人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる 作:不定の狂気
十月八日 月曜日───快晴
とある高校の、一年教室。その端っこ、つまり窓際に集まる2人の生徒から、素っ頓狂な叫び声が響く。
原因は2人。1人は何の変哲もない男子生徒。
顔立ち、特徴、どれを取っても普通な少年。強いて言えば、童顔なのが目立つくらい。
もう1人は、無害そうな女子生徒。
一目で大人しいと分かる上、どこかおどおどとした印象を受ける。庇護欲を駆り立てるような外見を持つ彼女は、顔を真っ赤にして俯いていた。
「…もっかい言ってみてくんない? 恭平」
3人のうちの1人、ポニーテールの女子が信じられないと言わんばかりに目を見開いてそう言う。
彼女の名札には「北御門 天音」と書かれていた。
北御門の要望を聞いた男子生徒───緒方 恭平は、側にいる無害そうな女子生徒こと東雲 華を背後から右腕で抱き締め、見せつけるようにVサインを左手で掲げる。
「この度、東雲さんと付き合うことになりましたー。
いぇーい。ぴーすぴーす」
「よ、よろしくおね、お願いします…」
羞恥故か、顔を赤くしたままの東雲は、同じようにVサインを出したが、その指は弱々しく曲がっていた。
その報告を受けて、メガネをかけた男子生徒は恭平に食ってかかる。
「…お前人外っ娘が性癖っつったろーがよぉー!! なぁに俺より先に彼女作ってるわけぇ!?」
「せ、せいへぇっ!?」
「まぁまぁ僻むなよ圭人。男の嫉妬はめんどいよ? 君も良い奴なんだから、きっと良い人見つかるって!」
「っかぁー!勝者の余裕かよ!!死ね!!!」
「声大きいよ、原口」
「いったい!? 天音てめぇ蹴らなくても良いだろーがよぉー!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声。特段珍しいことでもないのか、周りの生徒は特に煙たそうにする素振りもない。ただ、色恋沙汰だからか、好奇心混じりの目が多少向いていた。
その喧騒を、ある少年が酷く不快そうに聞いている。眉間に皺を寄せ、歯噛みすらして。
それに気づいたのか、通りすがりの生徒が心配そうに「体調でも悪いの?」と質問をする。
男は作り笑顔で「大丈夫」とその場しのぎの言葉を吐き、言外に声をかけるなと言った。
彼は開いていた本を閉じ、ため息を吐く。
薄い唇はかすかに開き、静かに言葉を紡いだ。それは確かな怨嗟であり、義憤であり、義務であった。
あの騒がしさは、あの女が誰かといることは、今の彼にはどうしようもなく許し難いもののようだ。
「…騒がしいな、化け物風情が」
彼の目は、東雲に向いていた。顔を赤らめ、幸せそうに笑っている彼女を射殺さんばかりに睨む彼にとって、今の光景は異様に写っているらしい。
何かを堪えるように、彼───日下部 斗は長く息を吐く。耐え難いと言わんばかりの雰囲気を放つ彼に近寄る生徒は、誰1人とていなかったし、彼自身近寄らせるつもりもなかった。
だからだろうか。
かたん、かたんと鳴る何かに気付けなかったのは。
◆
夕暮れ時、つまりは放課後。
緒方と東雲が、夕陽を浴びながら帰路に着く。
「ふん、ふん、ふふふ…」
鼻歌混じりの笑い声。至極幸福だと、一眼見ただけでわかるほどの上機嫌な少女。
彼女の足取りは軽く、ステップのように。
先を歩く少女に追い付かぬよう、眺められるように。
少年はそんな歩幅でゆっくりと歩く。
東雲は振り返り、花やぐような笑顔を緒方へと向ける。幸せそうな少女を見て、少年は手を伸ばす。
「そういえばさ、その姿じゃない時のベロってどうなってるの?」
「えっ? と、唐突だね…」
「いや、キスする時の注意点とかあるかなって」
「…あ、ああ〝あっちの私〟ともしたいの!?」
「当たり前でしょう、何を驚いているのです」
しれっと、事も無げに告げる少年。羞恥に顔を赤くする少女。しゅおお、と湯気が立つかのような顔色の変化に、緒方は微笑ましそうに目を細める。
繋いだ手にも少し力が入った。
ただ───伝わる温度はひどく冷たい。普通なら、冷え性か何かだと判断出来そうなものだが、緒方は東雲の正体を知っている。
だから、これが怪異としての限界。外見を人に変えども、及ばない何処かは必ずある。
それがまた何とも愛おしい。
そう喉を鳴らす緒方だったが、彼の耳が足音を捉える。咄嗟に彼はその方向に振り返った。
そこには、クラスメイトがいた。
伸ばした黒髪を一つ結びにした少年は、竹刀袋を担いで、敵意が込められた瞳を2人に向けている。
「ごめん、騒がしかっ」
「動くな。緒方恭平、東雲華」
「───ッ!!」
ぱさり、と竹刀袋が投げ捨てられる。
そこにあったのは、一振りの日本刀だ。
悪ふざけの模擬刀だとは、とても思えなかった。
鞘を脱いだ刀身は、ぎらぎらと冷たい光を放つ。
刀を目の当たりにした東雲は、咄嗟に緒方を庇うように立つ。緒方はそれで、あの刀がただならぬ物、あるいは本物なのだと理解出来た。
