異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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38話

 

 この異世界日本には、ヴァンガードは無い。

 僕と仲良くなりたいと夜雲さんが探していたらしいけど、この異世界日本にはトレーディングカードゲームは娯楽としてあったものの、ヴァンガードは存在しませんでした。

 だからこの世界の住人がヴァンガードを、クレイを、ユニットたちのことを、先導者という呼称を、知るはずがありません。

 

 それに、ライドとコールの力はディスティニーコンダクターに異星を邪教から救うため、救世主の力として貸し与えられたもの。

 同じ力を持っているとすれば、それは僕と同じようにクレイのユニットと絆を結ぶ力を穴きしめん頭に貸し与えられた者か、この異世界日本において魔都の桃によって能力を女性に与える恩恵で得た力しかありえません。

 実は先導者ではなくクレイの住人という可能性もあるかもしれないですが……僕と同じようにカードを媒介にしてライドとコールの力を駆使するなら、この説はありませんね。クレイのみんなには先導者としての能力であるライドとコールの力が無かったので。

 

 だから伏見さんはそのライドとコールの能力を桃の恩恵で得た魔防隊の人だという可能性もあるのですが、それならば最初に自分の能力をそう説明すればよかったし、寮の管理人なんかに言いたくなければ隠すだけでよかったはず。

 言いたくないと答えれば、寮の管理人でしかない僕はそれ以上探ることはできませんから。

 

 しかしわざわざロボットが能力などと嘘をつく必要はなかったのに、伏見さんは嘘をついていました。

 つく必要のない嘘をつくのは、大抵は嘘をつくことに意味があるか、特に理由もなく嘘をつくような気質の持ち主だから。

 そしてこの嘘を所属が違っても組長と隊員という立場の違いがある夜雲さんにもついていたことから、意味もなく嘘をつく気質だからという線は消え、嘘をつくことに意味があるから──正確には能力を隠すことに意味があるからという前者の理由に当たることがわかります。

 

 何で嘘をついて隠す必要があるのか。

 それについてはこれからやるドンパチで問いただすとして。少なくとも僕には伏見さんが先日の自己紹介通りの正規の魔防隊員だとは思えなくなっています。

 外国のテロリストかも知れないし、あの銀髪オッドアイの仲間かも知れないし、あのトンチンカンの仲間かも知れない。……訂正、トンチンカンの仲間はないですね。他には魔防隊に紛れ込んでいる隊員じゃない人かも知れないです。……この場合は何のために紛れ込んだのだとツッコミたくなりますけど。

 

 きしめん頭の身内でもなく、魔防隊の隊員でもなければ、テロリストにせよ銀髪オッドアイのお仲間にせよ高い確率で魔防隊にとって敵ということになります。

 わざわざ嘘ついてこんなところに入り込んで、夜雲さんたちがいなくなったところで寮の管理人の僕なんかにちょっかいかけてくるなら、絶対テロリストか銀髪オッドアイの仲間ですよね!? 紛れ込んだ一般人なんて事はないはず。

 夜雲さんが出て行ってから1日2日は寮の中色々と探り回って、何も見つからなかったから寮の管理人の僕にそれを尋ねるために、若しくは人質にして夜雲さんを脅して交渉材料にするためにこうして出てきたんだと僕は推測します。

 よし、我ながら完璧な推理です! 

 そしてこの推理から出した結論は、何で先導者としての力を使っているのかは知らないけどとりあえず伏見さんは敵だから抵抗してOKということ! 

 

『夜雲さんにSOS!』

 

 外に飛び出した僕は、すぐに石に輪ゴムで止めたメモを2階の借りている部屋の窓に投げて、まだ伏見さんが存在を知らないブラントにお願いして夜雲さんにSOSを出してもらうようにお願いしました。

 留守中に不測の事態が起きた時の緊急連絡手段、伏見さんがやられたとか本当にまずい時に使う手段ですが、今回はその伏見さんがまさかの敵だったという不測の事態で呼ぶことになります。

 

