異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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スタンドアップ、ヴァンガード!
グランブルー海賊団出航!


3話

 

 

 クソガムの雑な説明の後、異世界に放り出された僕に待っていたのは、初日から邪教の信者たちが行なっていた生贄の儀式の真ん中だった。

 戦って勝たなければ、死ぬ。

 喧嘩もしたことがなかった僕にとって、いきなり邪教の儀式で生まれた怪物が融合した元人間を相手にそんな戦いをしなければいけなかったのは、一生忘れられない強烈な出来事だった。

 

 でも、手違いで帰還先間違えた異世界日本でも、初っ端から人外の怪物相手に生きるか死ぬかの場面を持って来られるのは、これはこれで衝撃だろう。

 

 相対するのは、5メートルにはなろうかという巨大な怪物“醜鬼”。

 異世界日本に存在する異界、魔都と呼ばれる世界に存在する異形の怪物であり、人の安寧を脅かす存在だとかなんとか。

 本来こっちの日本の住人ではない僕だけど、醜鬼の方はそんなこと関係ないみたい。

 

 そんな巨大な怪物の振り下ろす拳に、クレイのユニットであるグランブルー海賊団船長の息子にライドはその力を身に宿した僕は、剣をぶつける。

 

「かった!?」

 

 そして、質量に負けて吹き飛ばされた。

 

「何を遊んでおるか、盟友よ! ヴァンパイアの小僧とはいえ、グランブルー海賊団の船長の息子であろう。それがオーガの二番煎じごときに押し負けるなど、我と鎬を削り轡を並べ共にかの星に安寧を齎した勇者か!」

 

 空中で宙返りをしてバランスを立て直し着地した僕に、背中の鞄からブラントが抗議してくる。

 僕が逆の立場だったらクレイのユニットのくせに何したんだよと同じようなツッコミをしたくなるくらい情けない吹き飛ばされ方をしたのは自覚しているけど、これには理由がある。

 

「待って、あいつの表皮堅すぎるよ!」

 

 そう、グランブルー海賊団の船長の息子であるキャプテン・ナイトキッド。

 ヴァンパイアである彼の力を宿した今の僕なら、異世界での戦闘経験も相成り、この剣で鉄骨を両断することだって片手間にできるほどの強さがある。あんなオーガの二番煎じみたいな奴くらい切れてもおかしくないはず。

 

 なのに、醜鬼とかいうあの怪物は、力とか技とか関係ない、まるでなんか高次元的な存在か何か見たくこっちの攻撃がかけらも効かない結界的なものが貼られたような感じに攻撃を弾いたのだ。

 

 もう一度言うが、弾いたのだ。

 

 要するに、そもそも一切効いてない。

 耐えたとかかすり傷で済んだとかなら、切りつけ続けたり弱点をつけば硬くても切れることがある。

 

 でも、醜鬼の表皮は僕の攻撃を弾いた。拒絶した。

 つまり、こっちの攻撃ではあの肉体に何をしようと、クレイの力では何をしても効かないのだ。

 

 剣をぶつけただけだけど、僕には、クレイのユニットたちには、あの敵に傷をつける手段がない。

 ぶつかった瞬間のコチラの攻撃を一切拒絶してくる感覚が、そう僕の直感に訴えてきていた。

 

「……まずいかもブラント。あいつ、この剣を拒絶してきた」

 

「何……?」

 

 世界の法則。

 異世界でそういう存在に遭遇したことがある。

 僕らが魔法なんて非科学的なものが理解できないように、住まう世界が違うから、世界の法則によって拒絶される。

 

 蟻はその顎で自分の体重よりもはるかに重いものを持ち上げることができるけど、自分の体重も鼻で持ち上げることはできないゾウに噛みついても傷一つつけられないように。

 不死の海賊団を率いる船長のヴァンパイアの息子の力を借りることで人間とは比べ物にならない腕力を獲得したはずの僕の剣は、象に噛み付く蟻の牙のように醜鬼の表皮に弾かれた。

 

 剣が弾かれるとなると、少なくともキャプテン・ナイトキッドでは傷ひとつつけられないということ。

 彼から見れば子供だが、しかしその力を、血統を継いでいる息子の剣で傷ひとつつけられなかったとなれば、父親のキャプテン・ナイトミストにライドしてカットラスを振り回したとしても結果は同じだろう。

 

 醜鬼の腕が振り回される。

 それを回避して飛び退き、囲まれている場から脱出すると、最初に遭遇した巨大な醜鬼が邪魔だと言わんばかりに新たな醜鬼の一体を殴りつけると、その頭を掴んで僕の方に放り投げてきた。

 

「ああ、もう出鱈目だ!」

「全くもって出鱈目であるな」

 

 クソガムの先ほどの手紙の内容が頭をよぎる。

 醜鬼は魔都の桃の恩恵を受けた武器や能力でなければ太刀打ちできない存在であると。

 あの話が本当だとしたら、桃を食べていない僕には何もできないということになるのだけど……

 

「──って、クレイのみんなの力を舐めるなよ!」

 

 でも、攻撃が通らないなんてこと向こうで散々経験してきた。

 相手がデカくて馬鹿力なだけで、頭は悪いしクレイのみんなの力を借りた状態なら動きも大して速くないから、むしろ余裕がある。

 

