人外が大好きなやつが退魔刀で殴ってくる 作:不定の狂気
安眠妨害する奴は死ねばいい
ただし、彼女は除く
───緒方 恭平
学舎の屋上とは、施錠されているのが常だ。ただ、それを開く
緒方 恭平。北御門 天音。原口 圭人。この三人は、昼休みに決まって三人で屋上で昼食を取る。
しかし、最近になって屋上組のメンバーが一人増えた。
彼女は鍵開けのスキルもない、大人しい生徒だが、その実は非人間だとは夢にも思われないだろう。
すよすよと、寝息を立てる童顔の少年がいる。
彼が枕にしているのは、彼女である新メンバーこと東雲 華の肩であり、その寝顔は安らかだ。
それを見ながら、北御門は言う。
「…なんか最近こいつ寝てばっかじゃない?」
「緒方くん、最近夜更かしのトレーニングしてるんだって。だから、授業中も眠そうで…」
「相変わらず意味不明だなぁ、夜更かしって鍛えるもんじゃねぇだろーがよー」
食べるのが遅いのか、四人の中で唯一未だにトマトサンドを口へ運んでいる原口は怪訝な目を緒方へと向ける。
今に始まったことじゃないでしょ、と北御門はあまり気に留めてない様子だった。
「んしょ…んしょ…」
その間に、東雲は緒方を起こさないように体制を変える。頭をゆっくりとおろし、自身の膝下へと。
とどのつまり膝枕の体制である。
「…うーわ、カップルの膝枕初めて見たわ」
「割と腹立つなオイ」
「えっ」
ひょえ、と驚く東雲。原口はカラカラと笑いながら冗談だよと返すが、その目は笑っていない。どうやら彼の心の内には並々ならぬルサンチマンが溜まっているらしい。
「…つっても、なんで夜更かし?」
「あ、それは、…私のせいなんだ」
「というと?」
「私、夜はあんまり寝ないの。だから緒方くんは、夜に一人にしたくないって起きててくれてるんだけど…途中でいつも寝落ちちゃうの」
緒方のぴょん、と跳ねる髪。
それを手櫛でとかしながら東雲は語る。
「その時の顔、とっても可愛いんだ。無防備で、寝たくないのにーって顔して、うとうとするところが」
「…あんたってかなりアブノーマル?」
「え、どうだろう」
「自覚しろ、割とニッチな癖持ちだ」
原口の言葉に「そうだろうか?」と東雲は思う。
彼限定となるが、眠気に耐える顔は好きだ、抵抗するような顔、彼が普段しないような必死に抗う顔。
その時だけ、彼は少しだけ目つきが悪くなる。
いつもあどけない眼差しが、鋭くなる。
そのギャップが好きだと自覚しつつ、彼女は緒方の頬を撫でた。
「…だとしたら、きっとこの人のせいだね」
「あー、好きな人だからってやつ? でも実際どーなのよ、恋バフ?デバフ?まどっちでもいーけど、かかってると魅力的に見えるもん? 天音」
「…なんで今こっちに話振った?」
「北御門さん、好きな人いるの?」
「食いついてくんな!」
騒がしくも姦しくはない声の群れ。
しかし、静けさとは程遠いのも事実。
緒方が目を覚ますのは、当然の話だ。
「…うるさ…圭人、また天音怒らせた───っと、
ごめんやっぱりもう一度寝る」
しかし、膝枕をされてると知った途端、
寝返りをうって再び目を瞑った。
そのまま少女の腹部に顔をうずめるようにする。
「ひぁ…ッ! あ、頭お腹に…!」
「…あいつあんな甘える奴だった?」
「少なくとも俺らには見せなかった顔だわな」
「余計なこと言わないでよー」
ひらひら、と友人達に背を向けながら手を振る緒方。どうやら再度寝るというのは本当らしく、声は至極眠たげだ。
枕にされたり、腹に顔をくっつけられたりしている東雲本人はといえば、
「…〜〜っ! 〜〜…ッ!?」
あうあう、と手を上げたり下げたり。何をしたら良いかわかりません、というのを身振り手振りで表していた。
顔も真っ赤で、見ている分にはたまらなく面白おかしいものだろう。
天音も圭人もカラカラと笑っている。
「抱きしめてやりなよ。
その方が喜ぶでしょ、そいつ」
「そそ。そこまで甘えられてんだし」
立ち上がった二人の友人達はそう言う。邪魔にはならないようにと、さっさと去るつもりらしい。
ただ東雲は───どうしても、二人のその穏やかな目が気になった。安心したというような、自分には見えない何処かを見たような目。
それはいったい、何を理由に?
