異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
「コール! ダンシング・カットラス、伊達男ロマリオ!」
冥府の住人たるゴーストのユニット、『ルイン・シェイド』にライドした僕は、続けてブラントから受け取ったもう2枚のカードを使い、きしめん頭に与えられたもう一つのクレイのみんなの力を借りる能力である『コール』を駆使した。
ヴァンガードにおいては、いわゆるユニットを新たな攻撃要員、或いは支援のためのブースト要員やヴァンガードを守りダメージを防ぐ防御要員として盤面に繰り出すのがコールだけど、僕がきしめん頭に与えられた『コール』の能力は同様にコールするユニットを自身に憑依する形で召喚するのではなく共に戦う戦友として召喚する代物だ。
数はヴァンガードのルールに則り、5体まで。また、なんでもコールできるわけではなく、ライドしているユニットのグレードという数値と同じがそれより低いユニットしかゴールできない。
そして、ヴァンガードと違いガーディアンサークル──ゲームにおいては相手の攻撃を防ぐために手札を使ってコールする防御要員──に該当するのがないため、コールできるユニットは5体が上限になっている。
とはいえ、ゲームの盤面ではなくこの場はルール無用の戦場。
ターンや手札などというものはないので、絆を結んだユニットでライドしているユニット以下のグレードかつ5体までという人数制限さえクリアしていれば、召喚の媒介に必要なカードさえあればだいたいは自由にコールできるし、基本的に僕の指示に従うけど自由に動き回り己の判断で戦ってくれる頼もしい仲間となる。
そして今回僕がコールしたのは『ダンシング・カットラス』と『伊達男ロマリオ』というユニット。
2体ともグランブルー海賊団に所属するグレード1のユニットで、僕がグレード2のユニットにライドしたことでコールの制限であるグレードはクリアしている。
ダンシング・カットラスはいわゆる付喪神のようなもので意思を持ったカットラスで、伊達男ロマリオはボロボロの白タキシードに身を包み薔薇を咥えたゾンビである。
カットラスは動き回るし自我もあるけど喋らない、ロマリオは性格がチャラいしジョークは寒い陽気なゾンビと、ビジュアルといい中身といい癖のあるユニットだけど、頼りになる仲間だ。
『うふふふふ。お呼びと聞き参上しました、水も滴る伊達男のローズ・マリオネットです。水場がないのが残念、これでは滴る水がないですね。うふふふふ、マイヴァンガード、このロマリオ微力を尽くしましょう』
「よろしく! ルインも、カットラスも!」
『ああ。奴らの魂貪り尽くしてやるよ!』
ライドとコールに応じてくれた仲間達に一言声をかけて、すかさず飛びかかってきた醜鬼の攻撃を飛び退きながら指示を飛ばす。
「ロマリオ、そいつの足を止めて! カットラスは後続の小さめの奴等に切り掛かって! 僕が目をやる!」
コール早々、おしゃべりに興じるロマリオには足止めを、浮遊して軽快に飛び回れるカットラスには錯乱を頼み、僕はライドしているルインの力を借りてサーベルを醜鬼の左目に突き出した。
醜鬼は僕が逃げ回っていた時、明らかに視覚の情報を頼りにしているような動きを見せていた。
実際、僕のことを一度見失ったりもしていたし。
音にも反応するみたいだけど、やっぱり目を頼りにしているみたい。
僕を追いかける時も首を回して追いかけているし、顔のあの目の部分は飾りじゃないはず。
通常の生物の常識が通る相手ではないと思うけど、それでも目を頼りにしているならあれは弱点だし、効かないにしても目を切りつけられるのは嫌がるはず。
