異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
……です。
魔防隊五番組隊員の所山サキが、札幌の魔都災害を引き起こした正体不明の敵が寮に侵入しカイコたちが襲撃を受けたことを知ったのは、第二波の通常醜鬼の群れを殲滅した時だった。
休む暇など与えないというかのように第三波の通常醜鬼の群れが接近してきている中、背後で何かが近づく気配を察知し、咄嗟にそちらに機関銃を向けたところ、そこに赤い動くぬいぐるみの姿があった。
「…………」
動くぬいぐるみ。
いまだにその全貌の解明ができていない魔都である。そのような不可解な存在は危険と判断するものだが、サキはその動くぬいぐるみのことを知っていたため銃口を下げた。
この動くぬいぐるみは、最近組長直々のスカウトにより五番組寮の管理人に就職した、異世界の日本から来たという異邦人の少女──朱霧ミナトが連れてきた存在で、ブラントと名乗る謎の生物である。
醜鬼ではなく、ミナトから聞いた話では彼女のいた世界に存在するエイリアンであり、ミナトにとって盟友と呼び合う存在とのこと。
訳あって今はぬいぐるみになっているが、基本的に人間に対して友好的であり害はないとのことで、その抱き心地の良さからサキも時々モフらせてもらったことがあり、お互い知った仲となっている。
普段はミナトのリュックにいるか、主に組長のせいで管理人の範疇を超える仕事をこなすミナトを手伝うかしており、今回の醜鬼の襲来ではミナトと共に寮に避難させていたはず。
それがなぜこのような場所にいるのか。
疑問に思ったサキに対し、ブラントはサキの元にポコポコと走ってくると、この場に1人で来た用件を伝えた。
「所山サキ、今すぐ寮に来るのだ。我が盟友が銀髪オッドアイと呼ぶ醜鬼を使役する小僧が寮に入り込み襲ってきた。結界外の群れは囮である」
「────!」
ブラントの言葉に、ほとんど感情を表情に出すことのないサキは、驚き目がわずかに見開く。
はたから見れば些細な変化だが、サキにとっては思わず言葉を失うほどの衝撃を受ける時のリアクションである。もとより無口と指摘するのは野暮である。
しかし先ほど違和感を覚えてカイコに通信を飛ばした時には、彼女から問題ないとの返事があったはず。
ところがブラントの言葉と直後に、寮の2階からその言葉を裏付けるかのような柱などが砕け破片が外にまで散り、誰かが戦っている音が聞こえてきた。
カイコとの通信で異常はなかったと判断して醜鬼の群れを殲滅するために機関銃での戦闘を続けていたこともあり、銃撃音によって聞こえなかったのだろう。
ブラントが教えてくれるまで、サキは寮の異変に気づかなかった。
どうやって結界を抜けてきたのか。
その理由も確かに重要だが、そんなことは後回しにしなければいけない。
今の寮には醜鬼が相手では無力のミナトと、専門は衛生兵であり本来は戦闘要員ではないカイコしかいないのだから。
「我に構わず急げ! カイコが醜鬼にやられポートちゃんは足止めのために戦っている。奴は他者の声を完璧に模倣する、無線の通信は信用するな」
ブラントの言葉を聞いたサキは、すぐに寮へと急いだ。
外の醜鬼は通常の個体のみ。結界に阻まれて簡単には入ってこられない。今は放置してもいい。
それよりもカイコたちの救援に急ぐべきと判断し、寮に向かって走りだす。
寮に入ると、迷わず真っ直ぐ2階への階段に向かい、足音を殺しつつも急いで駆け上がる。
マタギの娘であるサキは、獣の耳から隠れて森を歩く術を学んでいる。戦いに夢中な相手に気づかれないように階段を静かに上る程度は朝飯前のことである。
そして階段を上がると、破壊された壁と襖の向こうに札幌市に未曾有の被害を与えた超大型醜鬼襲来時の魔都災害にて郊外にミナトと共に確認された、人型醜鬼の一種と考えられる銀髪にアメジストとエメラルドグリーンの虹彩異色の目を持つ少年──ミナトが銀髪オッドアイと呼ぶ人物の姿があった。
