異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
この世界の異物、魔都の桃とは異なる能力を駆使する人間。
戦闘中に偶然こぼした自白によりその正体が異世界人であることを知った銀髪オッドアイと呼ばれている虹彩異色の少年型の八雷神は、魔防隊五番組組長の能力によって形成される竜巻が高速で接近している光景から援軍の到来を確認し、その迎撃のためにミナトの頭を蹴り付けて衝撃を与え、殺さないように気絶させた。
銀髪オッドアイは、この異世界人が何故この世界に落ちたのか。その理由を推測しており、彼女の存在が必要であると考えていた。
危険な因子であれば処分するつもりだったが、利用価値があるためここで命を取るべきではない、そしていまは魔防隊と言う組織の庇護下に置かれるのが都合が良いと判断した。
異物──異世界人の正体を探る。それがなんの意味を持つのか、この
その目的はすでに果たした。
ミナトという名のこの異世界人には利用価値がある。魔防隊に置いておくほうが都合がいいので、この場で確保する必要はない。骨折程度で致命傷は与えていないので、後は放置しておけば人間たちが治療し全快に戻すだろう。
故に、すでにこの場でするべきことは終わらせたのでクナドを使い援軍が来る前に離脱しても良かったのだが、銀髪オッドアイはとどまることを選択した。
自由にクナドを出現させる能力と、醜鬼を駆使する能力。
魔防隊相手に小競り合いを仕掛けその強さを測る程度でまだ本格的に動いていない他の八雷神たちと違い、銀髪オッドアイは現状現世側の人類に対して甚大な被害を与えた実績がある唯一の八雷神である。
今の魔防隊にとって最も危険視されているべき存在であり、指揮官の方針次第ではこれまでのように拠点の攻撃に対する迎撃で出てきた時とは違い討伐を目的とした本格的な戦力を編成して来た可能性が高い。
すでに無黒達は宣戦布告を人類に発布した。
人を滅ぼす存在と自分達の意義を明かし、敵対の意を表明した。
その八雷神に対して、人類が今どれほどの危険性を認識しているか。どのように強さを測っているか。
それを確認するため、銀髪オッドアイはその場にとどまることを選択し、野槌と三吉鬼にサキとの決着を急ぐように指示を飛ばす。
魔防隊本部では組長会議が開催されており、クナドを利用した本部のある魔都への移動経路と醜鬼の操作技術を提供した魔防隊に敵対する人類──テロリストと呼ばれる協力者達に襲撃させた。
その状況下で単騎で出現し魔防隊の寮を襲った危険な八雷神の個体に、どれほどの戦力を割くことを選択したのか。
答えは、組長3人。
人類側の最高戦力である総組長は動かず、五番組組長の蝦夷夜雲の他、二番組組長の上運天美羅、九番組組長の東風舞希で構成される小数精鋭の部隊である。
到着後、すぐにサキを助け三吉鬼と野槌を素早く倒した手腕。それは確かに組長という地位に相応しい強さではある。
だが、小競り合いとはいえこれまで八雷神と何度か交戦した経験がある魔防隊が、その討伐のために
「いやぁ、せっかく来てくれたのに組長が留守にしていたとはゴメンネ〜☆」
「…………」
「だから、お詫びに友達も連れてきたヨ! ……流石の夜雲さんも今回はプッツン来ちゃったから全力で相手してあげるよ、八雷神」
対峙する五番組組長の蝦夷夜雲。
すぐに合流する手筈を整えていると思うが、襲われている同族を救う可能性を上げるために八雷神相手に単独で来た選択もリスクが大きい。
表面上は笑顔だが、笑っているのは口元のみであり口調や目から激しい怒りの感情が読み取れる。冷静さも欠如している模様。
この場にいるのが銀髪オッドアイではなく土竜や火彗、或いは鳴颯であれば、この援軍もまた無駄死にで終わるところである。無黒か龐咲ならば無駄死に以上に悪化する事態となる可能性が高いだろう。
魔防隊には八雷神の脅威を認識し、魔都との繋がりが生まれた世界にあってその終幕まで最低限の自衛可能な力をつけてもらわなければならない。
人間もまた、このクニに必要な存在であり、奴らに狩り尽くされるわけにはいかないのだから。
「……
「……何かな?」
突然聞きなれない単語を発したことからその内容を聞き損ねた夜雲が何と言ったのかと尋ねると、銀髪オッドアイ──玖若は、ミナト相手には一度も明かしてくれなかった自身の名前を答えた。
「当個体の固有名称。八雷神、玖若」
