異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
一応、ここで五番組寮での戦いは決着になります。
日本にクナドが出現してより数十年。
特殊な個体も確認されている醜鬼は、例外なく人を襲う習性がある。
故に人類にとって、醜鬼は脅威であった。
八雷神が醜鬼に類する、あるいはその上位存在であれば、人間を害するとしても不思議はない。
接触以来、八雷神が絡んだ事件では魔防隊だけでなく民間人にも被害が出ている。
少女型の八雷神は三番組の隊員に、トカゲ型の八雷神は六・七番組の隊員に負傷者を出し、禿頭の八雷神は他者に憑依すると推測される力により民間人に死者を出した。
そして、少年型の玖若を名乗る八雷神も北海道にて現世側に多大な被害を出す魔都災害を起こし、今回も五番組の隊員に負傷者を出す被害を与えている。
しかし、八雷神が直接手を出した事件では負傷者こそでたものの死者は出ておらず、北海道の魔都災害もまた醜鬼を使って被害を出したものの玖若自身が直接手をかけたという形での死者は出ていない。
対話可能であれば、魔都の研究に役立つかもしれない。新たな資源を獲得できるかもしれない。利用可能かもしれない。
そんな政府の思惑もあり、戦闘を避けられない場合はともかく交渉可能であれば対話も辞さずという方針があった。
排除せずとも、障害になるわけでもない。むしろ保護に向かっている風舞希が一時的にとはいえ戦闘から離脱しているため、玖若側からすればわざわざ拉致して問答無用で殺す必要性など一切なかったはずである。
しかし、玖若を名乗る八雷神はその民間人をわざわざ捕まえ、そして人質に利用するわけでもなく彼女たちの前で殺した。
殺す理由などない相手を、この少年型の八雷神は殺したのである。
それを見た瞬間、3人の組長たちは理解した。
こいつは分かりあう事は絶対に不可能な存在であると。
存在する限り守るべき人々を、醜鬼の脅威から力ない人々を守るために戦う仲間たちを害する存在としてあり続ける脅威以外の何者でもない敵であると。
交渉などとんでもない。
相互理解が決してできない、人類の敵であることを。
何故わざわざ無力な、障害にならなくなった人を狙い、そして殺した?
魔防隊との戦闘に保護するべき民間人を巻き込めば、守るべき人を保護するために戦いに集中できなくなる。だから巻き込んだというなら理解できる。
しかし今手にかけた人はもはや何の障害にもならなくなっていたはず。殺す理由などないはず。
それでも手に掛けるというなら、この敵は醜鬼と同じ──否、知性がある分それ以上に存在を許してはいけない敵である。
「望み通り総力戦で相手してあげるよ。魔防隊を怒らせたこと後悔させてあげるよ、八雷神!」
「討伐失敗の代償は新たな犠牲者と認識せよ」
「絶対にさせないから!」
罪なき人を殺した報いを必ず受けさせる。
理由もわからずいたずらに命を奪われた人の無念を晴らす。
北海道にて発生した大規模な魔都災害の時にも出すことのなかった怒りの感情を露わにした夜雲に、玖若は討伐に失敗した時には新たな犠牲者を出すとさらに挑発し、その対象が美羅が保護した車に残されている人でありクナドの先に広がる現世にいる人たちであることを察した夜雲がこれ以上は絶対にやらせるものかと言い返した。
吠えるだけは守れない。
殺された人の悲鳴と夜雲が受けた挑発は、通信機を通じて風舞希と美羅にも届いている。
当然、これ以上の犠牲者を出さないためにもこの敵は必ずここで討伐してみせる。その意思は共通のものとなる。
足場に利用していたクナドを閉じ、頭の潰れた死体を掴んだまま重力に逆らうことなく落ちていく玖若。
落下途中に、その死骸を掴む腕に夜雲が鋭い鎌鼬となる風を飛ばし、肘を切り飛ばす。
薄皮一枚切るばかりだった時とは違う。規模こそ小さくとも、夜雲の感情が能力の出力に影響しており、その速さと鋭さは今まで放たれてきた刃を超え、躱すことも許さず通る間に血飛沫一つ零さずに飛び、肘を抵抗なく断ち切った。
遺体を持つ腕がポロリと落ちる。
