瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
一話 転生
「先日都内で起きた死亡事故ですが、原因は隕石の落下によるものと思われており……」
「隕石で死ぬなんてどんな確率だよ。あ、でも宝くじが当たる確率よりは高いんだっけ」
俺はニュースを聞きながら支度を整える。
「行ってきます、お母さん」
俺は仏壇に両手を合わせて拝んでから、リュックを背負って玄関へ向かう。
「んん〜。おはようお兄ちゃん、行ってらっしゃい」
眠たそうに部屋から出てきたのは俺の妹の絵莉だ。
「おはよう絵莉。行ってくるよ」
そう言って俺は玄関の扉を開けた。
俺の家族は妹二人にお母さんの四人だったが、今は俺と二人の妹との三人でこのアパートに暮らしている。
一人はさっきの絵莉で、中学二年生。もう一人は小学二年生の
何故子供だけで暮らしているのかというと、俺が幼稚園生の頃にお母さんとお父さんは離婚して、しばらくはお母さん一人に絵莉と俺は育ててもらっていた。
二年くらいしてお母さんは再婚して、唄葉が生まれた。
でも小学五年生くらいで、お母さんはお義父さんとを離婚した。
俺と絵莉はお母さんに付いて行ったけど、唄葉はお義父さんの方に行った。
でもそれから一年したくらいにお義父さんは死んでしまった。
お義父さんは一緒に住んでいる時は怖くて、お母さんとお義父さんが喧嘩をする度に聞こえる怒鳴り声が嫌で仕方がなかった。
お母さんと離婚したときはお義父さんに対する嫌な想いで溢れていた。
でも何故か死んだ事を聞いた時にそんな思いは無く、色々と思い出して泣いてしまった。
それから唄葉はお母さんと俺と絵莉の四人で暮らすことになった。
女手一つで俺達三人を育ててくれた。でも、お母さんの身体は持たなかった。
過労で精神と身体の両方が蝕まれて、亡くなってしまった。今でも信じられない。
それでも、俺と絵莉のお父さんは葬式に現れなかった。
今ではお金を援助してはくれるものの、俺達を引き取ってはくれなかった。
別に引き取ってもらいたくはこちらもなかったが。
そして俺は高校生活とバイトを掛け持ちしながら今に至る。
今日は休日でバイトの日だ。
俺に休みは無い。強いて言うならアニメや漫画を見る事くらいだ。
ゲームは高くて小学生の誕生日にお母さんから貰った物しかないが、未だに昔のゲームを遊んでいる。
それこそお母さんと同じ末路を辿るんじゃないかって思えるが、まだ死ぬ気は無いし、なによりこれしか道は無い。
あとは、学校で友達と過ごしている時が俺にとっての休みかな。
そして俺は家から20分程歩いて、バイト先の近所のスーパーに着いた。
「ふぅ〜疲れたぁ。お疲れ様でーす」
俺はバイトが終わってすぐに帰る支度をする。
するとここで働いているおばちゃん達に話しかけられる。
「大夢ちゃんは偉いわねぇ〜。この歳でこんなに頑張ってて! ウチの馬鹿息子にも見習って欲しいわ全く。はい、ご近所さんから貰ったじゃがいもなんだけどウチだけじゃ食べきれないから大夢ちゃんにもあげるわね」
「ああ、大山さんいつもありがとうございます! 」
そうして受け取っていると「あら大夢ちゃん私も! 」「ほら私も! 」と、沢山のおばちゃん達にお裾分けされる。助かるし感謝でいっぱいなんだが、持ち帰るのが大変だ。
まあ、遠慮無く貰えるものは素直に受け取るけど。
おばちゃん達から色々と貰ったお陰で、俺は両手両肩に沢山のカバンやビニール袋をぶら下げてスーパーを出て帰路につく。
おばちゃん達に食べ物等を渡されまくったせいで荷物がとんでもないことになっているが、構わない。
数分経って人通りの少ない路地を歩いていると、前から人が来た。
黒いコートにフードを被ったいかにも怪しい男性だが心の中で別にこんな人普通にいるでしょとスルーする。
そしてその男性が横を通り、すれ違いになる。
ほらね、何も無いじゃないか。疲れてるんのかな、やっぱ最近働きすぎたか。
そう思っていると脇腹に激痛が走る。
「……うっ?い、痛っ……!」
俺はすぐさまその場に倒れ込む。
脇腹を見ると服が血で滲んでいた。
男を見るとその片手には、先端が血に染まった包丁を持っていた。
男が更に近付いてこようとする。
「ぐ……がぁぁぁぁ! 」
俺は痛みを堪えて立ち上がり、両手のビニール袋を振り回してその男を振り払う。
俺は激しい痛みに歯を食いしばり、荒く息をしながら背負っていたリュックを男に向かって投げる。
その隙にビニール袋とカバンをその場に投げ捨て、今できる限りの速さで走り出した。
クソっ! 腹が裂けそうだ……包丁が刺さった脇腹が痛過ぎる、何とかしないと。
とりあえずは救急車を呼ばないと……あーもう! 携帯が出せない!
