異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
────ドサッ。
「
いつのまにか落ちていた意識を叩き起こしたのは、床に乱暴に放り出されて全身を打った痛みによるものでした。
こっちの異世界日本に来る前には気持ちよく寝てたら寝台がわりにしていた台座から仲間に蹴り落とされて叩き起こされたこととかあるので、いつの間に寝ていたのかとか分からなくても地面に落ちて寝ていたところを叩き起こされたというのはわかります。
「あ、あれ? いつの間に寝落ちを──って、ここどこ?」
叩き起こされたことも相成り寝ぼけ気味の中、気持ちよく眠りについた記憶がなくていつの間に寝ていたのかと目を覚ますと、視界に入ってきたのは見慣れた魔防隊五番組寮の管理人室の天井ではなく、岩の地面と暗い空の広がる魔都の外の景色でした。
「なんで外に……」
寝ている間に管理人室から落ちたのかな?
寝ぼけた頭がそんなおかしな予想を思い浮かべ、そして目覚める前の記憶が少しずつ蘇ってきました。
いやいや部屋から落ちるって、そんなに寝相悪くないですよ。むしろどちらかというと良い方です。
そもそもこちとら異星で邪教とルール無用の殺し合いしてきた救世主ですよ。もはや身体に気絶していたとか、薬で眠らされていたとか、異世界帰りで疲れ果ててたとか、そういう余程のことがないと安眠できない癖が染み付いてしまったんですよ。こんな叩き起こされるような無様晒すなんて、普通に寝ついたくらいじゃならないです。
だいたい、気を失う直前の記憶は五番組寮であのクソガキシルバーさんのお友達に襲撃を受けて、まさかの向こうもクレイのユニットの力を借りられる能力があり、ブラントに夜雲さんへのSOSをお願いしてダークイレギュラーズのみんなの力を借りて助けが来てくれるまでの持久戦をやってたけど、結局持ち堪えきれずに気絶させられたところだったはずで……
「────ッ!?」
覚醒してきた頭がそこまで記憶が蘇ってから、ようやく自分の置かれた状況が理解できました。
そうだ、夜雲さんたちが合同訓練に出た空きを埋めるために来てくれた魔防隊員の伏見さんがまさかの八雷神“晶伏”で、僕はその晶伏に負けて気を失っていたんだ。
そして寮の天井でも病室の天井でもないということは、僕は魔防隊に保護されたのではなく、可能性はゼロに等しいけどきしめん頭が仕事をして元の世界に戻してくれたのか、八雷神に捕まったのでしょう。
つまりここは敵地で、僕を地面に落として叩き起こしたのは晶伏か晶伏のコールしたユニットたちということ。
そこに理解が及んだところでようやく戦闘体制をとらなければいけない事態に見舞われていることに気づき、そして手足を縛られて動けなくなっていることに気づきました。
「動けない──って、縛られてるし!」
「うっせぇ人間や」
「あ、起きた。おはよう、ミナトちゃん」
「おはようございます晶伏さん。そしていますぐこれを解いてくださいクソガキシルバーさんの件を申し訳なく思っているなら」
「それについてはハンデあげたのでチャラだからダーメ」
「敵地で縛られてるのに、冷静じゃねーかこいつ。美しくないわ」
僕が声を上げたことで起きたことに気づいた晶伏が後ろから声をかけてきました。なんか口調が安定しない聞き覚えのない声の人がいますけど、それはひとまず置いておきます。
縛られて身動き取れないので礼儀として挨拶を返し、ついでに流れで受け入れてくれるかなという拘束を解くよう要求したのですが、普通に却下されました。ムムム、作戦失敗。
口調の安定しない声の主が驚き半分呆れ半分の反応をしていますけど、これでもそれなりに死線を潜り抜けているのです。
手足しばってこんな場所連行した時点で僕を殺すのが目的ではないことはわかってますから、ひとまず無用な抵抗をしなければ殺される可能性が低いのはわかります。殺すのが目的ならとっくに僕は死んでいるし、此方の命をなんとも思ってないならそれこそ気絶させたり縛ったり運んだりなんてことしないだろうし、生け捕りにする理由があるなら口先だけの反抗くらいなら殺されることはないですから。晶伏の声に殺気も感じないし。
縛られて連れてこられたことだけでもひとまず今すぐ殺されるということが無いということがわかるので、冷静になります。じゃあこっち殺すぞみたいな人質もいなさそうだしね。
口調が安定していない謎の人物の方も敵だろうけど殺意はあまり感じないですので、おそらく無闇に抵抗しなければひとまず殺されるようなことはないと思います。
「僕を殺すのが目的ならもうとっくにやってるはずですから、今すぐ殺されるということはないことはわかります。ほら、こんな芋虫みたいに縛るのだって手間だし、その手間をかけてまでまだ生かされているならひとまずは命の安全は保証されているかなと」
「るっはっは。晶伏よ、この人間面白いわ。自己の置かれた状態、こんな様にされても冷静に見極めることができるかにー」
「おや、聞きなれない語尾。また変なのつまみ食いしたの?」
「だってお腹すいたんだもん!」
「“もん”って……流石にそれはイタいかな……」
囚われの身となっているのに冷静に状況をまとめる僕を、口調の安定しない謎の人物が今度は驚き半分関心半分といった感じで評価してきました。
晶伏も若干引いてますが、語尾が“にー”だの“もん”だのというの、リアルでは初めて聞いたかもしれないです。本当に口調が安定しないですね、多重人格を疑うほどの頻繁な切り替わりですよ。
そしてそんな謎の人物の安定しない口調に、晶伏はつまみ食いしたのかなどという変な質問をしてます。
晶伏と親しげだし、この口調の安定しない人のこと僕は勝手に銀髪オッドアイのお仲間の八雷神とかいう連中の一味認定してましたけど、自称神様でも拾い食いしておかしくなることあるのでしょうか?