 さて、桃で能力を獲得した人間なら、僕でも対抗できます。

 でも銀髪オッドアイの仲間だったら対抗できません。傷つけられないので、できても時間稼ぎです。

 答えは期待してないけど、とりあえずいきなり殺気ぶつけてきた件と合わせて時間稼ぎの意味も込めて、キャッチしたお皿を手に出てきた伏見さんに目的とかを尋ねることにします。

 

「1発ファイトって、わざわざライドなんてしなくてもカードゲームですれば済む話じゃないですか。何で殺気なんてぶつけてきたのか、教えてください」

 

 後ろにスポーツカーが停車。

 伏見さんの能力として説明された変形ロボット、もといコールの能力で呼び出されたユニットが僕を挟みこむ位置にきます。

 

「あれ? 殺気、上手く隠したつもりなんだけど……敏感だね、管理人さん。ただの管理人にしては、殺し合いに慣れている感があるんじゃない?」

 

 そして僕にどういうつもりかと尋ねられた伏見さんは、ガンスピンしながら可愛らしい外見に合うけれども冷たくで不気味に見える笑みを浮かべながら答えました。

 

「まあ、訊かれたことには答えようか。ファイトっていうからには、闘争──つまり殺し合いでしょ? だから僕はライドしたし、対戦相手に殺意を向けた。それだけだよ」

 

「いや、それだけだよって……そんな当たり前みたいなノリで勝手にファイトを殺し合いにしないでよ」

 

 クレイのみんなは全力で戦っているけど、殺し合いじゃなくてあれはあくまで試合みたいなものだから! 

 ……そうだよね? かげろうの盟主さん、黙示録の炎を吐くドラゴンもそう言ってた気がする。

 

「……僕はしがない寮の管理人、伏見さんと殺し合いをする理由はないですけど」

 

 魔防隊と敵対しているなら、管理人に過ぎない僕に突っかかっても何の意味もないのでは? 

 これで引くとは思えないですが、一応こちらには戦う理由がないから殺し合いに誘うのはやめてほしいと説得を試みます。

 ライドしておいて餌も用意せず戦いから逃げるとデーモンイーターが怒りそうだけど、戦わずに済むならそれに越したことはないので。

 

「管理人さんにはなくても、僕の方にはあるよ。玖若があれだけ執着した理由を確かめたいし、僕らの仲間のおやつに相応しいからお土産にしたいのさ」

 

 予想はしていたけど、伏見さんはしがない管理人は見逃してくださいの要求を却下しました。

 目的は僕で、その理由は銀髪オッドアイが執着していたから。そして僕を伏見さんの仲間のおやつにしたいからだと言います。

 うわぁ……結局フラグ立ってたじゃん。死んでも僕に迷惑かけてきているな、あの銀髪オッドアイは。生き返ってもう何発か殴らせてもらえないかな? 

 

「……あの、銀髪オッドアイを倒したのは僕じゃなくて魔防隊の──」

 

「でもあいつが襲っていたのは君でしょ?」

 

「……ふざけるなあの陰険! チビ! 疫病神! 銀髪! ストーカー! オッドアイ! 顔面100点野郎!」

 

「最後は褒め言葉になってるよ」

 

 あいつの敵討ちじゃなくて、執着していた僕がロックオンされてました。

 思わず恨みつらみを幼稚な罵倒として吐き出したら、最後には何故か褒め言葉になってしまい伏見さんに冷静にツッコまれることになりました。

 やめて恥ずかしいから! 

 

「…………」

 

『顔真っ赤だけど……大丈夫?』

 

「もしかして、好きだったとか?」

 

「それはない」

 

『あ、戻った』

 

 恥ずかしさから顔が赤くなったところ、デビル・イン・シャドーには心配され、伏見さんには銀髪オッドアイのことが好きだったのではないかという到底受け入れ難い勘違いをされそうになりました。

 それは絶対にあり得ません。顔は綺麗だけど、あいつは性根が外道であの邪教の連中と本質似たり寄ったりの輩です。僕が大嫌いな部類に入る奴です。好きになるなんて、外見が天使でも妖精でも無理です。絶対無理。

 

「これは脈なし確定かな。まあ、確かに同輩ながら僕もあの冷血漢は根っから気が合わないから嫌いになる気持ちはわかるよ」

 

