人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる   作:不定の狂気

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ご覧の有様だよ!

 

 緒方 恭平には、一つ悩みがある。

 それは彼女である東雲 華を自身諸共を殺す気でいた日下部 斗のこと…ではない。

 むしろ、日下部を気絶させることに一役買った祢々切丸なるものについてだった。

 

 しめ縄でぐるぐる巻きのそれで、日下部に対し金的を決めた後のことだ。気絶してしまった日下部をどうするべきか、それを決めあぐねていた時、祢々切丸は光を放ち──今回の悩みの種が発生する。

 

 結果から言うと、日下部の記憶が損傷した。

 

 気絶から復帰した彼に、緒方と東雲に向けていた殺意は無かった。残ったのは東雲に対する猜疑心のみであり、目覚めた彼は緒方に向けて「そいつとはあまり関わるな」と言って去って行った。

 気絶していたこと、腹部の痛みに首を傾げながらだ。

 この一連により、東雲華が導き出した推論は『怪異を切るということは、怪異にまつわる記憶も切るのではないか』というものだった。

 

 

 ───所変わって、緒方の自宅。

 

 

 だだっ広いリビング。ミニマリストよろしく、必要最低限のものしかない日常空間。

 その中にある、しめ縄付きの刀。

 一つあるだけで異様な雰囲気を放つそれは、雑にテーブルの上で転がされていた。

 そして緒方は刀の柄を握って真顔で言う。

 

「封印しようこれ」

「すごいガタガタし出したけど…」

 

 万が一と安全のためにと、同行した東雲が言う。彼女の言葉の通り、祢々切丸は拒絶の意を表すかのようにガタガタと震え始めた。

 緒方はそれを鬱陶しそうな目で見る。

 

「駄々っ子ですか君は、大人しくしてなさい」

 

 刀は流れるように箪笥の中に押し込まれた。それでも祢々切丸はガタガタと自らの存在を主張している。

 最終的に祢々切丸は箪笥の中でガムテープを貼り付けられ、暴れることも出来ない状態で物理的に封印された。

 

「…あの、元の社に戻すとかは?」

「ああ、それは無しで。何度も言うけど、東雲さんが斬られるのは嫌だ」

「───…そ、か」

 

 緒方の言葉に、東雲は複雑そうな顔をする。

 微妙な沈黙。緒方は、表情の由を訪ねたりしなかったからだ。その沈黙に耐えかねてか、少女は言う。

 

「…すごく自然に、君の部屋にいるね私」

「あらお気づきになりましたか」

「一人暮らしだから、アパートとかだと思ってたんだけど、一軒家なんだ」

 

 緒方の家は少々異な造りだ。

 台所や風呂など、水回りや生活のための設備は全て二階にある。一階の役割はリビングであることだけで、後は大きなガラス窓がある程度。

 家としてはかなり変わったそれに、人外の身である東雲さえも違和感を持った。

 

 だから彼女は「変わった造りだね」と言ったし、緒方も自覚があるのかそれはあっさりと認める。

 彼は制服をハンガーにかけながら、質問に答えるかのように、自宅について話す。

 

「ここは元々、ある画家のアトリエだったんだ。ただ、その人ってば3年前に一階で変死したからってかなり安くなってたんだよね。それを買い取ってもらった感じです」

「その度胸はどこから来るの…?」

 

 所謂〝訳アリ物件〟だ。それを気にしないで買い取ってもらい、平気そうな顔で済むこの男は、ひょっとすると人外よりも人外向きの精神性をしているのかもしれない。

 

「深淵を覗く時、深淵もこちらを覗いてるって言うじゃないですか」

「う、うん」

「ドキドキしますよね」

「何に!?」

 

 仕舞いには訳のわからないヘキを話された。

 そんな破天荒というべきか、頭がおかしいというべきか、ともかく常人のような感性を持たない少年に緊張を抜かれたのか、東雲は肩を一つ落とす。

 そして、膝の上で自身の両手を握りしめた。

 

