異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

21 / 49
時系列は第43話『胎動』のところにあたります。


幕間 八雷神

 

 魔都某所──

 

 魔防隊が把握していない魔都のとある地下空間に、遺跡のような場所がある。

 そこにどこからともなく現れた黒いモヤが集まり、一つの塊となると、そこから黒装束に身を包む人型の影という表現が適切な、気体のような不確かな輪郭のモヤの中に口代わりとなる白く光る空洞がある“影”を形成した。

 

「かあああぁぁぁぁ! 行けるかと思ったが、やっぱり雑魚はダメだ。人間なんぞに怒りを覚えるなんて、いやはやひっさしぶりの体験だったわ」

 

 影は遺跡の中を歩くと、近くにあった石を削り作ったような長椅子に座り、背もたれに両腕を置いて体重を預けると、遺跡内に声を響かせる。

 

 影はとある目的のものを入手するために魔都の外れにある洞窟に向かい、そこで目的のものを入手したが、障害となった人間達と一戦交えてきたのである。

 影の特有の能力により借り物の肉体で戦闘を行なったため全力とは程遠いものだったとはいえ、影は借りた肉体の全力を出させ障害となった人間を本気で殺すつもりで戦った。

 

 しかし、結果はその人間達に借り物の肉体を完膚なきまでに破壊され敗北するという屈辱的なもので終わった。

 

「魔防隊組長、ねえ……あのテレポート女もそうだったが、やはり人間どもの中にも頭角を表すのってのはいるもんだな。ククク……そうじゃないと面白くない」

 

 影は以前にも他の肉体を使って、障害となる人間ども──自らを魔防隊と称する者たちに襲撃を仕掛けたことがある。

 その際にも使った肉体を完全に破壊され敗北を喫した。

 

 しかし、その際はあくまで様子見としての戦闘。

 今回は最低でも2人は殺すつもりでやった戦闘だが、それでも負けたのである。

 屈辱を受け、それを晴らすために必ず手ずから殺すと奴らを指名し宣戦布告を叩きつけて撤退することとなったが、多少頭が冷えた現状ではむしろそのくらい強くないと面白みがないと愉悦すら感じていた。

 

羽前(うぜん)京香(きょうか)和倉(わくら)優希(ゆうき)、か……」

 

 半端者が“鬼童丸(きどうまる)”と名付け使役していた、巨大に発達したツノを持つ兜頭の特殊個体醜鬼。

 ただ暴れさせるだけではつまらないとわざわざ残りその特殊個体を乗っ取り自ら魔防隊と相対したのは、最初から勝つつもりなどなかった偵察目的とはいえ前回敗北を喫したテレポート能力を駆使する魔防隊組長に対する意趣返しもあった。

 しかし、あの騎獣──否、奴隷を駆使する魔防隊組長は事前の偵察などから見ていた影の想定を上回る強さを発揮し、鬼童丸を駆使する影を正面から打ち破ってみせた。

 

 その敗北を受け、影には強い執着心が生まれた。

 

 あの半端者どものリーダー格──鬼童丸を従えていた人型醜鬼の女は先に唾つけた同輩に譲ってもいい。影にとって人型醜鬼は餌が必要な後輩のためであり、それがなければどうでもいい存在にすぎない。

 

 だが、あの2人。

 影の駆使した特殊個体の醜鬼を相手に押し勝ち、切り刻み、殺すつもりが逆にせっかくの肉体を完膚なきまでに破壊してくれたあの主従の人間2人だけは他の同輩に譲るつもりはない。

 自らの手で影にとっての蜜の味である悲哀と絶望を与えてどん底に突き落とし、そしてその魂魄を須く破壊する。破壊したくて、殺したくてたまらなくなっていた。

 

「半端者はあのトカゲ頭と好きにすればいいが、奴らは俺の獲物だ。この2人だけは他には絶対譲らねえ。ククク……クヒヒヒヒ……!」

 

