異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
今回は主に空中戦になります。
──神に抗え、人類
力を見せてみろと3人の組長を挑発した八雷神に対し、ならば見せてやると言わんばかりに夜雲が空から、美羅の分身達が地上の四方八方から玖若目掛けて突撃してくる。
夜雲も美羅も、先ほどの短い戦いの中では玖若が上手く隠していたことも相成り、クナドを展開できるという能力の一端をまだ知らない。
しかし単純に頑丈なだけではなく、旋風を消したり飛べもしないのに空中に一瞬で移動したりする何らかの能力があることは察しており、まずはそれを把握して攻略しなければこの敵には勝てないということも理解していた。
探りを入れる意味でも、まずは何らかの攻撃が来てもその機動力ですぐに離脱できる夜雲とやられようとも本体には影響がない美羅の分身が仕掛ける。
風舞希は伸縮自在の槍を打ち込める隙を伺いつつ、八雷神がどのような手を駆使するのかを見極めるため、まずは壁の壊れた寮の2階にて動かず戦いの様子を見ることを選択した。
見た目は子供だが、夜雲の風では表面を多少切り裂くのみですぐに完治されるし、分身とはいえ座覇の支援を受けた美羅の拳を顔面に喰らって無傷で済ます上に反撃で出した貫手は骨を砕いて人体を貫くという化物である。
雑魚醜鬼や先ほど戦った野槌、三吉鬼と比較しても遥かに強力であることは明白だった。
「これならどう!?」
真上から風を纏って急降下してくる夜雲が、小さいが内部に高速の風が吹き荒れる風の弾丸ともいうべき旋風を飛ばす。
触れるだけでも並の醜鬼では表皮どころか骨まで巻き込み抉り取られる攻撃だが、玖若は伸びる脚を一振りするだけでそれを全て打ち払った。
脚も表皮に小さな切り傷が複数できるだけで、まともなダメージが入っていない。
「神だか何だか知らねェけどな──」
そしてそんなものが通用しないことは、夜雲たちも分かっている。
玖若が打ち払わなければ巻き込まれていただろうことさえ気にする様子もなく、恐れることなく間合いをつめてきた美羅の分身が、畳み掛けるように空からの攻撃の迎撃に片足を使い不安定な体勢となっている玖若に接近し、今度は4人同時に攻撃を叩き込む。
「弱いの狙うとかダセえ真似してんじゃねえよダボが!」
それぞれ左右からハイキックで頭を、心臓を拳で前後から撃ち抜くように胴体へ打ち込んだ。
玖若の肉体は醜鬼と比較してもなお頑強だが、体重は見た目相応しかない。
美羅に頭を蹴られれば吹き飛ぶし、胴体を殴られても吹き飛ぶ。
だが挟み込むように同じ箇所に違う方向から同時に攻撃を叩き込まれたことで玖若は吹き飛ばされず、衝撃の逃げ場も与えられず、打撃の威力を効率よく内部に打ち込まれた。
「…………」
そして、それを受けても玖若は表情ひとつ変えることはない。
4人がかりでもまるで攻撃が通っておらず、すぐに胸部に突き刺さる二つの拳を掴んで逃げられなくすると、夜雲の攻撃を打ち払った脚を引き戻す勢いそのままに捕まえた分身の片方に踵落としを叩き込み消滅させた。
かかと落としなどという生易しいものではなく、その攻撃はまるで巨大な斧。
直撃を受けた美羅の分身は首が砕けて頭が体にめり込み、そのまま縦に肉体を切り裂かれるという衝撃的な光景が生み出された。
頭を蹴り付けてきた2人が離脱するのは無視し、玖若はもう1人の捕まえている方の分身にすぐに標的を変える。
離せと美羅の分身に顔面を殴りつけられると人間では関節を壊しても動かせないだろう方向まで首が曲がったが、意趣返しでもするかのように殴ってきた分身の頭を殴り返して首を同じ方向に曲げる──までもなく、耐えきれなかった美羅の分身の首がちぎれてボールのように吹き飛ばされた。
