勇者をやらされた上に元の世界に帰れないのだから運の悪さは間違えない」
「あのきしめん頭ァァアアア!」
己の運の悪さをきしめん頭にぶつけ、ブラントを入れたカバンを背負って出口の見えない荒野を醜鬼から逃げながら走る。
すると、さらに不運なことが。
出口ではなく、僕を挟み撃ちにするように3メートルくらいの後ろから追いかけてくる醜鬼よりもひとまわり小柄ながら数がたくさんいる醜鬼の群れがやってきた。
「おかわりが来た!?」
「ライドする他ない! 何とかするのだ!」
たしかに、こうなってはもう逃げきれそうにない。
一か八かでライドを試してみる。
「──ッ!」
横っ跳びで後ろから来た巨大な醜鬼の攻撃を回避して地面を転がりながら、ブラントが鞄から取り出してくれたカードを受け取る。
僕を見失って辺りを見回している巨大な醜鬼の隙をついて、前からきている醜鬼の群れが来る前に、ライドの準備をする。
クレイのユニットへ呼びかけるようにカードを掲げ、前口上を叫ぶ。
「スタンドアップ──って、やっぱり気づかれたぁ!?」
しかし、声を上げたことですぐに見失っていた醜鬼にばれた。
すかさず鋭い爪を持つ腕を振り上げてくる。
それをカードから手を離さないように転がって回避して、醜鬼の股下をくぐり抜けてから続きを急ぐ。
「急げ!」
「我、先導者、朱霧 ミナト! 絆に応え、来れクレイの──危ない!? 来れクレイの友、グランブルー海賊団!」
『今行くぜ、
前口上は間に合った。
ライドは成功し、光ったカードが僕の体に取り込まれ、不気味な空の下に広がる荒野に閃光が通り抜ける。
それを受けた醜鬼たちは怯み、攻撃の手が止まる。
そして、光が収まった時。
そこにはユニットをライドさせ戦闘態勢を整えたミナトの姿があった。
「ライド! キャプテン・ナイトキッド!」
服装もガラリと変わり、羽根つきのドクロマークが描かれた海賊ハットに青い海賊装束に身を包んでいる。
クレイに存在するクランの一つ、グランブルー海賊団の力を借り、そのユニットの一員である海賊団船長の息子をライドさせた姿。
「悪いけど、ここからは僕も反撃させてもらうよ」
腰の直剣を抜刀し、その切っ先をこちらに走ってくる醜鬼たちに向けながら、かっこつけて言う。
痛いセリフだけど、醜鬼くらいしかいないなら大丈夫。
それに、ヴァンガードファイターとして本物のユニットがライドしている中でこういうことをするのはやはりロマンだから……!
さて、そんなことをしている間にも醜鬼は接近している。
人の言葉をやはり理解できないみたいだけど、一瞬の変身を果たしてもためらうような知性すらもないみたい。
「盟友よ、その絆をオーガもどき風情に存分に見せてやれ!」
「任せろ盟友!」
ブラントの声を受けて、さっきまで逃げ回っていた醜鬼を相手に剣を構え、逃げの一手から一転、かかってこい言わんばかりの構えをとる。
到底その体格差を見れば対抗しようがない化物が相手だが、非力な人間だった先ほどまでの僕と、クレイのユニットの力を借りた今の僕は違う。
ブラントの声の後押しを受けて、振り下ろされた巨大な腕に対して僕は剣をぶつけた。