異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
月山大井沢事件──
山形県月山の麓にて発生したクナドから出現した数十体の醜鬼により数百人が犠牲となり、特に大井沢の村ではたった1人の子供を除き当時その地に住んでいた人々が全滅するという大きな被害をもたらした魔都災害である。
その大井沢の村の生き残りだった少女──
そしてかつて醜鬼によって故郷を滅ぼされた少女はいま、長年追い求めていた仇である特殊個体の醜鬼である“一本角”と対峙することとなった。
京香が仇である一本角と対峙することとなった経緯だが、京香の奴隷──
6年前、青羽は魔都に迷い込み行方不明となった。
当初は死んでしまったと思われていたが、彼女は魔都にて桃を摂取した際に人型醜鬼と呼ばれる存在になってしまった。
この人型醜鬼に関しては現時点では情報が少なく発生原因など多くが解明されていないが、魔都で桃を摂取した場合に魔都に存在する瘴気によって半人半魔のような存在になってしまうからと推定されている。
人型醜鬼の存在は公にはなっていない。
確認された多くの人型醜鬼は魔都に関する研究機関である陰陽寮にて研究対象とされ捕獲され、監禁され研究材料となるからだ。
青羽は陰陽寮から逃げ出した人型醜鬼たちと出会い、彼女達を束ねる存在となっていまだに陰陽寮に囚われている仲間達の救出を目論んでいた。
そのため彼女達は一本角などの魔都で遭遇し力で屈服させることに成功した醜鬼を使役し、陰陽寮への襲撃を計画していた。
そして青羽の弟である優希は、魔都災害によって魔都に迷い込んだ際に京香に命を救われる。
その際、醜鬼の群れを撃退するために京香と主従の契約を結び奴隷となった。
京香の能力は契約を結んだ相手との間に主人と奴隷の主従関係を作り、そして奴隷となった存在の生命体の力を引き出し使役するというもの。
こうして京香の奴隷となった優希は、魔防隊七番組寮の管理人という形で正規の人員ではないが魔防隊に加わることとなり、平穏な日常を送るはずだった人生が一変して主人である京香の奴隷として醜鬼と戦う日々に足を踏み入れることとなった。
こうして魔防隊に従う弟と、魔防隊と敵対する姉という敵味方に分かれた姉弟は、魔都で敵対する立場として再会することとなる。
弟を愛する青羽は優希が無理矢理魔防隊に従わされている、あるいは騙されていると考え、仲間達の協力を得て優希を誘拐──彼女達にしてみれば奪還した。
一方優希を拐われた京香達は魔防隊六番組に協力を依頼し、居場所を突き止め、人型醜鬼達の拠点へと攻め込んできたのである。
攻め込んできた魔防隊を迎え撃つ青羽たちだが、対魔都災害のエキスパート達である魔防隊には敵わず青羽以外は敗北。戦力をすり減らされ、追い詰められていた。
こうして一本角、そして青羽と対峙することとなった京香。
優希の姉を殺すことを躊躇った隙をつき六番組組長の
優希の奪還を果たした京香はこれ以上刃を交える理由はないと降伏を促すが、青羽は拒否。
戦闘が再開するかもしれないと思われた矢先、戦場となっていた魔都の外れにある人型醜鬼達の隠れ里の洞窟の天井が破壊された。
崩れた天井から降り立つのは、山伏姿のリザードマンと称するのが適切であろう赤い鱗に肉体を覆われた異形の怪物。
人型醜鬼とも異なる、スレイブ形態の優希のような、二足歩行であること以外が人間からかけ離れた容姿をした、3メートルはあるだろう巨大な醜鬼──否、醜鬼とは明らかに纏う気が異なる怪物だった。
「何、あいつ……?」
青羽たちも、この異形の登場に困惑している。
その反応から、人型醜鬼の仲間でないらしい。
天井を崩しての侵入というかたちで、魔防隊と人型醜鬼たちの戦いを中断させる登場をした異形は、縦長の瞳孔を宿す目で乱入者である己を警戒して見上げる周囲の人間たちを一度見渡す。
「──彼奴で良いか」
「なん────ッ!?」
「ココ!」
直後にその巨体に見合わない瞬間移動と見間違う程の速さで移動し、距離を詰めた先にいたココの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。
魔防隊との戦いの疲労があったとはいえ、青羽も波音も、そしてココ自身も全く対応できなかった。
地面に蜘蛛の巣状のヒビを走らせ岩に顔を半分埋めてしまうほど強烈な叩きつけの奇襲攻撃は、命こそ無事だったものの額と鼻から血を流した状態となったココは意識を失う。
戦闘訓練など受けていない人間が魔防隊員と渡り合える程の力を得られるタフな人型醜鬼が何もできずに戦闘不能に追い込まれたこと、何より正体は不明だが明確に自分たちの仲間に対して敵対と攻撃を加えたことから、青羽と波音はすぐにこの異形を脅威であり敵とみなし標的を切り替えた。
「ココに何すんのよ! 鬼童丸、熊童子!」
「その手を離しなさい!」
人型醜鬼と彼女たちが従える特殊個体の醜鬼が異形を仕留めるべく四方より襲いかかる。
「……ふん」
対する異形はココを捕らえたままその場から動くことなく、もう片方の手に持つ金剛杖を地面に叩きつけた。
