人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる 作:不定の狂気
THE・RED 感謝の極み───でも今回はいちゃつきだけなんだ、すまない
鳥の囀り、気だるげな車の音。柔らかな日差し、死に急ぐような寒風。秋の朝にふさわしいそれを五感で浴びて、僕こと緒方 恭平はソファの上で目が覚める。
寝具無しで夜を明かしたのだ。そんな僕の膝には、温い毛布が一枚。そして鼻腔には、僕や祖父とも違う、彼女の作る料理の匂い。
後悔が一つ、僕の心へと降りてくる。
愚鈍で脆くエネルギッシュでもないこの肉体は、深夜すら越せないらしい。まったく、東雲さんを夜一人にするとは、とんでもない失態だろうに。
ため息一つ、されど喜び沢山。
我ながら浅ましいと思う。夜に付き添いきれないくせして、朝食を用意してもらい、挙句それを喜んでいる。
でも恥じるつもりはない。なんだって堪らなく嬉しいから! そんなわけで、僕は小走りで二階への階段を登る。
「おっはよー! 東雲さん! 土下座はスライディングとノーマルどっちが良いかなぁ!? 夜更かしできなくてごめーん!!」
「うえぁあ!? あ、朝からどうしたの緒方くん!?」
外ハネの多い黒髪。人畜無害と可愛いを絵に描いたような顔。うんうん、朝から幸せの補填は良い、とても良い。
慌てる顔、驚く顔も堪らないものだ。
僕は二階にある台所という、若干奇妙な場所からコップを一つ取り、適当に水を注いで口へ放る。
「だって、夜に一人にして寝ちゃうのはさぁ、彼氏として大きな失点ですよ。一人にした、というのが良くないんです。とてもダメです」
「気にしないのに…大丈夫だよ? だって緒方くんの寝顔が見られるし、寝息を聞けるし、それに……えと、寂しさもあんまり無いし」
「そう? じゃ土下座は無しで」
───前日の学生らしからぬキスの後、東雲さんは僕の家にいたいと言った。二つ返事で了承したけれど、その日の夜に少し問題があったのだ。
言うまでもなく、東雲 華は怪異である。
それ故に夜中に睡眠は必要としていないし、そんな機能は朧げにある程度なのだ。
なので、僕がベッドを譲っても無意味。
かといって、寝ない彼女を差し置いて一人ベッドでスヤスヤ眠れるほど、僕は破綻していないつもり。
だから僕は彼女と同じように、朝を待つことにしたのだけれど───結果は今朝の通り。僕はオールできず、途中で眠りに落ちてしまったのだ。
「それより、朝ご飯食べよう? 初めて作ったから、あんまり自信ないけど…口に合ったら嬉しいな」
だっていうのに〝それより〟の一言だ。彼女自身、夜に寂しさを覚えてないし、当然と言えば当然だ。
というか、僕の夜更かしも言って仕舞えば自己満足なわけで。まぁともかく、結局は納得の問題なんだ。
一人はともかく〝独り〟はあまり、良いとは思えない。
「作って貰った料理にケチつけるほど終わってないよ、久々の誰かから作ってもらったご飯だー! 嬉しくて今から涙目だぜー!」
ちなみに朝ご飯は豆腐がメインのお料理でした。グッド極まりすぎて僕の心がやばい。
そうして朝餉の終わり。朝の身支度も終わり。本来なら登校というところだけど、本日は創立記念日。
なので晴れてお休みである…ということを、東雲さんから聞いて初めて気づいた僕である。
じゃあ家でゆっくりしようってなったのだけれど、ここから少し嬉しいことが起こる。
今僕らがいるのは2階。リビング以外の部屋が集約してる。その中で、日当たりのいい寝室にいた。
でもカーテンは閉めたまま。薄暗いけど、悪い気分じゃない。
僕の手首足首は、蜘蛛の糸に繋がれている。
それと、八つの足が僕を背後から抱き締めるように。
二つの腕は僕の首を絞めるように抱く。
背後からのハグは嫌いではない。
ただ、顔が見れないのがマイナスだとは思う。
「別に繋がなくても、逃げないのに」
「…………こっちの方が、興奮するの」
「なるほど、なら繋がれます」
うなじに顔をうずめながら、東雲さんが恥いるようにか細い声で言う。どうやらサディズムか、それとも他に該当しない性的倒錯か、ともかく少し煮詰まった物を持っているんだな、なんて思う。
「…実はムッツリ?」
足の力が強くなる。割と痛い。怒り半分、照れ隠し半分か。今のはこちらのデリカシーがないのが悪い。素直に謝罪をしておく。遠慮がなくなったのは本当に嬉しい。
「んぁ」
気の抜けたような、しかし艶かしい声。
うなじが噛まれる。噛むというよりは、はむ感じ。ぞわりとするけど、声を出すには至らない。
軽いキスのような物だ。終われば僕の肩に頭を置いて、嬉しそうな笑い声を漏らす。
