異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
20話
夜雲さんに自分が異世界人であることを話し、予想外なことに信じてもらった上に病院に隔離されるようなこともなく、魔防隊五番組寮の管理人にならないかと勧誘まで受けてしまった日から1週間。
僕は新聞配達とお菓子工場のアルバイトを辞めて、山形県に存在するクナドの先に広がる世界、魔都にて魔防隊五番組寮の管理人として正式に就職することとなりました。
醜鬼の出現が絶えない魔都では、結界に守られているとしてもその恐怖と数々の労務から仕事が長続きせず、魔防隊寮の管理人というのはあまり人気がない仕事だそうです。
危険手当もあり給料も相応の仕事なのですが、結界があるとはいえやはり危険なことに変わりはなく、住み込みで魔防隊員以上に休暇を取れる機会が限られており、最前線で戦う魔防隊員たちと比べると当たり前ですが安いですし、機密情報も多い魔防隊寮にいるので色々と縛られることも多くと……不人気なのには様々な理由があるみたい。
「管理人さん、これお願い」
「醜鬼討伐お疲れ様です、サキさん。こちら予備の制服です」
「……どうも」
ある時は、五番組の隊員である
「ミナトちゃん、夜雲さんとお風呂入ろ!」
「湧いてますよ、夜雲さん。僕はまだ仕事があるので1人でどうぞ!」
「つれないな〜。そこがまたいいんだけどネ☆」
ある時は夕飯後に夜雲さんからお風呂に誘われ、セクハラを受けるのが予想できたので適当な理由をつけて拒否したり。
「ハンヴィーのガソリン、補充をお願いできる?」
「ハンヴィーって──ああ、あの大きい方の車ですね。わかりました、カイコさん。コール、“
『お呼びですか、マイシスター。……失礼しました』
「ぼ、僕のほうこそゴメン……」
「本当の兄妹みたいね」
ある時はカイコさんに頼まれて、五番組で使っている魔都の荒地も走破できる大きな車──ハンヴィーという車種らしい──のガソリンの補充を頼まれ、マスカレードの手を借りようとコールしたら間違って兄さん呼びしてしまったり。
そんな日々を送っています。
魔防隊寮の管理人の業務内容は、主に寮の管理と魔防隊員たちの日常的なサポート、そして雑用の数々。
魔防隊員の皆さんの日々の食事の提供、衣類の洗濯、建物や敷地の掃除、車両の整備や燃料の補充、日用品などの備品の補充をします。
「ミナトちゃん、申請通った〜?」
「もうしてますよ。いま返答待ちで……はい、クナドの通行許可が出ました! 親御さんがお迎えに来るそうですよ」
「さっすが、お仕事が早いね! 夜雲さん大助かりだよ!」
「組長、それあなたの仕事じゃ……」
「ミナトちゃん、夜雲さん軽く帰省したいから申請よろしくね〜」
「わかりました。半休ですか?」
「1日でお願い! 戻るのは明日かな〜。でも大丈夫、夜雲さん何かあってもすぐに帰って来れるから! 何かあったら連絡してね!」
「わかりました。有給入れておきます」
「組長、勤怠管理は本来あなたの──もういいです」
「ここも異常なしっと……あれ、サキさん? こんな時間に何かありましたか?」
「……管理人さん、何してるの?」
「寮の結界の点検ですけど……」
「……それ、本当は
「……え?」
さらには保護した魔都災害の被災者の帰還手続き、隊員の皆さんの勤怠管理、魔都災害状況や醜鬼討伐に関する報告書の作成、寮の結界の点検──って、この手の事務仕事は夜雲さんの仕事じゃないんですか!?
……何やら魔防隊員ではない管理人の仕事とは思えない事務仕事が加わっている気もしますが、クレイのみんなの力も借りたりしながらこれらの仕事をこなしています。
1人でこなすとなると潰れそうな仕事量ですけど、家事はクソガムさんに召喚される前に親に代わってやることも珍しくなかったから慣れてるし、異星に召喚されてからの旅の日々では仲間たちが戦闘バカばかりでロクなご飯がなかったから僕がほぼ一手で引き受けていたし、大人数の食事作ったりも慣れてるし、なによりクレイのみんなも快く協力してくれるので、大変ですけどなんとか回すことはできていました。
魔都側の拠点ということもあり、醜鬼も度々襲ってきますが、大抵は結界で阻まれるし、魔防隊の皆さんの前には僕では傷ひとつつけられなかった通常の醜鬼の群れ程度は軽くあしらえるので、怪我をしたりということもなく想像していたよりも危険を感じなくて済む日々を過ごしています。
銀髪オッドアイが何か仕掛けてくるかもしれないと思ってましたが、魔都側にある五番組寮で日々を過ごしているのもあるのかあの日以降接触してきていません。
現世側をいくら探し回っても見つからず途方に暮れる銀髪オッドアイを想像すると、いいストレスの解消になりました。ワハハざまあみろ。
……そして冷静になり、ムカつく奴とはいえ他人の不幸の蜜を妄想してストレス解消するなどという寂しいことをしている自分が悲しい存在に思えて虚しい気分になりました。
それから銀髪オッドアイも、あいつが召喚した衝撃波を咆哮に乗せて放ってくるデカブツ醜鬼とかも襲来することはなく、大規模な魔都災害の発生もなく、管理人になって半月ほどの日々を過ごし、新しい環境と仕事にも慣れきた頃。