まるで特大のメスで切ったような、丸太を電動ノコギリで切ったような綺麗な断面を残し離れ、その後に赤い血が溢れ出た。
「…………」
首を貫かれても痛がる素振りすら見せない玖若は、腕を切り落とされたことにも表情一つ変えることなく、遺体を掴んだまま落ちていく己の腕を無視し、さらなる追撃を警戒してクナドを用いて距離を取った。
「……助けられなくて、ごめんね。でも、これ以上貴方と同じ目に遭う人は出さない、無念も晴らすから」
「後は任せろ。もう、傷ひとつつけさせねえ」
「お願い」
離脱した玖若を追撃せず、夜雲は切り落とした腕に掴まれていた遺体を受け止める。
そして頭を無くしたことで顔すら失った遺体に助けられなかったことを謝罪し、残された家族と思われる同乗者は必ず守ると、玖若を倒して無念を晴らすことを誓って、美羅の分身にその遺体を預けて空へと再び上がった。
その目はすでに移動した玖若を捉えている。
玖若がクナドを開いたのは、半壊状態の五番組寮の屋根の上。
クナドを潜る間に落とされた腕の傷口は塞がり、既に新しい腕が形成されている。
やはり今の攻撃すらまともなダメージには至っていない。
だが、それがどうしたと。頑丈でも、すぐに再生されるとしても、玖若の身体を傷つけることはできるし、傷からは血が流れる。
神を名乗ろうと、傷がつくならば、命があるならば、この敵は必ず倒せる。
そして、必ず倒さなければならない敵である。
「逃さない! 美羅!」
「分かってる! 歯ぁ食いしばれやゲス!」
五番組寮に向かう夜雲からの呼びかけに、美羅が応える。
寮の屋根に飛び上がった美羅が勢いそのままに横からドロップキックを玖若の側頭部に叩き込み蹴り飛ばし、吹き飛ぶ玖若を屋根から落ちる前に分身を使って美羅の方に蹴り返させた。
「もう一発だ!」
さらに美羅は新たな分身を展開。
分身に蹴り返されて上下反対になり飛んできた玖若に、分身は回し蹴りを腹部へ、美羅本人は肘を顔面に叩き込む。
直後に蹴り返した方の分身が助走をつけて背中に右ストレートを打ち込んで玖若の身体をくの字に折り曲げた。
「まだまだぁ!」
それでも止まらない。
玖若の頭を捕まえ屋根に叩きつけ、分身2人で背中を踏みつけながら美羅は玖若の顔面を削るように屋根に顔を押し付けて引き摺り回す。
寮の屋根の端まで引き摺り回してから、最後はエルボードロップを後頭部に叩き込んだ。
美羅の渾身のエルボードロップは、玖若の頭を寮の屋根にめり込ませるだけでは収まらず、その衝撃で屋根を破壊し玖若を屋内に落とす。
落下して床板に叩きつけられた玖若だが、休む暇など与えないと飛び込んできた美羅の分身がその背中を踏みつけ、さらにその衝撃で床板も破壊しもう一階分下に落とした。
それでも痛がる様子ひとつ見せない玖若は、脚を伸ばして踏みつけてきたミラの分身の首を捕まえて投げ飛ばす。
「舐めんな!」
壁を破壊して外に放り出された美羅の分身は、しかしそれではやられてやらないと言わんばかりに空中で体制を立て直し、飛ばされた先にあった木の幹を足場にして跳躍して、上からの追撃に意識を切り替えようとしていた玖若の体にドロップキックを叩き込んだ。
美羅の分身のドロップキックにより吹き飛ばされた玖若は、壁を破壊して別の部屋に転がる。
ドロップキックも吹き飛ばされこそすれどもやはり大したダメージはなくすぐに起き上がる玖若だが、その頭上に屋根と天井を突き破ってきた旋風が落とされた。
衝撃を伴う暴風を受け、再び床に打ち付けられる玖若。
暴風はそれでは済まさず、この部屋の床板も破壊し一階へ玖若をたたき落とす。
玖若が落下した先は、五番組寮の正面玄関。
旋風の中を走る風によって背中や手足に無数の切り傷をつけられながら、硬い土間に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせるほどの勢いで叩きつけられる。
「…………」
「──捉えた」
それでもなんともないかのように平然と立ち上がった玖若だが、直後に背中から胸部を風舞希が伸ばした槍によって貫かれた。
「蝦夷組長、お願いします」
