異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
まずはサキさんと援軍の組長たちの方から。
サウザンドレイ・ペガサスに乗り六番組寮にたどり着いたカイコから、組長会議の日が開催されている総本部に救援要請と八雷神襲撃の報告が齎されたことにより、夜雲を含める3人の組長からなる増援が送られていた頃。
醜鬼を率いた銀髪オッドアイに襲撃を受けた五番組寮では、高い再生力を持つ野槌に加えて機銃でも貫通できない屈強な表皮を持つ三吉鬼が出たことにより自慢の銃火器が通じず、2階から降りてきた銀髪オッドアイをエンジェルフェザーのユニットたちとともに迎えうったミナトも傷一つつけられない銀髪オッドアイに歯が立たず、両者とも劣勢な状況となっていた。
「──ッ!」
ライフルも弾く三吉鬼の飛鳥文化アタック突進を躱した直後に、避けた先に這い寄ってきた野槌に右足を噛みつかれてしまう。
すぐにライフルの銃口を野槌の首に向け銃口と接するほどの至近距離からライフル弾を発射し、野槌の首を吹き飛ばす。
しかし野槌の牙にある致死性はないが即効性の高い麻痺毒により噛まれた右足が痺れた感覚を失い、立ち上がれず手をついてしまった。
本調子ならばいまの噛みつきも問題なく対応できたはずなのだが、ミナトを助けた際に野槌の牙に毒があることを伝えられてなかったため知らず、既に野槌に一度噛まれてしまったのである。
これにより体が思うように動かなくなり、頭を吹き飛ばそうとも再生してくる野槌と頑丈な表皮で銃弾を受け付けない三吉鬼に苦戦し、追い詰められていた。
なんとか立ちあがろうとするも、そこに三吉鬼がすかさず蝿を潰すように剛腕を振り下ろし先を床に叩きつけた。
血の混じった肺の空気が押し出され、意識が遠くなる。
動かなければと、ここで自分が倒れてはこの2体の醜鬼まで負傷者のカイコや魔防隊員ではない守るべき相手であるミナトの所に向かうことになるだろう。
それだけは阻止しなければと、痺れで痛みもまともに感じなくなり動けない体をなんとか動かし立ちあがろうともがくサキだが、その意思に反し体は微動だにしない。
サキは三吉鬼に押さえつけられているため動けないと思ったが、実際には叩きつけた直後に三吉鬼は腕を上げており、動けなくなっているのはケガと毒のせいである。
血を吐いた獲物に息があるか確かめようと、動けないサキの様子を確認するため顔を下げる三吉鬼。
野槌の方は頭の再生を終えたところで、周囲を見渡してサキを探している。
姿勢を低くした三吉鬼が、まだサキに息があることを確認し、とどめを刺そうと両手の拳を握り込んで腕を振り上げる。
そしてミナトもさきほど銀髪オッドアイを床に沈めた際に使ったオルテガハンマーの構えを取り、ミナトとは違う人間程度ならばそれこそ蚊のように潰してしまうだろう岩のような拳を振り下ろす。
顔を上げることもできないサキに三吉鬼の動きは見えず、床に映る影の動きから何かを仕掛けようとしていること、それを受ければ自分が死ぬ可能性が高い攻撃を仕掛けようとしているのだろうという事を察することしかできない。
組長である夜雲がいなければ、1人ではこの程度の敵すら倒せず守るべき相手も守れないのかと、己の無力に打ちひしがれながら動かすことができない無防備な体に三吉鬼の拳が振り下ろされる。
「──させないわよ」
しかし、三吉鬼の拳がサキを潰す直前。
遥か遠方から飛んできた何かが三吉鬼の肘を貫き、そのまま壁に突き刺さって縫い付けたことにより三吉鬼の動きを封じて、サキを潰そうとしていたオルテガハンマーを止めた。
それは、槍だった。
遥か遠方から伸ばされた槍。
物理法則など無視して無限に伸びる槍。
それが三吉鬼の肘を壁に縫い付けサキを守った、飛んできた何かの正体である。
そして、無限に伸びる槍は一気に縮んでいる。
槍が伸びてきた方向から、その縮む槍の柄に捕まりこちらへ飛んでくる人影が2つ。
その後方にはサキにとって単なる自然現象で起きるものとは違う、とても見慣れた能力によって生み出されている竜巻が高速で接近してくる光景があった。
