異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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しばらくオリ主は退場し、舞台は横浜に移ります。


46話

 

 組長会議の開催中にて、本部に対する醜鬼を用いたテロリストの襲撃とともに組長の不在を狙ったかのように行われた、玖若を名乗る八雷神による魔防隊五番組寮襲撃事件。

 対八雷神に向けた合同訓練の実施中に、再び組長不在を狙ったかのように行われた魔防隊員に扮した晶伏を名乗る八雷神による魔防隊五番組寮襲撃事件。

 

 その前に発生していた三番組と七番組に対する襲撃事件の際には、どちらも組長が寮に滞在していた状況で発生している。洞窟にて発生した戦闘においても、2人の組長が同じ現場にいたところに仕掛けられた襲撃だった。

 

 五番組寮に対する襲撃では、組長が不在だった。

 それは偶然なのか、或いは狙って行われたものなのか……

 今回の晶伏襲撃事件において魔防隊の内部に八雷神が潜伏していたという状況が明るみになったことで、組織内に八雷神が紛れ込んでいる可能性が発生し、情報が漏洩している可能性が浮上した。

 

 組長会議に関しても、内容は当然機密事項だが日程などは公表されている。

 とはいえ魔都に棲息する存在と考えられている八雷神側がこの情報を入手できる可能性は低く、テロリストの襲撃や組長会議の日程と重なって行われた五番組寮襲撃事件で夜雲が不在だったのは偶然と考えられていた。

 

 しかし、その認識を覆す事態が判明する。

 確保したテロリストを尋問し能力によって記憶を解析したところ、所属は東欧にて活動しているテロ組織の構成員であることに行き着いたのだが、黒幕は間に複数の勢力を噛ませているようで不明だった。

 

 一方でテロリストの記憶から、テロ組織とは別に重大な情報が得られた。

 陰陽寮でもいまだにその全貌が明らかになっておらず研究段階である醜鬼。

 彼女たちがこれを制御しテロ行為に用いたのは、テロリストの桃の能力ではなく、玖若がテロリストに組長会議の日程の情報提供と襲撃を依頼しており、その協力を対価として襲撃に用いる醜鬼の群れを貸していたのである。

 

 組長会議の日程に関しては、晶伏を名乗る八雷神が魔防隊内部に入り込んでいたことからそこが情報源になっていると推測されている。

 玖若はテロリストたちが攻撃を仕掛けてきた同日に五番組寮を襲撃していたため、組長会議とともにテロリストによる襲撃を依頼していたことから組長不在を認知した上で攻撃を仕掛けてきた可能性が濃厚であった。

 

 玖若を名乗る八雷神が日本に悪意を持つ組織と繋がっている。

 そして八雷神に醜鬼を制御し統率する能力がある。

 クナドを形成し、二つの世界を行き来する能力も確認された。

 魔防隊内部に八雷神が潜伏していた上、晶伏以外の八雷神がいまだに潜伏している可能性も否定しきれない。

 

 魔防隊に向けて明確に人類に対する敵対の意思を表明した神を名乗る未知の敵。

 彼らが何者なのかはわからないが、人類への敵意を抱いていることは明白である。魔防隊だけでなく、民間人にも犠牲者を多数出している。

 

 八雷神が早急に対応が必要な事案であると見た魔防隊総組長の山城恋は、晶伏以外の八雷神の潜伏の可能性を考慮し、魔防隊、政府、陰陽寮などの内偵を進めるとともに、八雷神側に玖若以外にもクナドを形成する能力を保有している可能性を考慮し警察と連携して現世側でも八雷神と思われる事件などの洗い出しを行うこととした。

 

 同時に組長不在時の八雷神襲来や相対する可能性を考慮し、魔防隊全体の戦力強化にも着手。

 交流戦だけでなく、陰陽寮にて生産される醜鬼に有効な武装の改良や、八雷神が襲来した際の被害を抑えるための防衛・人命救助を目的とした訓練の強化、能力だけでなく基礎体力や組員・組長同士の連携強化などを進めていった。

 

 内偵では特に度重なる組長不在時に発生する五番組寮に対する八雷神の襲来から、八雷神の内通者の潜伏先候補として五番組の可能性が高いと推測し、寮と組員たちの調査を実施している。

 組長の夜雲がスカウトして最近雇用した管理人にまで尋問を実施するとともに能力による記憶に至るまでの調査を実施したが不審な点は見つからず、内偵の方は現在不発の状況にある。

