異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
銀髪オッドアイにやられた怪我も完治して、無事退院できて寮の管理人にも復帰した頃。
予定通り、夜雲さんはサキさんとカイコさんを連れて合同訓練のために七番組寮へと向かいました。
しばらくは向こうで泊まり込みで訓練に励むとのことで、夜雲さんたちが留守の間に五番組の担当区域の魔都災害の対応や醜鬼討伐を代行するため十番組から派遣された隊員と入れ替わる形で出て行き、五番組寮はすっかり人が少なくなっています。
僕は予定通り、八雷神の件を夜雲さんたちが解決してくれるまでの間、ほとんどの時間を寮で過ごすことになります。
今回派遣されてきた十番組所属の魔防隊員の
とりあえず合同訓練が終わり夜雲さんたちが戻ってくるまでは、ブラントには僕の部屋で過ごしてもらっています。
やっぱり隠し事をするならプライベートの部屋が1番見つかりにくいので。
ちなみに銀髪オッドアイが五番組寮を襲ってきたあの事件以降、八雷神は出てきていないそうです。
魔防隊の総組長がしばらくの期間は魔防隊の戦力アップに当てて、八雷神に関しては魔防隊側から攻勢を仕掛けることはせず迎撃を主軸にした方針をとっているというのもあり、拠点も正体も分かっていない状況なので、八雷神側に動きがなければ進展がない日々がすぎるという状況が続いています。
合同訓練に向かう際には組長会議で留守にしていた時を狙われたこともあり夜雲さんだけでなくカイコさんもすごく心配してきましたが、銀髪オッドアイはもう倒されたし、十番組の方も──1人だけど──いるし、何かあったらすぐ連絡できるようにしているので、大丈夫だとおもいます。
醜鬼相手には何もできない、戦力的に役立たずな僕のことが心配なのは分かりますけど、醜鬼には勝てずとも逃げたり自分の身を守るくらいはできますから。僕これでもこの異世界日本に来る前には救世主やっていたので。
……ブラントのお説教に加えてカイコさんからもあのあとお説教もらったので調子に乗った件は深く反省してます。もう慢心することはないので、ご安心ください。信用されてないけど!
そして昨日、伏見さんという十番組から派遣された魔防隊員の人と入れ替わる形で夜雲さんたちは七番組の寮へと向かいました。
夜雲さんたちに代わって五番組の区域を担当するために派遣されてきた伏見さんですが、おへそが出ているという結構大胆に制服を改造している青い髪が特徴の方です。
とても荒事に向いているとは思えない細い腕で振り回す警棒で醜鬼を易々と撲殺する、やはりこの異世界日本の住人なんだなと実感させてくれる方です。
桃の能力は警棒から時々出てくる電撃かと思ったのですが、バリバリ前衛で戦うスタイルに反して赤いスポーツカーを二足歩行ロボットに変形させて戦わせることができるというものです。しかも変形前は普通のスポーツカーなのに、変形ロボットには当たり前のように自前で喋れる顔とスポーツカーにはあるはずがない醜鬼にも攻撃を通せる大きな剣とか搭載されてるし。
どこの◯ランスフォーマーですか?