「同輩……」

 

 しかし、今の会話で伏見さんが海外のテロリストではなく、銀髪オッドアイのお仲間だった可能性が濃厚になりました。

 おそらく、入院してた時に夜雲さんが言っていた醜鬼の親玉的存在の八雷神を名乗る連中の1人なのだと思われます。

 

 ブラントが夜雲さんに連絡しているはずだから、僕はこいつ相手に抵抗して時間稼ぎすればなんとかなるでしょう。

 相手が八雷神だということはメモに書いてないけど、ブラントは窓から様子を伺って普通の醜鬼じゃないかとを確認して連絡してくれるだろうから。王様を名乗るだけあって賢いしね。

 

 避けられそうにないけど、ドンパチに移るのは最後の手段。意外と伏見さんは対話に応じてくれているし、もう少し問答に付き合ってもらえるか試してします。

 

「伏見さんって、それ偽名ですか? もしそうなら本当の名前くらい教えて欲しいんですけど」

 

 伏見さんはなんとなくですが、偽名な気がします。自称神様が地名ってなさそう……いやそんなことないですね。偽名を疑ってから手のひら返しになるのですが、偽名じゃないかもしれない気もしてきました。

 銀髪オッドアイは尋ねても最後まで答えてくれなかった名前を教えて欲しいという要求をしてみたところ、伏見さんはあっさりと答えてくれました。

 

「うん、偽名だよ。僕の名前は晶伏(しょうふく)。八雷神の1柱さ」

 

 偽名じゃないかもしれないと思ったけど、偽名でした。

 そして八雷神という夜雲さんから聞いた醜鬼の親玉連中の1人であることも当たり前のことのように明かしてくれました。

 何この人、すごい素直……銀髪オッドアイはこのお仲間の爪の垢を煎じて飲むべきですね。コミュニケーションというものを知らなさすぎる。

 いや本当に、僕みたいな隠キャに指摘されるようでは重症だよ。

 

「あっさり答えてくれるんですか……」

 

「その反応、さては玖若のやつ訊くだけきいて君からの質問は一切答えなかったパターンかな?」

 

「はい最後まで答えてくれないパターンでした」

 

「それは本当にごめん。同輩として、あの冷血漢の無礼はお詫びします」

 

「あ、これはご丁寧にどうも」

 

 名前と八雷神であることを明かすだけでなく、銀髪オッドアイの数々の失礼も察して同輩だからと何も悪くないのに謝罪してくれました。

 晶伏さん、案外いい人なのかもしれません。……人じゃなさそうだけど。

 

 これはもしかして、つけ込むことができたりしないでしょうかと思い、賭けに出てみます。

 

「もし悪いと思われているなら、このままお帰りしていただくことは──」

 

「あーごめん、それは無理。わざわざ入り込んだからには、手土産くらいは確保しないといけないから」

 

「どうしても?」

 

「どうしても♡」

 

「……じゃあ僕が出て行くので見逃す形を──」

 

「だいぶ粘るね!? 玖若の件は悪かったと思っているけど、それとこれとは別! 無理だから、諦めてファイトに付き合ってよ!」

 

 賭けは失敗しました。

 流石に無理だったようです。

 ……仕方ない、やりたくないけどドンパチで時間稼ぎしますか。

 

 ただしごねたことが功を奏したらしく、本当に仲間の不始末を己の不始末のように受け止める性格だったからか、晶伏さんからハンデを提示してきてくれました。

 

「……まあ、流石に何も無しじゃ口先だけの謝罪になるし、今の状況も不公平だし、ハンデをあげるよ」

 

「見逃して──」

 

「あげません。でも、最初の1発だけ無抵抗で受けてあげるのと、グレード2にライドするまで待ってあげる。僕にできる譲歩だけど、受ける?」

 

「受けます!」

 

「先導者らしからぬ即答!? まあ、殺し合いで勝率上げられるならなんでも拾うか、命賭けてるんだし。そういう考え──」

 

「ライド! ヴァリアンツ・メガウイング!」

 

「人のセリフ遮るくらいにガツガツ前のめりに来るのは嫌いじゃないよ」

 

