異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
僕たちや銀髪オッドアイにも気づかれないように静かに来てくれたサキさん。
ブラントから銀髪オッドアイの襲来の詳細を聞き、僕たちが寮を壊す様子を見て、結界に阻まれて侵入できない醜鬼の群れを一旦放置してまで来てくれたとのこと。
(人型醜鬼に牽制を仕掛ける。すぐに離脱して)
サキさんがあらかじめ用意したと思われるメモを見せます。
僕とハスデヤが頷くと、サキさんは自身の体を武器に変える“武装小町”の能力を使い左手を機関銃に変えると、野槌と戦闘するベカの観察に夢中になっている銀髪オッドアイに銃撃の雨霰を撃ち込みました。
「────!?」
僕が今まで何しても、間抜けな姿に変えることはできても傷は一つもつけられなかった銀髪オッドアイの身体。
その身体はサキさんが変化させた左手の機関銃から至近距離で発射された無数の鉛玉により、表皮をえぐられて赤い血を飛び散らせました。
サキさんが来ていたことは全く気づいていなかったようで、僕たちと違い醜鬼にも有効な桃の能力による攻撃を受けた銀髪オッドアイは、何の感情もないと思ってしまうロボットみたいな無表情に初めて誰が見てもわかる驚愕の色を浮かべながら硝煙の中に消えました。
よほどダメージを受けたのに驚いたのか、僕とハスデヤを縛っていた脚も拘束を解いて煙の中に引っ込めました。
サキさんは油断も容赦もなく銀髪オッドアイのいる方に機関銃を撃ち続けながら、僕たちに離脱するようハンドサインを送ります。
そしてそのまま右手を散弾銃に変えて野槌の方にも銃弾を撃ち込み、ツチノコもどきを蜂の巣にしてベカにも離脱できる隙を作ってくれました。
「撤退!」
『はい!』
『もう終わり?』
この場ではもう僕たちは足手纏いにしかならないので、サキさんの指示に従い急いで離脱します。
ハスデヤと僕はサキさんが来た方から階段を使って降り、ベカは翼を使って直接二階から外へ出ました。
銃撃と爆発、野槌が暴れているだろう壁や柱が壊れる音が上から聞こえてくる中、一階から外に出て、そこからは翼を広げて飛行し置いてきた場所に急ぎます。
そこには先に駆けつけていたベカやブラントの他、治療を任せていたナレル、護衛を任せていたサウザンドレイ・ペガサス、そして意識を取り戻したカイコさんの姿がありました。
「カイコさん!」
「ミナトちゃん、無事だったのね」
『まだ痺れは残ってますから安静にする必要がありますけど、麻痺性の毒でしたから命に別状はありませんよ〜』
お互いに無事な姿を確認して、安堵する僕とカイコさん。
ナレルの見たてでは、野槌に受けた毒は麻痺性の毒で大量に摂取すれば危険だけど、今回は解毒剤を早めに使ったこともあり命の危険はなく、しばらく安静にすれば痺れも取れ後遺症なども残らなくて済むとのこと。
ナレルの診断なら信用できます。本当に良かった……。
「ブラントもありがとう。サキさんが来てくれなかったら、僕はやられてたと思う」
「我は助けを呼んだのみ、礼ならばあの娘にせよ。それから我をさりげなく抱き上げようとするな、見え見えである」
「い、いやぁ……安心したらつい……」
「油断するな。あの娘が抑えているだろうが、戦いは終わっていない」
「ごめん、わかってる」
サキさんを呼んできてくれたブラントにもお礼を言いつつ、抱きしめようとしたけど躱された上に嗜められました。
確かに、まだ戦いが終わってないのに安堵しているとか気を抜きすぎだね。反省します。
「ごめんねミナトちゃん。本来は私が守るべき立場にあるのに、あなたに無茶をさせて……」
「いえ、僕もサキさんが来てくれなかったらと思うと……まだ1人で銀髪オッドアイと戦ってくれてます」
サキさんのところに戻りたいけど、戻ったところで僕たちは足手纏い。
あの銀髪オッドアイのことだから野槌に戦闘を任せて1人で観察に洒落込んでいる可能性もあるけど、野槌に足止めさせてこっちに来る可能性もあります。
この場で止まるのは危ないけど、結界の外には醜鬼の群れもあるし、寮を離れれば僕を追ってくるかもしれない銀髪オッドアイが現世に向かったと思い込みクナドをくぐる可能性もある。
サキさんが銀髪オッドアイも抑えてくれるか、倒してくれるのが理想だけど、状況は良くないです。
「サキなら大丈夫──と言いたいところだけど、気休めね。人型醜鬼は通常の醜鬼とは桁違いの強さを持っています。三番組はたった一体に組を半壊させられたというし……」
カイコさんが見るには、サキさんがなんとかしてくれると言いたいけど、しかし人型醜鬼の強さを考えれば難しいだろうとのこと。
