人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる   作:不定の狂気

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 世界観というか、なんというか。
 そんな感じの説明回なので長め。
 退屈ならごめんちょ。



ご近所付き合い

 

 熱中の時の邪魔が一番嫌だ。

 膨れっ面を自覚しながら、私はそんな事を思う。

 ふつふつ、ふつふつと湧く怒り。

 彼との時間を邪魔された。

 それだけが我慢ならない、拗ねてしまいそうだ。

 

「…あー…いや、うん。盛り上がってるところ邪魔してほんと悪いとは思ってんのよ、こっちは。

 だからどうか解放してくれっと…」

「ほどきなさいこの!この!!」

「悪い前言撤回、こいつは縛ったままで良い」

 

 スーツを着た女の人と、フードを被った中学生の姿をした『同類』を私の糸で縛ってから五分ほど。

 女の人の方は無理やり拘束から出ようとする。同類の方は、そんな彼女をドン引きの目で見ていた。

 

「普通性格逆じゃない?」

 

 緒方くんが呆れ混じりに言う。私も全く同意見。年下の方が逸って、それをカッコいい大人の女が諌める…っていうのを、外見から想像していた。

 蓋を開けたら真逆も真逆。女の人は猪突猛進だし、何というか…色々と雑だ。比べて、フードの同類は周りをよく見てるし、空気も読めて気遣いも出来る。

 

「……せっかく良いところだったのに…!」

「ほらぁ!怒ってるじゃん!早く謝ろうぜ、な!?」

 

 だからこそ恨めしい。日を改めるとか、日を改めるとかすれば良いのです。今の自分にとって重要なのは、彼と過ごす時間の方なのだ。

 

 …今は日中なので、人の姿をとっている。けれど、夜だったら感情の騒ぎも大きくなるだろうし、人の姿を模るのも苦労しそうだし、きっと怪異としての姿が崩れ出ていることだろう。

 今の私の怒りはそれ程なのである。

 

 その発端は、今からおよそ三十分前。

 寝室で二人してのんびりしてる時に、急に窓ガラスからノック音が聞こえてきたのだ。

 寝室にはベランダがある。だからと言って、ノック音がするのは明らかな異常事態。先の日下部くんのこともあって、警戒していた私は、驚く緒方くんを布団で隠してからカーテンを開いた。

 そしたら、

 

 『失礼、我々の話を聞いていただきたい』

 

 なんて、ドヤ顔で言ってくるスーツの人。白い髪も赤い目も、人として珍しいものだと理解しているけれど、そこに目が行く感情も即座に怒りへと変換される。

 …フードの同類の方は、大慌てで彼女を抑えていたけど、そこから先もひどいものだった。

 

 『本当に礼儀を失ってんだよバカ!!!』

 『何をする!? インターホンを押しても出なかったのです、何かあってからでは遅いでしょう! 退魔刀の気配があったと貴方が感知したではないですか!!』

 『血の匂いしてないって言っただろうが!! 大体こんな昼近くにカーテン閉め切ってんだから同衾とか睡眠とかの真っ最中とか思わないわけ!?』

 

 こんな騒ぎになれば、もうさっきのような雰囲気には当然戻れないわけで。

 私は怒りのままに彼ら二人を縛ったのだ。

 緒方くんは「せめて話だけでも聞こう」と二人を家の中にいれたけど、正直言ってあまり納得していないし…不安があった。

 だって、その緒方くんはさっきらからずっとフードの同類を見ているのだ。

 

「…あのさ、さっきからアンタの目がこわ」

「フード取ったらケモ耳?それとも羽耳? あと目も見たいんだけど…黒白眼とかだったり…いひゃひゃひゃひゃ!? いひゃいいひゃいよひののめひゃん!?」

「〜〜〜〜〜…!!」

「おっとぉ…そういうヘキ持ちだったかぁ…」

 

 杞憂は正しかった。人外が好きなのが彼だと理解していたが、目の当たりにすると嫉妬でおかしくなりそうだ。

 頬を引っ張って私の側に顔を寄せて、八本の足を出して抱いて捕まえる。緒方くんを膝の上に乗せて、フードの同類を睨む。

 

 …わかってる。みっともないし、直接的な手段を取るなんて、良くないことだなんて。

 でも、一緒にいる時間を邪魔されて、挙句好きな人が邪魔をした奴に執心なんて、心がささくれ立ってしまう!

 

「安心しろよ、その男は知らないけどオレはノーマルだ。間違っても取ったりしねぇ」

「僕だってノーマルだよ、人外って要素がすごく刺さるのであって…」

「…だから私以外の人も好きになるの?」

「Likeの意味ならそうなるね、不安かな?