『私も嫌いじゃないわ、マイヴァンガード』

 

 せっかくハンデを提示してくれたので、遠慮なく使わせてもらいます。

 出されたのはグレード2までライドするのを待ってくれることと、1発は無抵抗で受けてくれるということ。

 銀髪オッドアイのお仲間なら攻撃が通らない可能性が高いけど、もしかしたらこの晶伏さんの能力である先導者の力、クレイのユニットにライドしている時は同じくらいのユニットの力が通じるかもしれません。

 というわけで、まずはグレード1のユニットである“ヴァリアンツ・メガウイング”にライドします。

 

「ハンデの一発チャンス、頂戴します!」

 

「いいよ、どこに打っても」

 

 そしてロボットアームを背中につけた少女と変形ロボットが待ってくれている機会を使って、提示したハンデの通りにガンスピンしながら余裕で待っている晶伏さんのお腹目掛けて容赦なくドロップキックを打ち込みました。

 

「おりゃあああぁぁぁ!!」

 

 ドロップキックはヴァリアント・メガウイングらしくない? 

 でも華奢なヴァリアント・メガウイングで仕掛ける物理で一番効きそうなのって、立ってる相手にはドロップキック、寝てる相手にはボディプレスだと思うけど……。

 

 そんな1人脳内で繰り広げる寂しい無駄話はともかく。

 そして肝心のヴァリアント・メガウイングのドロップキックの効果のほどはというと──

 

「……これは予想外、君の攻撃全然効かないね」

 

 ──全く効いていませんでした。

 銀髪オッドアイのお仲間ならクレイのユニットだろうと理不尽仕様適用されていてもおかしくないとは思っていたけど、やっぱり適用されてましたよ! 

 

「そっちからすれば予想外でも、こっちは一応予想範囲内です!」

 

 まったく効いていないのは、蹴ったこちら側も当たった瞬間に理解できましたよ。ナイトキッドのサーベルが、マーハの剣が、レミエルの宝具が効かなかった時と同じようにね! 

 

 少し距離をとって、次のカードを取り出します。

 ハンデはもう一つ、グレード2のユニットにライドするまで待ってくれること。

 そこからは晶伏さんの方も動き出すだろうから、夜雲さんが来るまでどれだけ時間稼ぎできるかという我慢の戦いになります。

 こちらの世界に飛ばされてからというもの、毎度のことながら理不尽仕様の敵との戦いですが、粘れば助けが来るので少しは気が楽ですね。

 

「さて、もう一つのハンデも使う?」

 

「当然使わせてもらいますよ! ライド、艶笑(えんしょう)のサキュバス!」

 

『アナタの望むこと、何でもしてあげる♪』

 

 グレード2のユニット『艶笑のサキュバス』にライドして、ロボットアームの少女と後ろの変形ロボットに対応するためこちらもリアガードを展開します。

 

「コール! エンブレム・マスター、アイシクル・レジスタント、イエロー・ボルト!」

 

『先導者の敵、チリにしてくれる!』

電撃(コイツ)は効くぞ、覚悟しろ』

『タダで済むと思わないでよね!』

 

 そして僕がユニットを展開してきたのを見て、晶伏さんの方も嬉しそうな笑みを浮かべました。

 

「いいね、お互い布陣は整った。さあ、君たちを牢獄に叩き込んで龐咲の手土産にしてあげる! 総員、公務執行!」

 

「了解、援護します」

「トランスフォーム!!」

 

「できるもんならやってみろ! イエロー・ボルトは後ろのロボット、アイシクル・レジスタントはロボットアームの女の子を! エンブレム・マスターは僕と一緒に相手のヴァンガードを叩くよ!」

 

『背中は任せろ!』

『了解!』

『我が右手、今こそ解放の時!』

 

 

 

 

 

 遠い宇宙の彼方にある惑星クレイを舞台に繰り広げられる争い。

 その再現──この日、クレイの住人たちは異なる先導者によって導かれた異世界日本の魔都を舞台にぶつかり合うこととなった。

 




主人公の上位互換能力持ちの敵が出るのは定番。
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