異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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ドッペルゲンガーに捕まったら神サマを自称する化物に食べられてしまった件
35話


 

 ──泣いてる暇があるなら立って戦え……! 女の泣き顔で手心加える敵なんざいねえんだよ! 戦いより優先することがあるやつが、戦場に来るな! 

 

 ──悔いることも、弔うことも、悲しむことも、戦の後ならばいくらでもできる。だが、敵を討つことは今しか出来ず、今しなければならないことだ! 後悔を重ねる暇があるなら立って戦え、出来なければ別の大事なものを取りこぼすぞ! 

 

 ──この分からず屋が! 俺を見捨てろと言ってるだろうが! 足引っ張った上に守らせて仲間に巻き添え出させる苦痛なんざ味わいたくねえんだよ! 行け! 

 

 ──戦士が流すのは血だけにしろ。貴様の泣き顔など見苦しいだけだ、反吐が出る。勇者の死を悲哀の涙で侮辱するな! 

 

 ──戦場ってのは、誰もが持ち、誰もが最も大事とする己の命を賭け金に、勝利を手にするため集った者達の殺し合いの舞台だ。そこには卑怯も同情もない。栄誉だ偽善だなんてくだらないプライドは捨ておけ、殺意と闘争本能以外は不純物さ。

 

 ──外道? 下劣? ククク、勝者の前では負け犬の戯言よ! ここは戦場、あらゆる非道が許される殺戮の舞台! そこで消耗される命に優劣も貴賎なんてものもないのだよ、救世主サマ〜ッ! 

 

 ──崇められる気分はどうだった? 偽りの感謝を向けられる気分は? そして、こうして騙され無様を晒す今の心境はどうなのか教えてほしいかな!? 

 

 ──人の世界の争いに土足で踏み入るとは無粋なり。猊下と信仰に仇なす罪、死すら救いと思える厳罰に処す。覚悟せよ! 

 

 ──おお、偉大なる我が神よ! さあ、万人に救いを! 世界に平和を! 命の檻より悲しき者達をどうか自由に! 

 

 ──故郷など知ったことでは無い。我らは我らがため、この星を侵略する。道理を説こうと通じぬぞ、拒絶するというならば力を示せ! 

 

 ──気狂いども相手に殺し合いをするんだ、まともな精神でやってられるか。どれだけ非道だろうと、勝つためならなんでもする。

 

 ──お前のせいだ。お前のせいであの子は死んだ! 町が滅ぼされた! お前さえ来なければ……何が救世主だ、この殺戮者め! 償え、お前の命で償え! 

 

 

 

 

 

「────ッ!」

 

 ガバッと飛び起きると、そこは異星の大地ではなく、そしてネットカフェの部屋でもなく、どこかの病院らしき知らない部屋でした。

 

 心臓は寝起きとは思えないほどバクバクと激しく鼓動を刻み、短距離走を終えたばかりのように息は切れて、着替えた記憶がない病衣は寝ていただけなのにやたらと出ていた汗でぐっしょりと濡れてました。

 

「うわ、汗が……変な夢でもみてたのかな?」

 

 多分、何か悪夢みたいなのでもみてたんだと思います。

 最近少なくなってきたはずだけど、環境が変わったせいかな……? 何を見ていたのかは起きたら忘れちゃったけど、これだけ寝汗かいちゃうなら相当怖い夢だったんだと思います。ホラー映画とか最近見てないのに……。

 

「うう、流石に気持ち悪いし体拭きたいんだけど……そもそもここどこ?」

 

 寝汗でぐっしょりと肌に引っ付いている病衣が気持ち悪いし、汗が冷えて寒いので、とりあえず体が拭きたい。

 どうしてこの見知らぬ部屋で入院している患者みたいな状態で寝ていたのか分からないけど、それはひとまず置いておきます。まず体を拭きたいです、気持ち悪いし寒いので。

 

 早朝なのか薄暗い部屋の中で側にあった棚の上にあったタオルを借りて、病衣を脱ぎ体を拭いていきます。

 使ってみて初めて知ったけど、このタオル柔らかくて肌触りのいい勝手に借りて汗を拭くのに使ったことに少し罪悪感を抱いてしまうほど良質なものでした。

 

