異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
ミナトを京香に任せ、優希の背に乗り飛び去ろうとするドラゴン──八雷神を追撃する夜雲。
「飛ばしていくよ!」
「はい!」
距離はあったが、夜雲の風による加速を得た優希の飛行速度はその距離を容易に詰め、振り切れないと悟ったのかこちらに向き直ったドラゴンにすぐさま肉薄した。
剣を構えるドラゴンに向けて、夜雲の生み出す風を鎧のように纏った優希が、先ほど倒した同型のドラゴンに対して仕掛けたように、その胴体に向かって一直線に突撃していく。
「いっけええぇぇぇ!」
「うおおおぉぉぉ!」
先ほど相対したドラゴンは、夜雲の風の援護を受けていない状況の速度でその肉体を貫いた。
今回は夜雲の風の援護もあり、さらに強力な突撃になっている。
外見は先ほどの戦闘で倒したドラゴンと同様であり、同種ならば貫通できないはずはないだろう。
「──おっと!」
だが、それはあくまで同列の存在だった場合のこと。
リアガードとしてコールしたユニットと異なり、八雷神がライドしている状態のこのドラゴンは先ほど優希たちが打倒したユニットよりもはるかに強く、そして狡猾で残忍である。
剣を優希の突撃を受け止めるように構えると、真正面からぶつかり合うのではなく直撃する瞬間に体の向きをわずかに斜め後ろにずらして、剣を盾にし巨体に見合わない巧みな体捌きで力を受け流して軌道を逸らし、最小限の力で夜雲の能力によるブーストを受けた優希の渾身の突撃をいなして見せた。
「なっ──!?」
相手の攻撃を受け止めるのではなく、当たらぬように受け流す。
ぶつけようとした力のほとんどを損なうことなく流された優希は、勢いあまりそのまま流された方向にほとんど減速することなく飛んでいき、八雷神に背中を見せてしまった。
「くっ──!」
「ほら、喰らいなよ! エターナルフレイム!」
この一撃で倒すつもりだった渾身の突撃である。流されて仕舞えば簡単には止まらないし、向きを変えることも難しい。
背中を晒して直進する優希に、足場もない空中という舞台において剣と体捌きで巧みに渾身の攻撃を逸らしたドラゴンが、口から紅蓮の炎を放つ。
炎は巨大な火災のように、直線的ではなく傘状に広がり高速で優希の背中に迫ってきた。
ただでさえ止まることもできない中で、横にも上にも広がる逃げ道のない炎の波が押し寄せてくる。
「そんなのじゃあ、届かないってネ!」
だが、その炎の前に夜雲が立ち塞がった。
鎖を片手に優希の背に立ち後ろを向いた夜雲が、炎に片手を向けて風を起こす。
それは瞬く間に渦を描き旋風となって炎を巻き込むと、綺麗に優希と夜雲に炎をとどかせない風のトンネルを形成してあらゆるものを焼き尽くす黙示録の炎から2人を守った。
「上手く躱すじゃないか! ハハ、面白い」
広範囲に放たれる回避不可能なはずの自慢の火炎を風によって回避して見せた夜雲に、そして先ほど正面からでは跳ね返すのが困難だと思わせていなすことを選択させるほど強力な突撃を見せた優希に、ドラゴンの姿をする八雷神が称賛を向ける。
追いつかれたとはいえ、敵を褒める程度の余裕はある。
だが、この時ドラゴンにライドしている晶伏は、純粋に桃の恩恵を受けたとはいえ神から見れば吹けば飛ぶような存在である人間という脆弱な生命が、予想を遥かに超えて神に対抗して見せた実力を称賛する面もあった。
何とか減速して、晶伏に向き直る優希。
そしてその背に立ち風を駆使する夜雲。
黙示録の炎から生還してみせた2人を、無力な塵芥ではなく戦いとなる敵と認めた八雷神は、命をかけてぶつかる敵に敬意として自らの名を明かした。
「2人は初めましてになるかな、蝦夷夜雲と和倉優希君。僕は八雷神の一柱、晶伏。よろしく、そしてサヨナラだ!」
「あいつ、何で俺たちの名前を──」
「くるよ奴隷ちゃん!」
「回避します!」
魔防隊の情報を仲間たちから得ていた晶伏は、夜雲と優希のことを知っている。
彼女が五番組組長という魔防隊の最高戦力の一角であること、そして彼が七番組組長である羽前京香と契約を交わした奴隷でありその能力によって醜鬼と戦えるこの人からかけ離れた怪物になっていることを。
故にそちらの名乗りは不要だと、なぜ名前を知っているのかと戸惑う優希に向け相手に名乗らせることなく戦闘再開の合図となる火炎を放った。
夜雲の声に反応し、火炎を回避する優希。
今回放ったのは黙示録の炎ではなく、ごく普通の炎のブレス。あらゆるものを焼き尽くすまで消えることなく広範囲に広がる業火ではない。