 影の中にある白い光が、笑みを浮かべるかのように三日月型となり、遺跡の中に笑い声が反響する。

 愉快げな、しかし苛立ちも混じっている、憎しみをぶつける相手を己の脳内で自由に扱っている光景を夢想する、暗い喜びと怒りが渦巻く感情から発せられる笑い声が。

 

「……あ?」

 

 しばらく1人で笑っていた影だが、何かを察知したのか笑い声を止め入口の方に目があるだろう場所を向けた。

 

「誰だ? ……つっても、答えは一つだよな」

 

 部屋に入り接近してきた気配を察した影が笑いを止めると、遺跡の中に新たな人影が姿を見せた。

 

「……負けたのか、無黒(むくろ)

 

「肉体が弱過ぎただけだ、マジでやるなら人間風情が神に勝てるわけねえんだよ。喧嘩売ってんのか土竜(もぐら)

 

 影のことを“無黒”と呼び、部屋に入ってきた新たな人影。

 無黒が“土竜”と呼んだその人影は、白い軍服に身を包む10代半ばほどの少女の姿をしている。

 

 一目見ればミリオタのコスプレ少女という印象を受けるだろうその人物──土竜は、しかし人間とは明らかに異なる箇所があった。

 まず側頭部には帽子を支えるようにヤギのようなトグロのように丸を描いて伸びる2本のツノが伸びており、また目は猫のように白眼の部位が緑色に染まり中心にある瞳孔は縦長となっているのである。

 

 土竜は人型の黒い影としか表現のしようがない無黒に驚くこともなく隣の椅子に座ると、普段は見せない無黒の感情をむき出しにした様子から人間達に再度の敗北を喫したことを察する。

 悲哀も同情も軽蔑もない、淡々とした声色で事実確認をする土竜だが、改めてこの同輩から負けたことを指摘された無黒は苛立ちを隠そうともしない声で今回駆使した肉体が弱かった所為だと反論してきた。

 

 人型を模しているが、人からかけ離れた無黒の目らしき二つの光と口しかない顔。

 しかしながらその目と不機嫌さを隠そうともしない口角の下がる口、そして同輩に向けるものではない怒気と殺意が込められた声が、無黒の不機嫌さを物語っている。

 

 暗に“これ以上挑発するような物言いをするならこの場でお前を殺す”と警告している無黒に、一方でこちらも同輩に向けていいものではない労いも軽蔑もせず興味のひとかけらもないかのような無機質な目を向ける土竜は「そうか」とだけ返すと、早々に話題を変え無黒を訪ねてきた本来の要件を口にした。

 

「モグラからは報告だけ。人型2匹で龐咲(ほうさく)が孵った。これでアイツを除けば残り1柱まで来ている」

 

「へー、たった2匹で孵ったのかあの雑種。餌でチマチマ強くなることしかできねえ雑魚のくせに、随分と低燃費だな」

 

 今回魔防隊と交戦することとなったきっかけである、人型醜鬼と呼ばれる存在の回収任務。

 今回回収できた2人の人型醜鬼の末路と、その成果により新たな後輩が無事に孵化したということを土竜から聞いた無黒は、話題が変わったこともあり冷静さを取り戻す。

 とはいえその後輩──2人が“龐咲”と呼ぶ存在には大して興味がない様子であり、新たな後輩の生誕を聞いても祝う気などなくむしろ足手纏いが増えるなどでもいうかのような軽蔑の色が滲んでいた。

 

「卵だったら餌の世話くらいしてやるが、孵ったなら雑魚でも同輩、我らが八雷神の1柱として扱ってやるさ。つっても2匹じゃたかがしれてる雑魚のままだがな」

 

「後天的には化ける。餌によって新たな能力を獲得し成長する、それはモグラたちにはない龐咲だけの特権」

 

「雑種がどれだけ雑魚食っていくら雑魚の能力かき集めても所詮、雑魚は雑魚のままだろ」

 

 新たな後輩を蔑む無黒に、これまで淡白で無感情な声色だった土竜が初めて不機嫌な様子を見せた。

 