安心させる優しい嘘よりも、現実を隠さず言ってくれるのはむしろありがたいです。僕たちでしなければいけないことがわかるので。
サキさんでは厳しいなら、援軍を呼ぶしかありません。
本当は夜雲さんを頼りたいところですが、通信妨害がされているのか寮の敷地内ならば無線は届くものの、組長会議の開催されている十番組本部を始め各組との通信が取れないそうです。
あの銀髪オッドアイは現世にもいたし、魔防隊の通信手段を知っていたとしてもおかしくない。
そもそも寮の結界を如何なる手を使ったのか潜り抜けてきたし、援軍を呼び込めないようにする準備を整えて襲撃を仕掛けてくるくらいのことはするだろうね。あいつ、そういう嫌がらせの下準備をしっかりしてくるタイプだろうし。
なら、直接向かって援軍を呼ぶしかない。
幸い、機動力なら随一の空を飛んで醜鬼を躱せるエンジェルフェザーがいます。
「近くの組に直接飛んで援軍を頼みつつ、そこから通信で夜雲さんに状況を伝えるしかないですよね」
「意見は同じようですね。では、その役目は──」
「僕みたいな管理人には無理ですよ。カイコさんが行ってください。サウザンドレイ・ペガサスが運びます」
カイコさんと同じ結論に至ったけど、助けを呼ぶ役目に関しては意見が割れそうになりました。
そこで僕はサキさんが抑えられなかった時に足止めを買って出ようとしたカイコさんに、最近管理人になってまだほとんど魔防隊に認知されてないから信用されないことを言い訳にして、助けを呼ぶ役目をカイコさんにお願いすることにします。
「いえそれは──」
「お願いします、カイコさん。あいつの狙いはきっとこの世界の異物である僕です。だから僕がこの場を離れた時、現世に逃げたと思われればあいつが現世に向かいます。そうなったら、あの札幌の時みたいなことが起こる……」
「でも、貴女は魔防隊員ではない。私には貴女を守る義務が──」
「だから、速く行って助けを呼んでください。一分一秒でも早く、僕とサキさんを助けてくださいお願いします!」
「……そうね。今は一刻も早く、助けを呼ぶのが先決。わかりました、この子を借ります!」
カイコさんは流石にここに残る役目は魔防隊員である自分が請け負うべきと言ったけど、ちょっと卑怯な手口を使って説得しました。
そうそう、この場で言い争っても一番キツくなるのは今まさに寮の中であいつらを抑えてくれているサキさんです。
それに、カイコさんは安静にしなきゃいけないでしょうが! 足止め役なんて論外です! 今だけだけど、エンジェルフェザーの一員の僕が絶対に許さないです!
僕? 骨折なんてライドしている間は大丈夫だからノープロブレム!
『そんなわけないでしょ! 終わったら必ず治療を受けてもらいますから!』
ハスデヤの手を借りカイコさんがサウザンドレイ・ペガサスに乗る姿を見て、自分のことを棚に上げてカイコさんの心配をしていたらレミエルから叱責を受けました。
レミエルの声が聞こえるハスデヤからも睨みつけられ、サウザンドレイ・ペガサスからまで睨まれます。
エンジェルフェザーのみんなって、本当に怪我人には厳しいよね……何があっても絶対に治す、絶対に助けるの信念のもと、その最大の障害の患者の要望は基本却下だから……。
「カイコさんをお願い」
カイコさんを背に乗せ運ぶという、僕たちの命運を分ける大事な役目をお願いするサウザンドレイ・ペガサスの首を撫でて無事を祈ります。
「すぐに戻ってくるから!」
「お願いします!」
魔都の空に飛んでいくサウザンドレイ・ペガサスとカイコさんの姿を見送ってから、ハスデヤ、ベカ、ナレルと共に寮の方を向きます。
まだ寮ではサキさんが戦っているだろう銃声とかが鳴っているけど、その音に紛れて階段を降りてくる音がかすかに聞こえてきていました。
これが示すのは、やはりというべきが銀髪オッドアイは野槌をサキさんに当てて自分自身は僕を追ってきたということ。
もし僕の方が援軍を呼びに飛んで行っていたとすれば、この場に残ったかもしれないカイコさんを痛めつけて所在を聞き出そうとしたり、僕を探して現世の方に向かっていたかもしれない。
そう思うと、やっぱり残るのは僕のほうで正解でしたね。
「…………」
寮から出てきたのは、相変わらずの無表情な銀髪オッドアイ。
しかし、あの時サキさんの銃撃で抉られた表皮は血の跡こそ残っているものの、傷自体は一つも残らず消えていました。
……いやいや、さすがに酷くないですかねそれは。
まあ、戦場だし。ズルいとはいえないですけど。
「目標発見」
「君、女の子にモテない──その顔ならモテるか。本当にムカつくなぁ!」
「…………」
「なんか言えよ!」
調子狂うんですけどこいつ!
次回はサキVS野槌になります。