俺は確認のため背後を見るともう男が追いかけて来ていた。
俺はできるだけ人通りの多い場所に逃げようとするが、家から少し離れており、家に向かう道以外のこの辺の道は細かく把握していないことを思い出す。
逃げるルートを考えることすらできない。
ああもう分かんねぇ! 血がどんどん出ていって頭が回らない!
俺は咄嗟に曲がり角を右に曲がった、しかしそこは行き止まりだった。
「クソ……! 」
俺は行き止まりの道の奥まで行って振り返る。
もうすぐそこまで怪しい男は手に新たな包丁を持ったまま迫ってきていた。
俺は諦めかけている心を誤魔化して必死に打開策を考えようとするが、出血により思考が纏まらず、視界もボヤついてきた。
俺はアドレナリンが出てきたのか痛みは和らいで、心なしか少しハイになっているかもしれないと思った。
しかし状況は依然として絶望的、追い打ちをかけるかのように男は包丁を振り上げてこちらへ走ってくる。
もう、ダメか。死ぬのか……俺。
男はもう目の前に迫って来て、その包丁を振りかぶる。
それに対して俺は腕を前に突き出して必死に助けを乞う。
「や、止めてください……僕を殺したっていいことないですよ! 」
しかし男は俺の言葉に全く聞く耳を持たず、そのままこちらへ走ってくる。
ああ……終わった。
俺は半ば諦めかけていた。
その直後、手のひらに燃えるような熱い感覚が走った。
俺は痛みで熱いのかと思ったが、腕は切られていなかった。
なんだこの感覚は……体の中から何かが飛び出たような。
俺は男の方を見やる、すると男はなんと燃えていた。
男は燃えるコートを一生懸命に脱ごうとしているが焦って中々脱げない。
しかしこんな状況になっても声一つ出さないのは不気味だ。
そして俺は一瞬なぜ燃えているのか分からなかったが今が逃げるチャンスだと思い、男の脇を通り抜ける。
よし……今は追って来れないはず。
アドレナリンのおかげか激痛のはずが、痛みが和らいでいて走れる。
しかし出血によって視界も身体もフラフラしており、早く止血をしないと命は無い。
早く……病院に行かないと……。
だがしばらく走ったところで俺は道の真ん中に前から倒れ込んでしまった。
「はぁ……はぁ、く……そ」
マズイ……このままじゃ死んじまう。
そうしたら絵莉と唄葉の二人で暮らしていかなきゃ行けなくなる。
あいつらを遺して死ぬ訳にはいかない。だけどこのままじゃ死ぬ。
もう……体が動かない。
意識が薄れていくのを感じながら走馬灯が見えた。
ああ……絵莉、唄葉……ごめんな、お母さんみたいにお兄ちゃんまで居なくなっちまって。
意識が朦朧とする中で、上空に激しく発光する物体を見る。
なんだ……あの光は……こっちに向かってくる、隕石か?
