異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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36話

 

 ブラントからきついお叱りを受けた後、騒がしくしすぎたためか何事かと看護師さんが来る騒ぎになってしまいました。

 ギリギリでブラントを隠したのでバレなかったですが、気付くのがあと少し遅かったら生きたぬいぐるみという摩訶不思議な存在を知られることになる……いや、ならないか。僕がぬいぐるみ相手に話しかけ騒ぐトチ狂った痛々しいヤツ認定されるところでした。

 それに魔都の桃の能力なんてものがある世界だし、動いて喋れるぬいぐるみがいたとしても受け入れられる可能性もありますから。

 

「病院ではお静かにお願いします」

 

「……申し訳ありません」

 

 結局病院で騒ぎすぎ、他にも入院している患者が──例えば隣の部屋にいるサキさん──いるのでお静かにと、看護師のお兄さんにお叱りを受けることになりました。

 ……本当に申し訳ありません。サキさんには助けられたばかりだというのに、迷惑をかけるとか恩を仇で返す行いです。

 

「では、くれぐれもお静かに。私はこれで失礼します」

 

「はい……」

 

「……行ったか?」

 

「……うん、もう大丈夫だと思う」

 

 看護師さんが出て行ったあと、ベッドの下に隠れたブラントを呼んで今度は声を抑えながらお説教の続き──ではなく、僕が気を失っていた間のことについての話の続きを聞きます。

 

「騒ぎ立てれば目立つ故に、説教はひとまず後回しとする。サキが無事だったところまでは話したか」

 

「そうだね。できれば僕が気絶させられたあと、あの銀髪オッドアイと援軍に来てくれた魔防隊のみなさんのことを聞きたいかな。多分、サキさんも僕もカイコさんが呼んでくれた魔防隊の人たちに助けてもらったと思うんだけど」

 

「うむ。ポートちゃんも、サキもその者らによって助けられた。ツチノコのような醜鬼を圧倒し屠る力量、なかなかの強者よ」

 

 サキさんが無事であることはわかりました。

 まだまだ見て確かめたわけじゃないけど、ブラントが言うなら信用できます。だって盟友だから。

 ……まあ、僕でもこうして生きてたんだし、醜鬼と戦うことに慣れているサキさんなら銀髪オッドアイみたいなやつでもなければ負けることはないだろうしね。これでも魔防隊の寮の管理人として過ごして、醜鬼の襲撃を結界の中からだけど何度も見せてもらって、魔防隊の皆さんがどれだけ強いかは知りましたから。

 

 ツチノコもどきの他にも銀髪オッドアイは特殊な醜鬼を連れてきたみたいでサキさんは苦戦したものの、カイコさんが呼んでくれた援軍の魔防隊のみなさんがきて2匹とも撃破したそうです。

 銀髪オッドアイが僕を殺したり連れ去ったりせずこうして無事でいられたのも、夜雲さんと援軍に来てくれた組長たちのおかげであり、最後には3人で連携して銀髪オッドアイの討伐にも成功したとのこと。

 

「……やっつけちゃったの? あのクソガキシルバーさんを?」

 

「胴を2つに断たれた上、骸は塵となって消えた。それでも死なぬ者もいるが……真っ当な命を持つ輩であれば、彼程に砕けば果てよう」

 

「マジですか……僕たちがあれだけ攻撃しても傷ひとつつけられなかったあいつを真っ二つにするんですか。さすが魔都と隣り合わせの異世界日本、強い人がポンポンいますね」

 

 僕が何しても傷ひとつつけられなかった銀髪オッドアイを三対一とはいえ倒しちゃうとは……夜雲さんの他に二番組と九番組の組長さんが来てくれたそうですが、組長ともなるとツチノコもどきや銀髪オッドアイでも倒せるほどの実力者揃いのようです。

 実際に戦っているところを見ていたブラントが強者と呼ぶくらいだから、平然とクレイのみんなと張り合えるくらいの強さはあるかも。ヒューマンでもお前のどこが人間だと突っ込みたくなるギャラティンさんはじめ強者揃いのあのクレイのみんなと。

 ……改めてここが僕の故郷ではなく異世界日本であるということを感じました。

 