刀の鋒が2人に向けられる。緊迫した空気。重苦しい沈黙。それを真っ先に破ったのは緒方の方だ。
「…どしたのさ、日下部。そんな怒るようなことあった? 圭人じゃないんだ、嫉妬なんて言わないでよ」
「悪ふざけ極まる言動は程々にしろ、緒方。お前、その横にいるモノが何なのかわかっているのか」
「なんだ、日下部も知ってたのか」
その返答が、日下部の足を走らせる。
次に響いたのは、ギン!と金属同士が擦れるような音。
東雲の腰元から、蜘蛛の足が伸びていた。それは緒方の頭を狙って突き出された鋒を阻んでいる。
「その醜い足を退けろ、化け物風情が。緒方を切れば次は貴様の番だ、大人しくしていろ」
「……絶対させない…!」
「ふん…さて、一つ聞くが緒方お前───
「ああうん。祢々切丸が祀ってある社でしょ? あの刀、怪異を切るって看板に書いてあったからその辺りのしめ縄でギッチギチに縛ったよ」
「は?」
予想外の返答だったのか、日下部は固まった。
その隙を見て、東雲は日下部を突き飛ばし、距離を取る。刀を持った少年が反撃をしてこないのは困惑が故なのだろう。彼は体制を立て直しながら、緒方に「何のつもりだ」と問うた。
それに対しての返答はこうだ。
「願掛けって訳じゃないけど、あの『ひとりでに動いて怪異を切るって伝説』が本当だったら嫌じゃん? 好きだからさ、人外の子がさ。それに、もし本当なら彼女が勝手に切られる、嫌ですよそんなの」
「───!?」
絶句。東雲と日下部。人外と人間、2人が揃って、同じようにその二文字が相応しい表情をする。
「緒方くんそんなことしたの!?」
「やはり貴様も殺すべき化け物か…!」
「心外だな、ちゃんと人間だよ」
「戯言を……っ!!」
日下部が刀を構え直す。だが刀を持つのは右手のみ。残る左手は刀印を組み、空を切るように動く。格子模様にも見えるそれは、九字護身法。刀印を結び、横・縦の順に四縦五横の直線を空中に画する、ありふれた退魔の呪法。
少年は九字を切り終えた指を刀に這わせた。同時に、銀の刃が淡い緑の光を纏う。
「人外に与し、人外を育むその狂気…俺が祓い殺\ピョヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨ‼︎‼︎/うるっさ何!?」
「いや防犯ブザーだけど…」
「この局面で!? お前頭がおかしいのか!?」
「クラスメイトに刀向けるそっちの方が一千兆倍頭おかしいでしょ、何言ってんだこいつ」
「巫山戯るのも大概にしろよ貴様…!」
さん、と少年の持っていた防犯ブザーが両断される。日下部と、緒方・東雲の間に距離は十分にあった。
それなのに、少年が持つ道具は切断された。
斬撃が飛んだのだろうか? ともかくとして、迂闊には近づけなさそうだと緒方は思う。
そんな時、かたんかたんと音が鳴った。
石か板でも風に吹かれたのだろうか。そう思ったから、最初は誰も気にも留めなかった。
けれど、間も無くその判断が誤りだと皆が思い知る。かたん、かたんと鳴る音は次第に近づいて来ていた。
そして、一振りの刀らしきものが落ちて来る。
しめ縄でこれでもかと、あるいは親の仇のようにぐるぐる巻きにされている退魔刀。
もはや刀の柄に荒縄の束がついただけのような見た目。ありがたみもクソもない外見。
それを見て、日下部は二度目の絶句をする。
「祢々切丸!? 本当に縛られていたのか!?」
「らっきぃ!武器みっけー!」
「緒方くん!?」
そして、この場において最も無力な少年が真っ先に駆け出した。東雲が止める暇もなく、緒方は突き刺さる刀へ一直線に走り出す。これには流石に日下部も驚いたのか、目を見開いた。
即ち、一手遅れたのだ。だからこそ、緒方が刀と思しきものを手に取るのを止められなかったし、緒方がそれを下から振り上げるのを阻むことも出来なかった。
「人の彼女に醜いとか言ってんじゃないよオラァ!!」
「ぬぐぁっっっっっっっ!?!?」
結果───足と足の間に荒縄が巻きついた刀が叩き込まれる。即ち、金的の直撃である。
刀に加えてしめ縄の束だ。それなり以上の威力を発揮する。激痛が日下部を襲い、白目を向かせる。
人外が大好きな奴が、退魔刀で殴って来た。
そんな事実と一緒に叩き込まれた一撃は、容易く日下部の意識を刈り取ったのである。
がくん、とその場で倒れ伏す少年。緒方はそれを受け止めることなく、しめ縄が巻き付いた刀を重たそうに担ぐ。
「あ、気絶した」
「ど、どうする…?」
「どうしよっか」
夕暮れ時に、悩む2人の影が伸びる。
これからどうしたものだろう。そう頭を抱える2人。その最中に、緒方が担ぐ刀がガタガタと強く揺れ出した。
緒方 恭平…物怖じしないボーイ
東雲 華…照れりこ照れりこ
日下部 斗…モデルにしたのは某能力者絶対殺すマン。とりあえずダメージは1d6+1でいいか…やっべ最大値引いた、気絶だコレー!? こんなんでも苗字の通り陰陽師系男子。