 何かに耐えるように、息を吐く。

 その行動を見て、緒方の顔は真剣なものに。

 対照的に、東雲は俯いて小さな声で話し始める。

 

「…あの、さ。本当にいいの?」

「何が?」

「このまま、私といること」

 

 ぱきり、と音が鳴る。

 少女の腰元から八本の足が出る音だ。

 顎も喉から裂け、蟲の口を露わにする。

 

「今回は何とかなったけど、日下部くんみたいな人はきっといるし、いつかはやって来る。

 …緒方くんは殺される所だった。このまま、私といたらいつか死んじゃうよ…?」

 

 これは単なる事実。今日こそ死なずに済んだが、次もそうなるかはわからない。日下部が過激なだけかもしれないが、事実として緒方は刃を向けられ、東雲がいたからこそ死には至らなかった。

 日下部が過激なだけだったのかもしれないが、人間であるはずの緒方にさえ容赦はない。

 少なくとも、人外である東雲と繋がりがある以上。

 

「私は嫌だ。この私も、人の姿の私も好きでいてくれる君が、私のせいで殺されるなんてやだ」

 

 単純な話、死んでほしくない。その原因が自分たら尚更だ。人であるならば、誰だって抱くもの。

 なるほど、東雲 華という女郎蜘蛛は、致命的なほどに人外である才能がないのか、人外足らしめる心根が何処かで消えてしまったのだろう。

 

「…お願い、私に〝化け物〟って言って。

 私を殺されて当たり前の怪物にして。

 場違いな幸せを望んだって思い知らせて」

 

 蜘蛛が、縋るように呻く。地獄に糸を伸ばす側であるはずの蜘蛛が、地獄を望んでいる。

 それは一人の人間のためで、自分のため。

 殺されて欲しくない、耐えられない。

 その二つは矛盾しない願望だった。

 ただ、誤算も二つだった。

 

「俺が死んだら、死体は東雲さんが食べてよ」

 

 ───緒方 恭平の破綻は致命的だということ。

 ───やっぱり東雲 華は化物だということ。

 

「…ぁ、あー…」

 

 八つの足が、緒方の体を床に留める。捕食される寸前の虫のよう、あるいは標本にされた蝶。

 しかし少年の目に恐怖はない。

 彼は興奮し切った目で、自らを衝動的に押し倒した東雲を見つめていた。

 

 東雲が先の言葉で思ったのは一つ───彼の血肉が私に溶けて一緒になれたら、どんなに素晴らしいことだろう。

 そんな倒錯した思考は、彼女の目を情欲に染め上げて、際限のない食欲を湧き立たせる。

 だが、もがく。自らの欲求に飲まれないように、緒方を食べ尽くしてしまわないように。

 

「ぁ、ぁあ…! あぁぁあ…!!」

 

 彼女はとうとう、自分の足に噛みついた。

 バキバキと音を鳴らす牙と体。

 緒方はそれを残念そうに見て、自由になった右手を東雲の口に伸ばす。

 

「別れたくないよ、だって君は美しい」

 

 足を噛む牙をいたわるように撫でた。

 食らうべきものが間近に来て、食欲は励起する。

 それでも食べたくないと望む理性が、彼女の体を揺らがせる。右へ左へ、呻き叫び。

 緒方は自由の身になれど、逃げる事はしない。

 むしろ顔を間近に近づけた。

 怪物の両頬部分に手を置いて、彼は言う。

 

「人でいたい、幸福が欲しい。それでも体も顔も崩れて、蜘蛛になる。人なのに人外で、人外なのに人なんだ。ああ、その破綻したような感じが、堪らなく好き」

「…ぁ、ぁあぁ」

 