「クジャク、ね……こんな形で出会わなければ、可愛いし夜雲さんのハーレム候補に入れてあげても良かったけどね〜」
「魔防隊五番組組長蝦夷夜雲。警告、当方の討伐に失敗した場合、この異世界人の命は無いと認識するように」
「────ッ!」
神を殺す。
その難行を達成するために、全力でかかっこい。
そのためにお前達が負ければこの足元の命を奪うと警告し、玖若は夜雲を挑発する。
直後、夜雲は口元だけにはかろうじて残していた貼り付けた笑みも消え、すでに名前を知っているなら名乗りも要らぬと、旋風を形成する複数の風の槍を玖若目掛けて飛ばしてきた。
──
風を駆使する能力。
蝦夷夜雲という人間の性格がそのまま反映されたかのようなこの能力は、自身や他者を飛ばすだけでなく、旋風や鎌鼬、果ては巨大な竜巻や台風など人が敵わぬ天災すら駆使することが可能であり、彼女が本気になれば都市一つを更地に変えることすら可能なほどである。
この能力によって作られた、触れた相手を錐揉み回転に巻き込んで切り刻む風の槍。
高速で接近するそれを玖若は瞬時にかつ冷静に見極め、クナドを展開。現世側に攻撃を飛ばし、自身は避けることもせずにその攻撃を消す。
だが、それは攻撃であるとともに目眩し。
強風が巻き上げた砂塵に乗じて玖若の視界から外れた夜雲は背後に移動し、回避動作もしなかった玖若の背中を蹴り付け、同時にその場にも突風を作り出して玖若は空高くへ、気絶しているミナトを近くに駆けつけていた美羅の分身の方へと飛ばして取り戻した。
「その子をお願い!」
「ヘマすんじゃねえぞ!」
玖若の体重は小柄な見た目相応のものしかない。
風で上空に巻き上げられた玖若を追い、夜雲も空へと舞い上がる。
それを見送り健闘を祈る声をかけ、美羅の分身は手早く骨折の応急処置をしてからミナトを本格的な治療ができる場所に運ぶため、五番組寮にあるクナドの方へと向かっていった。
美羅の分身がミナトを確保して寮に走る姿を妨害することなく見ている玖若に、再び風の槍と評するのが相応しい旋風が飛んでくる。
数は先ほど放った時より多い10。
ミナトの安全が確保されたことで攻撃の手を緩める必要がないと判断したのか、空中に巻き上げられて回避できない玖若を包囲するように展開してきた。
しかし、玖若は旋風が到達する直前に旋風を使って隠れるようにしてクナドを用いてその場から移動する。
風の槍は全て空振りとなり、クナドを潜り夜雲の背後をとった玖若が、姿を消したことにすぐさま周囲を探している八雲の背中に脚を伸ばし──
「──後ろだ!」
「──ッ!」
八雲と合流すらために寮の窓から飛び出してきたところで背中を取られている場面に出くわした美羅の声に反応し、咄嗟に突風に乗って紙一重で回避した。
(一体いつ後ろに──)
夜雲は風の槍が目眩しになったことで、美羅はクナドが開いている瞬間を見ていなかったため、2人はまだ玖若がクナドを自由に作り出せることを知らない。
先ほどの攻撃を回避した夜雲は、あの回避不可能な状況からどうやって消えていつ後ろを取る移動をしたのかについてそのカラクリの解明に思考を巡らせながら、飛行できる様子はなく落下していく玖若に向けて旋風を飛ばす。
しかしその旋風は先ほどの切り刻むつもりで放った攻撃とは異なり、牽制が目的。
数も3つと少なく、その軌道も美羅の分身に気遣い直線的な回避されやすいものである。
瞬間移動する力があるとすれば、間合いをつめて接近戦に持ち込めば思わぬところで見失い死角を取られることがある。
夜雲は飛行能力が無さそうな玖若が先ほどの攻撃を消えるように回避して気取られずいきなり背後をとったからくりを同僚の組長との模擬戦でたまに背後をいつの間にかとられていた時に類似していたと感じ、瞬間移動の類いの能力を持つと推測していた。
「チッ──!」
一方、美羅にはそれが消極的な攻撃に見えたらしい。
最悪やられても構わない分身なので、遠慮なしだと建物を足場にして跳び上がり、玖若の背中に向けて飛び蹴りを打ち込む。
「…………」
「なっ──!?」
それに対して、玖若は先行する二つの旋風は脚を伸ばして蹴りつけることで細かい傷を作るのも厭わずに散らしつつ、背後から跳んできた美羅をまるで背中に目があるかのように最低限の動きで躱しながらその脚を掴み、前方へ振り回してもう一つの旋風にぶつけて散らすことで凌いだ。
旋風に切り刻まれた美羅の分身が消える。
