異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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今回は京香さんの方になります。


43話

 

(頼むぞ。優希、夜雲……)

 

 夜雲への貸し出しにより翼を宿し飛行能力を得た形態“鳳翼”となった優希と、その背に乗る夜雲が、巨大なドラゴンに姿を変えた八雷神を追う姿を見送った京香。

 そして夜雲達が八雷神を追撃しに行ったことで、この場には京香とここへ来ることとなった理由──八雷神の襲来を伝えた要保護対象者である五番組寮の管理人の一般人が残された。

 

 八雷神は通常の醜鬼とは比べ物にならない戦闘能力を有している。

 少年型の八雷神の討伐には成功したというが、この時は既に五番組の隊員と一戦交えた上で連戦になる形で組長が3人がかりで挑み、ようやく討伐に成功した。

 それも分身能力を持つ美羅が参加していたにも関わらず、巻き込まれた民間人に犠牲者を出してしまうという最悪の事態を防げなかった上での勝利である。

 京香は夜雲と優希の力を信頼しているが、それでもあの敵が少年型の八雷神──玖若と同じクラスの強さを有する個体だとすれば、組長が1人では苦戦する可能性が高い。

 

 八雷神は組長が対応する。

 本来ならば、この方針に則り京香も八雷神追撃に動くべきところである。

 しかしこの場には守らなければならない者が居り、そしてその無力な相手にも容赦無く牙を剥く醜鬼達が魔都には溢れているため、こちらへ向かってきている部下たちが到着するまでは離れられなかった。

 

「あ、あの……」

 

「魔防隊七番組組長、羽前京香だ」

 

「あ、これはご丁寧にどうも。私は──」

 

「待て。悠長に自己紹介をしているわけにはいかないらしい」

 

 2人は初対面である。

 ミナトを守るように刀を手にして背を向けている京香は、一度ミナトの方に目を向けて自分の名前と身分を明かし必要最低限の自己紹介を済ませると、再び前を向き直る。

 

 魔都の荒野に広がる岩陰から、続々の異形の化け物たちが姿を見せる。

 京香とミナトを捕食対象にしか見ていない通常の醜鬼たちの群れが、2人を取り囲んでいたのである。

 

 見たところ、特殊個体の醜鬼や他の八雷神はいない様子。

 しかし優希はおらず、刀という人を守りながら多数を相手取るには不向きな武器しか持たない。

 客観的に見れば厳しい状況にあるが、しかし京香の表情には自分が劣勢であることなど微塵も考えていないように余裕があった。

 

 醜鬼達から見れば人間はただの餌。

 数で挑めばどうとでもなると思っているのか、早い者勝ちだと言わんばかりに醜鬼達が一斉に京香へと襲いかかる。

 

「醜鬼ども──屈服の時間だ!」

 

 それを鬼の組長の異名を持つ京香は、刀一振りで対応する。

 間合いを詰めた順から、醜鬼達は京香の刀の前に次々と切り伏せられた。

 

「うわ……能力関係なしで醜鬼倒しちゃってるよ、すご……」

 

 まるで紙でも切るかのように、醜鬼の巨体を刀一本でスライスし、時には殴る蹴るというステゴロで砕いて倒していく京香。

 桃の能力など関係ないと言わんばかりに醜鬼を骸の山に変えていく彼女は、霊山の修行を経て本来桃の能力の恩恵がなければ倒せない醜鬼を能力関係無しに倒す戦闘術を会得した唯一の存在である。

 

 能力無しならば、おそらく総組長の山城恋をも上回る。

 得物など関係ない。

 彼女が立ち塞がれば、通常個体の醜鬼の群れなどでは後ろに庇う人間も含めその身を傷つけること不可能だった。

 

「──コール、バーサーク・ドラゴン」

 

 とはいえ、この群れを嗾けた八雷神は京香が組長であることを知っており、通常個体の醜鬼では数がいくらいようとも相手にならないことも承知していた。

 故に、この場には桃の能力があれば図体デカいだけのオーガもどきでしかないような醜鬼よりも役にたつ配下を用意している。

 

「新種……?」

 

 醜鬼の群れを捌く京香の目に映ったのは、群れの奥から姿を現した他の醜鬼達とは異なる容貌を持つ怪物。

 先ほど夜雲たちが追撃した八雷神の姿とも異なる、双頭のドラゴンと呼ぶのが適切な2足で立つ巨大な怪物であった。

 

「あれって、バーサーク・ドラゴン!?」

 

「知っているのか?」

 

