人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる 作:不定の狂気
幕間なので短め
多忙になるので更新遅くなるかも?
がたがたと揺れる、ガムテープと荒縄に縛られた棒状の物体。箪笥に押し込まれた、ガラクタのようなもの。
これが由緒正しき、そして霊験あらかたな刀だと、誰が思うだろうか───いや待って、待ってくれよ本当に。
「いや、いやいやいやいや!!」
理解の範疇を超えている。退魔刀の所在を聞いたら、こんな光景を見せられるだなんて予想できるわけがねぇ。
驚きのあまりに上げた絶叫で喉が痛むが、それでもオレの感情は声を張り上げた。
「いかれてんのかお前は文化財だぞ退魔刀だぞ遺物だぞ!?!?それをお前ガムテープと社にあったしめ縄でガチガチに縛るってお前!!!」
「とても好感が持てる処理法ですね、単純ほど素晴らしいものはありませんから」
「アンタは黙ってろ雑女ァ!!!」
マズイ、何がマズイって法的に。
訴えられたら終わりだぞこれ! 御神体持ち出してこんな仕打ち、司法が味方してくれるわけねぇし、弁護士だって首を横に振る! なんてことをしてくれやがったんだ緒方 恭平!
オレはうんうんと頷く伊佐音を黙らせ、緒方の横に座る蜘蛛女に向けて叫ぶように言う。
「アンタもアンタだ蜘蛛女! 止めるなり諌めるなりしろよ! 普通にしょっ引かれてもおかしくないっつーか当然だぞこれ!」
「いや、その…緒方くんが、私が斬られるの嫌だって縛ったから…えと、嬉しくてなぁなぁにしちゃってましたごめんなさい!!」
「色ボケがよぉ!!!」
だぁめだこれ! っつか女郎蜘蛛のくせにウブかよオイ! いや薄々そうじゃねぇかとは思ってたけどさぁ! にしたって本当に女郎蜘蛛なのかお前ぇ!!
頭を抱える。いや、確かに緒方のバカイカれがやったことは概ね間違っていない。今回、オレ達が此処に来た理由の一つは祢々切丸の「制限」のためだったのだ。
怪異を切るにしても、判別をしてもらうため。その制限を取り付けるために、一応は怪異でありながらも神であるオレが派遣されたのだが…困った、予想外にも程がある。なんてことをしやがる緒方。
つい彼を睨んだオレを許して欲しい。呪わなかっただけでも褒めてくれ、マジで。
だというのに、話題の中心の本人は、はたと気づいたような顔をして、いけしゃあしゃあと言いやがった。
「僕、何かやっちゃいました?」
「ぶっ殺すぞ 人間」
マジでやらかしたやつが言うんじゃねえ。
…しまった、怒りに飲まれた。体の抑えが効かない。体の変質が止まらない。
人間を襲いかけたオレの腹に、伊佐音の鋭い拳が突き刺ささる。体には幾重にも蜘蛛女の糸が巻きつけられている。
うん、こうなるよね知ってた! なんて、諦観気味なやけっぱちな明るさが、最後の思考。
そうして、オレは意識を手放す。
◆
緒方が深々と頭を下げている。
どうやら、軽はずみな発言だと後悔したらしい。それを目覚めたばかりのオレに変わって受け取ったのは、伊佐音だった。
「すみませんでした…」
「いえ、彼が喧嘩っ早いのも真実なので」
〝本性〟を出しかけたオレを、伊佐音が沈めてから三十分ほど経過した。相変わらずの拳だ。曲がりなりにも人を呪う神だぞ、一撃ノックアウトってどういうことよ。
オレを打ちのめした雑な女は、革手袋をはめなおしながら拗ねた声色で言う。
「怒るのは結構です、けれど呪っていいのは私だけですよ。その辺りは守ってください、タタリ」
「…いやそんな約束したけどな昔…」
時と場合ってやつがあるだろう。
なんだ緒方、何か言いたそうだな。
ほお、女の嫉妬呼んだ時点で男の落ち度? 腹立たしいけどその通りだよクソッタレ。
というかそれを言ったらお前も落ち度ありじゃねぇか、さっきから蜘蛛女の糸が纏わり付いてんぞ。
性癖にしても野郎にもその目はダメだろ自重しろ。
つか、さっきのことがあってよくそんな事言えんなお前、実は人外だったりしない?
