異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
夜雲さんが組長会議に出席するために魔防隊五番組寮を離れて、1時間後。
「……静かですね」
予想はしていたものの、1時間しか経過していないのに寮がすごく静かになったように感じます。
……まあ、僕は陰気なタイプだし、カイコさんは落ち着いているし、サキさんは口数少ないしと、夜雲さん以外は基本的に快活に喋る人たちではないので、夜雲さんがいるといないで雰囲気が大きく変わるのは当たり前と言えば当たり前ですが。
組長会議では、札幌市で発生したあの銀髪オッドアイと超大型醜鬼の件について夜雲さんが各組長の皆さんに話すとのこと。
異世界人である僕の件は隠してくれるとのことで、魔防隊にはイベント会場でおじさんを助けた謎のコスプレ女とは無関係の新しく雇った魔防隊の五番組寮の管理人としてのみ伝えてくれることになってます。
夜雲さん、普段は動物みたいに本能の赴くままゴーイングマイウェイで生きているように見えますけど、実際そういう面があるのも確かですけど、組長というだけあり機転も効くし冷静な面もあるし口もうまいところがあるので、うまく伝えてくれるでしょう。その点はすごく信頼できます。
僕が気になるのは、銀髪オッドアイに狙われていることもあり無関係ではないからと教えてくれた、他の組でも接触したという銀髪オッドアイの同類らしき知性を持ち醜鬼を駆使する人ならざるものたちのことです。
現状、そちらの方は銀髪オッドアイとは別口のようですが、だからと言って無関係であるという確証もなく、仲間の可能性もあります。
そいつらは三番組には問答無用で攻撃して怪我人を出し、自らを人間を滅ぼすもの達“八雷神”と名乗り六番組と七番組にも襲撃を仕掛けてこちらでも組長を含める複数の負傷者を出したらしいし。
そして銀髪オッドアイも僕を狙っていたみたいだけど、人間への被害など考慮しないどころかそれも狙いのうちであるかのように民間人にまで多数の被害を出した。
現状、こいつらの中で出した被害で言えば──正確には超大型醜鬼だけど──銀髪オッドアイがダントツで一番です。
どんな目的であれ、こうして市民を脅かすことに躊躇いがないということから危険な存在であるのは明白。
醜鬼を操っていたし、魔都と無関係なはずもなし。
いつ僕を見つけて襲ってきたとしてもおかしくはないです。
夜雲さんもその辺りのこと考えて管理人に勧誘してきたのかも。
銀髪オッドアイの目的が僕なら、現世より魔都の魔防隊寮で襲撃を受ける方が市民への被害も出ないし、守りやすく戦いやすい。
ある意味僕を魔防隊の管理下に取り込んだのは、銀髪オッドアイを釣る餌としての側面もあるかもしれません。
もちろん僕がこの世界にとって異端であろうと、なんの罪もない市井の人々が犠牲になるような事態を防げるなら協力できるところは協力します。異世界人でも流石にそこまで冷たい人間になるつもりはないです。これでも僕救世主だから。
今は夜雲さんが組長会議のため留守だけど、寮には結界が張ってあるし、サキさんとカイコさんもいます。
銀髪オッドアイが醜鬼を使って襲ってきたとしても、醜鬼と戦うには役立たずの僕が出る前にサキさんが片付けるだろうし、もうあいつの思い通りになることはそうそうないはず。
この半月何もなかったんだし、夜雲さんが少し留守にしただけでいきなり都合よく襲ってくることなんて流石に無いでしょうよ。
……そして口に出したわけでもないこれがフラグになるとは、この時は微塵も思ってませんでした。
夜雲さんが組長会議に出席するために出てから3時間ほど経過し、それでは夕食の準備に取り掛かろうかなと思っていた時。
五番組寮に向けて30体ほどの醜鬼の群れが接近してきました。
「サキ、迎撃準備」
「……(小さく頷く)」
「ミナトちゃんは寮の中で待機していて。結界の中なら安全だから」
「わかりました」
内訳は全て通常の醜鬼達で、あのデカブツみたいな特殊な個体や銀髪オッドアイの姿は無し。
この程度ならばサキさんだけでも殲滅可能とのことで、夜雲さんに報告する必要もなしとカイコさんは判断し、サキさんが迎撃のために結界に阻まれて寮に入り込めない醜鬼達の群れを迎撃するために出動しました。
後片付けも終わったので、魔防隊の戦う姿と醜鬼の弱点になりそうなところとか習性とかを見て学ぶためにもと、ブラントととともに僕も寮の2階に上がって窓からサキさんの戦う様子を見ることにしました。