「……あー、うん。なんとなく思い出してきた」

 

 体を拭きながら寝る前の記憶を掘り返していたら、だんだんと何があったのか思い出してきました。

 

 たしか五番組寮で組長会議に出席するため夜雲さんが出て行った後、あの銀髪オッドアイがツチノコみたいな醜鬼を引き連れて襲ってきて、サキさんに助けてもらいカイコさんに助けを呼びに行ってもらって、僕は銀髪オッドアイの足止めのために戦って、結局負けて気絶させられたんだった。

 

 でもカイコさんと寮からダイブした時に骨までやっちゃった怪我とかは完治していること、牢屋とか監禁部屋とかいうよりは病室みたいな部屋に寝かされていたことから推測するに、銀髪オッドアイに捕まったのではなく魔防隊に保護され治療してもらった可能性の方が高そうです。

 サウザンドレイ・ペガサスがカイコさんを別の魔防隊の拠点に送り届けたことは分かっていたので、そこから援軍を呼んでくれたのでしょう。

 ならばひとまず、時間稼ぎの役目はなんとか果たせたみたいですね。

 

 まさかあのクソガキシルバーがわざわざ僕のこと治療するとは思えないし、この世界の異物である僕のことを調べるのが目的で、見事に高度な誘導尋問により自白してしまったことで正体を知ったので、目的は果たしたからと命までは取らなかったとかいうことかも? 多分。

 

 ……でもあいつ絶対性根が腐っているだろうから、見逃したというよりもカイコさんが呼んだ魔防隊の皆さんとの戦いを嫌がって逃げたとかの方が可能性高いかもしれないですね。

 クールぶってるわけではない銀髪オッドアイの尻尾巻いて逃げる姿を拝めなかったのは残念だけど、今回は地面に頭突っ込む無様な姿にすることができたしこのくらいで許してやろうじゃないですか。

 ……なんか思考が小物になってきた。もうやだ、アイツのこと考えるのは一旦やめましょう。覚えてないけど、こんな寝汗かく夢見せられたのも多分アイツのせいだ。全部あの銀髪オッドアイのせいにして、一旦忘れることにします。

 しばらく出てくるな疫病神! 

 

 そう、銀髪オッドアイはもうどうでもいい。

 それよりも重要なことがあります。

 

「サキさん大丈夫だったかな……?」

 

 ひとまず自分は助かった。それはわかりました。

 そうなると……そう、カイコさんに毒を盛ったツチノコもどきと戦っていたはずのサキさんの方が無事だったかどうかが心配になってきました。

 降りてきたのが銀髪オッドアイで、あの時は寮の上の階でも戦っている音が聞こえていたから、銀髪オッドアイにやられたとかいうことはなくツチノコもどきと戦っていたんだと思うのですが……。

 

「ナースコールみたいなのは、無いか……人がいないか探してみようかな」

 

 タオルの置いてあった棚の引き出しに新しい病衣があったので、とりあえず汗を吸った病衣からそちらに着替えます。

 

 知らない天井ですが、自分の置かれた状況から病院みたいだし、もし怪我をしているならサキさんも近くにいるかもしれない。

 とりあえず人を探すことと、サキさんの無事を確かめるためにまずは部屋の外に向かおうと思います。

 

「どこへ行くつもりか、盟友よ」

 

 というわけで部屋から出るため扉の方に向かおうとしたとき、後ろから聞きなれた声がかかりました。

 僕のことを盟友と呼ぶのは彼だけです。

 

「ブラント──って、なんでベッドの下から?」

 

 その声を聞いてブラントも無事だったことを知ることができ、銀髪オッドアイとの戦いではサキさんに助けを呼びに行ってもらったりとたくさん助けられたことのお礼も言いたくて、その声の方を振り向くと──今はぬいぐるみとなったブラントは何故か僕が先ほどまで寝ていたベッドの下から顔を出していました。

 

「うむ、起きたことには気付いたがポートちゃんが突然服を脱ぎ出す故に声をかける機を窺っていたのだ」

 