首が無くなった美羅の分身が消える。
これで4人。
座覇の強化は分身にまで及んでいるにも関わらず、その強化された肉体をガラス細工のように砕いていく力は子供でしかない外見にはあまりにも似合わない。
首が形状記憶合金でできているかのように、元の位置にすぐに戻る。
直後、背中を見せた隙を見逃さなかった風舞希の槍が伸びて玖若の体を貫き地面に縫い付けた。
「見向きもしないとは、舐められてますかね」
「ナイス、風舞希さん!」
そして風舞希の槍で地面に縫い付けられたことで動けなくなったところに、上空から急降下してきた夜雲が風を纏いながら直上から踵を玖若の脳天に叩き込んだ。
「これでもダメかぁ〜」
頭を踏み砕くつもりで叩き込んだ攻撃だが、手応えは芳しくない。
ほとんど有効なダメージにはなってないとすぐに判断し、捕まらないようにすぐに空へと上がって離脱する夜雲。
彼女の予想通り今の攻撃も玖若には多少表皮を切り銀髪を少し赤くし姿勢を前のめりにさせた程度で、まともなダメージが通っていなかった。
「これ貫くとか、流石だよね風舞希さんの槍は」
「フフ、恐縮です」
「喋ってる暇ねえぞ!」
自分の攻撃では皮を一枚切るのが精一杯だというのに、玖若の肉体を貫き地面に縫い付けた風舞希の槍の一突きへ賞賛を贈る夜雲。
夜雲の言葉をお世辞として、余裕の笑みで風舞希が受け取る。
そんな2人に喋っている暇はないと美羅が叱責を飛ばした直後、玖若が脚を伸ばして取った瓦礫の塊を風舞希達の方に投げ飛ばしてきた。
風舞希に槍を手放させるために投げつけられた瓦礫だが、そんなことは分かっていると美羅がその瓦礫を蹴りとばして風舞希を守る。
美羅に蹴られた瓦礫はボールのように飛んでいき、それを別の美羅の分身が再度蹴って方角を変えてまるでお返しだと言わんばかりに玖若の方へと飛ばした。
「…………」
動けない玖若はその巨大な瓦礫をクナドを開いて現世に飛ばすことで防いだ。
「なっ──!?」
「いまのって……!」
「そういうことですか」
そして、玖若の前に都合よくクナドが開いた──否、玖若がクナドを開いて瓦礫を現世側に飛ばした姿は3人の組長の目にもしっかりと確認できた。
現世と魔都を繋ぐ門。
それが動けない玖若を瓦礫から守るように出現した。
偶然出てきたものではない。そうだとするならば、あまりにも都合が良すぎるタイミングの出現だった。
玖若は現時点で、八雷神の中で唯一現世に出現し、醜鬼を呼び込んで被害をもたらした存在である。
そのカラクリが今まさに目の前に現れた。
クナドを扱う八雷神という存在がどれほど危険なものか、3人の組長達はすぐに思い至る。
クナドを操る姿に、美羅と夜雲は衝撃を受け、風舞希は冷静に北海道にて発生した大規模な魔都災害の理由を察した。
さらに玖若は己の背後にクナドを開き、槍から身体を抜いてその中へ入る。
「逃がすか!」
あれでは縫い付けられていても関係ない。
玖若が逃げるつもりだと感じた美羅が近場の分身に追撃させつつ、本体である自分も飛び出そうとしたところ、次の瞬間には3人の背後にクナドが開いた。
「後ろ!」
夜雲との戦闘の最中に、一瞬で視界から外れて背後に回り込んだカラクリもこれだった。
クナドを利用した瞬間移動。
それにいち早く気づいた夜雲が背後に音もなくいきなり出てきたクナド目掛けて竜巻を飛ばして、玖若を見失い背後への警戒が疎かになってクナドに気づくのが一瞬遅れてしまっている風舞希を風で拾い上げて急いで離脱する。
直後、クナドを介して出口側を巨大化させた玖若の拳が先程まで彼女達が立っていた一角を吹き飛ばした。
「ひゃっほ〜、いやぁ危なかった危なかった」
「感謝します、蝦夷組長」
「いーよいーよ、怪我とかなくてよかったし」