 しかし銀髪オッドアイ死んだんですか。

 もう一回くらい無様な格好にして笑ってやりたかったけど、死んだならもう良いです。因縁はあるけど元を辿れば向こうが一方的にふっかけてきたものだし、死んで悲しく感じるような間柄じゃないし。

 

「出来ることならもう一回くらいザマアミロとか言っておきたかったんだけど、まあ良いや。特に思い入れのある相手でもないし」

 

「奴の正体や目的が気にならぬのか?」

 

「気にならないことはないけど、醜鬼の親玉的な奴だとしても傷一つつけられない異世界人の僕が首突っ込む問題じゃないよ。きしめん頭が帰還準備整えてくれるまで、この世界の問題はこの世界の人たちに任せて僕はなるべく干渉せず大人しく静かに過ごすつもりだから」

 

 死んだならもう会うこともないし、気にしないことにします。

 そう決めた僕に、銀髪オッドアイが何者なのかとか、どうして僕を執拗に狙ったのかとか、そういったことが気にならないのかと尋ねるブラントに、救世主としてではなく誤送還で来てしまったからこの異世界日本にはできるだけ干渉しないで帰還の準備が整うのを待つつもりであり、向こうから襲って来なければ僕の方から何かをするつもりはないと答えます。

 

 醜鬼は魔防隊の皆さんが対応することなので。

 我ながら冷たい考えだけど、僕はせいぜい目の前の困った人を助けるくらいしかしない小さくて優しくない人間ですから。

 

「僕ってこっちの世界からすれば本来いないはずの存在だからさ、余計なことはしたくないんだよ。そりゃ、人として目の前で困ってる人を助けるくらいはするよ。でも良かれと思って首を突っ込んで、余計なお節介が大きな問題になってしまうこともあるから」

 

「…………」

 

 所詮、僕はこの世界からすればいるはずのない異世界人。

 きしめん頭も必要最低限のことしか教えなかったし。……銀髪オッドアイが何者なのかとか、必要最低限のことも教えてもらってないと思いますけど。

 そんな無知な余所者がいらない正義感とかかざして善意という名のおせっかいで首を突っ込み、結果ひどい結末を迎えたなんてことはこっちの世界に飛ばされる前に異星で救世主やってた時にいやというほど体験してきましたので。

 

 こんな僕でも真っ当な倫理観はあると思ってるから、流石に目の前の救える人くらいは助けようと動くつもりだけど、逆に言えば冷たいけど目先の人、救える人以外はこちらから動いて助けに行ったりするつもりはないです。

 

「まあ、僕なんかが無茶しでかさなくても魔防隊のみなさんがいるし、大丈夫でしょきっと。むしろ僕が首突っ込むと余計な負担になると思います」

 

 だからもう醜鬼とはできるだけ関わりたくないです。

 そしてやたら絡んできたあの銀髪オッドアイがいなくなったというなら、もう醜鬼何てバケモノに関わることもなくて済む日常になったはずなんです。

 ……そう、あいつと関わったから僕は魔防隊の寮の管理人になって、帰るまで食い繋ぐためこうして庇護してもらっているとはいえ醜鬼と関わる仕事をすることになったんです。

 こっちの世界に飛ばしたきしめん頭が一番悪いけど、ここ最近の厄介ごとは全部あの銀髪オッドアイのせいじゃないですか。やっぱり僕は今でもあいつが嫌いです。

 

「……あいつと関わらなきゃ夜雲さんに目をつけられることも、魔防隊の寮の管理人をすることもなかったんだけど。僕にとっては疫病神みたいなものだったし、死んで悲しむほどの関係じゃないよ」

 

「醜鬼どもの親玉のような輩であれば同胞が仇討ちに群れが来るやもしれぬな。或いは、同格の輩がいれば目をつけられることもあるやもしれぬ」

 

「待ってください、銀髪オッドアイ倒したの僕じゃないですよね? 冤罪でもそういうこと言葉にするとフラグになるんですよ、やめてくださいお願いします」

 

 盟友が不吉なことを言ったので、やめてほしいと抗議します。

 そういうのフラグになるから本当にやめて! 銀髪オッドアイだけでも、僕はもうお腹いっぱいだから! 