 理性と本能の境界で、目を不安定に揺らして、口も半端に開いて唾液を流すのは蜘蛛の女。

 口からつらり、と伸びる透き通った糸。

 男はそれを見て、我慢出来ないと言うかのように、自身の口と化物の口を躊躇なくくっつけた。

 

 ぐちゃり、と音がなる。捕食の後ではない。人間の舌が、蜘蛛の口に押し込まれた音。

 蜘蛛の怪物、その口内は肉の板を歓迎した。

 牙や口の肉壁が、諸手を挙げて舌へ縋る。

 ひゅうひゅう、と蜘蛛の女は息も絶え絶えに。

 食欲を微かに満たす快感と、人を食いたくないと暴れ出す本能を自制する理性。

 その削り合いに、女の体はびくんと震える。

 

 舌を入れた側が蹂躙する? 否だ。蹂躙されているのは少年の方。牙のつるりとした感触が舌を撫でたかと思えば、次は湿り気を帯びて柔らかい肉の壁が責め立てる。

 たまらず、緒方は縋るように蜘蛛の女を抱きしめて震えた。女はそれに歓喜するように体を跳ねさせ、少年の舌を味わっては瞳を蕩けさせていく。

 

 …どれほど長い間、こんな捕食のような慰めをしたのだろうか。ようやく離れた口は、長い糸を残している。

 少年も少女も、虫の息のような呼吸。

 息すら止めて、相手の全てを強請ったのだ。

 

「だい、すき」

「ぼく、も」

 

 少年の体に傷はない。少女の体にも傷はない。綱渡りじみた営みは、お互いの体に熱を灯す。

 蜘蛛は八つの足で少年の体を抱きしめた。

 ぴたり、と重なる肌と肌。

 隙間に挟まる布が鬱陶しいと、東雲は微かな苛立ちを覚えて、自らの体を少年に擦り付ける。

 そうして、彼女は囁いた。

 

「もう離さない。どこにも行かせない。ずっとずっとずっと私の巣の中に、私の糸が届くところに、私の側にいて。もし君が後悔しても赦さないし、逃さない。永遠に私のもの。誰にも渡さない。死にも渡してあげない。だって、君に壊されちゃったんだから───責任、取ってよ」

 

 彼女は化け物(恋する乙女)だった。男の全てを欲し、全てを独占し、他の者に男が渡る事が耐え難い。

 それが今までの願望を抑えた反動。

 彼女が忌むべきものと封じてきた『人外の身』も、そうでありたいと願った『人の身』も肯定されて、挙句には程遠いと思った『幸福』も流し込まれて、ご覧の有様に。

 

「元からそのつもりだよ、だって大好きなんだから。

 僕の全部をあげるから、君の全部を壊させて(差し出して)?」

 

 返す言葉で、少年はそんな事を言う。

 八つの足は鳥籠のように。

 蜘蛛の女にとって、青い鳥のような少年は自ら籠に入って来たようなもので、鳥は籠から出るつもりなどない。

 だから女は、ひどく艶かしい声でこう言った。

 

「捕まっちゃったんだ、私って」

 





緒方…こいつ勝手に動き出したんだが?(文字書き並の感想)。化け物より化け物してない?生贄だと思った子羊が歴戦のバフォメット(山羊の悪魔)だったみたいな感じに。東雲が性癖ドストライクだったご様子。

東雲…人外じみた人間に堕とされちゃったねぇ!でもタガが外れて緒方くん一辺倒になったみたいなのでセーフ。多分R18だったらこの場で致してたと思う。凄まじいグロエロになりそう(他人事)

祢々切丸…被害者。人外と人間の営みを聞かされてる。

日下部くん…金的の痛みだけ覚えて帰宅した。緒方に「あっこいつ記憶ねーわ」と察されて「電柱にぶつかって気絶してたんだぁ」と吹き込まれた。その上それを信じてる。痛みで祢々切丸のことは頭からフェードアウトした。お前陰陽師系男子降りろ。
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