というわけで、1番大きな醜鬼の目に狙いを定めて飛び上がる。
コールされたユニット達──突然現れた新手に一瞬困惑するような動きを見せながらも殴りかかってきた大きな醜鬼は、僕がその一撃を交わしてすぐさま飛びかかってきたのを見て、食い殺そうと口を開ける。
「ロマリオ!」
『むふふふ、させませんヨォ!』
しかしさせじと僕の指示を合わせてロマリオが薔薇を生み出して醜鬼の体を飲み込み、バランスを崩してくれた。
伊達男ロマリオはゾンビだけど、格好つけたがる自称ジェントルマン。噛みつきなんてゾンビらしい下品な攻撃は嫌いだと、巨大な薔薇を生やすという謎の魔法を駆使するゾンビというよりシャーマンみたいな攻撃手段を用いる。
ロマリオの援護により、醜鬼のバランスが崩れかぶりつき攻撃が逸れる。
そしてドンピシャ、僕の剣が届く場所に醜鬼の目が接近した。
「これで──かった!?」
しかし、やはり突き出した剣は眼球に突き刺さることはなく、その表面で岩に弾かれたように跳ね返された。
「負けるかぁ!」
しかし、それは想定内。
剣がダメなら打撃だと、目に対してシールドを叩きつけた。
シールドバッシュもやっぱり効かなかったけど、目に対する攻撃は効果があったみたい。
醜鬼は僕を振り払うように腕を振り回してきた。
「──ッ!」
振り回された腕を、シールドを使い衝撃を流すようにして受ける。
それでも空中で受けたので吹っ飛ばされるけど、そんなことでルイン・シェイドの体に傷がつくことはなく、すぐに体制を立て直して無様に地面に叩きつけられるようなことはなく華麗に着地を決めた。
『決まってるぜ、マイヴァンガード!』
『うむうむ、クールでしたヨォ!』
「うん、気持ちいい着地になった──けど、戦闘中だから集中!」
僕自身も今のはなかなかの着地だったなと自画自賛したいところだったけど、醜鬼はそれを許さない。
すぐに僕を見つけると、ロマリオのバラの拘束を力尽くで引きちぎって脱出し、モグラを叩くように手のひらを叩きつけてきた。
『うふふふ。小癪なオーガもどきが、これならばどうですかネェ!?』
モグラ叩きをすんでのところで交わす。
拘束を破られたことにプライドを傷つけられたロマリオが怒り、すかさず新たな、それもさっきより強力で巨大な薔薇を作り醜鬼を拘束するけど、醜鬼の巨体を抑え込めずすぐに破られた。
すると、醜鬼が薔薇を生み出す元凶がロマリオだと気づき、モグラ叩きの標的を僕からロマリオに切り替えた。
『およよ!?』
「ロマリオ!」
ロマリオは反応しきれない。
痛み知らずで死んでいるから死ぬことにも無頓着なゾンビらしく、ロマリオは自分が標的にされた咄嗟の攻撃に対する反応が鈍い。
そのためモグラ叩きのように振り下ろされる醜鬼の拳に反応しきれなかった。
このままだと潰される。
コールされたユニットは、本体ではなく影や分身のようなもの。意志と肉体はあるけど本体はクレイにあるのでコールされたユニットが倒されることがあってもユニットが死ぬわけじゃないし、媒介となるカードが無事なら何度でもまたコールできる。
それでも、彼らは僕にとって大切なクレイの友人達。
分身だろうが、本体が死ぬわけじゃなかろうが、それでも見殺しにするのはヴァンガードファイターとして、彼らの友であり先導者としてやっぱり嫌だ。
「いっけぇ!」
『ぶごばっ!?』
潰される直前に、ロマリオに向かってシールドを投げつけてぶっ飛ばすことで、モグラ叩きの餌食にされることを防いだ。
どっちにしろロマリオが死ぬって?