 一切の期待をしていない無黒と異なり、土竜の方は龐咲に期待を寄せている。

 自らを八雷神と称する無黒や土竜たちの中で、龐咲は唯一餌が必要な存在である。

 龐咲は人型醜鬼などの餌を摂取することにより、対象が獲得している能力や知識・経験を己のものにでき、成長することができる。

 この特殊な性質はどこまでも強くなれる可能性を秘めており、いずれ最弱の八雷神から最強に至る道もあり得る故に、いくら成長しようと雑魚のままと蔑む無黒に対して土竜は龐咲に期待をしていた。

 

 その期待する後輩をこうまで軽蔑されては、同輩といえどいい感情は持てない。

 今度は土竜の方が無黒に対し怒りを込めた声で“それ以上後輩を侮辱するなら許さない”と警告してきた。

 

「器を言い訳にしようと、無黒は人間に2度も負けている。龐咲を悪様に言う資格はない」

 

「殺生もろくにできないやつがなんかほざいているな。そんなにあの雑種が可愛いなら、己を餌にしてあげたらどうだ? 多少はマシになるかもな」

 

 しかしその警告を受けても、無黒はさらに挑発するように龐咲だけでなく、土竜に対しても侮蔑を飛ばした。

 

 無黒がテレポート女と称する魔防隊組長を相手にして最初の敗北を喫することとなった日よりも前、土竜も魔防隊に接触し交戦したことがある。

 その際は深追いしてきた三番組の隊員たちを倒し、入院が必要な大怪我を負わせていたが、魔防隊の戦力調査が目的だったからと命まではとらなかった。

 無黒はその甘い決断を出して、命を取らないような土竜なんぞ龐咲の餌になった方がマシになると言ったのである。

 

「それを言うなら、2度も負けた分際で言い訳を垂れ流す無黒が喰われればいい。同輩を悪様に言う暇があるならば、魔防隊員の数人打倒すべき」

 

「──喧嘩売ってるわけだな、土竜。コロす」

 

 そんな侮辱を受けた土竜だが、激昂することなく冷静に切り返し、逆に無黒の神経を逆撫でしてきた。

 それを受けた無黒は我慢の限界だと、土竜に隠すことのない殺気をぶつけ、隣に座るその小柄な体の中心目掛けて影の腕を伸ばし貫こうとする。

 

「──止めぬか、見苦しい」

 

 だが、その影の腕は土竜に届く前に横から伸びてきた鱗に覆われる赤い腕によって掴み取られ止められた。

 

「おい邪魔するな。殺されてえのかトカゲ頭?」

 

 土竜への攻撃を横から止められたことに、無黒が苛立ちを隠すことなく目と口で影の腕を横から止めた同輩に対して向ける。

 その苛立ちを向けた先には、無黒に先んじて捕獲しそして龐咲の餌となった2人の人型醜鬼を運びこのアジトに戻っていた八雷神を称する1柱である火彗(ひすい)の姿があった。

 

 火彗は無黒が“トカゲ頭”と称するように、さながらリザードマンのような二足歩行するトカゲと称するのが正しいだろう姿をしている。

 赤い鱗に覆われた身体の上を山伏風の装束で包み、手には金剛杖を持ち、背には笈を背負う姿は、リザードマンの修行僧とでも称するべきだろうか。

 トカゲのような容姿だが、その肉体は太い腕や首などその肉体は装束の上からでもわかるほど筋骨隆々としたものを持っており、身長は土竜の倍はあるだろう3メートルを超える巨躯の持ち主である。

 

「いい加減にしろトカゲ頭。この気色悪い手を離せ」

 

「肉体のない影法師風情が此方を如何にして殺すと? 控えよ、面汚しが!」

 

「……ケッ」

 

 トカゲの頭の上に頭巾(ときん)をかぶる火彗は、自身の胸ほどの位置にある目で離さなければお前も攻撃すると怒りを向ける無黒を見下ろしながら、その殺気に怯むことなく強い口調で制する。

