人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる 作:不定の狂気
デケデケデケデケ(ギターの前奏)
ぱしゃり、と貴方の血が私の顔へ。
私のご馳走。私の命。私の全て。
口の側へよれば、愛と味のどちらも欲しくなる。そんな香りを放つ血が滴っているのに、少しも嬉しくない。
ぐらり、と倒れる私を庇った貴方。
どちゃり、と人の体が倒れる音。
顔の右側から湧き出る血。命の断片。魂の溶液。
教師が何やら叫んでいるが、うまく聞こえない。
───
理解が、追いつかない。緒方くんは私の前に割って入って、頭を切られて、だらだらと血を流していて、ぴくりとも動かなくて、息も体の音もわからない。
もしかしたら、そんな不安。私が一度口にした、私と関わることで死ぬかもしれないと、
〝僕が死んだら、死体は東雲さんが食べてよ〟
思えば、彼は否定も肯定もしなかった。死なない、だなんてことは一言も言ってなかった。
…今の彼を食べたいと思うの本当だ。
その血肉を自分だけのものにして、彼を独占し切ってしまいたいのも本当だ。
でも、今は───
「…チッ、邪魔をする…気狂いが」
終わる命なら私の手で。なのに横取りをした。化け物として殺してやる。そのほうが屈辱的でしょう?許さない許せない。私が怪異だから。今はどうでも良い殺してやる。もう何もかもどうでもいい。私だけの彼だったのに。
もういい。もう何も取り繕わない。
落ちろ。蜘蛛の糸なんてない。這い上がらせない。何度だって沈めてやる。落ちろ落ちろ落ちろ。命を貰ってもやらない。潰し殺してやる。地獄を味わえば良い。ただの肉塊になれ。私だけの彼を奪った。殺してやる。
───私は、化け物だ。
何も残してやらない。擦り潰してやる。人間としての形すら残さない。ただの塊になるまで。お前が殺した。亡骸とも分からなくなるほど。ぐちゃぐちゃにしてやる。私のものを奪った。逃さない。ああ! ああ! 躊躇わずに殺すべきだった!!!
ぱき、ぐちり、と鳴る体。
少女が自ら晒し上げるのは、醜き蜘蛛の怪物。
下半身は蜘蛛の腹、這い出るのは八つの足。
口は裂け、蟲としての捕食器官を開く。
即答から覗くのは、爛々と光る目。
蜘蛛の体に、女の体が生えた歪な怪異。
それは糸を吐き、今なお血を流す少年の体を自らの腕の中へ招き入れ、硝子細工を扱うように抱きしめる。
温もりは、まだある。糸を吐く。傷を取り繕う。血を止める。同時に、八つの足が狙いを定める。
八つの鋒と相対するのは、緑青の光を手繰り、刀印を結ぶ少年。憎悪に目を濁らせた彼は、怯えることなく、歪に口元を歪ませながら吐き捨てるように宣戦を表明した。
「───覆滅する」
「蝗幄い繧堤?輔¥」
ノイズ混じりの言葉を発し、怪物の体が疾走する。
少年は体を捻る。回避は間一髪、しかし───。
「……人のように怒るか、怪物風情が」
右腕から吹き出す血液。
牙か、鋒く。ともかく鋭利な何かが彼の皮膚を掠めた。刀に斬られたかのような、一筋の赤い線。
だが、
牙にしては綺麗な傷だ。爪にしては細すぎる。
だが、代わるような武器などあっただろうか───そう、思考を巡らせようとした時。
「縺ョ縺後☆縺ィ諤昴≧?」
「なっ!? が、ぁああああああ!?」
指揮者の様に、怪物の持つ多足の数本が動く。
同時に、日下部の右腕は信じられない方向に曲がり、それに引きずられて体は宙を回り、床に叩きつけられる。
肺を満たす大気を吐く。ダメージ由来の血を吐く。
しかし、判断は速い。左手を横に払う。緑の光が、日下部自身の傷口の中を裂く。
ぱつん、と何かを切った感触。
「すれ違い様に、腕の中へ糸を通したか…!」
傷口の中には、蜘蛛の糸があった。先の不可解な腕の動きも、体の動きも断ち切ったそれが由来。
「ッ…『晴嵐』!!」
だが、怯まずに攻撃に転じる。詩う風の言葉と共に、緑青の風で出来た槍が蜘蛛の怪物へと。
都合四本、その全てが蜘蛛を生やす女の体の元へ…必然、女の抱く少年にも槍は迫る。
八つの足全てが女の体と少年を覆う。
四本の槍が突き刺さる。
「───」
だからなんだ。そう語るように、残る四の足の鋒が、日下部に向けて放たれる。
一撃、少年は退避する。
二撃、退避を読んだ薙ぎ払い。
しかし、日下部はその鋒を足蹴にして回避。
三撃、死角からの突き。緑青の障壁がそれを防ぐ。
四撃、真正面からの攻撃。日下部はそれを単調だと鼻で笑い、回避をしようと───
「っ!?」
いいや、違う。真の四撃目は足を槍の刃先に見立て、全身という質量を伴った突進!