 Loveはもう東雲さんだけだし」

「………信じる」

「その信頼に一生を以って答えましょう」

 

 ……えへへ。一生って言った。今一生って。

 

「…えっ、足で抱いたままなんですか?」

「今度は嬉しいから抱いてるの」

「そりゃ随分なこって」

 

 スーツの人は驚いたような顔。

 フードの同類は呆れたような顔だ。彼は一度ため息を吐き、頭を大きく振ってフードを脱いだ。

 …露わになるのは、燃える炎のような黒髪らしきもの。加えて、狼のような耳が生えていた。

 

 顔立ちはとても幼い。少なく見積もっても14歳ほどだろうか? けれど赤く光る目は、見た目とは大きく違って、どこか達観しているように見える。

 

「一応、神様なんでね。未熟な人化じゃ、人外であることを隠せねぇのさ」

「タタリ、貴方その姿を見せるのは…」

「誠意だよ、オレなりの───さて」

 

 同類の「さて」に、スーツの人は頷く。

 次の瞬間には、二人とも私達に頭を下げていた。

 先に声を出したのはスーツの人の方。

 

「私は北御門(キタミカド) 伊佐音(イサネ)。お二人の時間を邪魔したことを、ここに謝罪します」

「祟り神が一柱、名を犬神 タタリ。同じく、謝罪する」

 

 さっきの雑さや騒がしさが、消え失せたような声。誠意ある謝罪だと、しかし見ただけでもわかるものだった。怒っていた自分を、恥ずかしいと思ってしまうぐらい。

 私は、急いで彼らを縛る糸を消す。

 でもこれは恥を隠すためではなく、彼らの謝罪に応えるためだ。

 

「…う、受け取ります…その、いきなり縛って」

「いや、そこは謝らないで大丈夫だよ東雲さん。ぶっちゃけ僕なら、あのままベランダから突き落としてた。それぐらいには怪しさ満点だったから」

「ああ、その人間の言う通りだ」

 

 「優しさも考えものだねぇ」と私の頭を撫でる緒方くん。その手に反射的で擦り寄りながらも、そういうものなのだろうか、と私は少し疑問に思った。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 緒方宅一階、リビング。

 

「───さて、では本題に入りましょう」

 

 スーツを着こなす、白髪赤目の女。北御門 伊佐音は、ネクタイを締め直しながらそう言った。

 彼女はポニーテールを揺らし、懐から狐の顔の様な紋様が彫られた懐中時計を取り出す。

 

「オレ達は…うーん、なんつーか、互助会? みたいなもんでさ、オレ達やアンタらみたいに、繋がってる人間と怪異を支援してるんだよ」

「我々の元締めが、あなた達に気づいたのが来訪の理由です。平たく言うと、勧誘です」

「まだ補足の段階だったんだけどな! だっていうのにこの猪女は…」

「う、うるさいですね! 反省してますよ!」

 

 互助会、と緒方と東雲が声を揃えて復唱する。

 先に声を続けたのは東雲の方だった。

 

「まっ、待って!? そうすると、私達みたいに付き合ったりしてる人外っていっぱいいるの!?」

「多くはありません、貴女やタタリのような例外は発生率が低いので。ただ怪異の寿命は長い。そう言った例外の方々が累積した結果、一組織となりました」

「それはなんとも夢のある話ですね!」

「うっわ目ぇキラッキラしてるよこの男…」

 

 人間と怪異。被捕食者と捕食者。水と油。その例外から成立した〝互助会〟なるものは、例外達が繋いだ歴史から生まれた当然の帰結である。

 どんなものも、朽ちなければ溜まるのだ。後進が新たに生まれるのであれば尚更のこと。

 

 しかし、国に食い込む程の規模ではないのだろう。

 怪異についての知識の流布は無い。

 それを祓う存在も知られてはいない。

 それは怪異を討滅しようとする側も同じだ。知名度も、怪異の危険性についての周知もないのだから。

 

 少しの沈黙の後、北御門は懐中時計を懐にしまう。

 そして彼女は緒方を見て言う。

 

「緒方 恭平───貴方は()になっています」

「エ?」

「…アンタの目がそう言った?」

「今正確に見れました。確実でいいかと、東雲 華の口と彼の腕に繋がりが出来ていますので」

「まじかぁ…」

「…あの、()ってなんですか? もしかして、緒方くん、私のせいで人じゃ無くなっ───」

「いいや、その心配はない」

 

 別の問題はあるけどな、と犬神は言う。

 言葉を続けたのは北御門だ。

 

「平たく言うと、その怪異の専用食です。

 今の貴女は、彼しか食えない状態になっている。

 そして彼以外を食えば死に至ります。

 …一応稀なんですけどね、これ」

 

 緒方と、東雲の呼吸が止まる。

 恐らく、その理由は複雑なのだろうけど。

 犬神は二人を見ながら口を開く。

 彼の表情はあまり明るくなかった。二人の状態が、自分の想定外だったことが原因なのか、それとも状態そのものが原因なのか。

 ともかく、彼は一度ため息を吐いてから言った。

 