 それを受けた無黒は今の肉体がない己の現状に冷静さを取り戻したのか、伸ばした影の腕を引き下げた。

 

「まあ、龐咲が餌食って孵ったならもうそれでいい。次の肉体でも探してくるか」

 

 火彗が仲裁に入ったことで一触即発の状況は解消される。

 無黒は不満を残しつつも、肉体のない状態ではどうしようもないと下がり、新たな肉体を探すと言い残して去っていった。

 

「ふん……」

 

「火彗、手間をかけた」

 

 無黒が立ち去るのを確認した火彗は、土竜に何も声をかけずその場をさろうとする。

 その背に土竜が礼を言うと、火彗は一度足を止めるも、やはり何も言わず振り向くこともせずに去っていった。

 

「…………」

 

 残された土竜は、天井の岩壁を見上げる。

 爬虫類を彷彿させる縦長の瞳孔にはただの岩壁だけでなく、その中にある粒子、そしてその先にある魔都の暗い空が広がっている景色が映されていた。

 

 

 

 

 

 人型醜鬼、そして八雷神。

 五番組が北海道で立て続けに発生する大規模な魔都災害や、魔都の資源を狙うテロリストと思われていた異世界人の真実を知るなどの事態に遭いその対応をしていた頃。

 別の場所──魔防隊六番組と七番組はそれ以上の事態に遭遇していた。

 

 ただし、彼女たちがことの些細を知ることとなるのは、この後開催されることとなる魔防隊組長会議の場となる。




この世界の八雷神ですが、全員オリキャラとなってます。

オリキャラ(八雷神)

無黒(むくろ)
八雷神の黒雷神担当。紫黒の代役。本来の容姿は人型の黒いモヤ。スキンヘッドの黒人男に憑依し登場し、六番組と七番組の合同訓練の場に乱入。天花と戦うが瞬間移動に振り回されて隙をつかれ空間ごと切り裂かれ敗北。隠れ里では火彗と共に乱入し、ココと波音の意識を奪って拉致。さらには鬼童丸に憑依して乗っ取るも、京香&優希と戦い敗北。そのことから2人に強い執着を抱くストーカーとなる。
 
土竜(もぐら)
八雷神の土雷神担当。壌竜の代役。外見は海軍の軍服を彷彿とさせる白い服に身を包む小柄な少女。側頭部にヤギみたいな渦を巻いて伸びる2本のツノがある。他の八雷神同様に瞳は蛇目。一人称はモグラで、口数は少なく感情の起伏も乏しい無口キャラ。命を奪う行為に抵抗を抱いており、仕事ならば割り切るが無用な殺生は極力避けるなど温厚な性格をしている。この世界にて最初に魔防隊に接触してきた八雷神であり、三番組を襲撃して隊員たちを病院送りにした。
 
火彗(ひすい)
八雷神の火雷神担当。雷煉の代役。外見は全身を赤い鱗に覆われた二足歩行の爬虫類、もとい山伏装束を着たリザードマンという表現が最も似合う異形。一人称は此方(こなた)。熱い性格で義理や約定を重んじ誇りを持っての戦いを好む傾向があり、強者には敬意を表すなど武人気質な面がある。一方で卑劣な手段を駆使する者には敵味方問わず激怒するので無黒とは相性最悪。無黒と共に隠れ里に襲来し、六・七番組と人型醜鬼や特殊醜鬼たちを戦闘不能に追い込んだ。

龐咲(ほうさく)
八雷神の咲雷神担当。空折の代役。食らった他者の能力を吸収し宿すことができる能力を持つ。何も食べていない状態では二本足が生えた卵みたいな外見をしており、捕食した相手の姿を模すことが可能。素の強さでは八雷神最弱。ただし喰らえば喰らうほど強くなるので後天的にどこまでも強くなれる素質を持つ。なお、喰らった相手の記憶や人格も継承するため、捕食を繰り返す毎に口調や性格が変化する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。