 あいつの仲間が他にいて、しかも敵討だとか言い出して絡んでこられるとか、勘弁してほしいです。

 僕はただ、5年くらいをひっそりと誰にも知られず過ごしたいだけだったのに……。

 

「……ひょっとして、銀髪オッドアイみたいなやつがポンポン居るのこの世界?」

 

「可能性は否定できぬ。奴が消えたとして、醜鬼も魔都も変わらず残っているからな」

 

「確定はしてないよね? リーダーがやられたからって全てが消えるなんて都合の良いことは無い、ただ残党がいるだけって可能性もないわけじゃないよね?」

 

「そんなミナトちゃんに残念なお知らせ! いるんだよねー、あの銀髪以外にも同じような醜鬼の大将格が!」

 

「ほらブラントが変なこと言うから!」

 

「我に過失を押し付けるな。ポートちゃんの考えが事実と乖離していただけのこと」

 

「正論で返さないでよ。夜雲さんもブランドに追い風吹かさないで──って、夜雲さん!? い、いつからそこに!? そして何で窓から入ってくるんですか?」

 

「『できることならもう一回ザマアミロ』とかのあたりからだね!」

 

「結構中途半端なところですね」

「そこは最初からいるのがお約束というものではないのか」

 

「いやー夜雲さんとしてもお約束を守って最初からいたかったのは山々なんだけど、組長としてやること多くてねー。カイコに捕まって書類の山を片付けてたら、お見舞いに来るのが遅くなっちゃってさー」

 

 ブラントから話を聞いていたら、さりげなく──にしては主張の激しい大きな声で──夜雲さんが会話に入り込んできた。

 それも何故か扉からではなく、わざわざ能力を使って窓から入るという登場の仕方で。

 

「やっほー、ミナトちゃん。怪我の具合はどう?」

 

「おかげさまですっかり回復できました。助けていただきありがとうございます」

 

「いいのいいの、管理人も魔防隊にとっては守るべき市民だから! むしろ怪我させるようなことになってごめんね!」

 

「大丈夫です。命あるだけ儲け物ですから」

 

 ……いや本当に助かって良かったとブラントの説教を受けて思い知らされてます。

 

 逃げ出す前にカイコさんに捕まって先程まで溜まった事務仕事の処理に忙殺されていたことへの愚痴をこぼしつつ容態を尋ねた夜雲さんに、怪我はカイコさんの治療もあり治ったこととともに銀髪オッドアイから命を救ってくれたことへの感謝を伝えます。

 夜雲さんはそれが魔防隊の仕事であり当然のことだと言いますが、僕にとってその当然のことですでに夜雲さんには2度も命の危機を救っていただきました。

 夜雲さんにとっては義務を果たしただけだとしても、僕にとって命の恩人であることに変わりはありません。

 

「いや〜カイコから散々どやされちゃったからね、『絶対にミナトちゃんを助けて!』ってさ」

 

「カイコさんにもご心配をおかけしたみたいで……」

 

「なら早く元気にならなきゃね! 心配かけた相手にはそれが一番だから!」

 

「夜雲さんがすごいまともなことを……明日は雪ですか?」

 

「最近のミナトちゃんは遠慮しなくなってきたよね。私たちに心を開いてくれてるのが分かるから、夜雲さんは大歓迎だけど!」

 

「底抜けに明るいポジティブ思考……これが根明の陽エネルギーか……!」

 

 気に入った相手との距離感は相手のペースなどガン無視で強引にでも詰めてくる夜雲さんの底抜けに明るい陽エネルギー。

 それに当てられながらも、夜雲さんの言葉からカイコさんの無事と夜雲さんをデスクワークに縛りつけるくらいは可能であることを聞いて安堵します。

 カイコさんにも感謝とごめんなさいを言っておかなければいけないですね。

 

 そしてもう一つ、夜雲さんが僕とブラントの会話に入り込んできた時に言った聞き捨てならない発言についても詳しく聞いておかなければと、眩しい陽エネルギーを発する夜雲さんに尋ねます。

 

「そ、それよりも、思わず流しそうになったけど聞き捨てならない悪いニュースを聞かされたんですけど。銀髪オッドアイに仲間がいるってどういうことですか?」

 

「言葉のままだよ。ミナトちゃんが銀髪オッドアイって呼んでたあの子──玖若って名前だけど──八雷神とかいう仲間が他にいたんだよ。確認されたのだけでも3人も」

 

「八雷神?」

 

