異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
理由は不明だけど、晶伏は僕が救世主としてディスティニーコンダクターに貸し与えられたクレイのユニットたちの力を借りるライドとコールの能力を行使できます。
そして魔防隊員の伏見さんとして潜入していた時はユニットにライドしていたので、あの姿はあくまでライドしているユニットの姿。僕はこの時までライドしていない晶伏の本当の姿を知りませんでした。
「何で……?」
だから、縛られて転がっている僕の正面に回り込んで見下ろしている晶伏のライドをしていない姿を見るのはこれが初めて。
晶伏のライドしていない姿は、まるで鏡の中から出てきたかのように僕と瓜二つの容姿でした。
何これ、ドッペルゲンガー? ひょっとしてダンタリアンにライドしていたりします? ……してないか。
そりゃ、世の中同じ顔の人が3人くらいいると言われますけど、異世界日本だろうと絶対人間じゃないだろう自称神様の怪物が自分のそっくりさんだったというのは予想外です。
偶然だとしてもびっくりしますよ。
「おーい? 見惚れてるって感じじゃないけど、急にダンマリとは。ひょっとして僕の顔に何かついてる?」
「何もついとらんボルキーニ」
「龐咲には聞いてないから。あと、語尾をダジャレにするのはやめようか。にーとかですわとかの方がまだマシだから。流石にそれは僕でも引くから」
ついでに口調や一人称も被ってます。被ってないのは服装と、銀髪オッドアイと同じ猫みたいな縦長の瞳孔だけ。
そして何故か鏡で見る僕自身より可愛く見えます。全く同じ顔のはずなのに。
……いや、なんでさ!?
「顔面偏差値に差があるだと……!?」
「顔面偏差値って何?」
「外見至上主義社会の価値基準だこのヤロー!」
「あーもうこっちも会話通じなくなったんだけど……誰か助けて」
見た目はそっくりなはずなのに、陰キャのせいなのか可愛さにマイナス補正がかけられている、或いは晶伏にプラス補正がかけられている、外見至上主義社会のもたらす不平等を叫ぶと晶伏は暗い魔都の空を仰いで助けを求めました。
……僕がやると変な薬やってるのか疑われそうな仕草なのに、晶伏がやると絵になるのはやめて欲しいんですが。
「なんで顔はそっくりなのに、そっちだけ仕草一つまで絵になるの……?」
「そっくりなこと気にしてたのか」
「顔見て言葉詰まらせたんだから、それくらい予想できますよね?」
目以外はそっくりな外見のはずなのに、晶伏なら困り果てても絵になるが僕はダメという現実に打ちひしがれていたら、僕の言葉を聞いた晶伏が先ほど僕が言葉を詰まらせた理由を知りました。
今更じゃないですか?
そりゃ、そっちは伏見さんとして過ごしていた時から僕の素顔知っていたんでしょうけど、僕の方は騙されている間はライドして本当の姿隠されてたので晶伏の素顔知ったのは本当についさっきなんですよ。
「伏見さんとしてはライドしてユニットの姿とっていたじゃないですか。僕が晶伏の本当の顔見たの、そっちが見惚れてると思い違いした時が初めてです」
「ドッペルゲンガーみたいだよね? 僕も初めて見た時は流石に驚いたけど、君も驚いたんだ」
「驚いたから言葉詰まったんですよ」
晶伏の方もそっくりさんだったことには驚いたらしい。
そんなそぶり見せてなかったけど、内心驚いていたようです。
「初対面の時にはそんなそぶりなかったと思うんですけど」
「まあ見慣れてたから。玖若が執着していた人間と言うこともあって、寮とかに嗾けた醜鬼を通じて見ていたからね、初対面の時には瓜二つだったことは知ってたよ」
「えぇ……」
初対面の時驚いてなかったように見えたのは、その前から醜鬼を通じて僕のことをあらかじめ見ていたからすでにそっくりさんだったことは知っていたから実際驚いていなかったとのこと。
晶伏にこうして襲われることになった元凶があの銀髪オッドアイであることは本人から聞いていたのですが、ストーカーされていた時から晶伏の方にも興味を持たれていたようです。
うわ……あの銀髪オッドアイ、本当に疫病神だ。僕はただ帰還の準備が整うまで静かに過ごしたいだけなのに、あいつのせいで余計な敵が出てくることになりました。
「元を辿れば銀髪オッドアイに絡まれたせいでこうなったの……?」
「少なくとも僕が興味を持つきっかけになったのは、玖若のストーキングからだね」
「あの疫病神ィ!」
やっぱり元凶あいつじゃないか! ホントに疫病神なんですけど! あいつが僕をストーキングしてきたせいで、色んな方面に迷惑が出てるんですけど!