大丈夫! あいつゾンビだしこんくらいじゃ死なないから。
『いや、死んじゃいますよ! 墓の下に戻らされますよマイヴァンガード! 少しはお加減して欲しかったですヨォ!』
「うるさい! いいから戦えボケ!」
助けてやったのに文句を言ってくるロマリオに、まだ戦闘中だと注意しながら醜鬼の爪を蹴り付ける。
わかっていたけど返ってくるのは爪の剥がれる光景じゃなくて鉄の塊を蹴り付けたような強い反発だけだった。醜鬼ももちろん無傷。
醜鬼はすぐに標的を吹っ飛ばされて見失ったロマリオから僕に切り替えて、拳を握って叩きつけてきた。
「関節も──やっぱり硬いよね!」
関節部分に狙いを定めて手首に切りつけるけど、感触はやっぱり同じ。
切りつけても叩いても全く効かない硬すぎる表皮の反発だけである。
「ルインでもダメかぁ……」
ライドしている恩恵で、人間とは比べ物にならない身体能力などがあるから、醜鬼達の攻撃を凌ぐのは難しくない。
でも有効な反撃手段がないと、倒すことも追い払うことも難しい。
切っても突いても絡めて手も薔薇もダメ。
どうすればいいかと考えながら、醜鬼の攻撃を回避していく。
ロマリオはまだ戻れない。
カットラスは小さめの醜鬼2体をうまく翻弄して足止めしてくれているけど、いつ捕まえられるかわからない。
そして僕を叩き潰そうと這い回るゴキブリをスリッパで追いかけ回すが如く地面を叩きながら追いかけてくる大きな方の醜鬼は、色々やってみたけどまだ無傷だ。
一応目を狙った攻撃は嫌がったみたいだけど、それで諦めてくれるかと思いきや怒らせてより一層執着させたみたいなので、追い払われてくれるという狙った効果は得られなかった。
ルイン・シェイドの攻撃が効かないとなると、あのユニットを使う方がいいかも。
せめて醜鬼達から逃げ切るための算段をつけるべく、僕はブラントに声をかけた。
「ブラント! コキュートスのカードを──」
カードを頂戴。
そう言おうとした声が途切れる。
「しまっ──!」
「ポートちゃん!」
突然地面が割れ、バランスが崩れた。
咄嗟に飛んだところ、その割れたところから醜鬼の大きな腕が伸びてきたのだ。
それは咄嗟に体勢を変えて回避できたけど、すかさずモグラ叩きで追いかけ回してきていた方の醜鬼が手を伸ばし、後ろから僕を捕まえたのだ。
「いっ……!」
僕を捕まえた醜鬼は、すかさず空いていた方の手も使って握り潰してくる。
咄嗟に背嚢を落としてブラントを巻き込むことは防いだけど、身動きが取れなくなってしまった。
ダメだ、これじゃカードも受け取れない……
『マイヴァンガード! その手を離せ──ギョギョぉ!?』
ロマリオが危機を察知して駆けつけようとしてくれたけど、そこに無慈悲に新しく出てきた醜鬼の足が上から振り下ろされ、かかと落としの一撃をもろに喰らってやられたロマリオが消えてしまう。
ダンシング・カットラスも僕の危機を気を取られたせいで捕まり、醜鬼に握りつぶされて破壊された。
(ロマリオ……! カットラス……!)