「なんかゴメン……」

 

「気にせずともいい。我は──当たり前のように抱き上げるな」

 

 話を聞けそうな相手が見つかったので、部屋から出るのはやめてベッドの下から出てきたブラントを拾い、先ほどまで寝ていたベッドに座りました。

 もちろんブラントは横に置かず僕の膝の上に持ってきます。抗議してくるけど、聞き入れません。抱き心地がいいから落ち着くんだよね。

 

 ブラントは僕が起きたことには気付いていたけど、体を拭くため服を脱いだので声をかける機会を窺っていたとのこと。

 ちなみに埃がつくのも構わずベッドの下にいたのは、カイコさんなど事情を知る人以外が来た時に動く姿を見られないようにするためだったとのことです。

 盟友の気遣いが嬉しい。お礼に埃を一つ一つ丁寧に取ってあげます。毛繕いしているみたいで楽しい。

 

「我をぬいぐるみ扱いすなと何度言えば理解するのだ……」

 

「でも今はどう見てもぬいぐるみだよ。抱き心地もちょうどいいし、抱き枕に──」

 

「してくれるな」

 

「まだ言い終わってないのに……」

 

 ブラントはぬいぐるみ扱いを嫌がるけど、今のブラントは紛うことなきぬいぐるみなのでぬいぐるみ扱いするのは当然です。

 ただし抱き枕の要求は拒否されました。

 

 本命じゃ無い話はひとまずここまでにして、ブラントを膝の上に置き抱きかかえた状態で本題に移ります。

 バタバタしてまだちゃんと言えてなかったけど、ブラントがあの時サキさんに教えてくれなければ、僕は毒で動けなくなっていたカイコさんを助けられず僕自身もどうなっていたかわかりません。

 だから、改めて。ブラントに命を助けてもらったことのお礼を伝えます。

 

「聞きたいことたくさんあるけど、まずはこれ。ちゃんと伝えてなかったからね。ありがとう、ブラント。君のおかげで僕は助かったし、カイコさんも助けることができました」

 

「礼はあの娘にせよと言ったはずだ、我には不要である」

 

「確かに言われたね。でも僕が助けられたことに変わりはないし、ブラントには感謝してる。だから必要ないって言っても、僕は命を助けられた恩を必ず返すよ」

 

「……友を助けることをいちいち恩義として受けるな。どうしてもというならばあの娘にすることだ」

 

「やばい、盟友がカッコ良すぎる……! な、ならさ、そのサキさんがどこにいるか、無事なのかどうかって知らない?」

 

 ブラントがサキさんの話題に触れたので、そこで僕はあの戦いの後に気絶させられてからの顛末今1番気になっているサキさんの安否について尋ねます。

 ブラントはサキさんの居場所も知っているようで、ベッドに座っている状態から見て前の、扉のある壁の方に片手を向けました。

 

「娘ならば通路を挟んだ向こうの部屋にいる。ポートちゃんと同じくケガをしているが、命に別状はない。今日には退院できると聞いている」

 

「そっか……良かったぁ〜」

 

 サキさんは負傷したものの無事だったとのことで、安否を聞いて胸を撫で下ろしました。

 僕だけ助かったとか言われたら後味悪すぎます。

 

「全く、起きて最初の懸念が他者の安否とは……少しは己を優先せよ」

 

「いやあの状況なら誰でもサキさんのこと心配するって。それに僕、結構自分優先な性格だよ?」

 

「自分優先な輩が他者を逃す時を稼ぐために傷一つつけられぬ脅威に1人で立ち向かうものか。我もカイコも、戦う術のあるサキよりポートちゃんの方がよほど心配だったのだぞ」

 

「うっ……それは本当にごめんなさい」

 

 サキさんのことを心配していたら、ブラントに叱られました。

 確かに、僕がブラントやカイコさんの立場だったら、彼の言う通り醜鬼と戦えるサキさんよりもツチノコもどきより強いだろう銀髪オッドアイ相手に傷ひとつ与える手段もないくせに足止め買って出て立ち向かった僕の方が心配になります。