 その怪物に見覚えのあるミナトが、驚きの声を上げる。

 先ほど優希とともに切り伏せたあの剣を持つドラゴンといい、京香は初めて見る存在だが、あの八雷神の眷属のようなものなのだろうか。

 間合いとなれば切り伏せる自信があるとはいえ未知の相手である。

 思わぬ隠し玉もあるかもしれないため情報が欲しかった京香は、敵を知っている様子のミナトに、仲間を多数切り伏せられながらも恐れ知らずに挑んでくる醜鬼を捌きながら知っていることがあれば話すよう求める。

 

「ならば話が早い。そのドラゴンについて、知っていることを話せ」

 

「あ、えっと……説明すると長くなるんですが……」

 

「状況を考えろ、要点だけでいい!」

 

「ですよね! じゃあ1番重要なこと、あいつ2つの頭で死角少ない上にかなり射程長い火を吐いてくるので注意してください!」

 

 ミナトのことを知らない相手にクレイのユニットについて説明すると長くなるし、そもそも京香に話していいのかもわからない。

 戦闘中という状況を考えろと叱られたこともあり、今必要な注意するべきこと、バーサーク・ドラゴンが火炎のブレスという武器を持っていることを伝えるミナト。

 

 直後、その言葉の通りバーサーク・ドラゴンが刀の届かぬ間合いより2つの口から同時に火炎を京香たちに向けて撃ってきた。

 

「その程度なら──問題ない!」

 

 刀が届かぬ距離から放たれる火炎。

 1人であれば避けて間合いに飛び込めばいいが、背後に守る対象があれば苦しい選択を強いることとなる攻撃である。

 

 しかし、隊員クラスならばいざ知らず。

 京香にとって刀の届かぬ距離からの火炎など、巻き添えになって焼き払われてるそこらの雑魚醜鬼と同じ。

 避けるまでもなく切って捨てればそれで片付く代物である。

 

「はぁ!」

 

「火って切れるものなんだ……初めて知ったよ」

 

 切ろうと思って切れる代物ではないはずだが、バーサーク・ドラゴンのブレスは京香の刀によって2つとも切り払われ消失した。

 その理解不能な光景に、バーサーク・ドラゴンは「なにこいつ……」と言わんばかりに引いており、ミナトは遠い目で現実を受け入れることにした。当然だが京香が特別であり、普通は切れない。

 火炎は刀で切れるのかと無理やり納得しようとする先導者に、そんなことあってたまるかとバーサーク・ドラゴンが2つの頭をすごい勢いで横に振って否定した。

 

 醜鬼の群れどころか火炎のブレスまで切り捨てるような相手には流石に分が悪いと判断したのか、バーサーク・ドラゴンは自身の先導者の元へ撤退することを選択したらしく、まだまだ数だけは大量にいる醜鬼の群れに京香を任せ背を向けて去っていった。

 

「…………」

 

 ブレスを警戒しその背中を醜鬼を捌きながら見送る京香。

 日万凛たちが来ていない現状、ミナト1人を残してバーサーク・ドラゴンの追撃をすることは選択しなかった。

 

 魔都災害で故郷を奪われた京香は醜鬼を憎んでいるが、一度その憎しみに囚われたあまり部下を危険に晒してしまったことがある。

 それ以来、改めて魔防隊の職務に向き合い優先するべき事柄を見つめ直し、背中を見せる仇敵がいたとしても冷静さを見失わなくなっていた。

 ……まあ、バーサーク・ドラゴンは厳密には醜鬼ではないが。

 

 それはともかく。

 京香はそこから日万凛たちが到着するまでミナトを醜鬼から守り、駆けつけた部下たちにミナトを任せ夜雲たちを追い八雷神のいる戦場に向かうこととなる。

 

 バーサーク・ドラゴンが撤退してから一分も経たないうちに、ジープとバイクに乗る七番組の隊員たち、(あずま)日万凛(ひまり)駿河(するが)朱々(しゅしゅ)大川村(おおかわむら)(ねい)が到着する。

 鳳翼形態の優希に乗って先行した2人の組長が先行していたが、索敵を担当する寧の能力である千里眼により2人の組長の行方を把握しており、救助対象であるミナトがいる場所に真っ直ぐ向かうことで最短時間で到着することができた。

 

「お待たせしました組長!」

 

「私は夜雲たちに合流し八雷神討伐に向かう! 周囲の醜鬼を殲滅し、被災者を寮まで護送し撤退しろ!」

 

「「「了解!」」」

 

 部下たちに指示を出した京香は、バーサーク・ドラゴンを追い八雷神を追撃していった夜雲たちの方へと向かう。

 

「ご武運を、組長」

 

 進行方向に立ち塞がる醜鬼の群れを切り伏せながら八雷神といういまだにわからないことも多い強敵の討伐に赴く上官へ、日万凛が奴隷と共に無事を願う敬礼をして、京香も前に立ち塞がる醜鬼に集中するため振り向くことはなかったが部下の声には握りしめた拳を上げて返事をした。