銀髪オッドアイは、ミナトと彼女の能力により召喚されたクレイという惑星の住人と思しき翼を持つナース服の女性──ハスデヤを拘束し、別のフードを被った翼を持つ少女──ベカと四肢のないトカゲのような容姿を持つ未確認の新種の醜鬼──野槌が交戦する様子を見ている。
容姿こそ人間の少年のものだが、2人を拘束するのに人間では決してあり得ない状態、イカの足のように伸びた両足で縛っている姿から、人間ではないことは明白であった。
銀髪オッドアイはベカと、それを捕まえようとしているかそれとも殺そうとしてなのかわからないがベカを追い舌を伸ばしている野槌の戦う姿を観察しており、まだサキに気づいていない。
気づかれないように注意しつつミナトたちのそばに近づいたサキは、こちらに気づいたミナトたちに人差し指を口元で立てて静かにというジェスチャーをしてから、ここに来る途中で用意した“人型醜鬼に牽制を仕掛ける。すぐに離脱して”と書かれたメモを見せた。
ミナトたちが口を閉ざして無言で頷くのを確認したサキは、能力“武装小町”によって左腕を機関銃に変化させ、銀髪オッドアイに向けて銃撃を仕掛ける。
「────!?」
サキが来ていたことに気づいていなかった銀髪オッドアイは完全な奇襲を受け、表情を驚愕の色に染めながら機銃の斉射を至近距離で受け、思わずといった様子で2人の拘束を解き脚を引っ込めた。
「撤退!」
自由になったミナトは、ベカに呼びかけると自身もハスデヤと共にサキが入ってきた壊された襖の向こう、階段に向かって走る。
ベカもミナトの指示を聞くとすぐさま野槌との戦闘を切り上げ、空を飛べる利点を活かして外へ飛び出していった。
サキはミナトたちの離脱を援護するため、銀髪オッドアイの方へ機銃の斉射をしながら、ベカの追撃に動けないように右手を散弾銃へ変え野槌に対しても牽制となる銃撃を発射する。
ミナトたちと違い醜鬼を打倒できる桃の能力による銃撃を受け、銀髪オッドアイは体の表皮を抉られ血を散らし、野槌の方にも無数の銃弾による穴が生まれることとなった。
それでも容赦なくサキは鉛玉の雨を撃ち込み続ける。
野槌の方は表皮こそ堅牢ではないため当たった数だけ穴を増やせるが、同時に通常の醜鬼とは比べ物にならない高い再生能力を有しており、穴を開けた側から再生し傷が塞がっていくため、銃撃を仕掛け続けなければすぐにでも元通りとなる。
ただし、損傷を与えることは可能であり、痛覚はあるようで再生しても数を与え続ければ動きを阻害しミナトたちを追うことを許さずに足止めし続けられる。
問題は、銀髪オッドアイの方である。
サキの機関銃の攻撃を受け、無数の銃弾によって傷を作り、血を撒き散らす銀髪オッドアイ。
だが、数発で雑魚醜鬼ならば挽肉に変えてしまう散弾銃よりも遥かに殺傷性の高い機関銃の攻撃を受けながら、その銃撃は表皮を削るだけでまともなダメージを通している様子がなかった。
銀髪オッドアイがミナトたちの追撃に動かなかったのは、サキの奇襲に驚いたという面が大きい。
サキの攻撃そのものは障害に値しないと言わんばかりに、数秒受けて大して効かないものだと判断すると、もはや防ぐ価値もないと言わんばかりに前に出して身を守っていた腕を下げ、無機質な表情で異なる色の瞳を向けるばかりとなり、たとえ表皮だけとはいえ傷をつけているにも関わらず痛みもないと言わんばかりの顔色ひとつ変えなくなったのである。
まともに攻撃が届いていない。
通常の醜鬼よりも遥かに強力だという人型醜鬼。
機銃ではまともなダメージも与えられない事に、サキはならばと機関銃の斉射を止めるとすぐに左腕を大砲に変えて砲撃を叩き込んだ。
「…………」
それに対して銀髪オッドアイは表情一つ変えることなく、砲弾が届く前に射線上に魔都と現世を繋ぐ小規模の門──クナドを作り出す。
自然に発生するはずのクナドが出現し、サキの発射した砲弾は銀髪オッドアイに届くことなくそのクナドの先である現世に飛ばされ、クナドの開かれた先にある廃墟らしき朽ちた一軒家を破壊した。