 あの銀髪オッドアイみたいなのが他にもポンポンいる世界。どうやら僕の願望ではなく、ブラントの推測の方が正解だったようです。

 

 銀髪オッドアイには“八雷神”と名乗る自称神様の仲間がおり、他の魔防隊の組に接触していたとのこと。

 夜雲さんが出席していた今回の組長会議でそのことが公表されたとのことで、どうやら最近になって魔都に現れた存在とのことで、目的や構成員、その正体など、ほとんど何も分かっていないそうです。

 分かっていることは、醜鬼を扱うこと、醜鬼とは比べ物にならない強さを持つこと、そして接触した個体全てが明確に人類に対して敵対の意思を持っているということ。

 五番組の他には銀髪オッドアイとは別の八雷神が三番組と六番組、七番組にも襲撃を仕掛けてきたとのことで、それぞれの組で魔防隊員に負傷者が生じたとのことでした。

 

 あの銀髪オッドアイ、僕が尋ねたときはスルーしたくせに夜雲さんにはちゃんと名乗ってたんですか。好かれたかったわけじゃないし、むしろ好かれたくなかったけど、嫌われてるのかストーカーしたいのかはっきりしてほしいとか……なんかこう、上手い言い方見つからないけどすっごく納得いかないんですけど! 

 

 まあ、銀髪オッドアイはくたばったそうだからもう無視しよう。

 玖若? 最後まで名乗らなかったのはあいつなんだから、絶対僕は名前で呼んであげませんから! あいつなんか銀髪オッドアイがクソガキシルバーさんで十分! 長くなってむしろ面倒くさいかもしれないけど、意地でも玖若とは呼んであげない! 

 

 もう銀髪オッドアイは置いておくことにしましょう。

 魔防隊が接触した八雷神を名乗る謎の敵は、既に倒された銀髪オッドアイを含めて現在まで4体が確認されているそうです。

 八雷神と名乗っているなら8人いそうだけど……銀髪オッドアイがやられたなら残り7人かな? 

 

 他の組では魔都の拠点で襲撃を受けたとのことで民間人の被害は出ていないものの、入院が必要な大怪我を負った負傷者が出ているそうです。八雷神の襲撃ではまだ魔防隊の殉職者は出ていないのが不幸中の幸いかもしれません。

 ……つまり民間人を平気で巻き込んだのは、札幌であの巨大醜鬼を使って襲ってきたあいつだけということになります。あの銀髪オッドアイ、本物の外道でした。

 

 魔防隊のトップ──総組長は、八雷神の強さを鑑みて今後対応は組長が担うという方針をとることを決定し、また魔防隊戦力アップのために定期的に他の組との交流を兼ねた合同訓練を実施していくことにしたとのことです。

 

 そして、その合同訓練では機動力のある能力を持つ夜雲さんの五番組と、瞬間移動ができるという六番組が他の組の拠点に移動して合同訓練をすることになったとのことで、サキさんやカイコさんを連れて寮を離れることが多くなるとのことでした。

 サキさんが回復したら早速七番組に向かい、合同訓練を実施する予定とのことです。

 

 僕はただの寮の管理人で、魔防隊員ではないので、合同訓練に同行する必要はないとのことですが、銀髪オッドアイが倒されたとはいえ八雷神が僕のことを狙って襲ってくる可能性もあるので合同訓練で夜雲さんたちが留守にしている間は十番組から臨時要員として何人かの魔防隊員が派遣される予定とのことです。

 銀髪オッドアイが襲ってきた一件があるし、現世側に行って向こうで襲撃を受けて民間人を巻き込むわけにもいかないので、怪我が治ったら八雷神の件が片付くまで可能な限り寮暮らしをしなければならなくなりました。

 

 八雷神を夜雲さんたちが倒すか、きしめん頭の帰還準備が整うか、どちらかが片付くまでは魔都暮らしになりそうです。

 僕は醜鬼と八雷神、どちらが相手でも戦えない無力な異世界人なので、結界に守られた寮で静かに暮らすことには特に不満はないです。結界をすり抜けてくるような敵がいなければ醜鬼の攻撃にも耐えられて安全だし、設備は結構快適なので。

 

「ミナトちゃんのこと、本当は夜雲さんがつきっきりで守ってあげたいところなんだけど──」

 

「そのつきっきりのところ、別の意味入ってませんか?」

 

