人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる   作:不定の狂気

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 君を知り、
 君の心を知り、
 君の仕組みを知り、
 やがて君の全てを知り、

 そして 僕は僕を暴くのです。
 君に僕の全てを飲み込んで貰う為。

 君と僕の秘密で交わる為。



僕の話、君の話
ささやかな始まりは


 

 伊佐音さんと犬神さんの来訪から三日後。木金と学校へ通い、土曜日の始まり。やはり徹夜には至らず、途中で僕の意識は死んでばかり。東雲さんと夜を明かしたいと思えども、中々に難しい。

 そんなことを、睡眠不足で風船のように浮ついた頭で考える。太陽はとっくに正午を示してるけれど、眠たさは夜に匹敵した。

 

 今、リビングには僕以外に東雲さん一人。

 お家デートというやつだ。

 でも、特に喋ったりはしない。テレビをつけてお互いにだらだらするとか、その程度。

 

 かつん、と机上の懐中時計を爪で突く。

 

 狐の面が刻印されたそれは、僕と東雲さんが「懇意を結んだ人外と人間」の互助会こと〝異類衆〟に入ったことの証明証であり、記念品である。

 僕と東雲さんはこれを渡された。

 断る理由はない。僕が東雲さん唯一の糧である()となった以上、サポートを受けるためにも、入らないなんて選択肢はありえなかった。

 

 しかし、そうであっても───

 

「…初めてのお揃い品が、なんか義務っぽい」

 

 嫌なわけではない。ただペアものとしては、なんとも不足である。主観だけど。

 すると、東雲さんが意外そうな顔をする。

 

「緒方くん、そういうの気にするんだ…」

「するともしますとも! 何も性癖一辺倒なわけじゃありません! ちゃんと男女の関係にも営みにも興味あり、関心ありの男子高校生です!」

「そ、そうなの…?」

 

 確かに人外は好きだ、とても好き。視力を始め、僕の全てを注ぎ込めるほどに好き。

 でも何も、それ一つなわけじゃないのだ。

 だから今こうして東雲さんと付き合ってるわけだし、彼女に対して「好き」という感情が湧きまくっている。

 

「ということで行きましょうショッピング、とは名ばかりのデート。新しいお揃いを買いに行きます」

「お揃いかぁ…アクセサリーとか、服とか色々あるよね。えへ、へへへ。なんか夢みたい」

「やっ」

「いひゃい!? なんで!?」

「夢じゃないと知るのです」

 

 みょん、と頬をつまむ。特に深くは考えてない。

 そしたらこっちも頬を伸ばされた。痛い。

 

「お返しだー、…!?」

「いひゃひゃひゃ」

 

 割と痛い。さっき僕が頬伸ばしたの、DVにならないかしら、少し不安だ。なんて思ってると、東雲さんは僕の頬を摘んだ指を見てる。僕のほっぺ食べたいのかしら?

 

「凄いもちもちだった…」

「そうな、あぶぶっ」

 

 彼女の両手が頬にぴったり。喋ろうとしたけど、頬に圧力がかかったので半ばで終わり。

 東雲さんは目をキラキラさせて、僕の頬をいじくり回す。そんなに好きなのか、もちもち。

 

「〜〜〜〜っ! かわいい!」

「はい?」

 

 頬から手が離れたかと思えば、いきなり可愛いって言われてハグされる。どういうことだ、まるで意味がわからんぞ。珍しく困惑する僕をよそに、東雲さんはクセなのか、僕の肩に顔をうずめる。

 …ハグの寸前に見れた、表情がかなりグッと来た。独占欲と、愛でたいって感じの顔。

 でもその、あのですね…。

 

「…照れてる?」

「はは何ですそんなことないですはい」

「照れた顔、初めて見た! もっと見せて、ああ駄目、隠さないで。もっともっと見ていたいの」

 

 ぐぱり、と東雲さんの側頭部から生える蜘蛛の瞳。全部僕を見ようと躍起で、敵わない。

 でも男の子に可愛いは無いでしょう! 嬉しいより恥ずかしいが勝るんですよ!

 

「真っ赤でかわいい、ちゃんと見ておかないと」

「勘 弁 してくださいっ!」

 

 ああ、でも責められるのも悪く無いかもしれない。

 いやいや、だけども恥ずかしい! しかし、やっぱり力は彼女の方が強いのです。

 なので僕はなす術もなく、羞恥に染まった顔をじっくりと堪能されました。

 

 でも、そうだ。

 

「……ぁー、ん」

 

 ぬるり、とした質感で溢れる人としての口。

 しかし、内側を湿らせるのは食の欲求だけじゃ無い。とろりと酩酊したような目は、興奮にも似た何かで滲んでる。

 シームレスな、恋人から捕食者への移行。

 しかし、されども、彼女の捕食は単に生きるための行為から離れていそうだと僕は思う。

 

 だって、人は食べ物相手に欲情しないでしょう?

 

 小刻みに荒い息を吐き始める東雲さん。不安と欲望で瞳は蕩け、混じる二つの飴のよう。

 なんとはなしに、耳元で「どうぞ」だなんて囁いてみる。面白いくらいに瞳孔が開いて、彼女は恥ずかしそうにこう言った。

 

「……えっち」

 

 がぱり、と蟲の口が開く。人の顔が崩れて、万人が怖がりそうな顔。牙が僕の首筋を伝う。ぞわぞわとした感覚。ずり落ちる服が肩を晒す。そのまま硬い質感が、肉に食い込み───ざくり、と皮膚が千切られた。

 

 痛い。気持ちいい。痛い。痛い。気持ちいい。

 

 一口齧り、彼女は僕の肩から離れる。きゅうと瞑った目が可愛らしくて、口端から垂れるのは僕の血だ。

 たまらなくドキドキする。彼女の口に僕の一部がある。ごくり、と音が鳴った。蟲の口の時は、どこで嚥下しているかわからないけど、とにかく音が鳴った。

 それで十分だった。彼女の中に、僕が取り込まれた。

 

「…ごちそう、さま…」

「ん…おそまつさまでした」

 

 まるで情事の後みたいだ。

 熱に浮いたまま、僕はぼんやりと考える。

 彼女の首筋に、僕の痕を残せるだろうか。

 

 

 





 八つの足も、長い命も、
 大きな口も、とめどない心も、
 沢山の目も、一人のための熱い吐息も、
 愛おしくて堪らない貴方を愛するには、
 私を肯定した貴方を独り占めするには、
 とてもとても足りないのです。
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