「剣が効かないなら、呪いを喰らえよ! クレイのみんなを舐めるなよゴリラもどきが!」

「こいつを使え、ポートちゃん!」

 

 ブラントがリュックの中から新しいカードを手渡す。

 それを受け取り、僕は新たなユニットをライドした。

 

「ライド! イービル・シェイド!」

『この心臓を抉る短剣を必要とするか、マイヴァンガード。面白え、存分に使いな!』

 

 僕の使う能力であるライドには、ルールがある。

 カードゲームとしてのヴァンガードと同様に、自らに宿すヴァンガードサークルに該当するユニットはグレード0から始まり、ライド毎に一歩ずつグレードを重ねなければならないというもの。

 それにすぐさま再ライドができるわけではなく、カードゲームではメインフェイズやアタックフェイズ、そして相手のターンを経てようやく再ライドできるようになる代わりに、ある程度の時間と敵の起こすアクションを受けてからでなければ再ライドできないという制約がある。

 

 ライドしたのは、イービル・シェイドというグランブルーのグレード1のユニットであり、ゴーストという種族──いわゆる幽霊に当たるユニットだ。

 人型の黒い影がトリコーンハットと服を纏っているユニットで、武器は短剣。彼の剣はヴァンパイアが純粋な剣として振り回す武器とは事情が違う。

 このユニット特有の能力で、イービル・シェイドは幽霊が物体を透過するように短剣や自身の体を透過させて相手の命の象徴である心臓を直接狙い撃ちにして短剣を突き刺すことができるというものがある。

 

 これなら、どれだけ表皮を頑強に固めていようが、問答無用で致命の攻撃を敵に与えることが可能なのだ。

 防御する術もあるし、邪教の呪詛師や神官達なんかその手の専門家が多かったから対策されやすかったけど、頭ゴリラの怪力だけの巨大怪物ならこういう搦手は有効なはず。

 

 クレイのみんなは多種多様な特徴、種族、能力、クラン、信念や武器、戦い方に夢を持つ。

 攻撃が弾かれるからって、それで僕達を手詰まりにできるなんて思わないでもらいたいね! 

 

「死ねや、あのきしめん頭ァァァアア!」

「気持ちはわかるが……」

 

 というわけで、あのクソガムへの怨念も込めて今度こそ反撃してやると、イービル・シェイドの短剣を醜鬼に突き立てる。

 

 だが、相手の肉体を透過して直接心臓を破壊できる短剣はまさかの醜鬼の体を総スルーして背中の方まで突き抜けた。

 

「えっ……?」

 

 当然、手応えもなければ醜鬼が倒れる様子はない。

 

「……なんで──かなあ!? ちょっと待って、立ち直り早すぎない!?」

 

 なんで? と尋ねても答えてくれるわけもない醜鬼。

 僕が困惑から冷静さを取り戻してそんな疑問を口にする前に、背中に抜けていった僕の方に振り向くと雄叫びを上げながら一斉に突っ込んできた。

 

「なんで効かないの!?」

 

「奴には心臓がない! 我等とは根本的に異なる存在、生命体かどうかも怪しい異形と見るべきだぞ!」

 

 なんでイービル・シェイドの短剣が効かないのか? 

 それを叫びながら醜鬼の攻撃をかわして転がる僕に、リュックの中からカードを三枚持って出てきたブラントがさっきのスルーの理由の推測を伝えてくれた。

 

 ブラントが推測するには、醜鬼という存在には心臓が、僕たちの認識する生命体の命がないらしい。

 この醜鬼とかいう連中、どうやらイービル・シェイド達ゴーストやゾンビみたいな種族ともまた違う、根本的に何かが僕らとは異なる存在らしいとのこと。

 

 なるほど、この短剣が突き刺さるべき心臓──命をそもそも持っていない存在だというならば効かないのも当然だ。理屈は合っている。

 合っているけど……

 

「そんな奴どうしろっていうのさ!?」

 

 物理は弾かれ、搦手はスルーされるって、とんだクソ仕様の怪物だなおい! 

 思わず恨み言を叫んだ。

 

 気を取り直して、ブラントから受け取ったカードを使う。

 

「とにかくまずは有効な手段を探ることからやるしかない」

 

「その通りである盟友よ。今はこのなりだが、我も全力でサポートしよう」

 

「頼りにしてるよみんな! ライド、ルイン・シェイド!」

 

 突破口が見えないけど、切り抜けなければ痛めつけられ殺されるかもしれない。

 なら全力で抗うだけだ。

 クレイのみんなは多様な世界の住人達だ。物理はダメ、防御無視の即死攻撃もダメとしても、こっちの手札もまだまだある。

 諦めるつもりなんてさらさらない。

 効かないなら効かないで、攻略の糸口を探ればいい。通用するまで試せばいい。

 

『冥府の深淵さ、その命を凍らせてやるよ』

「頼むよルイン!」

 

 次にライドしたのは、グレード2のゴーストのユニットである“ルイン・シェイド”である。

 

 そして、ブランドから受け取った残る2枚のカードを翳し、僕はきしめん頭から与えられているもう一つの力を行使した。

 

「コール! ダンシング・カットラス、伊達男ロマリオ!」

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