直線的に飛んできた火炎を優希は回避し、まだ戦闘中だったと気を引き締めて、距離を詰めるべく晶伏に向かっていった。
「──距離を詰めます!」
「オーケー、行っちゃって!」
距離をとっていれば、火炎の攻撃を受け続けることになる。
間合いを詰める優希を援護するように、夜雲が晶伏に向けて風のヤイバを無数に飛ばし、優希にはより速度が出るように背中に追い風を吹かせた。
「奴隷ちゃんの飛行に、夜雲さんの風を合わせれば──!」
鳳翼形態の飛行と、夜雲の宵闇舞踏団。
一つでも醜鬼の群れすら瞬く間に駆逐しながら空を駆け抜けるが、二つが合わさった時にはお互いの最高速度を超越し、誰よりも速い飛行を可能とする。
夜雲の追い風の支援を受けた優希が、牽制として放たれた風の刃を頭のみ腕で庇い、外皮には傷一つつけられない風の刃をものともせずにいる晶伏に急加速で接近、一気に肉薄した。
「────ッ!?」
それは遠距離からの突撃ではなく、中距離を一気に詰めることで先ほどのように剣を構える暇さえ与えない急接近。
桃の恩恵がなければ人の身体など引きちぎれるだろう急加速に、晶伏は対応が間に合わない。
「オオオォォォ!!」
「ガッ──!?」
その顔面に、夜雲の風を受けて一気に加速して突っ込んできた優希の渾身の拳──肉体の一部に瞬間的に力を集中させ強力な一撃に変える日万凛との特訓で生み出した必殺技“
巨体を覆う鎧のような外皮と外殻。
胴体と並んで特に強靭な頭を守るその外殻すら砕く一撃。
頬に突き刺さった拳は、晶伏のライドするドラゴンの外皮とその内側の骨を砕き、足場もないため踏ん張ることも許さず吹き飛ばして、その巨体を背後の大岩に叩きつけた。
岩山がドラゴンの巨体の質量に耐えきれず、崩れる。
かつて隠れ里で初めて本格的に八雷神とぶつかった時よりも、京香たちと共にさらに強くなっている優希の攻撃。
夜雲の風によるブーストもあり、今の晶伏を殴り飛ばした一撃は三吉鬼や鬼童丸の肉体すら砕くほどの威力がある。
しかし、敵は八雷神。京香とともに先ほど打ち砕いた本体ではないドラゴンとは違う。
優希としては骨を砕くどころか、先ほど倒したドラゴン相手ならば頭を貫くか首を捻じ切るほどの威力で殴りつけた。
だが、結果は吹き飛ばしただけ。多少は効いているかもしれないが、しかしこの攻撃で討伐には至っていないことは手応えで分かる。
だから、吹き飛ばした敵に容赦なく追い打ちをかける。
「夜雲さん!」
「まっかせて!」
優希の呼びかけに応え、夜雲が優希への追い風と牽制となるカマイタチを操るのに加えて同時並行で用意していた巨大な竜巻を晶伏へと立て直す暇を与えずに落とす。
ドラゴンの巨体を飲み込む竜巻は晶伏に直撃し、爆発と共に衝撃波と暴風を周囲に撒き散らした。
「うぅ……!」
「あっはっは! いい連携になってる、夜雲さんと相性いいかもしれないね奴隷ちゃん!」
舞い散る石塊とちょっとでも気を緩めれば巻き込み彼方へ飛ばしかねない強風。
その場にとどまるように優希が空中で堪え、夜雲は巨大な竜巻の威力とまだ2回目だというのにすでに形になっている優希との連携を自慢するように、暴風に負けじと声をあげて笑った。
そして、竜巻の落下によって巻き起こった暴風が収まったとき──
「確かにいい連携だ。オーバーロードの頭骨を骨折させるなんて、あの騎士を思い出させるよ」
「うわぁ……これでもまだ立てるとか、玖若とかいうお仲間並にタフなんじゃない?」
「あれを受けて、まだ立てるのか……!?」
「それはもちろん。ドラゴンエンパイア最強の将軍が、ヒューマンに3度も負けるわけにはいかないからさ」
頬骨を壊され、頭部の外殻にヒビを走らせながらも、剣を落とすことなく立ち上がったドラゴンの姿があった。
「よろしい、オーバーロードの肉体に傷をつけた敵への敬意だ。加減は無用、こちらで相手をしてあげよう」
立ち上がったドラゴンが、剣を地面に突き立てる。
するとその足元が光り出し、ドラゴンの巨体を覆う。
「させるか!」
「ストップ!」
何か仕掛けてくる。
何をしようとしているかはわからないが、放置していいことではない。
晶伏が肉体にしているドラゴンに何かをしようとしたことを突然の発光と晶伏の言葉から直感で察知した優希がさせてたまるかと再び突撃しようとするが、晶伏だけでなく周囲への警戒を怠っていなかった夜雲が待ったをかけた。
直後、2人の右からドラゴンのものと比較すれば小さいとはいえ人の身長よりも巨大な直径の火球が飛んできた。
「主の邪魔はさせぬ!」
「くっ──!」」