初めての魔都ではそんな余裕なかったし、札幌では夜雲さんから逃げたしで、なんだかんだ言って魔防隊が醜鬼と戦う様子をしっかりと観れるのは今回が初めてかもしれないです。
魔防隊五番組の隊員である所山サキさんは、身体を武器に変えることができる
通常は陰陽寮という組織の方で改造されている武器でしか醜鬼を倒すことはできないのですが、サキさんの体を変化させて出している武器は桃の能力なので普通に醜鬼に有効です。
そしてこの能力はガトリング砲とかになるので、醜鬼の群れを相手にしたときには鉛玉の嵐により殲滅できるなどかなり強力な能力です。
大砲とかにもなるので、デカブツ相手にも有効。
サキさんは親が猟師だったこともあり子供の頃から銃が見慣れていることもあってこのような能力になったのかもしれないとのこと。
サキさんは能力を駆使して、結界に阻まれているせいで密集していた醜鬼の群れをガトリング砲で蹴散らして瞬く間に数を削っていきます。
鉛玉の嵐で蜂の巣になると思ってたけど、一発毎の威力も大きいので、蜂の巣どころか醜鬼の原型から壊される挽肉状態になってます。
僕はクソガムさんに召喚されて異星で戦った経験もあるのである程度グロ耐性もあるから大丈夫ですが、怪物相手とは言えちょっと慣れない人には見せられない光景かもしれないです。
「一方的であるな。もっとも、ポートちゃんも攻撃さえ奴らに通じるならばあの程度軽くこなせよう」
「どうしても醜鬼と戦わなきゃいけないって時になったら食べる覚悟はあるけど、きしめん頭に借りてる力とは違うし、元の世界にいつか帰る身で魔都の桃を食べるつもりはないよ」
サキさんが醜鬼を殲滅する光景を見て、攻撃さえ通ればクレイのみんなと共にあのくらいの無双はできると評するブラントに、醜鬼と戦えと言われているわけでもなくいずれこの世界から立ち去る予定の僕は桃を食べるつもりはないと答える。
クレイのみんなの力を借りる能力はきしめん頭からの借り物なのでちゃんと帰還すれば返す予定だからいいけど、魔都の桃はそうはいかない。帰ってから変な能力が使えたり人間離れした身体能力があるとか、過ごしにくいことこの上ないことが簡単に想像できるので。
別に醜鬼達と戦わなければいけない理由もなければ、この異世界日本には魔防隊という組織もある。僕みたいな異物がでしゃばる必要もなし、帰ってから面倒ごとになること確実な魔都の桃を食べる予定はないです。
それに例え倒せなくても抵抗する術はあるし、醜鬼から逃げることは不可能ではないので。
銀髪オッドアイについても殴る機会があればやり返したいというだけで、向こうから仕掛けてこないならこっちから手を出すつもりもないし、二度と会えなくてもそれはそれでいいかなと思ってます。
なんの罪もない民間人を躊躇なく巻き込むような外道なので、まともに話したこともないのに嫌いになるくらいにはムカつくやつだったから、むしろこっちから二度と会いたくないと突っぱねたいくらいまである。
そして年上受けしそうな顔面偏差値の高さがなおムカつく。どれだけ可愛くても綺麗でも中身が外道なら僕は好きになれません。
「奴が気に入らぬのは我も同意するが、私怨が入っておるぞ」
「可愛い顔してクールキャラか? 銀髪にオッドアイでおまけに外見ショタとかどんだけ属性てんこ盛りする気だっての。まあ中身が外道なせいで100点どころか差し引きでゼロまで行くけどね。……行くよね?」
「我に人間の美醜はわからぬが、性根が外道な輩よりはポートちゃんの方が魅力はあると思うぞ」
「ブラント、君は本当に最高の盟友だよ惚れちまうぞコノヤロー」
「寒気がする故惚れてはくれるな」
「ガハッ!? ……で、でもまあお世辞でもそういう期待持たせること言うのはやめようね、僕みたいな現実見れない陰気なやつはすぐ調子に乗ってしまうから。今まさにズバッと切られたし、ネヴァンと比較されたあの画像見て現実叩きつけられたから。あー羨ましいなぁ、ブスとかブタとかデブとか言われたことないんだろうなああいう奴らは。外見至上主義なんて滅んでしまえ!」
「やはり私怨か……どうやら、向こうは醜鬼はあらかた片付いたようである」
銀髪オッドアイのことを思い出して、ブラントしかいないことをいいことに銀髪オッドアイをはじめとする外見至上主義に対する私怨が多分に入った愚痴をこぼしていたら、サキさんが寮に襲撃を仕掛けてきた醜鬼をあらかた片付けてしまいました。
「あの中に銀髪オッドアイのミンチも一緒に入ってくれたらスカッとするところだけど……ちょっと待って、何か近づいてくる」