今のは本当に危ないところだったと、槍を構え直しつつ夜雲に感謝の言葉を送る風舞希。
それに夜雲は口調こそ軽い様子で返したが、内心では巨大化した怪力の拳が飛んでくるとは思っていなかったので、ヒヤリとしていた。
玖若は逃げたわけではない。
今の攻撃だけでも、それがわかる。
クナドを利用するというどこから出てくるか分からない敵に、風舞希と夜雲は自然と互いの死角を埋めるように背中を合わせた。
「出雲組長を相手にしているような気分ですね」
「確かに。でも、天さんに比べれば遅い遅い♪」
クナドを用いた瞬間移動。
天花の能力とは似ているが、転移動作そのものの速度は天花の方が早い。
隣り合う区域を担当する組ということもあり交流戦の機会も多く天花との模擬戦を通じて瞬間移動に慣れている夜雲は問題ないと口では余裕だが、クナドを利用する性質上自己の回避のみならず現世に攻撃を飛ばしたり、先ほどのように空間の歪みを利用した出口側の巨大化など、異なる性質を持つため別物として掛からなければいけないことは承知していた。
夜雲の推測する通り、玖若の扱うクナドの展開は無黒がテレポート女と称した空間を扱う天花の能力とは似て非なるものである。
二つの世界を繋げる門を作り、その転移先は玖若の自由。
自分や自分の触れているものが転移可能な天花の能力とは異なり、単純に自分に迫る攻撃を別世界に飛ばす盾として利用のほか、空に繋げれば翼がなくても空に上がることが可能であり、地面に展開すれば空中にいる時の足場の代わりにも利用できる。
逆に敵の足元に突然クナドを作れば落とし穴になるし、複数のクナドを繋ぐことで伸びる脚だけ別のところから出して死角から攻撃を行ったりもできる。
さらに小さなクナドを現世側の海の底に繋げれば、水圧によるウォーターカッターのような攻撃に利用したり、地底に繋げれば溶岩を出せる。
相手の体の一部だけをクナドに潜らせた状態で強引に閉じて仕舞えば一種の相手の体の一部だけ転移させた状況になるので容易く敵の体を切断させることもできる。
加えて玖若はこのクナドを平然と複数同時に展開できる。
まるでこんな使い方があるのだと示すかのように、美羅の分身を落とし穴に嵌め現世に飛ばしたり、ウォーターカッターや閉じるクナドで切り裂いたり、マグマを浴びせたりして次々に消していた。
やられれば消える分身とはいえ、吐き気を催すような死体に変える方法すらも顔色ひとつ変えることなく淡々のこなし、その結果にもまるで興味を示すことなくさらに作り出したクナドから出てきた玖若。
魔都に戻ってきた八雷神が出てきた先は背中を合わせる2人の組長の5メートルほど直上であり、さらにはその手に人が乗った車を掴んでいた。
「あれは──!」
それを躊躇なく2人に向かって投げ飛ばすとともに、クナドを再び潜って今度は2人の下側に移動する。
そこに細くクナドを広げて展開すると、その先に繋がる海底の水が水圧により勢いよく吹き出してきた。
さながら、水の刃物が作り出す壁。
2人が回避すれば車とその中にいる人間が犠牲になる状況。
「夜雲さんにお任せ!」
「お願いします!」
2人は一瞬で巻き込まれた民間人を守るために何をするべきかを判断し、夜雲は風舞希に纏わせている風を解除すると車の方に風を起こして、車と自分をウォーターカッターの壁の軌道から外す。
一方、風舞希は槍の穂先を玖若に向け、自ら上がってくる水の刃に向かって落ちていった。
「──ッ」
このままでは水の刃に切り裂かれる。
そんな予想を裏切り、風舞希は槍を水の刃にぶつけると同時にその衝撃を使って軌道から外れ、すかさず夜雲と車の方に狙いを定めていた玖若の頸を伸びる槍で貫いた。
喉元を貫く攻撃に玖若の標的が風舞希に移る。
槍で貫かれた首を180度回して後方へ向けると、自身の首に刺さる槍を掴んで振り回した。