「────!?」
役目を終えたクナドが消える。
そして、そこには機銃で抉られた表皮の傷を跡一つ残さずにいつの間にか再生し元の姿に戻っていた銀髪オッドアイが五体満足で立っていた。
クナドの出現に、再生能力。
銀髪オッドアイの見せる能力に、今度はサキが衝撃を受ける番となった。
「眉並びに瞼に変化。驚きの感情を確認。開門機能に対する反応と推測」
ほとんど感情が表情に出ないサキだが、その小さな変化を見た銀髪オッドアイはまるで心を見透かしているかのようにその驚愕と動揺を見抜く。
心を見透かしてくる銀髪オッドアイに、サキは思わず野槌を牽制していた散弾銃の右手もその銃口を銀髪オッドアイの方に向け、大砲と散弾銃を銀髪オッドアイに向けて発射した。
野槌は散弾銃で穿たれた穴を修復しており、動き出すには3秒ほどの時間を必要とする。すぐに動けるようになるとはいえ、この攻撃から銀髪オッドアイを庇ったり、発射を阻止したりには動けない。
砲弾と無数の小さな散弾が迫る中、銀髪オッドアイは今度はクナドを開くことなくその攻撃を受けた。
爆発。
砲弾の炸裂音と衝撃が壊れた襖や残骸を吹き飛ばし、寮の2階から吹き飛ばされて外に放り出される。
だが、銃撃と砲撃を同時に受けたはずの銀髪オッドアイは、多少汚れたのみ。その姿は表皮にも傷ひとつなかった。
2度目の攻撃は効かなくなるとでもいうのだろうか。
ならばと両腕を機関銃に変えて集中攻撃を仕掛けようとするサキだが、2門の機関銃による斉射を仕掛ける前に傷を再生させた野槌が床を這いサキに向かってきた。
止むを得ず、右手の機関銃を野槌に向けるサキ。
銃口は銀髪オッドアイと野槌それぞれに向き、同時に無数の弾丸をものすごい勢いで発射し、両者を打倒しようという銃撃が展開された。
「──
一方、銀髪オッドアイの方はその斉射に対し野槌が蜂の巣にされてサキに届かず途中で足が止まる中、躱すわけでも防ぐわけでもなく新たなコマとして用意していた醜鬼を呼び出すためその名を口にする。
「────ッ!」
直後、サキ目掛けて天井から人よりも二回りほど大きな棘の生えた大玉が飛んでくる。
直前に気づいたサキが回避に成功すると、床を盛大に砕いたその大玉は空中で丸まった姿から今度は芋虫に醜鬼の上半身をくっつけたかのような外観が特徴の未確認の新種の醜鬼の姿に変わり降り立った。
三吉鬼。
銀髪オッドアイがそう呼称する特殊な醜鬼は、銀髪オッドアイを守るようにサキに立ち塞がる。
機銃によって蜂の巣にされた野槌も復活し、三吉鬼とともに挟み込む位置に展開する。
「やれ」
銀髪オッドアイは用意した2体の特殊個体の醜鬼をサキに嗾けると、階段に向かって悠々と歩き出す。
サキは両腕の機関銃をそれぞれの醜鬼に向けて撃つが、野槌は穿たれた傷を修復しながら、三吉鬼は体を丸めることでその銃撃に耐え、それぞれ地面を這いずり転がりながらサキに向かってきた。
(組長……カイコ……ミナト……ごめん、足止めを……)
銀髪オッドアイの狙いはミナト。
1体だけでも手に余る特別な醜鬼を2体も用意されては、サキでも銀髪オッドアイの追撃どころではなくなってしまう。
こうしてサキは銀髪オッドアイはの目論見通りに2体の醜鬼によって足止めを受け、最も危険な存在を止めることができずにミナトを追うことを許してしまうこととなる。
「目標発見」
そしてサキの足止めを2体の醜鬼に任せ、ミナトを追い1階に降りた銀髪オッドアイは。
寮の出口の前に、隠れることなくハスデヤたちと共に出てきたミナトと対峙することとなる。
今回登場した三吉鬼は、第72話『二番組 組長』に登場した空折のアジトの番人をしていた醜鬼と同種です。
横浜では、組長相手には腹パン一発でダメージを受け、かすり傷一つつけただけで真っ二つにされ終わったものの、設定上は隊員クラスでは倒せないとのことなのでサキさんの攻撃は耐えられる形にしました。