肘を穿たれた苦痛か、動けないことに対する苛立ちか、はたまたとどめを刺そうとしたところを妨害されたことに対する怒りか。
少し遅れるように三吉鬼が口を開き、野太い咆哮を屋根に向かって上げる。
「──うるせえな、沈んでろ!」
しかし、その咆哮は強引に止められる。
縮む槍の柄を掴む二つの人影のうちの一人が、どこから現れたのかいつの間にか出現した同じシルエットの人影を思いっきり蹴り飛ばし、竜巻でここまで運んだ組長、槍を届かせた組長を抜き、1番乗りで五番組寮に飛び込みそのまま三吉鬼に飛び蹴りをくらわせて壁の奥に蹴り飛ばしたのである。
崩れた壁の残骸が舞い、サキの視界を一瞬塞ぐ。
それが少し晴れ、わずかに戻った視界の中、うっすらと舞う土煙の中に丈長の特攻服風に改造された制服と、両足を大胆に見せるドレス風に改造された制服の裾と、2人分の足が見える。
「私がそこのトカゲを」
「なら俺があのデカブツだな。負傷者を運ぶ、援護しろ」
「貴女には不要かと思いますが、了承しました」
そして、いつのまにか抱え上げられていたサキにも聞き覚えのある声が耳に届く。
それは、本来別の区域を担当しているはずの別の組を率いる組長たちの声。
八雷神の一角を倒すべく魔防隊総本部から送られた最高戦力の援軍である2人の組長の声だった。
「…………」
やはりあの竜巻は、夜雲の能力によるものだった。
助けが来た事を認識したサキは、彼女たちならばまけるはずがないという信頼と安堵から限界を迎え、意識を手放し眠りに沈む。
「はっ……
気を失ったサキに、美羅の出した分身は屋内のボロボロな惨状とそれ以上に身体中をボロボロにしたサキの様子から、1人であの特殊個体の醜鬼二体を相手に戦って自分たちが到着するまで持ち堪えていた彼女の奮戦を讃えるように小さく呟く。
まずは怪我人の安全確保が優先だと、飛び込んできたベランダに通じる扉から飛び降りる。
頭を再生させ、ようやく仕留めた獲物と新手の存在を認識した野槌が奪われるかとその背中に噛みつこうとするが、それを見逃すはずもない風舞希の振り回す槍によって再生させたばかりの首を再び断ち切られた。
「あっけない……で済むわけもないですね。いいでしょう、ならば再生しなくなるまで穿つのみ」
一撃で首を仕留めたが、しかし野槌の最大の武器はその通常の醜鬼たちとは桁違いに高い再生力にある。
隠し札として即効性の高い麻痺毒を吐く牙を持つ。
首を切り落としても再生する姿を見て、風舞希は野槌が他の醜鬼よりも遥かに強靭な生命力を持つ事を看破すると、ならば再生できなくなるまで穿つのみだと槍を構え、再生途中の肉体に次々に槍を打ち込み野槌の巨体を穴だらけにした。
野槌が再生するが、関係ないと、再生する暇など与えないと、野槌の再生速度を上回る速さで槍を打ち込む。
それでも野槌は再生しようとするが、散弾銃よりも威力が高く機関銃よりも早く打ち込まれる風舞希の槍に耐えきれず細切れとなり、巨大な肉体の中にある肉体再生の中心となる核が露出した。
「──そこね」
瞬時にその核が野槌の命の源となっている事を看破した風舞希は、すかさずビー玉サイズの小さな核を正確に貫く。
強靭な生命力を持つ野槌だが、肉体が再生しきれないほどにバラバラにされた上に核まで破壊されては再生することは叶わず、再生する力はあからさまに落ちていき、やがて風舞希の槍の猛攻に耐えきれなくなりバラバラとなって、全ての肉片が動きを止めた。
「まずは一つ」
野槌の再生が止まり完全に滅んだ事を確認した風舞希は、手元で槍を二、三度回してから右手に持ち石突を床に置く。
カイコを奇襲とはいえ戦闘不能に追い込み、さらにサキを散々に苦戦させた大型の醜鬼は、しかし組長の前には鎧袖一触。大した時間もかからず、あっけなく果てることとなった。
一方、分身能力を持つ二番組組長の美羅は、風舞希と共に彼女の伸縮自在の槍と分身能力を駆使して一番乗りで乗り込み、分身を使って負傷者であるサキを保護してから、野槌を風舞希に任せて自身は蹴り飛ばした三吉鬼を追い寮の奥へと進んでいった。