 

「まずはこの場の醜鬼たちを殲滅する!」

 

 尊敬する上官に要救助者を任された日万凛は、己の与えられた役目を全うするため、仲間と共にまずは安全を確保するべく周囲の醜鬼の殲滅を開始した。

 

 

 

 そして夜雲たちの元に到着した京香が見たのは、激戦が繰り広げられたと思われる岩が砕け炎が燻り赤い血痕がところどころに広がる更地となった魔都の荒れた大地の中で、離れて行った時とは武装などが異なる姿となり立っている八雷神と、その前で傷だらけとなり膝をつく優希と夜雲の姿だった。

 

「優希、夜雲! 無事か、2人とも!」

 

 その状況を見れば、2人が劣勢であることは明らか。

 2人の名を呼びながら駆けつける京香に、夜雲と鳳翼形態のままの優希が頼りになる援軍の到着を受け表情に明るさが戻った。

 

「京香さん!」

 

「やっほー、京香! ナイスなタイミング!」

 

 京香の声に反応した2人は傷だらけで服も焦げてボロボロと満身創痍の状態となっているが、頼れる援軍の到着に気力と戦意を取り戻し顔をあげ再び立ち上がる。

 そして膝をつく敵を前に慢心からなのか剣は下げ銃は肩に乗せるという余裕を見せる体制で2人を見下ろしていた八雷神──晶伏から優希たちを守るように刀を手に巨大なドラゴンの前にたった。

 

「随分と、私の奴隷と同僚を痛めつけてくれたな。ここからは私が相手だ、覚悟しろ八雷神!」

 

「ハハ、今度のお客様は勇ましい人だ」

 

 京香の登場に、晶伏はトドメを刺そうとしたところに水を差す敵の援軍の到来に不快になることも焦りを見せることもなく、むしろ勝負がこのまま決着となるところに新たな獲物が飛び込んできたことを面白がるように笑う。

 そして相手の出方を探るようにいきなり切り掛かってくることなく対峙する京香に、既に夜雲たちには明かしていた自身の名を言った。

 

「僕は八雷神“晶伏”。命を奪い合う相手だ、名前くらいは覚えてもらいたいかな」

 

「魔防隊七番組組長、羽前京香」

 

「京香……ん? 君が羽前京香なの?」

 

 晶伏に応じるように、京香も自身の役職と名前を名乗る。

 殺し合いをする新しい敵の名前を聞いた晶伏は、その名を咀嚼するように小さく呟くと、知っている名前なのか確認するように尋ね返してきた。

 

「貴様に2度も名乗るつもりはない」

 

「あー、別に大丈夫。聞きそびれたわけじゃないから」

 

「……それが遺言か?」

 

 敵に2度も名乗るつもりはないと切り捨てた京香に、晶伏は新手も大歓迎だと言わんばかりに先ほどまで発していた好戦的な戦意を突然引っ込めると、面倒くさいという感情が隠れていない聞く相手の神経を逆撫でするような態度に変わり聞き取れなかったわけではないと返す。

 真面目な性格の京香は下手な罵声よりも挑発になる晶伏のその言葉に苛立ち、刀の切先を向けた。

 対する晶伏は応じることなく、京香の隣に移動した優希へと目線を動かす。

 

「羽前京香と和倉優希……参ったな、蝦夷夜雲の騎獣ならって殺す気で痛めつけちゃったよ。流石に揃ったのを相手にするのは面倒ごとになりかねない」

 

(こいつ、私と優希を知っている……? おそらくあの八雷神から聞いたか)

 

 晶伏の言葉から、初対面だがこの八雷神は京香と優希のことを知っていたらしいことが窺える。

 晶伏の態度に苛立っているものの、冷静に戦況を見ている京香は晶伏の言葉から情報を探っており、そして自分たちを知っていることからその情報源が洞窟などで相対したあの八雷神──無黒であることを推測した。

 

 一方、刀を向けられた晶伏は剣や銃を突き返すことはせず、先ほどまでの新しい獲物の登場に歓喜していた姿から一転、萎えたと言わんばかりに面倒くさげに京香から視線を外して上を向きながらこれ見よがしにため息をつく。

 そして京香の登場にまだ負けてないと再び立ち上がった優希たちとは対照的に、突然戦意を下げてやっぱりやめたと一方的に戦闘終了を宣言してきた。

 

「はぁ……やめだやめ。君らと戦うのは僕じゃない。やることやったし、今日はもう終わり。無黒の標的だし、両方を殺すわけにもいかないから、僕には戦う理由がもうないよ」

 

