異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
前半は今回の玖若戦の顛末、後半は人型醜鬼達の隠れ里になります。
八雷神玖若および特殊個体2体を始めとする複数の醜鬼の群れによる魔防隊五番組寮襲撃事件。
組長会議の開催中により五番組組長の蝦夷夜雲が不在である隙をつく形で起きた今回の襲撃は、五番組寮の半壊と、魔防隊五番組所属の隊員2名と五番組寮管理人の負傷者3名、そして巻き込まれた民間人の死者1名という被害を出し、救援と八雷神討伐のために派遣された3名の魔防隊組長によって襲撃してきた八雷神と醜鬼の群れを殲滅する形で終結した。
3名の組長と交戦し、頭部を破壊し胴体を両断された玖若は、粒状に崩れて消滅。死体は残らなかったが、状況から討伐は確実に成功したものであると判断された。
八雷神を倒すことができた。
総組長の山城恋が宣言した通り、確かに強力な敵ではあるが、組長であれば八雷神でも討伐することができることが証明された。
被害の方も数千人の被災者を出した北海道の魔都災害と比較してはるかに小さなものに抑えることができた。
まさに魔防隊の勝利と言える結果だろう。
だが、その偉業を達成した3人の組長たちはその勝利を喜ぶことはなかった。
救出することができたもう1人の巻き込まれた民間人は殺された男性の娘で、身内の訃報を聞かされた時、それを伝えにきた風舞希に涙を流しながら訴えた。
──どうして助けてくれなかったの
──助けられないなら、せめて一緒に死なせてほしかった
魔都災害に巻き込まれた人々に犠牲が出た時、そしてその遺族の嘆く声を聞いた時。
魔防隊員にとって、醜鬼を相手に命懸けの戦いをする以上に、自分達の力不足を突きつけられるように感じるこの時間の方が辛いと感じるものは少なくない。
助けられたかもしれないのに助けられなかった。
八雷神を討伐し仇をとったことなど何の慰めにもならない。
同僚たちから、仲間たちから、家族から、そして世間から彼女たちの偉業は大いに称賛された。
だが全ての賞賛の声よりも、3人の組長たちには助けられなかった罪なき人の遺族の悲痛な声の方が重く響いていた。
失った命を取り戻すことはできない。
自分たちにできるのは、もう決して彼女のような悲しい思いをする人を生まないために、八雷神と醜鬼たちから人々を守り、そして勝つことだけだ。
魔都、某所────
魔都には醜鬼の他に、魔都において桃を摂取した人間が稀になってしまう“人型醜鬼”と呼ばれる存在がいる。
魔都の資源の有用性を利用したい日本政府は、魔都の桃の危険性を隠して安全であるという信用を守るために人型醜鬼の存在を隠蔽しており、その多くを魔都の研究機関である陰陽寮に治療の名目で監禁していた。
一方で、陰陽寮の手から逃れた人型醜鬼も少数存在しており、日本政府の目が届いていない魔都の僻地の洞窟などに里を形成して、日本政府から姿を隠して暮らしていた。
そんな人知れずひっそりと生きている人型醜鬼達だが、ある日のこと彼女達の村の近くに小規模なクナドが開くと、そこから血まみれでボロボロの銀髪の年端もいかない少年が出てくるという事があった。
少年が通過しその場に倒れた直後に、クナドはまるで役目を終えたと言わんばかりに短時間で消滅する。
うつ伏せに倒れ込んだ少年は動かなくなり、その場に赤い血溜まりの池を形成していた。
「ちょっ!? だ、大丈夫!?」
この少年が何者かわからない。
日本政府からの刺客かもしれないし、魔都の資源を狙う海外のテロリストや犯罪組織の人間かもしれない。
あるいは、魔都災害に巻き込まれただけの普通の人かもしれない。
だが、いずれにせよ正体不明の人物を──たとえ子供であっても──接触したり助けたりするなど、彼女達にとっては非常にリスクの大きいこと。
なのでこんな素性もしれない、助けるからなど当然ないはずの子供など、このまま出血で死ぬのを待ってから里から遠ざけ死体を醜鬼の餌にすれば里の存在も知られることなく始末できるが、それをこの里のまとめ役をしている人型醜鬼は選ばなかった。
自分たちが隠れなければならない危うい立場にいることなどお構いなしに、その人型醜鬼──
「待って、青羽姉さん! そいつが誰かもわからないのに──」
「そんなことは後でいい! とにかく治癒の能力を!」
「敵かもしれないんだよ! 魔都に、それもこんな場所に大怪我して出てくるなんて明らかに普通じゃないよ!」
「この子は今死にかけていて、私たちしか助けられないなら、私は迷いなく助ける! 敵だったら私がどうにかするから!」
「わ、わかった……どうなっても知らないから!」
それは、彼女の善性が単純に目の前の死にかけた命が消えることをよしとしなかったからの選択。
相手の素性など関係なく、怪我人なら誰だろうと助けるという、人として尊ぶべき善性からくる選択であり……そして、悪辣な手段を行使する輩の思惑を考慮しない純粋さからから選択だった。
だが、彼女はただの勘だがこの少年が敵とは思えなかった。
そして、もし敵だったとしても、助ける選択をしたものとしてけじめ──つまり里の隠匿のために始末しなければいけない相手だった時には自分が手を下す覚悟も持っていた。
だが、その少年は人間ではない。
ましてこの少年の姿をした存在は敵とは思えなかったなどという勘は大外れ。外見だけ人の姿を模した、中身は彼女達の大切な仲間を攫った神を自称する存在の同輩の人外であった。
青羽の一存により、敵だった場合は彼女が責任を持って始末するということで少年の姿をしたソレを助けた隠れ里の住人達。
その出会いは幸運か、それとも────