けれど、聞くことはしなかった。
緒方と二人の方が付き合いは長い。聞けば彼の過去だって教えてくれるだろう。
だけど、それはどうにも違う気がした。
不公平というか、筋違いというか。
聞くのであれば───彼の口から聞くべきだ。
「…そうだね、五限目サボっちゃおうかな」
「お、意外と悪い子?」
そんな緒方の揶揄い文句に対して、「元から
◆
五限の始まりを知らせる鐘が鳴る。
太陽は穏やかに傾いている。
静かな彼の寝息が、私のお腹に響く。
いじらしい。ぞわぞわする。飢えていく。
装飾的な言葉を取り払って。理性的な恥じらいを捨てて。何も取り繕わずに、あるがままに言ってしまえば、
───ひどく、堪らなく、興奮する。
私の
人の体を模っている以上、知る由もない。
感覚的にも、問題はない。
でも、私は知っているから、駄目だ。
「ぁあ…もう…生殺し…」
一目惚れと彼は言う。
酷く不安定なところが好きなのだと言う。
死体を食べてだなんて言う。
一人にしたくないと夜に目を開こうとする。
無防備な姿を晒して、全てを明け渡す。
そんなの、興奮しない方が嘘だ。
不誠実で不道徳な本能。誰も来ないという屋上が、私の腹に眠る臓腑を煽り、熱り立たせる。
このまま口を開けて、人の体を解いて、蜘蛛としての姿で、生まれたままの私で飲み込んで、中身に彼を注ぎ満たしてしまいたくなる。
…二律背反とはよくいった言葉だ。
飲みたいし触れ合いたいのに。
彼を飲めば、彼の声が聞けない。
触れ合えない。あの眼差しに出会えない。
なんて勿体無い。なんて悲しく独りぼっち。
「だから、私は我慢しているんだよ」
彼の髪を撫でながら、囁く。
食べることは一瞬だ。触れ合うことは永遠だ。なら、どっちを取るかなんて問われるまでもない。
触れ合い、肌と肌の温度を溶かし合う。
その名残にすら思いを馳せられるなら。
一瞬で終わりなんて嫌だ。続くのならば長い方を。
だから私は私を糸で縛って、食べ尽くさないように我慢に我慢を重ねて、一口だけを噛み締める。
「…すき、すき、だいすき」
もう手放すつもりも、逃すつもりもない。
どこにも行かせない私の蝶。叶うなら、ずっと私の巣で羽を広げていて欲しいのです。
だから───どうか、邪魔をしないで欲しい。
「何しに来たの、日下部くん」
屋上を出る扉の向こう側。
酷く冷たく、度を過ぎた潔癖の匂い。
鼻をつくそれを漂わせるのは、一度緒方くんを殺そうとした人。彼は、ゆっくりと私達の前に立つ。
「…緒方に用がある。東雲、お前は席を外せ」
「今寝ているの、後にしてあげられないかな」
「……ここで緒方を食うつもりか? 化け物」
彼の手が刀印を結ぶ。なるほど、彼の敵意の対象は怪異と、それと繋がる人間にあるらしい。
今の彼にとって、緒方くんは救助の対象なのだろう…命は取らないと、そう考えて良いのだろうか。
「食べるって、何言ってるの?」
「御託はいい、退くか退かないかだ」
だけど、どのみち彼を信用出来ない。
だって、瞳があまりにも憎しみだらけだから。
少しでも怪異と与する素振りがあらば殺すと、過去の彼と今の彼の瞳が雄弁に語っている。
どうしたものか、そう悩んでいると。
モゾモゾと、私のお腹で緒方くんが動いた。
「ひぅっ」
「…なんで、君の声で起きなきゃいけないかなぁ…日下部」
恥じらう私をよそに、のそりと起き上がる彼は、眠たげな目で日下部くんを睨む。
「───緒方 恭平。お前の恋人が、人を食らう怪物であったとしたら、お前はどうする?」
「恋人の時点で超好き。怪物だとしたら尚更に大好き。
はい話は終わり。もう話すこと何もなし。
僕は寝るから、君もさっさと授業受けたら?」
その答えを聞いて、
それを、緒方くんは蹴って止めた。
日下部の右手を弾くように振るった右足。
彼はそのまま跳ねるように起きて、拳を握る。
「…その行動、やはり
ならばもう簡単だ、今ここで二人とも祓い殺す…!」
ひりつく空気、溢れる殺意。
私は緒方くんを庇うように前に立つ。
けど、彼は私の肩に手を置いてこう言った。
「ごめん、ちょっとあいつに八つ当たりしてくる…あの野郎せっかくいい夢見れそうだったのに…」
「緒方くん…?」
……もしかして、相当怒ってる?
リベンジ日下部(2度目の自覚はない)…男の子ひっ叩いてる天狗の人みたいなセリフなったのは本当に申し訳ないと思っている。刀は置いて来た。憎悪で目がくらくら。
緒方っち…彼女の膝枕で寝れるとかたまんねぇな、授業サボろ。あっこいつ(日下部)邪魔して来た、マジ殺すっ。人に甘えてる所は珍しいらしい。刀は一応持って来てはいる(しかしロッカーの中)
東雲さぁん…敵認定したらさん付けしない。お腹に頭で興奮したり照れたりした理由は「蜘蛛 生殖」で調べよ(画像は見んなよ!)。意図せずして禁欲生活みたいになってる。