俺は上空で激しく光る物体を見て、朝に聞いたニュースの内容を思い出す。
あぁ……まさかニュースで聞いたのと同じように隕石で死ぬなんてな、これは俺も報道されて有名人だな……。
最後に自分の考えたことのくだらなさに、鼻で笑った。
脇腹からは絶え間なく血が流れ続けている。
刹那、俺は頭に一瞬とてつもない衝撃を感じ取って、意識が途絶えて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ん……ここどこだ?
俺は意識が覚醒したのと同時に目を開いた。
寝ているのか木の板で造られた天井しか見えない。
死後の世界……じゃ無さそうだな。
でもおかしいな、天井ってこんなに高いっけ。
しかしあの光は一体……それに不審者が燃えていたのも……。
まあとりあえず、この状況は倒れている所を誰かが助けて寝かせてくれるのかな? とりあえず起き上がって……あれ? 起き上がれない。
俺は体が起き上がれないことを確認し、今度は手足は動かせるか試してみる。
手と足は動くなって、え……。
自分の手が視界に映りこんだ瞬間、俺は驚きのあまりに思考が一瞬停止した。
なんと、手が小さかったのだ。
俺は再度事実を確かめるべく自分の手を動かして視界に映る手が自分の物か確認する。
その手は俺が思った通りのタイミングで思った通りの動きをした。
間違いなく俺の手だ。
ということは俺は今赤ちゃん? ということになるな……。
どゆこと? 俺死んでなかったのかと思ったけど、赤ちゃんになってるってことは実は死んでて転生……とか?
アニメや漫画の中の話だと思ってたけど、いや違う、これこそ死後の世界なのかもしれない。
俺が状況を飲み込めずにいると、足音が近づいてくる。
誰か来る。俺を助けてくれた人か、神様か、それとも……。
その足音の主は、青色の瞳に燃えるような赤色を肩まで伸ばしたとても美しい女性だった。
俺はあまりの美しさに神かと思ったが多分人だ。
俺は咄嗟に「助けて下さりありがとうございます! 」と感謝を伝えようとするが、上手く声が出なかった。
俺が困っている様子を感じ取ったのか、その女性は俺に笑いかけて、そのまま俺を持ち上げて抱っこした。
これは間違いない。今の俺は赤ちゃんで多分この人は母親ってことになるだろう。
つまり前世の俺はあそこで死んで転生したことになる。
その女性の人は、俺を抱っこしながら変顔をしてあやしてくる。
俺は頭が少しずつ落ち着いてきて状況が少しわかった。まあ、意味の分からない状況ではあるが。
うーんわからないなぁ、でもとりあえず赤ちゃんらしく泣いとくか。
いやー前世で俺が赤ん坊の時お母さんはこんな感じであやしてくれてたのかな。
なんて母親であるであろう女性を見て俺は思う。
小学生の時に唄葉が生まれたばかりの時はたくさん抱っこしたなぁ。
あいつら俺がいなくなってどうしていくんだろうか。
などと考え事をしていると、また足音が近づいてくる。
まあこれは流れからして父親だろうな。
案の定来た人物は男性だった。
その男は青色の瞳に白銀の長髪を後ろで縛った端正な顔立ちの男であった。
長髪イケメンだなぁ。
その男は俺に顔を近づけるや否や変顔をしてきた。
そして俺を抱っこしている女性と何か話をしている。
うーん、言葉は分からないな。
まあ見た目でまず日本人じゃないってのは分かるんだけど、外国人の線は捨てきれないから異世界転生かどうかは分からない。
てか夫婦揃って赤子のあやしかたが変顔一択って仲が良いな。
俺の両親もこんな風に仲が良かったら……いや、今そんなこと考えても何も変わらない。
俺はこの世界での二人のやり取りを見て「こんな風だったら」と、少し憧れを抱いた。
そして同時に、前世に遺して来た二人の妹に対しての不安と申し訳無さが襲ってきた。
でももう今更何を考えても遅い、前世の俺はもう居ない。
だったらせめて、この第二の人生はやり切ろう。
そしてあいつらが老いぼれて死んで、俺も死んだら天国で会えるといいな。