異世界から帰還したら、変な化け物が闊歩する日本だったんですけど、これってどういうことですか!?   作:火星で1,000往復

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6話

 

「────という訳だ」

 

 カイコさんが夜雲さんを呼びに行くために出て行った後、僕はブラントから寝ている間にあった出来事を聞いた。

 

 やはりというべきか、あの風は夜雲さんの能力だった。

 僕を食べようとしていた醜鬼を真っ先に砕いて助けた後、救助するとともにカットラスを壊した他の醜鬼達もついでのように撃破し、ブラントが入った鞄を回収して後続として向かっていたカイコさんのところに急行。

 そこで応急処置を施してから、醜鬼の襲撃から安全を確保するために結界の貼ってある安全地帯であるこの魔防隊五番組寮に戻ったとのこと。

 

 安全が確保できたことで、僕はそこで眠ってしまった。

 その後はこの医務室に運ばれてカイコさんに治療を受けたという。

 骨折も脱臼も完治している。回復はカイコさんの能力で、僕が眠っている間治療しているカイコさんの横で眠ってしまった僕に自慢げに夜雲さんが語っていたとのこと。

 

 僕の治療後、夜雲さん達は身元を調べるために鞄の中を調べていたとのこと。

 荷物もついでのように運んでくれたのは、彼女達にとってあの程度の醜鬼は雑魚らしく片手間で片付けられる相手だったから余裕があったというのと、要救助者の身元を調べる証拠として必要だったからとのこと。

 魔都から出てくる醜鬼に襲われたり、今回の僕みたいに魔都に迷い込んでしまう『魔都災害』の被災者だけど、中には不法入国者や指名手配が出ている犯罪者などもいるという。

 この異世界日本は魔都という脅威と隣り合わせの世界だけど、同時に能力を得られる魔都の桃といった世界を変えた資源を独占できる状態にあるため、それを狙う外国の勢力や反社会的組織が魔都に違法な手段で入ることも多いのだとか。

 

 ヴァンガードのカードに関しては、異世界日本でも普通にカードゲームはあるらしく、夜雲さん達は特に気にしていなかったという。

 原付の免許証を見つけ、夜雲さん達は僕の名前などを確認したみたい。

 先ほどカイコさんが診察の時に名乗った記憶がないのに僕の名前を呼んだけど、なるほどそういうことでしたか。

 免許証は異世界日本も同じだったみたいで、こういう時にあるかもと覚悟していたところのある所持品から即座に異世界人バレすることはなかった。

 

 ……なかったけど、詳しい身元確認されると僕がこの世界の住人じゃないことがバレるよね? 

 少なくとも異世界日本も暦が同じだったので、僕が未成年であることは免許証を確認した時点でバレているらしいし。

 この異世界日本では不法入国者が問題になっているみたいだし、戸籍とかないことがバレると絶対に疑われそうである。

 

「……待って、今結構ピンチじゃない?」

 

「……一難去ってまた一難であるな」

 

「つい最近聞いた気がするセリフだ」

 

 異世界日本がどういう日本なのかはまだほとんど知らないけど、魔都の桃は結構重要視されているみたいだし、それを盗みに来た身分偽装の不法入国者と判断されたら重い刑罰が下るかもしれない。

 いっそ逃げるべきかと思ったけど、ここは魔都。魔防隊にとってアレが雑魚という醜鬼にすら苦戦を強いられあわや死にかけたことを考えると、逃げるのはかなり危険な行為になる。

 それに、逃げたところで魔都では水や食料が確保できないし。

 現世側に行こうにも、二つの世界を繋ぐ出入り口である門──クナドと呼ばれているらしい──は魔防隊の拠点にあるから、見つからずに現世側に向かうのは不可能。

 

 逃げるのは危険すぎるし後がないので、大人しく待つことに。

 

 真実を話しても信用してもらえるとは思えないしなぁ。

 不法入国者扱いされて一旦逮捕される方が安全を確保できそうだけど、それでも結局身元不明なままなんだよね。

 

 ……困った。ものすごく困った。

 それもこれも全部クソガムさんのせいだけどね! 

 

「そうだよ、全部あのクソガムさんのせいだよ。クソったれ、今度会ったらあのきしめん頭全部毟ってつるっ禿げにしてやる」

 

「我をぬいぐるみ扱いするな」

 

 不安を紛らわせるようにぬいぐるみとなったブラントを抱きしめながら、全ての元凶に対する恨み言を漏らす。

 こうなったのも全てあいつのせいだ。少しくらいフォローしろよと思うけど、あのきしめん頭が保護者や身分を作っておくなんて気の利くことはしないだろう。アイツ仕事雑だし。

 

 ぬいぐるみ扱いにブラントが抗議してくるけど、今は我慢して心の安静剤になってほしい。

 こんなのモフモフ抱かなきゃやってられないって! 

 

「盟友よ、我の真の姿を知っているだろう? 何の因果か今はこの姿に甘んじているが、さりとて我は遊星の王。このような扱いは──」

 

「お断りします。モフモフ抱かなきゃ、やってられない」

 

「……重症であるな」

 

 ぬいぐるみ化したブラントはモフモフのモコモコだった。

 抵抗しても勝てないことを理解しているのか、抗議はしてくるが抵抗はしなかった。

 

 半年──それまで退屈だけど平穏だった当たり前の日常を奪われて、半年も邪教の教団と命懸けの戦いの日々を繰り広げてきた。

 生きて元の世界に、家族のもとに帰る。それを希望に、戦ってきた。

 

 そして、教祖を倒しその日々がようやく終わると思っていた。

 やっと帰れると、家族に,友人達に再会できると思っていたのに──

 

「…………」

 