「チィイイイ!!」
舌打ちと共に構える防御姿勢。
短時間で満足に組めるはずもなく、中途半端なそれは確かに疾走を受け止める。
だが追い込まれた。背後には壁。前には鋒。利き腕は既に損傷。左腕は障壁を作るために姿勢を解けない。
「さっきから人のような情だな、反吐が出る!! 化け物は化け物らしく、人の屍肉を浅ましく貪っていれば良い!!」
人間が吐いたのは怒り。憎悪ばかりが彼に募る。
人のように誰かを大事そうに抱える怪異の姿が、悍ましくて憎らしくて仕方がない。
だが、蜘蛛は揺らがない。
残る三本の足で人間の足を潰す。その最中にも、先に貫かれた蜘蛛の足の再生は進んでいた。
「がぁっあ!?」
「縺ゅ↑縺溘?∝撃縺?′縺吶k繧
遘√→蜷後§蛹ゅ>縺後▽縺?※繧九h」
「…っ喚くな、絶対に祓い殺してやる…! お前らみたいな怪物など、生きて良いはずがない!!」
ノイズ混じりの言葉を挑発と受け取ったのか、日下部は歯を剥き出しにして怒りの形相を浮かべる。
彼は損傷した右手を無理やり動かし、刀印を結ぶ。
ぶぢり、みじり、と肉と繊維が千切れる音。
苦悶も等しく溢れでたが、しかし彼は喉をすくませることなく殺意を術として放った。
「羅睺……!」
緑青と青の竜巻が、蜘蛛を貫かんと走る。ゼロ距離で発生した一撃。回避する術はない。
「なっ…!?」
… 勝手に動いた腕が、照準をずらしたのだ。
そして、腕を勝手に動かす原因は眼前に。
東雲 華、女郎蜘蛛の怪異は───既に、もう一度、日下部の傷口に糸を忍ばせていた。
「き、さ───」
「どうでもいい、潰れて死ね」
人間の右腕が、常軌を逸した動きをする。
骨と筋肉に逆らった動き。それを何度も何度も、しかし一瞬に。ゼンマイを回すように。
肉はねじれ、千切れ───、一本の腕が飛ぶ。
痛みに喚く人間。それを冷たい目で見下ろして、愛する少年を抱いたままの女は、全ての足を敵に叩きつける。
これで、全部が終わった。
そう思った。少なくとも、東雲 華は。
学校の屋上で何やってんだこいつら(鼻ほじ)
あと1話か2話でいつものノリに戻ります
女郎蜘蛛…殺す。絶対に殺す。怪物として言葉すら今は脱いだ。元には戻ると思う。
日下部…利き手が死んだ。
緒方…東雲を庇って顔をスパーンされた。今の東雲の姿を一番見たいだろうに見れない。