魔防隊員ではない管理人が本来関わっていいものではない醜鬼討伐の報告書など魔防隊関連の事務仕事まで押し付けて任せてくるようになった夜雲さんから、数日後に組長会議というものが開催されることを聞かされました。
「組長会議、ですか?」
「うん、少し空けることになるけど、サキサキもいるしダイジョブダイジョブ。なんだったら夜雲さんの風があれば日帰りできるしネ☆」
組長会議というのは、魔防隊の各組の組長たちが集まる会議のこと。
魔都災害の対策、近頃の醜鬼の出現状況や特性、分布などの情報交換といった魔都災害や醜鬼対策関連の議題。
他には国際会議の予定に伴う魔都災害の警戒体制の確認、魔都や醜鬼を研究する陰陽寮からの魔防隊に向けた連絡事項、総組長を決める組長選挙に関する議題諸々、様々なことを9人の魔防隊組長が揃って話し合うそうです。
「そういえば夜雲さん組長でしたね」
「ミナトちゃ〜ん? それどういう意味なのかナ〜?」
最近はフリーダムなところばかり見ていたので、つい夜雲さんが組長であることを忘れてしまっていました。
つい口からこぼれた一言に、流石にそれはないよと拗ねた表情になる夜雲さん。
その表情も可愛いのですが、素直に言えば抱き付かれるのでここはスルーします。
本当にセクハラさえなければ、後事務仕事をサボる癖さえなければ、それからフリーダムなところさえなければ……そ、そういった諸々の欠点がなければ素直に尊敬できる人なんですけど。
……そう思うと問題点多いなこの人。
会議の開催場所は十番組寮、つまり魔都にて開かれるそうです。夜雲さんは魔都の中を飛んで行って直接向かうとのことで、クナドの使用申請は不要とのこと。
夜雲さんの能力ならば多少醜鬼と遭遇しても移動中に蹴散らすだろうし、あのデカブツとか出てきても問題なく対応できるでしょう。むしろ夜雲さんが抜ける五番組寮の方が不安ですが、こっちは結界も張ってあるしサキさんもいるので多分大丈夫。夜雲さんも日帰りで戻ってくるとのことなので。
一つツッコみたい所があるとすれば、本来はクナド使用に関する申請も組長の仕事であり、正規の魔防隊員ではなくただの寮の管理人にすぎない僕がやるべきことではないのですが……。
それはともかく。
今回の会議では、札幌市で発生した大規模魔都災害の件──あの新種の超大型醜鬼とそれを嗾けてきた銀髪オッドアイに関することを夜雲さんの方から改めて会議の場で報告する予定とのことです。
ただし、僕の正体に関しては伏せてくれるそうで、新しい管理人を雇ったことだけを伝えるそうです。
「ミナトちゃんのことはちゃんと隠してあげるから、単に新しい管理人雇っただけという形にするから安心してね」
「お手数をおかけします。我儘言って申し訳ありません」
「気にしないで! なんだったら夜雲さんと結婚──」
「素直に感謝で終わらせてくれませんかねえ!?」
また、五番組だけでなく三番組や六番組、七番組でも銀髪オッドアイの件に類似する新種の醜鬼や知性を持つ正体不明の存在との接触があったらしく、それらに関する議題も話し合われる予定とのことです。
「あいつみたいなのが他にもいるんですか!?」
「詳しいことは今回の組長会議で知らされるだろうけど、そっちも人間みたいだけど違う、でも醜鬼と同一とも思えない、それこそあの時ミナトちゃんが戦ってたあの少年と同類と見ていい、そんな感じのやつがね。聞いた話だと容姿がだいぶ違うからミナトちゃんを襲ったその銀髪オッドアイとかいうのとは別だと思うけどね」
「まさか、そいつらも札幌の時みたいな魔都災害を──」
「そこは安心して。三番組、六番組、七番組が接触したのは全部魔都で、現世に被害は出てないから」
どうやらあの銀髪オッドアイの他にも、あいつみたいな存在がポンポン最近になって湧いて出ているみたい。
銀髪オッドアイに狙われている僕にとっても無関係な話題ではないからと、夜雲さんは僕にそのことを話してくれました。
「ミナトちゃんも無関係じゃないし、戻ったら詳しいことを話すから」
「わかりました。お願いします」
「うん、夜雲さんにまっかせなさい!」
そう言って胸を張る夜雲さんは、やはりとても頼もしい存在で、この人が組長に選出されたことは普段のフリーダムっぷりを差し引いても十分納得できるものでした。
「じゃあ行ってくるから、みんな留守番よろしくね〜☆」
そう言い残し、夜雲さんは突風と共に窓の空へと飛び出して行きました。
────そして、蝦夷夜雲が五番組寮を離れる光景を遠くから見ている人影が一つ。
「……蝦夷夜雲の出立を確認。組長会議の情報、醜鬼操作の術の提供に基づく協力者の襲撃予定時刻に合わせ、当方も目標への威力偵察を開始」
暗い魔都の空の下、荒野に立つ人影は小柄な体躯と銀髪に、紫と緑の虹彩異色の双眸を持つ、人の形をした人ならざるもの。
「変異個体“
かつて、異世界から来た存在である異端のミナトの能力調査のために現世に醜鬼を招き寄せ、札幌市にて多数の犠牲者を出す大規模魔都災害を引き起こした存在。
「襲撃予定時刻まで、約3時間。予定時刻超過後、第一段階、魔防隊五番組寮への陽動攻撃を開始」
ミナトが銀髪オッドアイと呼ぶ存在が、四肢を持たないトカゲのような、あるいは山椒魚のような、形容し難い特殊個体の醜鬼とともに立っていた。