「おっまかせ!」
すかさず風舞希は手元で槍を回すと、十文字槍の枝刃を返しがわりにして槍を縮めることで玖若を引き寄せ寮から外に引っぱり出す。
玖若の方は特に抵抗せず縮む槍に従って風舞希の方に引きずられていき、外に出たところで降ってきた夜雲からの竜巻の直撃を受けた。
「まだまだ行くよ!」
更に二発、三発と、竜巻を玖若に落とす。
地面を抉り、舞い上がった砂や寮の瓦礫を巻き込んで吹き荒れる竜巻は、風舞希が槍を手放したことで固定を失った玖若も巻き上げる。
「乗って美羅!」
「遠慮するな、全力で飛ばせ!」
「オッケー、フルスロットルで飛ばすよ! 制御は任せなさい!」
竜巻を止め、空中に放り出された玖若に、今度は夜雲が風に乗せた美羅達が次々と弾丸のように飛ばされてきた。
「テメェはフクロだ!」
そこからは息をつかせぬ怒涛の攻撃の嵐である。
夜雲の風に乗って四方八方から飛んでくる美羅から殴られ蹴られ、美羅の言葉通り空中という自由に動けない場所で袋叩きにされる玖若。
分身能力を活かし多数の手数を揃える美羅を、夜雲が高速で飛ばしてさまざまな軌道から絶え間なく攻撃してくるため、クナドを盾として展開しようにも夜雲が飛ばす美羅のスピードに対応できず、回避しようにも殴られ蹴られで吹き飛ばされまくるため空中で足場を作る間も与えられず、反撃はおろか体勢を立て直すことすらできない。
「…………」
その中でも玖若は夜雲の方にクナドを開き、海中にでも繋げたのかそこから水を大量に放出してきた。
「おっと、危ない危ない」
しかし、それはすぐに夜雲が回避したことで単なる悪あがきで終わってしまう。
その上美羅達を飛ばす風の制御にもなんら影響は与えられず、玖若に対する攻撃が収まることはない。
「させねえ!」
「甘い!」
ならばと悪あがきに殴られ蹴られしながらも脚を伸ばし、美羅の攻撃に晒されつつも無理やり夜雲を狙おうとするが、すかさずその足を美羅の分身の1人が捕まえ、振り落とす間も与えず風舞希の槍が伸びて切り落とした。
「反撃なんざさせるか!」
ならばともう一方の脚を伸ばそうとする玖若だが、それを夜雲の風に乗る美羅が許さない。
反撃する暇も与えないと、夜雲の巨大竜巻を起こそうとも巻き込み事故ゼロの精密に制御された風に乗り、次々に増え続ける美羅からの絶え間ない攻撃が玖若をボコり続ける。
空を飛べないため姿勢の制御もできない空中で四方八方から飛来する美羅に殴られ蹴られで落とされることもなくぶっ飛ばされ続ける玖若は、ボールのように飛ばされ続けるしかない。
夜雲の風に乗って捉えられない速さで飛び回る多数の美羅から来る軌道もタイミングも予測できない攻撃の嵐は、クナドを利用した盾や足場を展開する暇さえ与えなかった。
50人近くの分身を出し夜雲の風に乗ることでミサイルのように高速で飛び回りながら離脱と急接近から攻撃を繰り返す美羅と、その美羅達を1人もこぼすことなく事故を起こすこともなく飛ばして制御している夜雲。
一朝一夕にはできない、魔防隊として違う組を率いる組長同士ながら幾度も訓練や実戦でくつわを並べ互いの能力を理解して連携を積み重ねてきたからこそできる息のあった二人三脚の攻撃である。
それに晒された玖若は、組長たちが敵の能力を把握して本気で玖若の討伐だけに注力してきたことにより魔防隊の最高戦力の強さに直面することとなり、先ほどまでの一進一退の攻防から一転して一方的にやられ続ける状況に陥っていた。
しかし、それでも美羅の拳は決定打にならない。
玖若の頑強な肉体は夜雲の風も、美羅の拳も、表面を傷つけることはできても深く突き刺さる致命的なダメージを与えることができなかった。
だから、2人は連携で絶え間ない攻撃を続けることで玖若に反撃も、そして回避する余裕も与えないようにする。
もう1人の組長──玖若の肉体を破壊し貫くことができる決定打になり得る武器を持つ風舞希に、その一撃を与える機会を作るために。
「狙い良し。行けます、2人とも」
「待ってましたよ風舞希さん!」
「ぶちかませ!」
「穿て────」
──