その直後、動作は軽く打ちつけた程度に見える杖の叩きつけられた地面がまるで爆発するかのような破壊を起こし、そこから発生した衝撃波が地面だけにとどまらず洞窟全体にヒビを走らせる。
「まずい──」
「ひま──」
「京香さ──」
「ちょっ──」
音が消えると言う表現が合うほどの衝撃。
それは距離があったことで僅かにその衝撃波が届くのが遅くなった京香と優希、身の危険を感じ負傷した体に鞭打って能力を駆使し2人の元に転移し衝撃波から守った天花を除く全員を残らず吹き飛ばし、たったの一撃で戦闘不能に追い込んだ。
衝撃波に思わず瞑った目を開いた時、優希の目に飛び込んだ光景はボロボロになった洞窟の中で先ほどまで自分を助けるために来てくれていた仲間たち、その仲間たちと戦っていた人型醜鬼たちの倒れ伏す姿だった。
「日万凛……! 朱々!」
「姉さん!」
最も距離が近かった熊童子は体の半分が消し飛ばされ、鬼童丸は洞窟の壁に打ち付けられ、東姉妹は服が破け地面に転がり動かなくなり、サハラと朱々はとっさに体を守るために構えたのだろう腕が爛れ膝はおかしな方向に曲がった状態で吹き飛ばされていた。
そして半分地面に潜ろうとしていた波音はココと同じくボロボロの状態で意識を失い異形に捕まっており、ただ1人まともに受けながらも意識を残した青羽が立ち上がれずともその足首を掴んでいた。
「仲間を……離せ……!」
「…………」
人型醜鬼を抱える異形は、己の足を掴む青羽を寂しげな目で見下ろす。
「惜しいな……我が一撃を耐える強者よ。お互いしがらみなく全力で死合う舞台があれば良かったが……」
足を掴む青羽に、異形は尾を振り上げる。
「やめろ!」
優希がとっさに叫ぶが、異形はそれで手を止めるはずもなく。
尾を振り回し、青羽を吹き飛ばした。
「姉さん!」
「あぐっ……!」
ボールのように飛ばされた青羽は地面に何度か体を打ちつけると、ヒビ割れた壁にぶつかり止まる。
「あいつ……!」
仲間と姉に対する仕打ちに、異形へ怒りを向ける優希。
怒る奴隷の感情を察した京香が、落ち着けと優希の前に手を出す。
「怒りで冷静さを見失うな」
「──ッ!」
「私とお前で奴を屈服させる。いけるな?」
「はい!」
主人の声に奴隷が冷静さを取り戻す。
突然の乱入と破壊、そして一方的な攻撃。
目まぐるしく移り変わる状況、正体もわからない異形。
しかし倒すべき敵であることは明白であり、そう断じるには十分なほど大事な人たちを傷つけられていた。
自由の身となった優希が京香の手に触れる。
直後その体は人間のものから魔都精兵のスレイブへと変化した。
鎖を手に取り、もう片方の手に刀を携え、精兵は奴隷に乗る。
「屈服の時間──何ッ!?」
そして異形へ斬りかかろうとしたその時、2人の前に吹き飛ばされていたはずの鬼童丸がそれを阻むように飛び込んできた。
「邪魔をするな!」
「やーだね!」
驚いたものの、青羽の騎獣に堕ちたとはいえ所詮は醜鬼故に構わず鬼童丸を切り捨てて進もうとした京香と優希だったが、鬼童丸は優希の拳を掌で受け止め京香の刀は首を横90度に回して牙を持って受け止めた。
「こいつ──」
「お前らの相手はそこのトカゲ野郎にはやらねえよ」
「待て、貴様……一本角ではないな!」
鬼童丸が喋った。
刀と拳を止められたとともに、醜鬼が喋るという事態に衝撃を受ける2人だが、即座にその声が聞き覚えのあるものだと思い至る。
鬼童丸から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。
それは以前、六番組との合同訓練にて襲来した謎の男の口から発せられた声と同じものだったのである。
「思い出したか、魔防隊! ククク……さあリベンジといこうか!」
「
立ち塞がった鬼童丸──正確には鬼童丸を乗っとる己の同胞が京香たちが戦いを始めた姿に、呆れるような声を発する異形。
赤いリザードマン──
「廃れ者──否、我が剛撃を耐えし強者よ。貴様の同胞は八雷神が1柱たるこの身──火彗が預かる」
「ふざけるな……! 私の仲間を、返せ……!」
「己の道理を通したくば力を示せ。此方に挑む時を待つぞ」
「待て……!」
火彗は青羽にそう言い残すと、彼女の仲間2人を抱えたまま洞窟に開いた穴から跳躍にて立ち去る。
残された青羽は手を伸ばすが届かず、消耗し追うこともできないままその場に倒れた。
「ココ……波音……ごめん……」
火彗と連れ去られた仲間を見失った彼女の目は、弟の方に動く。
「優希……」
突然制御を失った鬼童丸。
否、それはすでに彼女の知る鬼童丸ではない。
何かが鬼童丸に入り込み、その魂を取り込み肉体を乗っ取っていた。
何かはわからない。
だが、それが乗っ取った鬼童丸は彼女の知る騎獣として駆使していたかつてのものとは異なる存在になっていた。
「優希……」
せめて弟だけでも……
助けに入りたいが、もはや体が動かない。
ひと時の休息が必要であり、その間彼女は愛する家族が何者かに乗っ取られた強力な醜鬼と戦う姿を見ていることしかできなかった。