 

 組長の蝦夷夜雲、副長の五木カイコも同様に八雷神とのつながりや洗脳の類を受けるなどの状態は確認されず、現在は組員の所山サキが陰陽寮から派遣されている他人の記憶を覗き、書き換えたり忘れさせることも可能な能力を持つ取調官の尋問を受けていた。

 

 魔防隊本部にある取調室にて、取り調べを受けている魔防隊五番組所属の隊員である所山サキ。

 彼女と机を挟んで座り調書を取っているのは、陰陽寮に出向中だが本来は魔防隊十番組に所属している他者の記憶を覗き操作できる能力を持つ魔防隊員である。

 

「まあ、その記憶を覗き見する能力を駆使する隊員ってのも本物は龐咲のおやつにして入れ替わり済みなわけだけど」

 

「…………」

 

「これで調書もこちらの都合の良いように書けるわけだし、まあ人質に危害を加える理由は無くなるわけさ。良かったね?」

 

 魔防隊員である──はずだった。

 

 異世界人でミナトの正体を知るサキは、この取り調べにて彼女のために真実を何とか隠すことはできないかと悩んでいたのだが、その心配は杞憂に終わる。

 

 なぜならば、形ばかりの本人確認を済ませあとは記憶を覗くことも質問することもせず勝手に調書を書き込んでいる取調官は、人間ではない。

 姿形は人間だが、その正体は合同訓練のために組員たちが留守にしていた間を狙い五番組寮を襲撃した八雷神“晶伏”だったのである。

 

「…………」

 

「余計なことは喋らない方が人質のためだよ」

 

 普段から極端に口数が少ない彼女だが、あの日──合同訓練の最中に発生した五番組寮襲撃事件の日以降は一層その傾向が強くなっていた。

 

 何故、彼女が魔防隊本部の取調室にて晶伏と相対しているのか。

 それは、その晶伏が五番組寮にて管理人の朱霧ミナトを襲撃し、そして夜雲によって助けられたはずの日に遡る。

 

 

 

 

 あの日──七番組との合同訓練の最中に発生した八雷神の襲撃にて京香たちの協力もありミナトの救出と八雷神の撃退に成功したという話を聞いた後のことだった。

 

 救出されたミナトは五番組寮襲撃事件の調査と非戦闘員である彼女の安全確保および怪我の治療のために陰陽寮の医療施設に送られることとなった。

 

 八雷神や醜鬼などによる襲撃の可能性を考慮し、サキが護衛についてブラントとともに向かうこととなり、寮に取り残されていたブラントを拾ってから彼女はミナトに合流したのだが、再会したブラントは七番組の姿が無くなるとミナトに対して突然鋭い剣幕で問いを発した。

 

「……容姿が似通うとしても、我が盟友を違えるはずはない。貴様は盟友──否、ヒューマンですらない。何者だ?」

 

 普段のブラントが盟友と呼ぶ彼女に向けるのとは全く違う、敵意に満ちた声色の問い。

 混乱するサキをよそに、敵意を向けられたミナトは当初おどけて見せたが、ブラントの目は欺くことがないと見ると態度を豹変させた。

 

「あはは♪ 遊星の王は流石に騙せないか……御名答! 僕は“朱霧ミナト”じゃない」

 

 夜雲がミナトだと認識して救出したそれは──十番組に潜伏し五番組寮を襲撃した八雷神晶伏だったのである。

 

 晶伏は、ミナトが駆使する惑星クレイの住人たちの力を借りるものと類似する──否、同じ能力を駆使する八雷神だった。

 そして偶然か、その容姿も声も、縦長の瞳孔以外全てがミナトと双子のように瓜二つであった。

 分裂能力を持つ晶伏は、“十番組に潜伏し襲撃し本物のミナトを連れ去った個体”と“本物のミナトに成り変わり救出された個体”、そして“八雷神晶伏として成り変わった個体を追撃し救出に来た魔防隊と交戦した個体”に分かれ、夜雲たちを欺き2度目の潜伏を果たしたのである。

 

 ミナトの正体が八雷神であり、本物は囚われの身。

 すぐさま晶伏と交戦しようとしたサキだが、分裂している個体がミナトを抑えていた晶伏はミナトを人質にとる。

 晶伏に「人質がどうなってもいいの?」と脅され、ブラントともども大人しくする他なかった。

 

