人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる   作:不定の狂気

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 おかしい…3、4話程度で畳むはずだったのに長くなりそうだぞ…?



正当性とか知らんし

 

 

 ───…ん、もうお腹いっぱい?

 

 日常とは、容易く崩れるものだ。

 俺がそれに絶望したのは、小学生の頃。帰宅した俺を出迎えたのは、両親の言葉ではなく血の匂いだった。

 

 ぱき、ぐち、と音を鳴らす父の腕。

 それを食むのは異形の狼。人間のような体の構造をしながらも、その姿は狼そのものだった。

 奴の近くには母の上半身だけが転がっていた。

 

 ───あ、日下部くん! おかえり!

 

 理解出来なかったのは、化け物に家族が食われたということ。夢か何かに違いないと思いたかったのに、化け物の側にいるクラスメイトの存在が俺を名前を呼んでいた。

 

 ───ごめんね、彼がどうしてもって聞かなくて。日下部くんのお父さんとお母さん、食べちゃった。

 

 頭が言葉を受け取りたくないと拒む。

 学友だったはずの女が、得体の知れない何かに見える。

 なんだこいつは、何だお前は。

 俺の家族に、何の謂れがあったというのだ。

 怯えて足を竦ませる俺をよそに女は話す。

 側にいる狼の化け物を、愛おしそうに撫でながら。

 

 ───ソウ、おいしかった? 

 ───████

 ───良かったぁ! それじゃあ帰ろっか!

 

 なんだ。なんなんだ。なんだというんだ。

 家族が死んで、食われて、俺は食われていなくて。

 人から家族を奪っておいて、笑っていて。

 何事もないように幸せそうで。

 

「ぁ、ああああああああ!!!」

 

 恐怖と怒りでいっぱいだった。こいつらは化け物で、生きていちゃいけないと思って殴りかかった。

 …そこで俺の意識は暗転する。

 次に目覚めたのは病院の中。その時には、もう何もかもが終わっていた。

 

 〝君の家族に起きたことは、気の毒だったね〟

 

 医者は俺の家族を殺した奴のことを知っていた。怪異、ただ人を喰らい、人を弄ぶことを娯楽とする怪物。

 その存在は世に秘匿されており、明かされることはない。奴らは恐怖(信仰)を媒介とするもの。恐怖を糧に肥大化し、増強し、神にすら至りかねないこの世の不公平。

 

 …だから家族を食った化け物の存在は隠された。

 側にいたあの女も、秘匿された。

 このことは口にするなとも言われた。

 ふざけるなと、思った。

 

 奴らは殺すべきだ、泣き寝入りなどもってのほかだ。だって父さんも母さんも悪いことなんてしてなくて、ただ生きているだけだったのに。

 

 憎悪を語ると、医者は満足そうに頷く。

 なら君は、奴らに対する毒となるが良い。

 そう言う医者はその日から俺の師となった。

 医者から教えられたのは陰陽術。

 怪異を殺す術であり、古来から伝わるもの。

 

 〝これを使って、君は君の復讐を果たせ〟

 

 俺は誓った。全ての化け物を殺し尽くし、それに与する人間も殺す。奴らは喪失を振り撒くもの。

 生かす価値もなければ同情する余地もない。

 そも、人を食らう存在も、それを肯定する人間も生かしておくべきではない。奴らはどうしようもない外敵であり、人間はそれを駆逐すべきである。

 

 …全ては、あの喪失を誰にも体験させないように。

 

 ───それが、俺こと日下部 斗の復讐だ。

 

 

 

 

    ◆

 

 

 

 だから、日下部 斗は陰陽術を使える人間だ。彼は怪異を殺すためにこれを修め、振るって来た討伐者。

 当然、そんじょそこらの不良やチンピラなど、彼の敵などではない。彼には『喧嘩の経験』がなくとも『殺し合いの経験』がある故に。

 

 故に緒方 恭平は彼の脅威ではない。

 殺し合いなら負けるはずもない。

 殺すのも容易い存在だ。

 

 陰陽術を使えば五体を切り裂き、地面に転がすことも出来るし、そもそも呪い殺してしまうことだって出来る。

 そうでなくとも、単なる殴り合いにおいても彼は緒方を上回るだろう───それが勝負として成り立てば。

 

 先ず、日下部の目に眩い光が入る。発生源は緒方の手の平。小さな光の玉のようなものが、そこにはある。

 

(何の光だっ!? 妖術の気配は無…)

「ペンライトは目潰しにも使えんだよ!! 学んだねぇ日下部ェッ!!」

「ガッ!?」

 

 顎を横合いから殴る拳。それを作る指には、乾電池のように細長いLEDライトが握られている。

 卑怯極まる戦法であった。

 だがハンデとしては不足だ。緒方はそう言わんばかりに、揺らぐ日下部の足を思い切り踏み抜く。

 痛みを伴う衝撃に、姿勢を大きく崩す。

 

(マズイっ! やつのペースに…!)