「繋いでしまうのは、それ以上に怖いから。信用してないとかじゃなくてね、単純に私の度胸がないんだ。
失いたくないの、消えて欲しくない。
いつまでも、存在を実感していたい。私の手と糸のなかにいる君を見ていたいな」
だめだよね、こんなのじゃ。そう言いながらも、僕の肩へ顔を擦り寄せるし、抱きしめる力は強くなる。
ほのかに熱がある体。柔らかい人の身の部分。冷たくも、どこか温もりを感じる蟲の部分。
この全てを味わえるのが、ひどく幸せ。
「でもその、ね? …付き合うのって、初めてだからさ…分からないんだ。どこまでしていいのかと、か…」
自信のない声。とっても可愛らしくて、僕の方がどうにかなってしまいそうだ。
でも、少しその発言はいただけない。
どうか忘れないでほしい。
「好きにしていいよ、だって君には」
───もう、僕の全部を許しているのだし。
「あはぁ…!」
蕩けたような笑い声。
熱に浮かされたような歓喜の声。
僕だけが、彼女のそんな姿を見れる。
ああ、堪らなくゾクゾクする。
「私、もっとおしゃれをしたいな! お化粧も勉強し直したい。もっと綺麗になって、自分を磨いて、君にもっともっと私を好きになって欲しいの! 他の何も目に入らないくらい!」
「…そしたら、他の人が君を見るようになるね。それはちょっとやだ。妬いてしまう、いや確実に妬くからね、そんな自信がある。でも、今でさえ首っ丈なのに、もっとなの?」
僕の方から、彼女の体へと擦り寄る。
嬉しそうに体を揺らして、僕の首筋を噛む。
「もっとというより、沢山。いろんな服や姿の私を、好きになって欲しい。好きになって貰いたいんだよ。きっと、そうなんだ。これが、今の私の恋だって、そう思うの」
───女の子は、恋する姿が美しい。そんなことを言ったのは、誰だったのだろう?
僕は今、その人に向けて両手をあげて賛成の意を贈りたい。ああ、こんなにも、僕の彼女が美しい。
◆
───緒方宅付近、道路。
黒いスーツを着た女性がいる。髪は短く、顔立ちは凛々しく、佇まいは凛として。
しかし、彼女の容姿は特異な物だ。赤い瞳に、白い髪。地域が地域なら、あまり良い扱いはされないだろう。
そんな彼女の隣を、カジュアルな少年が歩く。
黒いフードを目深に被り、至極だるそうに。
彼の顔立ちは幼く、体つきも未熟だった。
少年は不満そうに口を尖らせて、女に対して不満さを隠さずに言う。
「───いやさぁ、無粋じゃねぇの? だからつまらない女って呼ばれんだぜオタクはさぁ」
「今なんか言いましたかタタリ」
ひゅが! と音を鳴らして路端の石が砕ける。
残像すら見えない、音のみを残したワンアクションだ。
「滅相もございません、ご主人様」
「よろしい、では行くとしましょう」
不満を圧殺された少年は、渋々と女の背を追う。
だから彼は、代わりに疑問を吐いた。
「でもさぁ、行く必要あんの? 元々『消えかけ』になる程の奴なんだったら、別にオレらの支援とかいらねー気もするんデスケド」
「いるいらないではありません、そこに愛があるのであれば、やらねばならぬ。要するに義務です」
「アンタとオレみたいに?」
ばし! と音を鳴らして落ち葉が弾けた。
やはり残像すら見えないアクション。
しかし、女の頬が赤く染まるという変化が起こる。彼女は足を止めて振り返り、少年の肩を掴んだ。
「…私を照れさせるということは、貴方が死ぬという意味です。わかりますか、タタリ」
「そんな蛮族じみた法則しらねぇよ!? アマゾネスもそこまで野蛮じゃないっつーの!! 良い加減そのクソみたいな照れ隠しやめろよアンタは!!」
わぎゃわぎゃと騒ぎ、肩を掴む女から離れようとする少年。彼を見る女の顔はやはり赤く、目もしどろもどろに揺れていた。野蛮極まる照れ隠しだが、どうやら彼ら二人にとって、これは日常茶飯事らしい。
だから、騒いでる最中で唐突にピタリと動きを止める少年に、女は変化を感じ取った。
「…どうしました?」
少年は、鼻をひくつかせながら目を閉じる。
怪訝そうな顔をして、独り言のように呟く。
「───退魔刀の匂いがする」
「…一手、遅かった?」
「いや、にしては血の匂いがない。
…なんか少し、キナ臭いかもな」
緒方 恭平…豆腐が好きらしい。束縛はあまり苦じゃない様子。おそらくはSとMどちらも可能だろう、めいびー。
東雲 華…一緒に夜をいてくれようとしたのは、とても嬉しかった。でも寂しくなるのが怖いとほのかに思ってる。離れないで欲しい。好きな人との繋がりになるなら被虐も加虐も好きだしノリノリでやる。
女と少年…外見年齢は職質受けても不思議じゃない。ようはおねショタであり、ショタおねである。