 現在、ミナトに成り変わった個体は施設に五番組寮の新しい管理人として保護されている。

 そして今回の取り調べで晶伏である正体と、異世界人であるミナトの素性が判明すると思っていたサキの前に現れたのが、“陰陽寮に潜伏しライドの能力を駆使して取調官に成り変わっていた個体”の晶伏だった。

 

「クレイの住人たちって面白いでしょ? こんな器用なことできるしさ」

 

 当然、この取調官に成り変わっている晶伏からも「余計なことを喋れば人質の命はない」と脅迫を受けている。

 ミナトが囚われている場所すら判明していない現状、サキは晶伏の要求に従うことでしか彼女の身の安全を守る手段がなかった。

 

 晶伏の脅迫を受けてからというもの、ミナトの安全が気がかりなのと何もできない自分の無力さがもどかしく、ただでさえ少ない口数はより減少している。

 

 ミナトの素性を知る夜雲とカイコは既に取り調べを受けている。

 そして2人はミナトが八雷神に囚われていたことを知らなかった。

 ミナトのことをなんとか隠したいと考えていた2人は、尋問だけで記憶を覗く能力を駆使されてないことに対して指摘することができなかった。違和感は感じただろうが、記憶を覗かれることがあればミナトの正体を知られることになる。彼女を守るためにスルーし、記憶を覗かれなかったのは偶然ではなくわざとであり取調官が八雷神側であるという可能性まで考慮することができなかった。

 

 そして、サキにはその2人に事情を打ち明けることもできない。

 2人もまた保護しているミナトの正体が晶伏だと知ればサキ同様に脅迫を受けるだろうし、それ以前に他の人間に知られるようなことがあればその時点でミナトに危害を加えられる恐れがある。人質を握られている以上、サキの方が立場は圧倒的に弱いのである。

 

「…………」

 

「調書の方は都合の良い形にしておくよ。僕だって今はしばらく人間たちの方に潜伏して情報収集を続けたいし」

 

 晶伏がミナトの正体に関しても一切触れずに適当にまとめた──皮肉にもミナトの正体を隠したいサキにとって望ましい形にまとめられた調書を見せてから、席を立つ。

 

「以上で調査は終了いたします。ご協力ありがとうございました、通常の業務にお戻りください」

 

 立ち上がった晶伏は、入れ替わった対象である陰陽寮の取調官の顔になると、淡々とした口調で取り調べの終了を告げて部屋を後にする。

 

「…………」

 

 残されたサキは、ミナトを助けたくても助けられない状況にどうすればいいのか分からず、しばらく席を立つことができなかった。

 

 

 

 

 

 晶伏の持つ分裂能力は、美羅の分身能力とは違い本体に該当する個体がない。

 分裂した個体を倒したとしても他の個体がいる限り滅ぶことはなく、さらには全ての個体同士は常に記憶と思考を共有することが可能である。

 加えてライドとコールの能力を駆使する。

 自在に姿形を変えることが可能であり、さらには手駒も自在に配備できることで、どこに潜伏していたとしてもおかしくない晶伏の能力は諜報に適している。

 八雷神の監視の目は、どこにあってもおかしくない。

 

 どこから監視されているか分からない。

 その不安はサキの精神をすり減らし、ミナトを助けることができたがより強くならなければと思っており向上心から訓練に身が入っている夜雲やカイコと対照的に、不安定となり訓練・実戦ともに調子が低下していた。

 

 口数も表情も乏しいサキだが、近況の不調ぶりは顔色を始めかなりわかりやすく表に出てしまっている。

 夜雲やカイコも見ていられないと何度も声をかけたが、誰にも相談できないサキは誤魔化すことしかできない。

 結果、彼女は取り調べを受けた日から半月ほどが経過した頃、ついに倒れ込んでしまった。

 

 五番組で組員が倒れるという事態が発生する一方、魔防隊の内偵の方も成果が上がらぬまま時間ばかりが経過する。

 

 そんな中、魔防隊に警察からある依頼が舞い込む。

 

 内容は横浜を中心に急増している行方不明者の捜索に関する協力依頼。

 本来は警察の管轄である現世側の事件の協力要請が魔防隊に出されたのは、行方不明者が誘拐されたことを示す証拠となる監視カメラ映像があったこと、そしてそこに映っていた誘拐犯の姿が魔防隊管轄案件となる可能性が高いことからであった。

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