「ふざけるな!」

 

 魔防隊寮の管理人とはいえ民間人に危害を加えその命を狙うという凶行を犯し、夜雲と優希を傷つけたというのに、名前を聞くなり一方的に自身との戦闘を拒否するという身勝手な晶伏に、京香は怒りを露わにする。

 しかし晶伏は京香の怒りを受けてもそれをどうでもいいと流し、翼を広げて飛び立つ。

 

「あとお任せするね」

 

「待て! 逃がさ──くっ!?」

 

 逃がすものかと空に上がられる前に京香は晶伏へ斬りかかろうとするが、晶伏の言葉に反応したバーサーク・ドラゴンよりその攻撃を妨害する火炎が飛んできた。

 京香はすぐに反応し火炎を切り払ったが、その一瞬の隙に晶伏は空に飛び立つ。

 

「邪魔をするな! ──優希、夜雲と奴を追え!」

 

「はい! 夜雲さ──」

「待って奴隷ちゃん!」

 

「やらせはせぬ!」

 

「なっ──またお前らかよ!?」

 

 京香はすぐに優希に夜雲と共に晶伏を追撃するよう命じるが、しかしそこへ今度はネハーレンが飛び出してきて、騎士が夜雲に、ドラゴンが優希に襲い掛かり、晶伏の追撃を妨害してきた。

 晶伏以外の敵にも警戒していた夜雲が気づき呼びかけたことで奇襲には対応できたものの、この妨害で足止めされた隙に晶伏は空へと飛び立っている。

 

「逃げる気か!」

 

「その認識で結構!」

 

「逃げるな卑怯者!」

「こらー! 手下に任せるな!」

 

「卑怯で結構、逃げるが勝ちさ! 所詮は敗者の遠吠え、逃した方が負けなんだよ! 悔しかったらこいつらに八つ当たりでもすればいいってね!」

 

 逃げる晶伏は京香たちから怒りの罵声を飛ばされるもどこ吹く風と言わんばかりに流した上、ヴァンガードとは違うカードを大量にばら撒きながら飛び去っていく。

 ばら撒かれたカードには醜鬼が描かれ──否、封印されており、ばら撒かれた無数のカードから大量の醜鬼が発生して降り注いできた。

 

「醜鬼!?」

「夜雲さん的には嬉しくないプレゼントだな〜」

 

 突然発生し雨のように降り注ぐ醜鬼の群れに、優希は驚き、夜雲はこの殲滅は難しくないが数ばかり多い余計な増援に文句を口にする。

 2人に──正確には夜雲にだが──京香はバーサーク・ドラゴンが飛ばしてくる火炎を切り払いながら、無駄口を叩く暇はないと叱責した。

 

「呑気なことを言っている場合か! さっさと殲滅して奴を追うぞ!」

 

「はい!」

「それもそうだネ!」

 

 刀で切り伏せ、拳で砕き、風で刻みながら、3人は襲ってくる醜鬼たちを殲滅していく。

 

 ネハーレンやバーサーク・ドラゴンもいつの間にか姿を消していたことで、その後の通常個体の醜鬼の群れの殲滅は苦戦することなく終わった。

 だが、殲滅を終える頃には晶伏は離脱しており、千里眼の能力を持つ魔防隊員の索敵を持ってしても行方はわからなかった。

 

 こうして五番組寮にて起きた八雷神“晶伏”の襲撃事件は、最優先目標であるミナトの救助に成功したが八雷神の討伐までは成せなかったという、素直に勝利を喜ぶことはできない結果で終わることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、醜鬼を殲滅した──ついでに京香の能力の代償を夜雲が払う光景も見えた──彼女たちの姿を遠くより見つめる影が一つ。

 

「目的のものは手に入ったし、仕込みも済ませた。羽前京香……あの人間は評価を改めるべきかもだけど、無黒の獲物だしその辺はあいつが判断するでしょ。とりあえず、今日の仕事はここまでかな」

 

 その人影──セラス・ホワイトにライドしている晶伏は、ロボットアームに乗せている今日の戦利品となる人間を戦闘時には人型ロボットに変形する車のユニットの後部座席に乗せると、自らは運転席に乗りその場を離れていった。

 

 

 

「……しかし、屋外でいきなりおっ始めたのは予想外かな。まあ結局は人間だし、殺し合いの舞台に身を置いていればそういうのもたまるからね」

 

「そういうのって?」

 

「君はまだ早いよ、知らなくていい」

 

「…………?」

 

「セラス・ホワイトにもまだ早ぇぞ、先導者」

 

「そうかな? ……そうだわ」

 




セラス・ホワイトにもまだ早いです。

(8/25 一部セリフを変更しました)
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