肉片になってる醜鬼たちみたいに銀髪オッドアイもサキさんのガトリング砲でミンチになってくれないかな、などと物騒なことを思っていると、先ほど群れ一つを殲滅したばかりだというのに新たな醜鬼の群れが寮に接近してきました。
「……ねえブラント、僕には第二波がこっちに近づいているように見えるけど気のせいかな?」
「気のせいではない。訂正しよう、片付いていなかったようだ。新手の醜鬼の群れが近づいてきている。それからさりげなく我を抱き上げるな」
「今日は大漁みたいね」
ブラントにもその光景を確認してもらい新たな群れが幻ではないことを確認していると、カイコさんが隣にきました。
当初はサキさんの支援が行えるように前線の近くにいましたが、新手の群れも今のところは通常醜鬼のみであることと、五番組寮では珍しくかなりの数の醜鬼が襲来していることから、醜鬼の群れの監視のために見晴らしのいい寮の2階に来たみたいです。
「サキ、新たな群れが接近しています。数は先ほどの倍以上。全て通常の醜鬼。結界を利用し、先ほどと同様に機銃の斉射で殲滅するように」
「……ん」
2階からは、先程サキさんが殲滅した群れの倍くらいはいる新たな群れの姿が見えます。
群れの規模とその内容を確認したカイコさんが、無線を使ってサキさんに指示を飛ばします。
ちょくちょく醜鬼の襲撃はあったけど、今回は僕が寮の管理人になってからは初めて見る規模の群れかもしれないです。流石に銀髪オッドアイが札幌で仕掛けてきた時よりは小規模だけど。
「この規模の群れはよく見る物ですか?」
「この数は二番組と七番組の持ち場では珍しく無いけど、五番組では珍しいわね。でも通常の醜鬼だけの群れなら大丈夫、安心して」
これだけの規模の群れが出てくるのは、カイコさんによると五番組の管轄では珍しいことのようです。
そしてさりげなく二番組と七番組では珍しくないとも。
鬼門と裏鬼門の方角の区画を管轄にするこの二つの組の所では特に醜鬼の発生が多いという話は聞いてますが、この数が珍しく無いとは……二つの群れを合わせると100体はいるように見えるのですが。すごいな二番組と七番組。
とはいえ数は多くても中身は通常醜鬼ばかり。
サキさんの能力は雑魚の大軍を蹴散らすのを得意とするため、この手の群れはむしろカモであり、寮の結界に阻まれて進まずにいるところを的にして蜂の巣にしています。
現状は先ほど襲ってきて殲滅された群れの二の舞になっているだけ。数が倍くらい多いので時間はかかるけど、サキさん1人でも問題なく殲滅できそうです。
「数は多いけど、特に問題ないみたいですね」
「このままいけば、ね……醜鬼は危機に陥ると集合して大型の個体を形成することもあります。それに今見える群れにはいないけど、特殊な性質を持つ個体──例えばミナトちゃんを襲ったという銀髪の人型醜鬼のような存在が出てくる可能性もあるから油断は禁物ですよ」
「それは確かに……すみません、気を引き締めます!」
「ミナトちゃんは非戦闘要員だから戦う必要ないですよ」
「確かに、僕が出しゃばっても足引っ張るだけですよね……はい、大人しくサキさんの無事を願って見守ります」
第二波の醜鬼の群れ相手にも一方的にミンチを量産していくサキさんの様子にこの調子なら問題なく勝てると思った僕に対し、カイコさんの方は何があるかわからないので油断は禁物と警戒しています。
確かに、油断した時こそ空気を読まない強敵がぽこじゃか湧いてくるというのはよくあること。それを聞き、僕の方も気を引き締めます。
……まあ、僕は非戦闘要員なので戦わないっていうか戦えないですけどね、カイコさんの言う通りで。
──そんなふうに思っていた時点で、油断していたのでしょう。
順調に醜鬼の群れをサキさんが殲滅する様子を結界の内側である寮の2階から見ていた僕たちは、その時までその存在がすぐそばにいたことに気づきませんでした。
「否定。観測対象、個体名称“朱霧ミナト”。その能力解明の為、当該観測目標の戦闘行為は不可避と通達」
「「────!?」」
結界に破損した形跡はない。
なのに、まるで瞬間移動でもしてその場に突然現れたかのように、そいつはいつの間にか背後にいました。
雪のような銀髪と、金と緑のオッドアイが目を引く、どこか神秘的で現実離れしたような男性な顔立ちの、10歳前後の小柄な体躯の少年の外見を持つ、謎の人型の醜鬼と思われる存在。
醜鬼を操り、クナドを展開し、それを駆使して札幌市で大規模な魔都災害を引き起こした存在。
その声が聞こえると共に、ほぼ同じタイミングで振り向いた僕とブラントとカイコさんの視線の先にいつの間にか立っていたのは、僕が銀髪オッドアイと呼んでいる少年の姿をした怪物でした。