 家族が待つ家に帰りたい。

 醜鬼による襲撃という恐怖の体験を終え、ブラントと2人きりになり、全ての元凶に対する恨み言を吐き出した後、湧き上がってきた郷愁の念。

 

 命を賭してルール無用の殺し合いをする戦場に、弱者の涙は何の価値もない。悲しみに暮れ、恐怖に怯える暇があるなら、歯を食いしばって勝つために進まなければ死んで終わり。

 それを思い知った日に枯れたと思っていた涙が静かに流れた。

 

 5年経てば、元の世界に帰れるという。

 こっちの異世界日本では、醜鬼と戦う魔防隊がある。今回はきしめん頭のミスで飛ばされた世界なので、僕が醜鬼と戦う義務も理由もない。

 だから、2度と魔都に巻き込まれないように過ごせばいいだけ。

 

「……そう悲嘆にくれるな、盟友よ。何の因果かぬいぐるみとなってしまったが、故郷に帰る日まで我がついている」

 

 ポンポンと、ワタが詰まっている手が頬に伝う涙を拭って、優しく頭を叩いてくれた。

 

「……うん、ありがとう」

 

 その一言に、どれだけ元気をもらえたか。

 僕に1人じゃないと言ってくれた盟友。

 すぐに家族に会えないのは寂しいけど、何の因果かここには盟友(ブラント)がいる。クレイのみんなもいる。

 それだけで、沈んでいた気持ちはだいぶ晴れやかになった。

 

「感謝するならぬいぐるみ扱いはやめよ。……宇宙を彷徨う旅を続けてきた身だ。孤独と先の見えない不安に押しつぶされる心情は、よく知っている」

 

「……君には励まされたばっかりだね。うん、もう大丈夫」

 

 ブラントをベッドの上に置く。

 涙はもう引っ込んだ。こんなの流している暇があるなら、帰れないことを嘆いている暇があるなら、これからこの異世界日本でどう過ごすか、また醜鬼に襲われることがあったらどう対処するべきかを考える方が有意義だから。

 

 ……いや、でもそのまえに。

 夜雲さん達が戻ってきたら、身元確認とかどう誤魔化そうか考えないと。

 

「僕隠し事苦手だからなあ……信じてもらえないとおもうけど、全部正直に言っちゃおうかな? 異世界日本から飛ばされてきましたって」

 

「温かい目で精神病棟に送られるか、未知の感染症の発生源を恐れられ隔離病棟に閉じ込められるかされると我は予想する」

 

「うっ……」

 

 ブラントから信じてもらえない場合でも信じてもらえた場合でも逮捕より勘弁してほしいことになる予想を立てられ、流石にそれは嫌だと思い直す。

 そう思うと、それっぽいこと言って誤魔化した方がいいかもしれない。

 

「やっぱり誤魔化すしかないよね……免許証を見られたってことは、未成年もバレてるはずだし。親に連絡取るように言われても、僕どうしようもないよ? 異世界日本に家族はいないはずだから」

 

「ひとまず現世側に送ってもらうように頼むのだ。そして家族に迎えにきてもらうと連絡するふりをして、コールを使い迎えにきた家族をユニットに装わせよ。マスカレードあたりならば違和感のない格好となろう」

 

 どう誤魔化そうか悩む僕に、ブラントがコールを使いユニットに家族を装わせるというアイデアを出してくれた。

 確かに、それなら何とかなるかも。

 ……まあ、僕の頭では碌な案が浮かばないからそれを採用するしかないけど。

 

「よし、それで行こう。マスカレードならスーツ姿だし、違和感ないはず。……顔がちょっと堅気に見えないけど」

 

 方針は決まったので、早速鞄から目当てのカードである『無常の撃退者(リベンジャー)マスカレード』を取り出し、作戦を伝えてからコールできるようにポケットに入れておく。

 

「──という訳で、現世側に戻ったら適当なところにコールするからタイミングを見て迎えに来てくれる?」

 

『承知しましたマイヴァンガード。強く念じ呼びかけていただければ、離れた場所でも声を拾うことができます』

 

「設定は、どうしようか? 無難なのは兄妹だけど」

 

「兄妹にしては容姿が違いすぎるだろう。せめて腹違いの兄妹にせよ」

 

『では、私が西洋の母親を持つ異母兄妹としましょう。容姿の差異はある程度カバーできるかと』

 

「分かった。話合わせてね」

 

『お任せを、マイヴァンガード』

 

 ブラントの意見も交えつつ、迎えに来てくれるマスカレードとの関係の設定を決め、マスカレードの方が外国の母親を持つ異母兄妹という事にした。

 マスカレードの容姿が僕とかなり違うこともこれで説明つくはず。……多分。

 

 こうして病院か警察送りにならないために命の恩人を誤魔化す作戦を立てたところで、部屋の外から誰かが走ってくる音が聞こえて来た。

 向こうの星では邪教の送り込む怪人や暗殺者とかに寝込みを襲われることとかが多かったので、自慢じゃないけど他者の足音とかにかなり敏感になっている。

 

 数は2人分。

 1人は走って来ており、もう1人は歩いて来ている。

 歩いている方の足音は夜雲さんを呼びに行ったカイコさんの足音と歩調とかがほぼ同じなので、おそらくカイコさんだと思う。

 ならもう1人は呼びに行くと言っていたし、夜雲さんだろう。

 

「夜雲さん達がくる。ブラント、悪いけど──」

 

「分かっている」

 

 ブラントに再びぬいぐるみに擬態してもらい、鞄にしまって隣の椅子に戻す。

 

「やっほー! おはようミナトちゃん、夜雲さんが来たぞ!」

 

 直後、医務室の扉が勢いよく開かれ、夜雲さんが入って来た。

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