「…さて、頭も冷えた。真面目な話に戻ろう」
よっこいせ、と起き上がる。
「…今回、オレ達が此処に来た目標は二つ。一つはアンタらの様子見、二つ目は祢々切丸の『制限』だった」
「『制限』?」
こてん、と蜘蛛女が首を傾げる。
此処に住んでるのにしらねぇのか、少し驚きだ。
オレの説明を続けるように、伊佐音が口を開く。
「祢々切丸は、独自意思を持つ退魔刀です。
ひとりでに動き、その力を発揮する。
なので、こちらから対話・施術をして、その行動に制限をかけることが目的だったわけです」
怪異の場合、祢々切丸の切断対象だ。対話など普通は望めない。ウチの元締めみたいな位の高い怪異や、オレのような神の範疇にある者は例外となるが。
なのでオレが派遣されたのである。
…ぶっちゃけた話、それを考えると怪異・神、神獣に大きな差はないんじゃないかと思う。
「じゃあ、そちらに渡したほうが?」
ガムテープとしめ縄の棒を手に緒方は言う。
なんだこの罰当たりレベル100みたいな光景。
「ま、そうだな。取り敢えずこっちで何とかするよ」
ともかく、オレは出された祢々切丸を手に取った。
───瞬間、退魔刀の意思が流れ込む。
本来ならあり得ない挙動だ。独自の意思を持つ道具、いわゆる付喪神はこちらから望まなければ意思表明をしない。自ら意思を示すのは、神具や神宝、神器ぐらいだ。
なのに、こうして刀の方から呼びかけが来るとは…よほど、今の自分の扱いに不満が───え? 今人間と人外について学習中だから働く気はない? なんなら社に帰るつもりはない?
は?
いや、いやいやいや。おかしいだろうお前。しめ縄で縛られてんだぞ、挙句ガムテープで封印だぞ!?
…わざと封印されてやってる? 式神から成り上がった木っ端呪いが調子付くな? オイなんだこいつすげぇ生意気なんだけど…半べそかいてるガキみたいな声してるくせに…。
「どうかしたんですか?」
「…いや、こいつ帰るつもりも働くつもりも暫くないって…」
「おお、好都合」
「いや好都合じゃねぇよ、どうすんだこれ」
御神体紛失してんだぞ社。警察が動いたらアウトだ、その旨を緒方と蜘蛛女に告げる。
「その時は逃亡生活だね、捕まんのやだし」
「私の隠れ家、使えるかな…」
「あれ? まともなのオレだけ? というか緒方お前、捕まんのが嫌なら最初からこんなふざけたことすんなよ…」
「あ、いやいや。僕は社にある刀を縛っただけだよ、その後その刀が自分から来た」
「は?」
おい待てェ、情報が多すぎる。
そう呻くオレをよそに、緒方と東雲は祢々切丸が此処にあるそもそもの理由を語り始めた。
先ず、刀が此処にあるのは窃盗由来ではない。
先日、同級生に祓われそうになったところ、刀が落ちてきたらしく、それを使って撃退した。
その後、祢々切丸は退魔刀としての力の一端を解放。同級生の記憶を切断した。
それを知ってから、危ないと思ってあのクソ罰当たりな封印に至る…。
「…おい、芋蔓式に厄ネタ来たんだけど」
「……日下部一族の末端ですかね。
ともかく、それなら祢々切丸は貴方が持つのが良い」
同意見だ。まさか、この街に陰陽師、いや陰陽術を使える人間がいるとは。
敵意があるなら自衛手段があったほうがいい。
…話を聞いた限り、会話の余地はなさそうだ。
しばらくこの街にいたほうがいいだろうか。こうともなると、オレ達の支援が必要になるだろう。
「あの、そしたら社の方は…」
「影打ちの一つや二つ、うちの蔵にあるでしょう。
それを奉納しておきましょう」
不安そうな東雲にそう伊佐音が返す。
…確かにウチの蔵には色々あるが、いいのかそれで。
「…ま、取り敢えず───仕事完遂かねぇ…」
ああ、すげー疲れた。
…なんつーか、やっぱ人間って怖いわ。
犬神回…本当なら緒方→東雲って登場順に幕間(という名のそのキャラがどんな扱いをされてるかの紹介回)をやりたかったけど、話の流れ的にちょうどいいので一番手が彼の元へ。
犬神 タタリ…緒方が会話をファンブルした結果、暴走しかけた。ショック療法を受けて持ち直す。割と周りに振り回されるお方。声は多分くぎゅうとかその辺り。割と高めな少年ボイス。見た目も中学生だしね。でも割と長生き、千才以上です。
祢々切丸…半べそかいてました。