ちなみにお願いしたら変形ロボの肩に乗せてくれました。
醜鬼のことは容赦無く撲殺するけど、夜雲さんほど騒がしくもなく、むしろ口数は少ない方ですが、しがない管理人相手でも気さくで優しい方です。……男の人のことを差別するような発言がちらほらでることがありますけど。
夜雲さんたちが七番組との合同訓練に出て3日目。
伏見さんが定期巡回を終えて戻ってきた後、夕食中にふと僕に“魔都の桃は食べないのか?”と尋ねてきました。
魔都の桃は食べれば能力を得て強くなれる。
異世界日本の人たちにとって、魔都の桃を食べない選択をしている人は珍しいみたいで、何か理由があるのかと伏見さんは気になったみたいです。
確かに、簡単に能力を得られて強くもなれる魔都の桃は食べる方がメリットが多いみたいですが、異世界人の僕が食べれば何が起こるかわからないし、能力を得られたとしてもいずれ元の世界に帰る身でそんな得体の知れない能力とか獲得したくないので食べたくないです。
……なんて、本当のことは言えるはずもなく。
少数派ながら異世界日本には様々な理由から魔都の桃をあえて食べずにいる人たちもいるらしく、もう少し大人になってから食べようと思っているということにして誤魔化しました。
伏見さんは納得してくれたようで、それ以上の追求はしませんでした。
桃を食べていないのに魔防隊の寮の管理人という危険がつきまとう仕事を選んだことが気になったから訊いてみただけ、とのことでした。
危ない危ない、追求されていたらいつボロを出してしまうかわからなかったので。
「ご馳走様、管理人さん。私はお風呂に入ってくるから、緊急連絡とかがあれば外の車に言いつけて。現地に急行させる」
「はい、お粗末さまでした。ゆっくりしてください」
食べ終えた伏見さんはお風呂に入るため、僕が入院している間に修繕が終わっていた浴室の方に向かいました。
ちなみに伏見さんの能力である◯ランスフォーマーですが、なんと顔がついているのは飾りではなく、まるで意思があるかのように会話ができて1人……というか、1台でも動ける優れものです。
おかげで伏見さんが就寝中だったり入浴中だったりで動けない時に醜鬼が出たとしても、変形ロボットの方に伝えれば醜鬼退治とかに動けます。
1人で2人分活動できるというすごい能力ですが、上には上がいるとのことで、伏見さんから聞いた話では二番組の組長さんは2人分どころか100人分は動けるすごい能力があるとのこと。
100人て……クレイのみんなの力を借りても一度に展開できるのは僕自身含め6人分が限界なのに100人とは、魔都の桃って本当に何なんでしょうか。
「魔都の桃かぁ……」
食器を洗いながら、先ほど伏見さんが尋ねたことを考えます。
僕からみれば得体の知れない魔都の桃だけど、桃から得た能力なら醜鬼を倒すこともできる。
そして、夜雲さんたちが証明したように、あの銀髪オッドアイなども倒せる。
もしも僕が魔都の桃を食べて何らかの能力を得ていたとして、銀髪オッドアイに襲われたあの時、僕にも戦う力があったならサキさんが怪我することもなく、僕も一歩間違えていれば殺される、なんてことにはならなかったかもしれないし……
「うーん、でもやっぱり食べる気は無いかな」
もし食べて何かしらの能力を持っていたら、もっと上手くできたんじゃないか?
そんなことを想像したけど、でもやっぱり無いかなと否定します。
やっぱり異世界人の僕からすればあの魔都の桃は得体の知れない物体で、とても食べたいとは思えないので。
「食べるといいことたくさんあるのに?」
「僕は元の世界に帰ったら平穏無事に過ごしたいんです。他所の世界のよく分からない力なんて得ても、メリットよりデメリットの方が多いから」
「他所の世界? クレイみたいな?」
「違う違う、異世界の地球。ほら僕、異世界人──誰ですかぁ!?」
洗い物しながら魔都の桃に関して独り言を呟いていたら、いつのまにか誰かと会話をしており、ふと横を向いたところそこに婦警さんみたいな制服姿の謎の少女がいつの間にか立っていました。
何の前触れもなくいつのまにか見知らぬ誰かさんがすぐそばに立っているという状況に、思わず僕は驚きの声をあげます。
というか、僕さっきまで独り言だと思いながらポロポロと喋っちゃいけないことをこぼしていたような気がするのですが……。
「あ、あの〜……どちら様です?」
なんかこの人、背中から三本指のロボットアームとか出ているし……桃の能力なのか、或いは夜雲さんが言っていた銀髪オッドアイの仲間なのかもしれません。
違法なルートで入手した魔都の桃で能力を得た海外のテロリストという物騒なのもいるという話を聞いたこともあります。
少なくともコスプレの一般人には見えないし、そんな人が魔都に来るとは思えないですが、民間人か魔防隊の関係者というわずかな可能性をかけてその少女に問いかけると、少女は首を傾げてほとんど変わらない表情で逆に訊き返してきました。
「あれ、分からない?」
「いやわかるわけないでしょ!」
僕と貴女、初対面ですよね!?