「二度も邪魔すんなこの野郎!!」

 

 次弾(肘鉄)が後頭部へ着弾(直撃)する。思考に空白が生まれる。その隙を狙って床に倒す。すかさずその上に乗り、足で両腕の拘束も忘れない。

 不意打ち。顎への強打。妖力だとか陰陽術だとか、そんな神秘もクソもない殴り合い。ようはただの喧嘩。

 それに対する経験が、日下部にはなかった。

 だから、この一連は単なる初見殺し。

 一度しか通じないもの。二度目となれば、あっという間に緒方は殺されるだろう。

 そのことを自覚して、緒方は口を開いた。

 

「…なんでそんな僕らを殺したいの?」

 

 息を荒々しく吐きながら、動機を問う。

 そんな彼を見上げながら、日下部は答える。

 

「悲劇を一つでも減らすためだ…! お前らのような奴らがいるから、不幸が増えて行く…!

 お前に分かるか!? 家に帰った時、家族が食い荒らされていた時の気持ちが!!」

 

 檻に繋がれた狂犬のようだ。もがきながらも目は死なずに、緒方を睨み続けている。

 彼が語るのは憎悪、そして事実。彼が家族を食われたように、怪異とはそもそも人を食うもの。

 自分や東雲、犬神や伊佐音、異類衆。

 それが例外なのだと、緒方は知っている。

 

 でも、悲劇を減らすためと。

 その言葉を聞いてから、緒方の目は冷たくなった。

 

「……悲劇ならニュースで腐る程見れるけど。

 そっちに何か思うことはないワケ?」

「話を逸らすな。俺が語ったのは、人外やそれを肯定するクズが起こす悲劇についてだ」

「話変わってねぇよ。悲劇は悲劇だろ」

 

 口調が、荒くなった。普段の緒方とはまるで違うそれに、八つ当たりをするからと待機をお願いされた東雲は、驚愕の息を漏らす。

 その音を聞いた後に、緒方自身も後悔するように口元を押さえて、謝罪を口にした。

 

「…ごめん、カッとなった。確かに、人を食うやつも、それを肯定するやつも、いたら殺されるに決まってる。

 でも、大人しく殺されるつもりは絶対ないし、殺させるつもりもない」

「…理解出来ないな。なぜ、人間を食らう奴らにそこまで気を許す? 人外を甘く見過ぎだ。いずれお前も、俺と同じ絶望を味わうぞ。そうなった時にはもう遅い」

「好きだから、他に理由ある?」

「それが甘く見過ぎだと言っている!!」

 

 ごばっ! と日下部の体から暴風が巻き起こる。緒方の体は吹っ飛ばされる寸前で、東雲の伸ばした糸に絡め取られた。

 そして今度こそ、東雲は日下部の前に立つ。緒方を背にしながら、八本の蜘蛛の足を出す。

 側頭部は開き、蟲の目が髪から覗く。

 

 日下部も刀印を結び、九字を切る。

 殺し合う一歩手前、その直前に───ドタドタと、足跡が屋上に近づいてきた。

 騒ぎを聞きつけてか、それとも授業中に生徒が三人もいないからか。

 ともかく、咄嗟のことに東雲は蜘蛛の足と目をしまう。それを好機と見たか、術を放とうとする日下部だったが───。

 

「お前ら何してる!!」

「やば、先生…」

 

 教師の乱入。咄嗟に蜘蛛の足と目を隠す東雲。向こうも矛を収めるだろうと、緒方も東雲もそう思っていた。

 だが、そうはならなかった。

 日下部から放たれたのは緑青の光。それは一迅の風のように、東雲の頭部を目掛けて走り出す。

 

「うそ」

 

 赤い水が、屋上に撒き散らされる。

 

 

 

   ◆

 

 

 

 ───なるほど。贄。異類婚姻。復讐。悲劇。愛。色々あるが、人と怪異は単純な対立軸にはならんのか。

 …いや、対立構造は合っているな。食いたい側と、食われたくない側、シンプルな敵対だ。

 でも、人は増え過ぎで例外が増えた。

 そして怪異は長命過ぎて例外が累積した。

 

 怪異を切れば絶望のあまり後を追う人もいる。

       喜びのあまり私を祀る人もいる。

 

 いやはや、面倒なものだ。

 人を食いたくないと嘆く怪異もいるのだし。

 単純な悪鬼でいてくれよめんどいなもう。

 切るにしても選り好みしなきゃならんなぁ。

 切るべき怪異、切るべきではない怪異。

 その基準点と判断は如何にすべきか。

 

 …とりあえずガムテープ剥がれてくれんかね?

 

 





日下部くん…恨み骨髄。憎悪で目が眩んでる。でも人と喧嘩はしたことないので初見殺しされた。素人に困惑するプロみたいな。人外による悲劇を減らしたいのは本当だし、家族を奪った奴らはその同類を殺したいのも本当。

緒方ァ!…割と喧嘩は得意な方。悲劇減らすんだったら人外由来も人間由来も同列に扱えよって思ってる。人喰いやそれを肯定する人は敵視されるし、そりゃ殺されるわって考え。でも死んでやらねーよばーかばーか!!

東雲さん…今回は野郎の喧嘩なんで少し控えめ。実は荒れた口調の緒方に少しドキッとした。

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