晶伏だって八雷神とかいうボスキャラみたいな存在なのに魔防隊じゃなくて余所者の僕にかまちょする時間を割いてるし、あのクソガキシルバーにやられたの直したばかりの五番組寮に物的被害出しちゃったし、拐われたせいで夜雲さんにもご迷惑をおかけすることになっているだろうし、盟友に心配かけちゃってるし……敵にも味方にも僕みたいな異物のせいで余計な労力かけてしまってますので。
そして僕だってこの状況は本意じゃないです。そもそも事故でこっちに送られたんだから、いずれ居なくなる身の上だし、隠れてひっそりと暮らしたかったんです。
それを! 全部! あの銀髪オッドアイが! いらんちょっかいかけてきたせいでさぁ!
僕だけに執着してかまってくるならまだしも、無関係な人たち巻き込むし!
1人ている時なんてたくさんあったんだから、わざわざイベント会場で仕掛ける必要ないし! 僕なんて普通の醜鬼で襲うだけでも十分なのに、あの馬鹿でかい醜鬼持ってきたうえに自ら襲ってきて酷い被害は出すし! 過剰戦力にも程があるでしょ! 絶対アイツが過剰戦力出したせいで、晶伏が誤解してわざわざ潜入なんて回りくどいことして襲う計画立てることになったでしょきっと!
あと、寮を壊さないで! 危険と隣り合わせだから壊れてなんぼみたいな扱いの施設だけど、魔防隊の施設だから基本的に修理費用は税金なんだから!
こうなったのも全部全部ぜーんぶ、あの銀髪オッドアイのせいです!
「本当になんなんだよあの銀髪ぅ……」
なんで僕が捕まらないといけないのとか、多くの方に迷惑かけて申し訳ないとか、あのきしめん頭がちゃんと仕事してれば今頃家族のもとに帰って元の平和な生活に戻れていたはずなのにとか、溜まった感情が溢れてぐずりました。
泣いてる暇があるなら立って戦えって、そうしないと立ち止まってる間に大事なものがこぼれ落ちていくって、涙なんかに価値はないって異星の戦場で散々教えられてきたのに。ちゃんと枯らしたと思っていた涙は、ただ流し方を忘れようと無理やりふたをしていただけで、溜まれば出てくるものでした。
うう……頭は泣いてる暇なんてないってわかってるのに、溢れたら簡単には止められないです。長いこと流してなかったせいで、止め方を忘れちゃってる。
ぐずる体力あるなら立たなきゃいけないのに……立てないなら頭回して状況打開しなきゃいけないのに……!