夜雲の声に反応した優希が、咄嗟に火球を翼で払い除ける。
直後、火球の背後より槍が夜雲目掛けて突き出された。
「夜雲さん!」
「夜雲さんならダイジョーブ! 集中して!」
「はい!」
火球を飛ばしてきた、そして槍を突き出してきたのは、晶伏が巨大なドラゴンになる前にとっていた姿である、中型のドラゴンとそれに騎乗する騎士である。
夜雲の言葉で襲ってきた敵に意識を切り替えた優希は、その身を切り裂こうと振るわれる長い爪のある前足を両手で捕まえ間一髪のところで攻撃を防いだ。
「こいつ、さっきの──!」
「コールとかいうのでしょ? ミナトちゃんから聞いているよ」
奇襲を仕掛けてきた新手の敵を見て、優希はその敵が晶伏がドラゴンに姿を変える前の騎士たちと同じ存在であることに気づく。
理由は不明だが、晶伏はミナトの救世主として与えられたものと同様の能力を駆使するという話をブラントを聞いていた夜雲は、それがコールによって召喚された惑星クレイの住人──ユニットであることを見抜いた。
「ディスティニーコンダクターの手駒の小娘か……!」
自らの正体を看破されたことに、ネハーレンはその情報源がミナトであることを察し、その背後にいるライドとコールの力を貸し与えた存在に思い至り、忌々しいと歯を食いしばる。
晶伏側のユニットたちはそうなのか、ネハーレンはディスティニーコンダクターにはいい印象を抱いていない様子。
「何のことですか!?」
「後で説明してあげる!」
「分かりました!」
一方、コールだのディスティニーコンダクターだの1人だけ知らない言葉が次々出てきて置いて行かれている優希が夜雲に説明を求めるが、今は戦闘中だから集中するよう言われ、ひとまず今は置いておくことにした。
優希と中型のドラゴン、そしてその上に乗る夜雲と騎士。
互いの騎獣とそれを足場とする騎手が、互いの腕と武器や風をぶつけて鍔迫り合いとなる。
「よくやった、ネハーレン」
そして、この奇襲が生み出した隙に、晶伏はライドを完了させる。
「記憶に刻め、命燃やすかの竜の究極の姿! ライド──ドラニック・オーバーロード・ジ・エンド!」
光の中から姿を現したのは、ドラゴンエンパイアの大将軍が更なる進化を遂げた姿。
惑星クレイの人々の記憶に刻まれる、命を燃やす竜の勇姿。
黙示録の炎の赤き外殻から、輝く恒星を彷彿とさせる金色を纏い、巨大な銃を手にしたオーバーロード。
「一度下がれ、ネハーレン」
「ハッ!」
「奴隷ちゃん、避けて!」
「────ッ!」
ジ・エンドが持ち替えた新たな得物である銃を向ける。
同時に指示を受けたネハーレンが下がり、射線上に残された夜雲と優希に向けて、その銃口が火を吹いた。
「痛っぅ……」
「掠めただけ……避けたか。うん、やるじゃないの」
直前まで力ならば互角のネハーレンたちと鍔迫り合いをしていた優希は回避が一瞬遅れ、夜雲が風で強引に押し上げて急所への直撃は避けたものの、手足を銃弾が掠めたことで血が出ていた。
「当たっちゃったかぁ……ごめん、捌きキレなかったよ」
「掠っただけです、まだやれます!」
「よく言った!」
こんなものかすり傷だと、夜雲にまだやれると力強く返す優希。
それに対していいガッツだと夜雲も答える。
ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド。
先程までの巨大ドラゴンも対峙するだけで身がすくみそうになるプレッシャーだったが、このジ・エンドとかいうドラゴンはそのさらに上をいく。
頭部に与えた傷もまるでなかったかのように消えており、ネハーレンの奇襲によるわずかな隙で先程の攻防戦を帳消しにするどころかより強化した第二形態とも言えるような姿に変わってしまった。
対してこちらは消耗している。優希も傷を受けた。この拳では隷架拳の威力も全快には届かない。
ネハーレンが参戦したことで、敵の数も増えた。
状況は劣勢だが、それでも夜雲も優希も撤退するつもりはなく、この場で八雷神を倒すという強い戦意は揺らいでいなかった。
「さあ、第二ラウンドだ。神を打倒してみせなよ、魔防隊!」
「言われなくてもやってあげるよ、いくよ奴隷ちゃん!」
「はい!」
銃を向けるジ・エンドに、優希が向かっていく。
惑星クレイの軍事大国、ドラゴンエンパイアの伝説の大将軍。
その最強形態へ魔都防衛隊の精兵が勇者となって立ち向かう。
クレイと繋がりのないこの世界では本来起こり得ない戦いで、八雷神との第二ラウンドが始まった。
次回は夜雲さん&優希君VS晶伏(ジ・エンド)&ネハーレンになります。