 あの時は銀髪オッドアイの狙いが僕だったこともあり、カイコさんを逃して僕が残るのが最善だったし他に選択肢なんてなかったけど、傍から見れば勇敢と言うより無謀ととられてもおかしくないので。

 

 ブラントの言から察するに、カイコさんにも相当心配をかけてると思います。

 カイコさんからすればサキさんは醜鬼と戦い慣れている魔防隊員としての信頼もあるけど、僕なんか異星で戦った救世主だといっても醜鬼相手にどれだけ戦えるかなんて知らないから信頼無かっただろうし。

 会えたら謝っておかなければ。

 

「でも、銀髪オッドアイ相手にこうして生き残って見せたんだし。次からは醜鬼相手に足止め役くらいできることが証明されたから──」

 

「それは無いぞ」

 

「えぇ……」

 

 方々にご心配をおかけしたものの、今回の件で銀髪オッドアイ相手にも足止めくらいはできることが証明されたし、今後は戦闘に巻き込まれても心配されることはなくなると思ってたら、ブラントが全否定してきました。

 そして呆れるようなため息をついたブラントが膝の上に立つ形で僕の方に向き直り、僕の頭をワタが詰まった柔らかい手で叩いてきました。

 

「愚か者が、何ひとつ反省しておらぬではないか」

 

「うん、これはご褒美」

 

「ふざけるでない」

 

「は、はいごめんなさい」

 

 見た目はぬいぐるみだけど、ブラントの声は静かながら低くて強い圧を含んでいる本気で怒っているぞと言う声でした。

 これはガチ説教する時の声です。どうやら僕はブラントを本気で怒らせてしまっているようです。

 ブラントから見ると僕が全然反省していないようで……これでも心配かけたことは本当に申し訳ないと思っているのですが……。

 

 ガチ説教モードのブラント相手に、流石に今回は抱きついたりするべき場面ではないと察し、大人しくお説教を受ける姿勢をとります。

 腕組みをしているブラントは、僕が何を理解せず反省していないか、何に怒っているのかを静かに、しかし圧強めの低い声で説きました。

 

「盟友よ、起きる前の最後を覚えているか?」

 

「銀髪オッドアイと戦って、質量保存知らない攻撃でやられてから踏みつけにされて……多分だけど、最後は頭蹴られて気絶させられたんだと思います……」

 

「つまり負けたのだな?」

 

「は、はい。情けないことに……」

 

「……負けてから気絶させられるまでの間、夜雲達は来たか?」

 

「来ませんでしたね……」

 

「銀髪オッドアイが殺す気であったならば、其方はどうなっていた?」

 

「死んでましたね。殺す時間はあったし──」

 

「それでよくも次からは足止め役くらいこなせるなどと言えるな! 死んだ命は帰らず、それが残されたものにもどれだけ傷を与えるか、異星であれだけ戦い見てきたのに何故理解せぬか!!」

 

「うわわわ!? ごめんなさーい!!」

 

「その上盟友には帰るべき世界があり、会うべき者が、家族がいるではないか!」

 

「は、はい、います!」

 

「生きているのが幸運以外の何ものでもない、次同じことがあれば今度こそ死ぬであろうことこそ証明されたというのに、それでも醜鬼どもと戦えると? そんなことを言われ、周りが納得すると思うか!?」

 

「納得しません、絶対ダメって言いますよねそれは!」

 

「この世界に来た初日も夜雲に助けられなければ死んでいたのだぞ! 戦う術のあるこの世界の住人でも命懸けで対峙する醜鬼に、傷一つ付けられぬ其方が足止めくらいはできると? この世界の戦士を侮辱する世迷言である!」

 

「はい全くもってその通りです……」

 

「少しは己を大事にせぬか愚か者がぁ!!」

 

「すみませんすみませんホントすみません!」

 

 ぬいぐるみになってもさすが遊星の王。

 雷が落ちる幻覚が見えたガチ説教に、僕はいつの間にかベッドの上で土下座して反省していました。

 

 でも、確かにブラントの立場になってみればこれだけ説教したくなりますよね。

 なので怒鳴られるのも全面的に納得できるし、今回は本当に申し訳なかったと猛省しました。

 

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