「泣いて……なんか……いられないのに……」
それを見た八雷神は、1人は軽蔑の目を、もう1人は哀憫の目を向けてしました。
「肝が据わっていると思ったが、泣き出すとは所詮は小娘か」
「いや、これだいぶ溜め込んでるタイプだよ。できもしないこと無理やりやって壊れそうになってる。流石にこれは可哀想になってくるね僕は」
「や〜だわ〜、泣いたところで変わりまへんゾ。人間を憐れむとは、神として不適格ではないのかえ?」
「これ以上拗らせないで。雰囲気ぶち壊しだから」
「口調くらい統一しろよぉ……」
軽蔑しながらも龐咲の口調は安定せず。
思わず僕までツッコんだじゃないですか。
「ストレス溜まってるね。たしかにあいつ空気読まないっていうか、目的のためなら過程で出てくる影響無視するとか、独りよがりな暴走することあるから、からまれるとさぞストレス溜まるよね」
「今はバトンパスされたそっくりさんにうんざりしてますけど」
「おやおやこれは嫌われちゃったかな?」
「銀髪オッドアイよりはマシですけど。それから同じ顔で僕にできない愛嬌ある仕草と笑顔見せないでください」
そして憐れみながらも結局見下している感が溢れ出ている晶伏は、銀髪オッドアイよりはマシですが好きになれません。同じ顔なのに僕よりずっと可愛いのも好きになれないです。私怨混じってます。
なんならストレートに隠すことなく軽蔑している龐咲のほうがマシなまであります。
流石に銀髪オッドアイよりはマシですが。
くずりながらも同情しようとお前は嫌いだと返すと、晶伏はやれやれといった表情になりました。
……なんで同じ顔なのに、僕がやったら万人からモノ投げつけられそうな仕草を晶伏がやると万人から喝采受けそうな可愛さがでるのかな? 納得いかないんですけど。
「困ったちゃんだな、どうしようか」
ぐずり出した僕を見て、扱いに困った様子の晶伏。
尋問でも拷問でもするのかと思っていると、龐咲が冷たい声で僕の処遇について意見してきました。
「どうするも何も、最初から決まっているのよ。ミーのオヤツだっちゅーの」
「……え?」
オヤツ? ……つまり、食べるって事です?
そういえば、捕まる前に戦った際に、晶伏は僕を狙って襲ってきた理由に疫病神の銀髪オッドアイがご執心だったので興味が湧いたからというのと、同輩の手土産にするためとか言っていました。
口調が安定しないお仲間の龐咲は僕のことを餌だのおやつだの呼んでいるので、晶伏が言っていた同輩というのは龐咲のことなんだと思われます。
「僕、そういう意味でおやつ呼ばわりされてたの?」
「そうだよ」
「そうですわ」
「……食べても美味しくないと思うけど?」
「それはウチが決めることでい!」
ふむふむ、どうやら手土産というのは食糧としての手土産だったようです。
新鮮な方がいいからと、生け捕りにされたみたい。
異世界日本に来る前の救世主として働かされていた異星では人肉食うような怪物とも戦ったことあるし、そういう理由なら分かるけど……でも生きたまま食べられるなんてゴメンです! 理解できても納得できません!
「ストップストップ! 生きたまま食うとかやめて!」
「生が1番でっせ!」
「口調不安定すぎる! こんな奴の腹に収まりたくない!」
縛られているせいで抵抗できないし逃げられない!
待って待って、なんか足にヌメヌメするのがまとわりついてきて僕の体がどんどん引き摺り込まれていってるんですけど!
龐咲に捕食されていることはわかります。
しかし生きたまま丸呑み。
なんとかヌメヌメしている口の内側を蹴り付けようとしたけど、龐咲から伸びてきた触手みたいなのがまとわりついて、ただでさえ縛られている状態なのに余計に動けなくしてきました。
「生きたまま丸呑みはやめて!」
「死体は不味いからお断りですわ」
「大人しく食べられなよ」
「ふざけるなサイコパス!」
ヌメヌメした生温かい感触がもう肩にまで届いている。
けどどうすることもできない。
縛られてるから逃げられないし、リュックもないからライドもコールも使えないし、もはや僕には食べられる様を笑いながら見ている晶伏へ恨み言をぶつける事しかできませんでした。
「化けて出てやるからなぁ!」
「三下感すごいよ、その捨て台詞」
「指摘しないで、言った僕自身が1番そう感じているんだから! だいたい、今まさに呑み込まれそうになってるからテンパってるんだよこっちも!」
「ごちゃごちゃうるせえ! 黙って食べられたまえ」
「嫌だね! 食われる最後まで恨み言連ねて──もがが!?」
龐咲が黙れと言わんばかりに触手を伸ばして僕の口を塞ぎました。
ヌメヌメした触手に口だけでなく頭全体を掴まれて、視界まで塞がれます。
そしてそのまま龐咲の体に取り込まれ──
「ごちそうさま」
麻酔にかけられたように、龐咲の身体の中で僕の意識も静かに闇へと落ちていきました。