異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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夜雲さんたちの視点になります。


40話

 

 魔防隊五番組組長、蝦夷夜雲。

 魔防隊の前に現れた新たな敵である八雷神に対抗するため、魔防隊の戦力増強を目的とした七番組との合同訓練に出ていた彼女は、協力者たちと共に魔都の空を五番組寮に向かって全速で飛行していた。

 

(無事で居て、ミナトちゃん……!)

 

 普段はマイペースで常に陽気な夜雲だが、今の彼女の表情は固く余裕がない。

 夜雲を背に乗せ、彼女の能力による風の支援を受けながら最高速度で飛行する協力者──七番組の管理人であり組長の羽前京香と、京香と契約を結んだ奴隷、和倉優希にも無駄口を一切叩かず風を駆使している様子から、彼女の焦りを感じとれた。

 

 合同訓練の期間中にも関わらず、五番組寮に2人が急行している理由は、少し前に五番組寮に残してきた管理人から──正確にはその相棒の宇宙人から──夜雲の元に来た、八雷神が襲ってきたという緊急連絡にあったからである。

 

 五番組寮を留守にする間、訓練期間中に十番組から魔都災害対応を担うために魔防隊員が派遣されてきたが、玖若の度重なる管理人を狙う襲撃から留守中の八雷神の襲来を想定し、SOSを受け取れるように通信端末を貸していた。

 するとこの日、管理人に貸したその緊急連絡用の通信機から、実は今回五番組に派遣された魔防隊員が人間に化けていた八雷神であり、管理人──ミナトを襲ってきたという連絡が入ってきたのである。

 

 よりにもよって唯一の味方になるはずだった人物が、八雷神が成りすましていたという事態。

 ミナトは応戦しているというが、彼女は一般人と同様に魔都の脅威とは戦えない。

 異世界人であり、ある事情から魔都の桃の能力を持つ魔防隊員とはまた違う力を持つ彼女だが、その力は醜鬼や八雷神を倒せない──つまり魔都災害の前には無力な武器である。

 

 孤立無縁の中、勝てないどころか傷の一つもつけられない相手。

 しかも醜鬼と渡り合う魔防隊員すら組長クラスでなければ蹴散らしてしまう力を持つ八雷神が相手である。

 緊急連絡を受けた夜雲はすぐさまミナトの正体は隠し八雷神の襲撃があったことのみを伝え、京香から優希を借りて現場へ急行することにした。

 

 八雷神は今の魔防隊にとって最優先で対応するべき脅威であるという認識は他の組も同様であり、組長会議で決められた通り組長が八雷神に対応する方針に則り、2人の組長以外の隊員たちは待機し、夜雲は京香とともに貸し出しによって飛行能力を獲得した形態“鳳翼(ほうよく)”となった優希に乗り向かうこととなり現在に至る。

 

 ミナトが異世界人であることを知らない京香と優希は、管理人を戦う力を持たない一般人であると認識しているため、最悪の事態を想定している。

 何しろ魔防隊の寮の管理人で危険と隣り合わせとはいえ、戦う術のない一般人である。その上頼みの綱の代わりに入っていた魔防隊員が八雷神のなりすましであり、それが襲ってきたという話を聞いた時点で、状況は絶望的だった。

 うまく逃げて隠れているか、或いは八雷神の方がまだ手をかけていないか、そんなわずかな可能性に希望を見出すことしかできなかった。

 

 飛行能力を持つ鳳翼は、夜雲の風の援護もあり最高速度は他の形態を遥かに上回る。あと3分とかからず五番組寮に到達可能だ。

 しかし八雷神ならば、その気になれば無力な人間1人を殺すことなど1秒も必要ない。

 

 どうか無事でいてくれと3人が願う中、その祈りが通じたかのように優希の目が五番組寮の方向から逃げてくる人の姿をみつけた。

 そしてその後ろから、巨大な剣を振り回し火を吐きながら逃げる人影を追う二足歩行のドラゴン──未確認の形態の八雷神と思われる怪物が岩を破壊して姿を現した。

 

「夜雲さん!」

 

「間違えない、ミナトちゃんだ! 全力で行って、奴隷ちゃん!」

 

「はい! 全開でぶち込みます!」

 

 逃げる人影がミナトであることを認識した夜雲のゴーサインを受け、優希が全速力で逃げる管理人を救うためにドラゴンめがけて突撃する。

 

「合わせるぞ!」

 

「うおおォォォォォ!!」

 

 ドラゴンの胴体を貫く勢いで突撃する優希に合わせ、京香も刀を抜き、同時攻撃をドラゴンの胸と首に叩き込んだ。

 

 ────グオオオォォォォォ!! 