「待ちやがれ!」
三吉鬼は美羅から逃げるように途中にあるものを破壊しながら転がり、最終的に壁を壊して外へと飛び出していった。
それを追い、美羅も壁に空いた穴から飛び降りる。
その時待ってましたと言わんばかりに先に出ていた三吉鬼が、降りている途中、空中で避けようがない美羅めがけて飛鳥文化アタックを仕掛けてきた。
「見え見えなんだよ!」
しかし、その程度美羅も想定済み。
分身を新たに出し足を合わせると、互いに蹴り合う事で空中に足場を一瞬作り三吉鬼の突進を回避した。
躱せない空中で仕掛けた突進攻撃を余裕で回避された三吉鬼は止まることができず五番組寮の一階の壁に直撃。
破壊して再び屋内に落ちる。
それを追い、分身を次々に形成しながら美羅が突入していく。
「逃げんじゃねえよコラ!」
埃や粉塵が舞う屋内は視界がほとんどなかったが、その煙の不自然な揺らぎや、巨体ゆえに少し動くだけで残骸にぶつかり鳴る物音から直ぐに三吉鬼を見つけた美羅。
すかさずまだ美羅の姿を把握できていない三吉鬼のガラ空きの背中へ拳を叩き込んだ。
サキの機銃も弾いた三吉鬼の甲殻だが、可動域を確保するためにどうしても甲殻には隙間ができてしまう。
その脆弱になっているポイントを的確に打ち抜く美羅の拳は、三吉鬼にとって自慢の甲殻を突破し大きなダメージを与える一撃である。
たまらず悲鳴を上げる三吉鬼。
尾を振り回して甲殻を突破する拳を打ち込んだ美羅を打ち払うが、殴ったはいいものの拳が抜けなくなり今度こそ避けられず尾の直撃を受けた美羅はまるで幻のように消えてしまう。
それは分身である。
しかし美羅の能力を知らない三吉鬼はそれで倒したと油断し、直後に消えた美羅の分身の後ろから助走をつけて振り抜かれた美羅の拳を腹部に受け、巨体をゴムボールのように吹き飛ばされた。
「次行くぞ!」
しかも、吹き飛ばされた先にも美羅の分身が待ち構えており、吹き飛ばされてきた三吉鬼を蹴り飛ばした。
再度ボールのように飛ばされた三吉鬼だが、その飛ばされた先にも美羅がいる。
それも1人や2人ではない。30……いや40人は集まっていた。
「落ちろ!」
そして美羅の分身が大量に集まっている場所に落ちるように2階からも美羅が飛んできて、ストンピングで三吉鬼を蹴り落とした。
美羅の踏みつけは両腕をクロスさせて防いだ三吉鬼だが、蹴り付けられたことで変わった落下先には大量の美羅の分身がいる。
「テメェはフクロだ」
そこからはもはや一方的な蹂躙である。
大量の美羅たちに囲まれた三吉鬼は殴られ蹴られで集団からの暴行を受け、2人ほど剛腕と尻尾で抵抗し倒すことはできたものの、分身を多少やられようとも美羅を止めることはできず、結局袋叩きに遭い甲殻は悉く砕かれて絶命することとなった。
「前座にもなりゃしねえ」
三吉鬼の絶命を確認した美羅は、必要な数を残して分身を片付けてから、死体となった前座にはもはや目もくれず本命の敵を探して走り出した。
野槌も三吉鬼も、たとえ魔防隊の正規の隊員であっても複数人であたろうと容易に倒すことはできない強力な特殊個体の醜鬼である。
しかしそれすらも魔防隊の最高戦力である組長たちの前には前座であり、ろくに傷を与えることもできずに片付けられることとなる。
そして留守にしている間に寮を襲われ、ここまで2人の組長を能力を駆使して運び、結界に群がる雑魚醜鬼たちを竜巻で片手間で蹴散らしながら最後に寮に乗り込むこととなった、五番組組長の夜雲は。
「蝦夷夜雲……援軍は想定内事項。迎撃を選択」
「いやぁ、せっかく来てくれたのに組長が留守にしていたとはゴメンネ〜☆」
「…………」
「だから、お詫びに友達も連れてきたヨ! ……流石の夜雲さんも今回はプッツン来ちゃったから全力で相手してあげるよ、八雷神」
寮を荒らし、部下を傷つけ、守ると約束した新しい管理人を踏み潰している今回の襲撃者である銀髪オッドアイ──少年型の八雷神と対峙した。
次はオリ主VS銀髪オッドアイ→夜雲さんVS銀髪オッドアイの場面になります。