「ありゃ、バレちゃったか⭐︎でも守りたいっていうのは本当だから。そのために、夜雲さんもっとパワーアップして、八雷神もサクサク倒しちゃうからさ! ミナトちゃんも、他のみんなも、ブラントちゃんも、誰も怪我させないから!」

 

「はい、頑張ってください」

「うむ、頼もしいことよ。ただし、我をちゃん付けで呼ぶな」

 

「うん、ありがと! それじゃ、そろそろカイコが書類でデスク埋めながら待っていそうだから戻るよ。またくるからね〜!」

 

「またあの人窓から出て行ったよ……」

「嵐のように騒がしいな」

 

 組長会議で決まった今後の方針と、夜雲さんたちが寮を留守にすることが多くなることや僕の方は寮でしばらく過ごすことになること、八雷神というまだ見ぬ強敵──今後一度も見ないですごしたいところだけど──について一通り伝えた夜雲さんは、帰りも窓から能力で飛んでいきました。

 本当に嵐みたいな人です。

 

 そしてこれは根拠もない僕の勘ですが、組長会議に向かう前と比べてどこか少しだけ雰囲気が変わったように思えました。

 別れ際に夜雲さんが言った、誰も怪我をさせないという言葉には、いつも陽気な夜雲さんにはちょっと似合わない重みみたいなのを感じたけど……

 

「……僕が気絶しちゃってる間に、何かあったのかな?」

 

「…………」

 

 誰かに向けたわけじゃない、口からこぼれただけのものだから、返事がなくても特に不思議はないけど、何も答えなかったブラントは何かを知っていそうな雰囲気がありました。

 

 まあ、理由があるから答えなかったという可能性もあるし、ブラントに問いかけたわけじゃないから、返事がなくても特に追求するつもりはないです。

 まずは骨折などのこの怪我を治すためにしっかり休むこと。それが今の僕がやるべきことです。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 五番組寮の襲撃の最中、玖若によって巻き込まれ、そしてその命を奪われた民間人がいたことをミナトは知らない。

 夜雲もカイコもブラントも、ミナトには黙っていた。

 もし知れば、気絶することがなければ、そもそもミナトが玖若を撃破、あるいは撃退していれば民間人が巻き込まれそしてその命を奪われることもなかったと自らを責めることが分かっていたから。

 

 ディスティニーコンダクターによって異星に召喚され、半年という時間を救世主として戦い抜いてきた彼女は、その戦いの中で生まれた多くの犠牲を、悲劇を目の当たりにしてきたから、人の死には慣れているし戦場の地獄も体感している。

 だからショックを受けることはあるだろうが、折れることはないだろう。

 

 しかし、自分が助けられたのではないか? と自責の念は抱く。

 そして、魔都の桃という醜鬼と戦う上で絶対に必要な力を持たないまま、ディスティニーコンダクターの手違いさえなければ関わることすらなかっただろうこの世界の人々を1人でも多く助けるために、自ら八雷神との争いに足を踏み入れる選択をしたかもしれない。

 

 口では自分が一番大事な冷たい人間と宣っているが、それは小さな両手では掬いきれない大切なものが多すぎて、零れ落ちる現実を認めて向き合ったから。

 現実を受け入れドライな感性を持つようになってしまったが、その心根は助けられるなら赤の他人だろうが命懸けで助けようとする、クレイの多くの者たちが先導者と認める救世主に相応しいものである。

 

 そもそも本当に自分が一番大事と考えている人間ならば、あの時カイコを逃して自分が残るなどという選択などしない。

 玖若がカイコを殺し現世に行ってミナトを探すために破壊を齎そうとも、犠牲になるのはミナトにとって何の関係もない異世界日本の人間であり、クレイの者にもミナトの故郷の家族らにも何一つ被害などでないのだから。

 

「救世主とは、難儀なものだな」

 

 自己を犠牲にしてでも、それが己の生きる意味だと叫ぶように他者を救い続ける。

 自分たちが生きるために、他者を顧みず遊星の王として途上の星々を滅ぼしてきたブラントには理解できないし共感できないが、しかしそれでもその生き方ができなかったから為かどこまでも眩しく見えてしまう救世主の光。

 

 この異世界で2人ぼっちとなってしまった盟友の顔に、ブラントは優しくワタの詰まった手を触れた。

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