 

「何事ぉ!?」

 

 普通の人には醜鬼の仲間にしか見えない姿の優希に乗って現れた夜雲たちに驚くミナトの声と、胸に風穴を開けられ首を断ち切られたドラゴンの断末魔の咆哮が響き渡る。

 ──訂正。ミナトの驚愕はドラゴンの咆哮に掻き消され、優希の突撃の際に発生した突風と衝撃波によってカエルが潰れた悲鳴に早変わりした。

 

「ぐえ!?」

 

「ミナトちゃん大丈夫!?」

 

「大丈夫なわけないでしょ! 危うく死ぬところでしたよ、助けてもらったのは感謝しますけど!」

 

「無事でよかったー!」

 

「だから無事じゃないって!」

 

 突撃の直前に優希から飛び降りて駆けつけた夜雲は、カエルみたいな悲鳴をあげながらも無事だった──現在は彼女の能力であるライドで姿を変えている──ミナトの姿に、安堵から満面の笑顔を浮かべて抱きついた。

 

 夜雲に飛びつかれたミナトは助けられるどころか死ぬところだったと悪態つきながらも、夜雲をしっかりと受け止める。

 桃の恩恵で人間離れした身体能力を持つ夜雲のタックルのような飛びつきは桃を食べてその恩恵を受けた人でなければ怪我しかねない強烈なものだが、クレイという星の住人の力を借りているミナトは桃の恩恵無しに受け止めることが可能である。

 

「やりましたね、京香さん」

 

「油断するな、優希」

 

 優希の体当たりと京香の斬撃によって首と胸の急所を穿たれた巨大ドラゴンは、まるで幻だったかのように消えた。

 夜雲の方を見て管理人も無事だったことを確認した京香たちは、誰も犠牲にならず間に合ったという諦めかけていた最良の結果に安堵し、そして先ほど倒して消えたドラゴンに違和感を覚えた。

 

「先ほどの敵、八雷神にしては弱すぎる」

 

「──ッ!」

 

 警戒を解いていない京香の言葉に、優希も気を引き締める。

 

 確かに、強烈な一撃を奇襲で打ち込み倒すことに成功したとはいえ、今のドラゴンは余りにも弱すぎる。

 

 京香と優希は、これまでに2度八雷神と対峙する機会があった。

 

 1度目は六番組との合同訓練の時。

 この時は京香たちは直接交戦することはなく、人間を乗っ取って襲撃してきた八雷神を六番組組長の出雲天花が迎撃し撃破した。

 

 2度目は人型醜鬼となった優希の姉と再会した洞窟での戦闘の時。

 京香の故郷を滅ぼす大きな被害を出した“月山大井沢事件”にて、襲来した醜鬼の生き残りである一本角が特徴の特殊個体の醜鬼を撃破したが、その死体に八雷神が憑依して襲いかかってきたことでそれを迎撃するためにぶつかった戦い。

 この時は復活した一本角を再度撃破し勝利したものの、憑依していた八雷神を討伐するには至らなかった。

 

 その時の一本角と比較しても、余りにも弱いのだ。

 八雷神に乗っ取られる前ですら、特殊個体である一本角はこの突撃と首を狙った一撃で仕留め切れるような相手でなかった。

 

 夜雲も参加して討伐に成功したという八雷神は、非常にタフであり3人の組長が挑んでようやく討伐できたと聞く。

 それらに比べ、先程のドラゴンは余りにも呆気なさすぎる。

 

 遊んでいただけという線もあるが、考えてみればあの八雷神が戦う術を持たず逃げるしかない一般人を仕留めきれずに自分たちの到着を許すとは思えない。

 

 ならば答えは一つ。

 あれは単なるコマ。本物の八雷神はまだ生きており、この近くにいる可能性があるということ。

 

 京香の言葉に周囲を警戒する優希に、背中に乗る主人が五番組寮のある方向を刀で示した。

 

「優希、奴だ」

 

「あいつか──!」

 

 京香が示した方向。

 そこには、岩の上に先ほど倒したドラゴンとはまた異なるドラゴンのような姿をした怪物の背に乗る騎士姿の人影がいた。

 