まるで知っているよね? と言わんばかりの言葉に、知るわけないだろと思わずツッコミをしてしまいました。
一方、ツッコミを受けた少女の方は顎に手を当ててなぜ分からないのかが分からないと言わんばかりの不思議そうな仕草をしています。
「うーん、クレイの先導者って聞いたから私たちのこと知ってると思ったのに……」
「えっ……?」
しかし、少女の口から出てきた言葉を聞いて、今度は僕が困惑する番となりました。
ちょっと待って。この子、今なんて言いましたか?
クレイの先導者って、何でこの異世界日本の人たちが惑星クレイのことを知っているですか? 僕はさっきの独り言の時も、“クレイ”の存在については何も……
「……何で、貴女はクレイを知ってるの?」
そう、僕はクレイに関することは何も言ってない。
言ってないのに、この少女はクレイについて知っているかのように、僕が異世界人であることやクレイのみんなと絆を交わした者の称号である“
まるで、その少女がクレイについて知っている──というよりも、この少女がクレイの住人であるかのような、そんな口調で。
「貴女は、誰……?」
僕はその少女を知らないです。
クレイの仲間たちと紡いできた絆に、この少女はいませんでした。
それでも、何故かわかる。
この目の前の少女が──いや、少女だけじゃない。伏見さんの能力であるあの変形ロボが、そして伏見さん自身がクレイの住人であるユニットだということが。
「ふ、伏見さん……?」
「お風呂ありがとう管理人さん」
何で今まで気づかなかったのでしょうか。
少女が惑星クレイの住人であることが理解できた時、知らないはずなのにそれでも確かに伏見さんと変形ロボもクレイの住人であることに気づきました。
お風呂から上がった伏見さんが、見知らぬ侵入者がいる中で、さもそれが当たり前であるかのような冷静な様子で僕に声をかけてきました。
右手に持つバスタオルで髪を拭きながら、左手には異世界日本にはないはずのヴァンガードのカードを手にして。
「誰なんですか、貴女は……!?」
この問いかけは、少女だけではなく、伏見さんとその能力と称していたあの変形ロボに向けたもの。
それを受けた伏見さんは、カードを口元に持ってきて答えます。
「その答えは、これを見ればわかると思うよ。
──ライド、“極光戦姫 リサット・ピンク”」
直後、カードは光に変わり伏見さんの全身を包み込むと、一瞬にしてその容姿を違うユニットに変えました。
それは、紛れもなく僕がクソガムさんに救世主として預けられたクレイの仲間たちと紡いだ絆の力を借りる先導者の証。
僕の知らない未知のユニットだけど、クレイのユニットであることはわかります。
伏見さんはそのユニットにライドすると、警棒から変わった銃を手元で回しながら、さっきよりも高くなったテンションで明るい口調で提案してきました。
「それじゃあ管理人さん、僕と1発ファイトしない?」
「────ッ!」
いや、提案なんて生ぬるいものじゃ無い。
明るい声の中には、命をなんとも思わない無邪気で残酷な殺意が混じっており、明確な宣戦布告の言葉でした。
それを理解した時には、もう伏見さんの正体とかは一旦無視して、戦うために、抗うために動いていました。
洗い物は中断、謎の少女とライドした伏見さんに手元の食器と洗剤を含ませたスポンジを投げつけて、すぐに空いていた通路に飛び込むとそこから外へと飛び出します。
そして何かあった時のために肌身離さず持っているデッキからカードを取り出し、クレイの仲間に呼びかけました。
「我、先導者、朱霧 ミナト! 絆に応え、来れクレイの友、ダークイレギュラーズ!」
『私のお腹、満たしてくれるわよね?』
「ライド! デビル・イン・シャドー! 勝ったらご飯たっぷり用意してあげる!」