油断した。
醜鬼という存在がどんなものか僕はよくわからないけど、それでも地面の中から新手が来るなんてよくある展開だった。
そしてそれを読みきれなかったせいで隙を晒し、捕まってしまい、そのせいでコールした仲間達をやられてしまった。
そして、それを後悔して懺悔する暇も与えられなかった。
潰されそうになる苦痛を受けながらもなんとか切り抜けようと、後悔している暇があるなら状況を打開しなければと気を取り直そうとした僕を、すぐに握り潰せないと見るや否や醜鬼が力一杯地面に叩きつけてきたのだ。
「ぐあっ……!」
『やめろ! ここで、解けるわけには……!』
背中から地面に叩きつけられ、その衝撃に意識が遠のく。
そしてその一撃が限界だったのだろう。ライドが解除されてしまい、ルイン・シェイドが消えて僕は元の無力な人間に戻ってしまった。
「ひっ──!?」
ルイン・シェイドが守ってくれたおかげで、握りつぶされた時と叩きつけられた時のダメージはほとんど残っていない。
でも、僕はもう無力な人間になってしまっている。
とにかく逃げなければと、急いで転げ回ってハンマーのように振り下ろされてくる醜鬼の両手から逃げた。
「ちょっとぉぉおおお!?」
しかし、その衝撃は凄まじいものがあり、僕の体は簡単に吹き飛ばされてしまう。
頭を庇ったことで致命傷だけは避けたけど、体を地面に強く打ち付けてしまった。
「いたた……で、でもこれで……!」
肩外れてるよ絶対。
骨も多分折れてる。
正直ものすごく痛いけど、それでも不幸中の幸いか背嚢が落ちた近くに飛ばされた。
「ポートちゃん! すぐ行くぞ!」
「ブラント……!」
背嚢から脱出したブラントが、カードを持って走ってくるのが見える。
届いて欲しいけど、後ろに醜鬼が迫ってきており、僕を食べるつもりなのか足をつまみ上げた。
「や、やばっ……!」
「盟友よおおおぉぉぉ!」
あとちょっとなのに!
無慈悲にも、もうすぐ届きそうだったところでカードに触れられず、醜鬼につまみ上げられた。
「待って僕なんか食べても美味しくないよ!」
声を張り上げると骨折に響くけど、この際そんなの関係ない。
僕を食べる気満々の醜鬼に訴えるが効果なし。
パックリと開いた口に、ゆっくりと下される。
つまんでいるのが足なので、逆さになっている僕は頭から食べられるらしい。
この醜鬼、たい焼きは頭から食べる派だな?
「──って、そんなくだらないこと考えている場合じゃないって!」
いや、本格的にまずいよこれ!
──その時、風が吹いた。
風のなかった荒野に、頬を撫でるそよ風が。
それは醜鬼の吐息と思ったけど、生ぬるいとか唾液臭いとかはなく、むしろ涼しい。
というか、醜鬼は呼吸していないのか吐息とかないし。
そよ風に醜鬼達も気づいたのか、僕を口の中に下ろそうとしていた手が止まる。
風はそよ風から醜鬼達を気にさせる風になり、そして瞬く間に突風となる。
──直後、僕を今まさに食べようとしていた醜鬼の身体を旋風が貫いてこの体の上下半身をつなぐ土手っ腹を豪快に破壊した。
「えっ──?」
正直、僕にも何が起きたのかわかりません。
なにしろ風が吹いたと思ったら、いつのまにか僕を食べようとしていた醜鬼が真っ二つになっていたのだ。うん、そりゃ何が起きたかわからないよ。
そして、僕が何しても傷ひとつつけられなかった醜鬼は何が起きたかわからぬままに絶命し、僕を摘んでいた手から力が抜けて空中に無責任にも放り出してくれた。
「待ってよおおおぉぉぉ!」
こんなのあんまりだ!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 食べられるか墜落かの違いで、どっちにしろ死ぬ!
訳のわからぬまま、新たな危機に直面する。
何がどうなっているのか知りたいのもあるけど、まずは助けて欲しい! もうまともな受け身取れる自信ないし、そもそもこれ10メートルくらいあるから受け身云々関係なしに死んじゃうよ!
一難去ってまた一難の窮地に直面する中、頭から地面に落ちそうになる途中で僕の体は下から突然噴き上がってきた風によって再度上空に巻き上げられた。
「なんでえええぇぇぇ!?」
アトラクションですか!? それにしては安全装置が全くないのはいかがなものですか!?
次々に襲いかかる危機に、泣き叫ぶことしかできない中。
さっきの醜鬼の手よりも遥かに高い位置まで風に吹き上げられた僕は、上がる風が突然止んだことにより今度は落下かと嘆きそうになったけど、落ちることはなかった。
「魔都災害の被災者、確保! もう安心して良いよ、お嬢ちゃん!」
風に巻き上げられた先で、僕は見知らぬ人にお姫様抱っことなる形で受け止められていた。