人が煙のように消える光景にも玖若は美羅の能力を知っていたかのようにリアクションを見せず、夜雲が飛ばしてきた細く鋭く飛ばされる風によって作られる刃──鎌鼬を受けながら地面に落下した。
小柄な玖若の体を捉えて鎌鼬が切り裂いたのは、左腕の肘と腹部、顳顬、そして伸びた脚。
一番深い傷となる左腕の肘は骨まで切り裂いており、わずかな皮と肉で繋がっているだけのようにダラリと力なく垂れてる傷となっている。
「「くたばれ!」」
そして、玖若の着地と同時にタイミングを合わせて駆けてきた2人の美羅が玖若の顔面と後頭部へと挟み撃ちになる形で走る勢いを乗せた拳を打ち込んだ。
醜鬼の屈強な肉体でもハエ叩きで潰された羽虫のようにペシャンコにするだろう、2人の美羅の拳による同時攻撃。
しかし、それを受けた玖若自身はまるで効いた様子がなく健在であり、それどころかいつの間にか先ほど受けたはずの鎌鼬の傷も全て治っており、血痕だけが残る両腕を使いお返しと言わんばかりに2人の美羅の分身の鳩尾を手刀で貫き返り討ちにした。
「……分身能力。桃の恩恵以上の強化、個人を指定し強化する能力の支援があると推測」
美羅の分身が消えるが、包囲するように前後左右から新たな美羅の分身が駆けてくる。
その数と、一体毎が他の魔防隊員に比べ強力であることから、玖若は美羅の能力とそれを支援している彼女の部下の存在まで推測した。
──
──
強さの劣化しない分身を生み出す美羅の能力と、二番組組員の
数というシンプルな戦力と、それを底上げする部下の支援。
この二つが組み合わさった能力は、美羅自身がどれほどの敵であろうと確殺だと自負する必勝パターンである。
もっとも、生み出す分身の数が多ければ制御も困難となるし消耗も増える。
しかし50人程度の分身ならば問題なく生み出せる美羅にとって、2人3人程度消されようと問題ない。
「ハデなの行くよ!」
そして、この場には風を駆使する組長もいる。
美羅の軍勢を迎撃しようとした玖若に、上から魔都の雲や岩を巻き込む巨大な球体の嵐と呼ぶべき風の塊が降り注ぎ、巨大な爆弾でも落ちたかのような破壊を落下点にある玖若を中心に一帯に撒き散らした。
嵐が爆弾になって落ちた。
そんな表現が似合うだろう攻撃に、玖若に殴りかかろうとしていた美羅の分身達は思わず脚を止め、壁に穴が開くなど被害の大きい五番組の寮からも悲鳴が上がる。
「寮壊す気かボケ!」
接近中の分身達や五番組寮まで破壊しかねない大規模な攻撃に、思わず脚を止めた美羅の分身から空を飛ぶ夜雲にクレームが飛ばされた。
「だいじょーぶ、こんなのでやられる相手じゃないから☆」
夜雲の大技によって五番組寮の敷地に巨大なクレーターまでできてしまった。
だが、それだけの破壊をもたらした張本人は、八雷神をこんな攻撃で倒れてくれる相手ではないと確信している。
「……マジか、ガキの見た目のくせに根性あるじゃねえか」
事実、そのクレーターの中心には。
夜雲の言う通り、あれだけ大規模な攻撃を受けたと言うのに傷ひとつない姿で立つ玖若の姿があった。
あの攻撃を受けても無傷とは。
今まで蹴散らしてきた醜鬼達とは明らかに違う八雷神の耐久性に、負ける気は毛頭ないが流石の美羅も組長3人が揃っている戦場でも討伐し切れるかと一抹の不安を感じ、顔色がわずかに強張る。
「ではこちらも総力戦で挑むべきかと。遅れは槍働きで返します」
そして、もう1人の組長も八雷神のいる戦場に姿を現す。
寮の破壊された壁の穴から、野槌を始末した九番組組長の東風舞希が出てきて、八雷神討伐のために派遣された3人の組長が揃った。
「…………」
それでも玖若は撤退せず、迎撃を選択する。
「行くよ2人とも!」
「お前が仕切るな!」
「では参ります」
「──神に抗え、人類」
3人の組長と八雷神が激突する。
五番組寮を舞台とする戦いは、最終局面を迎えようとしていた。
次は組長3人と八雷神の戦闘になります。
オリキャラ(八雷神)
玖若(くじゃく)
八雷神の若雷神担当。若雲の代役。外見は夜行生物のような縦長の瞳孔を持つ紫と緑の虹彩異色と銀髪が特徴の130cmに満たない小柄な美少年。名前を明かさなかったこともあり、ミナトからは“銀髪オッドアイ”だの“クソガキシルバーさん”だのといったあだ名をつけられている。声に感情がなく、口調も機械のような独特なものなので、会話が難しい。クナドを自由に形成する能力、脚が伸びる能力、醜鬼を改造する能力を駆使する。