「──甘い」
風舞希はすぐに槍を手放し、振り回されるのを回避する。
武器を手放したが、この槍は風舞希の能力によるもの。
伸縮だけでなく出したり消したりすることも自由自在であり、風舞希はすぐに槍を消すと再び手元に戻し、即座に人体では心臓がある位置に向かって槍を突き出した。
玖若の心臓が貫かれる──ことはなかった。
玖若もすぐにクナドを展開してその場から消えて貫かれる直前に槍を回避すると、次の瞬間には風舞希の背後に出したクナドから現れ咄嗟に頭を庇った風舞希の腕へ拳を叩き込み地面まで吹き飛ばした。
「風舞希さん!」
「無視してんじゃねえぞ!」
まるで弾丸のような速さで地面まで飛ばされた風舞希。
巻き込まれた一般人を安全に下すため距離をとっており、一瞬の出来事だったことから援護できなかった夜雲がその身を案じる一方で、空中に作り出した分身たちを足場代わりにして空に上がってきた美羅が玖若の顎をとらえた強烈なアッパーを叩き込んだ。
のけぞるどころか、吹き飛ばされそうになる玖若。
「逃さねえよ!」
「くたばれ!」
だが、逃しはしないと美羅がその脚を捕まえ、別の分身が上から槍で開けられた穴がまだ塞がってない首に対してギロチンドロップを叩き込んだ。
「逃さねえ、つってんだろ!!」
美羅の攻撃はまだ終わらない。
ギロチンドロップを叩き込んだ分身も玖若の頭と右腕を捕まえると、さらに別の分身が無防備な胴体にかかと落としを叩き込んだ。
「トドメだ!」
それだけやっても、美羅は放さない。
3人がかりで意識を無くしたのか抵抗する様子のない玖若を脳天から地面に落ちるように拘束し、3人分の体重も乗せて地面にそのまま落として叩きつけた。
「手応えがねえ……ハズレか」
だが、落下する音もない。
落下直前に玖若がクナドを開いて再び空中に移動し、今度は力ずくで3人かがりで捕まえる美羅の拘束を解き、2人は首を握り潰して消し、1人はそのまま放り捨てた。
手応えがなかったことから何らかの手段で地面への激突を避けたと察した美羅が落下するはずだったところに来た時には、すでに分身たちの拘束から逃れた玖若が体制を立て直し、クナドを用いた転移で夜雲の方──正確には巻き込まれた民間人の車の上に移動していた。
「そんなに夜雲さんと遊びたいのかなぁ?」
「制空権の制圧が目的」
「ダメダメ、そんな簡単にあげないよ!」
分身や槍を使わなければ上がれず風がなければ空中でも何らかの足場が必要な美羅や風舞希と違い、夜雲は自前の能力そのものが足場いらずの飛行を可能とする。
一般人を巻き込んだのも、誰かしらに荷物を負わせるため。
玖若の狙いは夜雲を先に潰すことで制空権を取ることであり、2人が地上に降りたところで自分に狙いを定めた理由を夜雲の方も察していた。
「結構揺れますけど、我慢してくださいね〜☆」
下手をすれば民間人に被害が出る。
夜雲は玖若を倒すのではなく車から追い払うため、殺傷よりも相手を吹き飛ばすことを目的とする突風を起こして車から玖若を吹き飛ばそうと試みた。
「…………」
それに対し、玖若は車の上で手をつき姿勢を低くする。
軽い体重でも吹き飛ばされないようにするつもりかと思った夜雲だが、彼女の予想を裏切り玖若は車の天井を破壊すると、中に乗っている民間人を力ずくで引っ張り出して放り投げ、夜雲の風に乗せて飛ばした。
「ちょっ──あッ!?」
玖若の行動に驚き、すぐに飛ばされた民間人を助けようと別の風を起こす夜雲。
しかしその一瞬で玖若から思わず目を離してしまい、その隙を見逃さなかった玖若の伸ばした脚に捕まってしまった。
玖若はそこで風に身を任せて夜雲を捕まえたまま車から離れる。
空中に出た玖若は脚を引き戻し、夜雲にラリアットを叩き込もうとしてきた。
「──そんなの!」