「食欲旺盛なのはいいことだけど、最近食べ過ぎだよ。ちょっと自制したまえ」
「お断りですってよ」
「よし、僕はもうこのカオスにツッコむのはやめよう。同輩たちに任す」
「ツッコミを人任せにしてはいけないと思います」
「なら君が代わって」
「人間からされるはやだぞ。美しくないわ」
「バトン返却します」
「僕はもうお腹いっぱいだよ。そして君も違和感なく混ざるのやめて」
唐突に始まった晶伏と口調の安定しない人のコントにさりげなく混じったら、違和感なく溶け込めました。
ツッコミ役のバトン返したら、今度は何さりげなく混ざってきているんだと晶伏が僕にまでツッコんできました。
口調の安定しない謎の人物には人間だからと会話を拒絶されてますけど、晶伏はちゃんと応じてくれるし、ノリもいいので、このまま流れで解放してもらえるかも。
「拘束解いてくれたらもう一回引き受けますけど」
「さりげなく自由な身になろうとするのもやめなさい」
「くっ……我ながら完璧な流れだったはずなのに」
「ボケは
「どんまい晶伏」
「元凶は君だよ龐咲」
残念ながら拘束を解いてもらうことはできませんでしたが、八雷神コントの最中に偶然口調の安定しない人のものと思われる名前を聞くことはできました。
ホウサク……気絶する前に晶伏からも聞いた名前ですね。たしか手土産にするとかなんとか言っていたと記憶してます。
「ホウサク……どんな字書くんですか?」
「まだれに龍、そして開花の意味の“咲”で龐咲。ちなみに僕は日が三つと伏せると書くよ」
「これはご丁寧にどうも」
「ちょっと、ミーのおやつに神の名を教えるんじゃねーよ」
「面白そうだから」
「つまんないし、バトン回すなやボケなすびーム!」
「受け取ったそばからカオスな口調で返さないで」
「返却はスピーディーに。物とお金のやり取りの基本ですね」
「僕の許容を超えないで。頼むから君もツッコミして、ボケと両立でいいから」
「人間からはノーサンキューですわ」
「とのことです、頑張ってください晶伏さん」
「ひょっとして君は自分の状況を忘れてないかな?」
「じゃあ解いてください」
「隙あらば解放を要求するな!」
「痛ぁ!?」
あわよくば流れで拘束を解かせようとしつつコントに混ざっていたら、ついに晶伏が声を大きくしてツッコんできました。
そして何故か僕が蹴られました。……いや、僕にツッコんできたから問題ないのか。
しかし痛いものは痛いので抗議します。
「ちょっと、幼気な女子のお尻蹴らないでくださいよ!」
「幼気な女子は怯えるから! この状況で命乞いも泣き喚きもせず平然と僕たちに絡んでくるような図太い人間が何を言うか!」
「図太くても陰気でもブスでもまだ子供で通用する歳だよ! それとも乙女だろうとブスなら縛ってケツにキックもOKってか!?」
「そんなこと言ってないよ!?」
「悪かったな顔面赤点女で!」
「だからそんなこと言ってないって……」
「これでも人より胸なら大きいのに……ハハ、やっぱり世の中顔が1番だよね。顔さえ良ければ小さくてもモテるよね……」
「情緒不安定やなこの人間」
「口調不安定な君には言われたくないんじゃないかな」
晶伏のテンションが戻り、被害妄想のせいで僕は沈みました。
そして龐咲さんよ。晶伏が代弁してくれたから僕からは言っても会話拒否するだろうし何も言いませんが、口調の安定しないあなたには言われたくないです。
うう……39点に顔面至上主義社会は生きづらいよ。
でも僕には盟友がいるから良いです。顔見た瞬間に“こいつはねーわ”ってなる元の世界の同級生たちなんかこっちから願い下げだよバーカ!
……でも結局虚しいので余計に気分が沈みました。
「表情コロコロ変わるね。龐咲の口調ほどじゃないけど、君の情緒も今はだいぶ不安定だよ」
そんなことしてたらいつのまにか晶伏がこっちの方に来て、しゃがんで僕のことを観察してきました。
「おいこら見せものじゃ……え?」
おいこら見せ物じゃねーぞと言い返してやろうと、ライドを解いている晶伏の姿を見上げた僕は、そこで言葉が詰まりました。
「そこで止まるかね?」
「何で……?」
困惑し途中で言葉が詰まった僕を見下ろす晶伏は、なんでそこで止めるのかと首を傾げています。
そこにあったのは醜鬼のような異形の姿ではなく、あの銀髪オッドアイ同様に見た目は人と同じ自称神様の姿。
晶伏は声からなんとなく想像できていたけど、女性型です。
そして僕が困惑から言葉を詰まらせることになったのは、その晶伏の外見です。
しゃがみ込んで頬杖をつきながら僕を見下ろしている晶伏の顔は、まるで鏡から出てきたかのように僕と全く同じ顔だったからです。