異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!? 作:火星で1,000往復
ディスティニーコンダクターを名乗る性根の腐ったクソガムさんによって異世界に飛ばされ、ようやく元の世界に戻れたはずの日。
しかしあの仕事が雑なきしめん頭の手違いにより、元の世界の日本ではなく、魔都という異界とそこに住む醜鬼という化け物が存在する女尊男卑の異世界日本に飛ばされてしまった。
しかも飛ばされた先がよりにもよって魔都。
必要最低限──にも届いていないあのクソガムのクソ雑な謝罪文と──この異世界日本の世界観に関する説明が記された置き手紙を見て、怒って、八つ当たりで破り捨てた後、異世界日本に帰る道を探していたら醜鬼と遭遇して襲われました。
頑張ったけど勝てませんでした。
肩外れました。多分骨折れました。
そして食べられそうになりました。命乞いしたけど聞き入れてもらえませんでした。
そしたら、風が吹いて飛ばされて巻き上げられて、気がついたら暗い魔都の空の中で見知らぬ綺麗な女の人にお姫様抱っこされていました。
何言っているのかって?
うん、僕もそう思う。何言っているんだって。
でもこれが事実なんです。だって身体中さっきから痛いし、すごい風が吹いているし、下で醜鬼が死んでいるし、僕を助けてくれただろうお姫様抱っこしている女の人の体温を感じますから!
「あ、あの……貴女は……?」
どちら様?
状況が理解できず、とりあえず無難なことを尋ねた僕に、軍服っぽい服装をしているその綺麗な女の人はまるで子供みたいな晴れやかな満面の笑みを浮かべて答えた。
「私は魔防隊五番組組長の
お腹が丸見えの丈の短い上着にミニスカートという、明らかに空を飛ぶには適さない格好をしたその綺麗な人──夜雲さんの自己紹介を受けて、僕はきしめん頭の置き手紙にあった説明の一文を思い出す。
この異世界日本において、魔都の資源である桃を食べて能力を発現させた女性達で構成される、醜鬼をはじめとする魔都の脅威から人々を守るために結成された新たな国防組織『
たしか、クソガムからの手紙にそんな説明があったはず。
この夜雲さんは、どうやら魔防隊という組織の隊長という地位にある人らしい。
僕では歯が立たなかった醜鬼を一撃を粉砕していたし、格好はアレだけど相当強い人みたい。
そしてどうやら僕はこの夜雲さんという人に助けられたらしい。
クソガムさんの説明によれば、醜鬼を倒し人々を守るのがお仕事らしいから、彼女にしてみれば己の職務を全うしているに過ぎないのだろうけど。
……ともあれ、本当に助かった。
本気で死ぬかと思ったから、夜雲さんは僕にとって命の恩人です。
「あ、あの……ありがとう、ございます」
外れた肩と折れた肋骨にお姫様抱っこの体勢は響くけど、命の恩人に余計な負担をかけるわけにはいかないので、我慢して助けてくれたお礼を口にする。
「良いよ、それが夜雲さんのお仕事だから!」
とても明るい人柄なのだろうことが伝わってくる声と表情。
助けてくれたことに関してはそれが仕事だからと、助けた相手にいつか言ってみたいと思えるカッコいい答えを返してくれた。
「うーん、骨が何本かいっちゃってるかな? それから肩の脱臼、と。目立つ外傷はこれくらいかな」
その上、その手の知識があるのか僕のケガも多少触るだけで見抜いた。
「わ、わかるんですか?」
「被災者の応急手当てとかも魔防隊のお仕事だからね! ちょっとだけ待っててね、すぐに治してもらうから!」
「え──」
夜雲さんの体を空かせている風の向きが変わる。
眼下に風で砕かれた醜鬼達の残骸を残し、僕を抱えたまま夜雲さんは風を操り猛スピードで飛んでいった。
桃の恩恵には、身体能力などを大幅に上げるほかにも、個人によって特別な能力を開花させるというものがある。
飛行、発火、瞬間移動、分身、味方の強化や敵の弱体化、毒、電撃、中には時間操作という能力まで。その内容は多岐にわたる。
夜雲さんの能力は、おそらく風を操る類の能力なのだと思う。
風を駆使して敵を切り裂いたり吹き飛ばしたり、あるいは自分を飛ばして移動に用いたり──
あの後、僕は夜雲さんに風で運ばれて、彼女の部下で回復の能力を持つ魔防隊員の元まで送ってもらった。
そこで夜雲さんがリーダーを務める魔防隊五番組の副長である
命を救っていただいただけでなく、ブラントが入った鞄まで運んでもらった。こうして治療を受けさせてくれたことには感謝しても仕切れない。
しかし、つい最近まで命懸けの戦いの日々が続いていた異世界での疲労が溜まっていたことと、怪我の痛みと命の危機から解放された安堵から、治療を受けた僕はそのまま眠ってしまった。
次に僕が目を覚ましたのは、魔都に幾つか存在しているという魔防隊の拠点の一つ、『魔防隊五番組寮』の医務室のベッドの上だった。
「……知らない天井だ」
「お目覚めかい?」
「貴女は……」
目を覚ました時、最初に見たのは知らない天井。
そして僕が目を覚ましたことを気づき声をかけてきた人の方に視線を向けると、そこに魔防隊の制服に身を包む1人の女性の姿があった。
天井は知らないけど、彼女は知っている。
眠ってしまう前に僕の骨折を治療してくれた魔防隊五番組副長さんだ。
「いつき、かいこさん……」
「意識と記憶ははっきりしているみたいだね。ケガは一通り治療はしたけど、どこか痛むところとかはない?」
「……大丈夫、です」
彼女の名前を思い出し、記憶もはっきりしてくる。
きしめん頭に手違いで異世界日本に飛ばされ5年も滞在する羽目になったこと、転送先が魔都でいきなり醜鬼に遭遇したこと、追いかけ回され立ち向かったけど歯が立たなかったこと、そして夜雲さんに助けられたことを。
「ありがとうございました」
ベッドの上に正座して、カイコさんにお礼を言う。
彼女達は命の恩人である。
……いや、もう、本当に助かりました。異世界日本に飛ばされて1日目で死ぬところだった。
「礼には及ばないよ。民間人を醜鬼から守るのは魔防隊の責務だから」
ベッドの傍らにはぬいぐるみとなったブラントが入っている鞄が置かれている。
喋ると面倒なことになりそうだと判断したのか、ぬいぐるみに擬態して静かにしてくれている。
その後、カイコさんの簡単な診察を受け、後遺症などもないことが確認できた。
カイコさんは身元確認のために組長──夜雲さんを呼んでくると告げると、部屋を後にする。
「…………」
取り残された僕は、とりあえず鞄を手元に持ってきて、壊れて開きっぱなしとなっていたファスナーの口から顔を覗かせるブラントを取り出した。