しかし、ラリアットを叩き込む直前に夜雲の身体の周りに一層強烈な突風が吹き荒れ、瞬く間に巨大な竜巻に変わる。
玖若は軽い体重のため簡単にその気流に飲み込まれ、バランスを崩しラリアットは不発。夜雲の身体を拘束する脚も解けて空高くに吹き飛ばされた。
「ちょっと今のは夜雲さんもヒヤリとしたかな」
玖若を吹き飛ばした夜雲は吹き飛ばされた民間人も、まだ中に人がいる天井を破壊された車の方も風を制御して落下を阻止しつつ、玖若を追い払うことに成功する。
「こっちは任せて」
「車は任せろ!」
玖若の討伐ももちろん重要だが、こうして魔都災害の被災者を守るのもまた魔防隊の責務。
飛ばされてしまった人の方には風舞希が地面に固定してから伸ばした槍に乗って保護に向かい、車の方には美羅が分身を向かわせた。
「なら、夜雲さんはあの銀髪ちゃんをメッしてあげますか!」
民間人の保護は2人に任せ、夜雲は自分を指名してきた玖若に狙いを定め竜巻になり上昇する。
「……脅威の認識不足」
そして、1人で向かってくる姿を見た玖若は。
敵と相対する最中に戦闘よりも第三者の保護を優先し戦力を一時的にとはいえ分散させるような行動に対し、人間たちにはまだ八雷神という存在に対する脅威の認識が足りていないと見なす。
人の身で八雷神と対峙することがどういうことか、認識を改めさせるべくクナドを手元に展開すると、風舞希が保護しようとした民間人を捕まえて手元に引き込んだ。
「また人質を──」
「否定」
また人質をとるつもりかと、すぐさまその民間人に怪我をさせないように風量を抑える夜雲だが。
「どうなってんだ──ぎゃあああぁぁぁ!」
その彼女の予想を裏切り、玖若は手元に引き寄せた民間人に対して、人質に使うどころか躊躇なくその身体に手を突き刺した。
「なっ──!?」
人質に使うのかと思いきや、躊躇なく背中から胸に穴を開けるという命に関わる重傷を与えた玖若。
その行動に驚き、とにかく放させなければと風を起こそうとした夜雲の目の前で、玖若は盾にするように民間人を前に出して牽制すると、悲鳴を上げるその男性の頭を掴んだ。
「ま、待って──」
民間人を盾にされたことに、思わず風を起こす手が止まってしまった。
そのわずかな間に、待ってと手を伸ばした夜雲の声を無視し、玖若の怪力は掴んだ男性の頭を果物のように握りつぶし、砕けた骨と組織の欠片、そして血を撒き散らした。
「────ッ」
「あの……クソ野郎が!」
その様子は、美羅と風舞希の目にも映っていた。
目の前で助けるべき命を奪われた上に殺された風舞希は静かに歯を食いしばり槍を握る手に力がこもり、美羅は激昂しつつも車に残った人だけは絶対に守り抜くとすぐに保護する。
「………………」
そして、降り注ぐ血の一部がかかり俯く顔にかかったことで赤い筋が描かれた、目の前で民間人を殺される瞬間を見せつけられた夜雲は、静かに顔を上げると無言で竜巻を3本玖若に向けて飛ばす。
「………………」
それをクナドを使って届くことなく消した玖若に、さらに竜巻がおそいかかる。
第二波の竜巻も新たに出したクナドで現世に飛ばすが、また別方向から次々と竜巻が襲いかかる。
物量で押しつぶすかのように次々に飛ばされてくる竜巻を全てクナドに飲み込み表情一つ変えることなく無言で消した玖若に、夜雲は顔を上げると口元に浮かんでいたはずの笑みすら無くした彼女にしては珍しく怒りを露わにした表情を浮かべた。
「望み通り総力戦で相手してあげるよ。魔防隊を怒らせたこと後悔させてあげるよ、八雷神!」
魔都災害の被災者が、間に合わず命を落とすことはある。
魔防隊では、救えなかった命に立ち会うことは少なくない。
だが、それでも目の前でいたずらに庇護するべき無辜の人民を殺されることは、彼女たちの許容の一線を踏み抜いた。