突き、薙ぎ、払い、打ち下ろし……人類にとって、多様な攻撃手段を持つ槍という武器は石器時代より使われていた最も古い武器の一つである。
これら多様な使い方を可能とする槍という武器だが、その最も効果的で強力な攻撃方法は、人間という生物の肉体の構造に適した“投擲”である。
それまでの槍の長さを自在に変える特性を活かした刺突ではない。
伸縮自在の性質を持つ風舞希の能力である槍“
2人の後輩の組長から決定打を託された風舞希は、投げるのに最も適した長さに調整した槍を空へ──風に巻き上げられている玖若目掛けて投げ飛ばした。
風舞希の手から放たれた槍は、夜雲が風に乗せることで加速した上に、螺旋状の風を纏ったことで回転しさらに速度を上げていく。
「────」
そして、その槍を玖若も確認していた。
当然である。
いかに美羅の怒涛の攻撃を受けようとも、そのダメージを苦痛として感じることはない玖若の意識は、足を切り落としてから戦闘に参加していないもう1人の組長にも向けられていた。
美羅の拳でも、夜雲の風でも穿つことができない肉体を容易く貫いてくる槍を、それを駆使する致命傷を与えられる可能性がある組長から警戒を外す筈がなかった。
だが、回避できない。
美羅の攻撃によって振り回されている玖若には、夜雲の風の制御によって必ずこの身に届く軌道を描いてくるだろう槍に対して対応する余裕がない。
ならばと、直撃するところでクナドを自身の前に展開することでその必殺の一撃を回避することを選択する。
美羅の攻撃を受けつつも、大したダメージにならないそれは無視して、風舞希の投げた槍だけを注視する。
ライフル弾のように回転して高速で飛んでくる槍。
美羅に殴られながらもその軌道を見極め、クナドを開き風舞希の槍を現世側に飛ばそうとして──
「ここで急カーブ!」
──形成されたクナドを通過する直前、槍を加速させている夜雲の風が槍の軌道を曲げてクナドを回避した。
「美羅!」
「応ッ! オラ、食いやがれ!」
「────!」
急に変わった軌道を捉えきれず、クナドの盾は避けられる。
さらにその軌道変更を予知していたかのように、槍が飛んだ先にいた美羅が夜雲の声に応えて槍を捕まえると、勢いを殺さずその場で回転して玖若目掛けて投げつけた。
美羅を経由して投げつけられた風舞希の槍が、夜雲の風の軌道変更で見失ってしまった玖若の後頭部に直撃し、回転する穂先がドリルのように肉と骨を抉って頭の上半分を吹き飛ばした。
だが、頭部を上半分消し飛ばされるという普通ならば即死の致命傷を受けながらも、玖若は死なない。
そして、現世ですら頭を失っても少しの間生きていられる生物もいる中でこの神を自称する敵が滅ぶはずがないことは、彼女たちも察していた。
「終わらせないよ!」
だから、終わらせない。
夜雲が風で舞い上げ──
「テメェはここで落とす!」
美羅が貫いた槍を拾い──
「悪戯に命を奪った罪──」
槍を投げた後、2人の組長の協力でこの場に上がってきた槍の持ち主である組長が、託された決定打となるトドメの一撃を穿つ。
「──贖いなさい、八雷神!」
頭部を半分失った玖若に風舞希が再度槍を投げつけ、その腹部を穿ち胴体を上半身と下半身に引き裂いた。
「────ッ!」
それは、苦痛に耐えきれずこぼれた悲鳴か。それとも頑強な肉体を穿たれあまつさえ二つに分けられたことに対する驚愕か。
或いは、死に向かう恐怖からくる慟哭か。
いずれにせよ、その攻撃を受けた玖若は明らかに今までの無機質な様子からはかけ離れた苦悶の形に歪めた口から声にならない悲鳴を出して、クナドを作ることもなく脱力した状態となり重力に逆らうことなく落ちていった。
ポロポロと、下半身が砂のように形が崩れて小さな粒となり、そしてその粒もろとも溶け込むように消えていく。
上半身は崩れることはなかったが、動くことなく落下していき、そして美羅の分身を嵌めた時にクナドを使い落とし穴として開けた、底が見えない穴へと呑み込まれていった。
「テメェの殺した人達に地獄で詫びろクソ野郎」
……以上、VS銀髪オッドアイの後半(結局ほとんど空中戦)でした。