 姿こそ人間だが、槍と大楯を持ち、兜を被った翼の生えたトカゲ──見るからにドラゴンだろう怪物を従えその背に乗りこの魔都に堂々と佇むような者が真っ当な人間のはずがない。

 何より、この距離からでも視認して目を合わせてから感じている背中に冷や汗が流れるような強いプレッシャーが、先ほどのドラゴンとは比べ物にならないほど強い敵であることを物語っていた。

 

「どうしますか?」

 

「まずは民間人の安全の確保が優先だ。ここで奴を監視する」

 

 まずはミナトの安全を確保することが優先だと判断した京香が、千里眼の能力を持つ部下を通じて現在地を伝え、民間人を保護するための隊員を派遣させ、その間八雷神が動いた時に対応するべく監視に努めるよう指示を出す。

 あの敵を放置することはできないが、しかし民間人が残っている場で八雷神という強力な敵を相手に戦闘を始めるのは避けたい。

 その上、今は夜雲に貸し出しをしている状況。京香と優希の戦闘体制は万全ではなく、京香の元に優希を戻すにはどうしても無防備となってしまう手順を踏む必要があり、そんな隙を八雷神を相手に晒すわけにはいかなかった。

 可能ならば、ミナトの保護が完了するまで向こうが動かないように睨み合いに持ち込むつもりであった。

 

 一方、こちらを見ている八雷神は。

 しばらく京香たちの方を見ていたが、何を思ったのか槍で騎獣にしているドラゴンに指示を出すと、それを受けたドラゴンは八雷神を背に乗せたまま背中を向けてゆっくりと遠ざかりはじめた。

 

「あいつら、逃げる気か……?」

 

「罠かもしれない。見失わないようにしろ」

 

 まるで気心知れた友人に別れの挨拶でもするかのように、盾を上げて横に振りながら去っていく八雷神。

 

 増援を見て撤退を選んだ、ように見えるが、罠の可能性もある。

 それに今は貸し出し中である。この形態の優希の力を完全に引き出して戦うには夜雲が必要だが、醜鬼の襲撃もあり得る中でミナトを1人にして八雷神の追撃をするわけにもいかなかった。

 

 その場に止まりながら見失わないように八雷神を監視していた優希だったが、ある程度離れたところで止まった八雷神の体が突如として光に包まれ、次の瞬間には先ほど撃破したはずのドラゴンに姿を変えて魔都の空へと飛び立って行ったのである。

 

「あいつ、変身するのか!?」

 

「このままでは見失う──!」

 

「じゃあ八雲さんにお任せ!」

 

 このままでは見失ってしまう。

 追撃したいが動けずにいる京香と優希。

 するとそこに夜雲が風に乗って現れ、京香と入れ替わる形で優希の背中に乗り込んだ。

 

「京香、ミナトちゃんのこと任せていい!?」

 

「ああ、頼む!」

 

「おっ任せー! じゃあ奴隷ちゃん、よろしく!」

 

「はい!」

 

 京香を風でおろした夜雲は、ミナトの護衛を京香に任せて、空への追撃が可能な優希に乗って八雷神の追撃に向かうと言う。

 その配役が最善と判断した京香も同意し、夜雲と優希に八雷神を任せた。

 

 夜雲の風を受けながら、優希がドラゴンになって撤退していく八雷神を追撃するべく飛び出す。

 

 同じ姿でも、おそらく先ほど倒したドラゴンよりも遥かに強いだろう。

 緊張する優希を宥めるように、夜雲が首に手を添えて声をかける。

 

「ダイジョブダイジョブ♪ 何たって、空の戦いなら最強の夜雲さんがいるんだから!」

 

「はい!」

 

 貸し出し中の、いっときの主従関係。

 それでも、空の戦場ならば誰よりも頼りになる組長の言葉に、優希の緊張はほぐれ胸に闘志の炎が湧き上がる。

 

「逃がさないゾ!」

「うおおおぉぉぉ!!」

 

「おやおや、追ってくるとは──逃げられなさそうだし、相手になってあげる!」

 

 急上昇して追撃してくる夜雲と優希に気づいた八雷神が、逃げられないと判断したのか振り向いて迎撃の構えを見せる。

 

 魔都の空を舞台に、あらたな八雷神と魔防隊の戦いの火蓋が切られた。

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