「アンタ、消えかけのコイツに自らの血肉を与えただろ。それが原因だよ。消える寸前まで行って、アンタの血肉を得てやっぱなし、って自分の消失を棄却した。それが現因で稀になるのさ───」

 

 人で在りたい、そう願う怪異。

 そんな怪異に、己の身を提供する人間。

 その図式自体は、記録にもあると神は言う。

 

 消失寸前の魂が、拒絶しながらも食らう血肉。心が所以か、魂と器が所以かはまだ解明されていないが、ともかくとして───その一食が、()と言う繋がりを生む。

 

 怪異の魂が〝私の命を繋ぎ止めるのは『この人の血肉()』以外にあり得ない〟なんてバグを起こすのだ。

 その状態で他の血肉や魂を食らうとどうなるか。

 本来なら怪異の存在を維持するものが、存在維持に全く関係ないと魂が突っぱねる

 器はそれで血肉や魂を害あるものと誤認して拒絶反応を起こす。体はあっという間に衰弱する。

 

「…それに気づけないまま、それを分からないまま死んでいった怪異。贄を食い尽くしちまった怪異。

 ───そんなのを、オレは見てきてるよ」

 

 そう語られて、東雲はほぼ反射的に緒方の裾を握る。緒方はそれに気づいてか、すぐに東雲の手を握った。

 そんな机の下のやり取りの後、緒方は言う。

 

「そうならない為の互助会、違いますか?」

「違わないですね。死に至ります。とは言っても、即死ではないし、解決策もあるにはあるのでご安心を」

「…でも、緒方くんを、食べないといけない…」

 

 生きるのであればいつか選ぶべきだった選択。

 目を逸らしていた問題を、噛み締めるように。

 そんな声で東雲は呟く。

 とうの緒方は「ばっちこい」とでも言わんばかりの顔だが、やはり彼女には抵抗感があるらしい。

 俯く東雲に向けて、犬神は言った。

 

「オレ達の所に入れば、増血・増肉に困ることはねぇよ。治療やらなんやら、支援体制は万全だ。

 でも対価として、アンタらにも業務の補助をしてもらうことになるけど。いやまぁ、金でもいいんだけどな」

 

 なにも、悲劇を産みたいわけではない。むしろそれを無くしたいのが互助会(かれら)だ。

 だから、それを再認して東雲の瞳に安堵が宿る。

 

 色々な不安が彼女の中にはあったのだろう。

 …こんな例外の関係は自分達だけだと、そう思っていたことが、彼女の持つ不安を肥大させた。

 しかし、事実は異なっていた。

 

 彼女の他にも、人と繋がる怪異がいる。

 彼女の他にも、人と関係を持つ怪異がいる。

 

 仲間や同類がいることは、心強いことだ。相談出来る人がいる、というのも大きなこと。

 驚くようなことや、これから先どうするか話し合うべきことを知ったけれど───絶望に沈むほど、どうしようもないことではない。

 それだけが、ひたすらに安堵をもたらした。

 

「仕事によっては、見返りも大きいですよ。

 人気なのは洗剤の詰め合わせですね」

「ふ○さと納税みたいですね」

 

 …マイペースな人間二人に、言いたいことはあるけれど。けれど、彼が動じないでいてくれたから、取り乱さないで済んだのかもしれない。

 そう思って、東雲は緒方に寄りかかった。

 緒方は何も言わず、東雲の方に手を回した。

 

「ああ、そうだ。

 これ聞いとかないと」

 

 不意に、唐突に、思い立ったように。

 犬神は真剣な顔で、緒方を見てこう問うた。

 

「緒方 恭平。この地の退魔刀、祢々切丸は何処にある」

 

 五分後、犬神の驚愕の声が響いた。

 

 





互助会…便宜上そう呼ばれてるのであって、正式な名前は別にある。ただ、所属しないと教えてもらえない。言霊的な理由があるらしい。察してる人もいるだろうけど、元締めの怪異は九尾の狐。登場するかどうかは考え中。
()…極めて稀な例。まさかこうなるとは思わんかったとは犬神と伊佐音の言葉。

緒方 恭平…実はハイテンション、ただし彼女や自分の問題ということもあり、今回は自重していた。ケモミミ!?いや炎髪!?すき!!!!!と大声で叫びたかったことだろう。
東雲 華…わっかりやすく嫉妬した。そうなるだろうなとわかっていても、心が受け入れられるかは別なのです。でも一生と言われて大変嬉しい。体の距離もゼロにしちゃう彼女なのであった。
犬神 タタリ…平安時代からいる。伊佐音に振り回されてばっか。
北御門 伊佐音…特異体質。猪突猛進。全てを拳で解決したシナリオブレイカー。

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