瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい)   作:伊地知和義

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十一話 不思議な夢

 ここは……どこだ? 周りが暗くて見えない。

 

 とりあえず視力を強化して暗視を……ってあれ? 魔力の感覚が無い?

 

 それどころか体の感覚すら……。

 

「やっと君と話せるよ全く……どれだけ待っていたと思うんだ」

 

 何やら若い男性の声がする方を向くと……いや、体の感覚が無いのに向くとなんて言うのはおかしいがそこには淡く光る何かがあった。

 

 誰? と問おうとするが口が無いので話すことすら出来ない。

 

「大丈夫、君の声はちゃんと僕に聞こえているさ。私が誰かって事かい? そうだな、私は君のご先祖さまであり、君自身でもある」

 

 何を……言っているんだ?

 

 いきなり「先祖です」と言われて「はいそうですか」ってなるかよ。

 

 第一ご先祖さまと言ったってどっちの世界のご先祖さまなんだ?

 

 俺は前世の記憶を持ったまま今の人生を生きている。

 

 そもそもどっちの俺に話しかけているんだ?

 

「『明星大夢』の方だよ」

 

 ということは前世のご先祖さまということか……いやまだご先祖さまと認めた訳じゃないが。

 

 仮に前世の俺の先祖だとして、何故転生してニルという名前の俺に話しかけているのか気になるところだが……。

 

「うーん……悪いけど君の個人的な質問に答える時間は無いんだ、すまないね。話は変わるけど君は『邪神と勇者』のおとぎ話は知っているかな? 」

 

 これまた随分自分勝手な……まあ、いいや。

 

 その話はもちろん、何度も読んだから知ってるけど。

 

「なら話は早い。単刀直入に言うけどね、あれには続きがあるんだよ。あの話じゃ最後は勇者が邪神を倒して終わりだが実際は違う。邪神は今も生きている……とだけ言っておこう、すまないけど今はここまでしか話せない」

 

 はい? いきなり何を言い出すんだ。

 

 というかどうして前世の俺のご先祖さまがこっちの世界のおとぎ話を知っている?

 

 それにご先祖さまなら子孫の事もうちょっと信用してくれてもいいんじゃないのかな。

 

「今はここまでしか話せない」なんて胡散臭過ぎるし、本当に俺のご先祖さまなのか?

 

 まあ昔の出来事が間違って伝わってる可能性もあるし、その話が嘘か本当か俺に見極める事が出来ない以上は責めることもできない。

 

 とにかくなぜその話が出てくる、しかも「今は」というのはどういう意味なのか……。

 

「じゃあこれを言ったら多少は信じてくれるかな?大夢、君を転生させたのは私なんだ」

 

 告げられた言葉に耳を疑う。

 

 ……俺を、転生させた……?

 

「もちろん本当のことだよ、私の術によって転生させたんだ」

 

 もう、何を信じればいいのやら……。

 

 驚きを通り越してもはや冷静になってしまう。

 

「それで、前世で君を殺した奴が居るんだ」

 

 それって、俺の事をナイフで刺した不審者の事?

 

「違う違う隕石だよ隕石。君は隕石で死んだだろ? ああ、死の間際だし憶えていないのも無理は無いか」

 

 確かに、死の直前空から眩しい何かが落ちて来るのは見えたけど……やっぱりあれは隕石だったのか。

 

 でも隕石は物体であって人じゃない、「殺した奴がいる」? 何を言ってるんだ?

 

「あれは正確には隕石じゃない。大夢、君を殺した奴というのは邪神なんだよ」

 

 はぁ……百歩譲って隕石じゃないのは分かったけど、「邪神」が俺を殺しただって? 嘘をつくならもうちょっとマシなのにした方がいいと思いますけど。

 

 それにあれが隕石じゃないなら何だって言うんだ、UFOとか?

 

「すまない、まだ信じてはもらえないだろうからそれが何かは言えない。でも君を殺したのは邪神で間違いないよ」

 

 もういい分かった……言えないのは何か後ろめたい事でもあるんだろ?

 

 それに邪神が俺を殺す理由はなんだって言うんだ。

 

 もう転生って言葉が出てくるくらいだし、こっちの世界のおとぎ話に出てくる邪神が前世の世界にどうして干渉できるのかはキリがないからつっこむのを止めとく。

 

 でも理由くらい無きゃおかしいでしょ、第一俺が何したって言うんだよ。

 

 ただ普通に暮らしていただけなのにいきなり殺されて……こっちとしてはとばっちりもいいとこだね全く。

 

「それはすまないが私にも分からないんだ、でも信じてはくれないかい? 先程、盗賊と君が戦っている時に君が固まってしまっただろう? でも腕が勝手に動いた、あれは私が君を助けてあげたんだよ」

 

「だって私が君を助けてあげたんだから、そりゃ知っているさ。おかげで魔術の感覚も知れたし一石二鳥じゃないか」

 

 確かに今までビクともしなかった体が勝手に動いた……あんたが助けてくれたのか。

 

 それが嘘でも、あれがなきゃあそこで盗賊に斬られていたからね、どうもありがとうございます。

 

 だけどどうしてご先祖さまが俺の腕を動かせる。

 

「さっきも言ったように君は私であり私は君である。それに君に死なれてしまっては困るんだ。君には邪神を倒してもらわなきゃいけない」

 

 その「俺はお前、お前は俺」みたいなの気持ち悪いから辞めてくれないかな……。

 

 まだあんたを信用する訳にはいかないね。

 

 それに邪神を倒す……? こんな大して力も無い俺がどうやっておとぎ話のラスボスを倒せと?

 

 前世で見た転生ボーナスみたいなファンタジー作品のソレが俺には一つも無いのに。

 

「それは君自信に頑張って強くなってもらうしかないな」

 

 肝心な所は人任せか……「こんなご先祖さまは嫌だ」ってやつだな全く。

 

 それに俺がそのお願いを聞き入れる必要が無い、俺を殺したのが邪神なら前世の家族との生活を終わらせた邪神は確かに憎い、だからって倒すなんて身の程知らずもいいとこだ。

 

「本当にいいのかいそれで? もし仮にそうした場合は未来で君は悲しむ事になるだろうけど……ガルアやマナティア、アレスの亡骸の前でね」

 

 何? それは邪神が生きていると皆が死ぬって事か? ……確かに嫌だな、正直マナティアはまだこれから絆を深めていくという感じだから実感が湧かないが、アレスやガルアさんが死ぬのは……嫌だ、二人はもう俺にとっては大事な家族に変わりない。

 

「そうだろう? おっと、時間が無いな……まあそういう事で頑張ってくれよ。それじゃまた……」

 

 声が、そして意識が遠のいていく……。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 勢いよくベッドから体を起こして目を覚ます。

 

「なんだ……ただの夢じゃん」

 

 そう、きっと初めて戦闘をしたせいで疲れていたんだ。

 

 そう呟いてふと右腕を見た。

 

 そこには痣で、しかも日本語でこう書いてあった。

 

「夢じゃないよ」と。

 

 それを見た瞬間背筋が凍りつき、全身の毛穴が逆立つ様な感覚に襲われる。

 

 同時に理解をした、あのご先祖さまモドキとの会話は実際にあった事なのだと、そして内容が全て事実であった場合に俺は邪神を倒さなければならない……。

 

 だけどどうやって邪神を倒す? そもそもどこにいるかすら分からないのに。

 

 いや、多分そのうちまたご先祖さまとやらが夢の中に出てきて色々と教えてくれるのかもしれない、「またね」と最後に言っていたしそうであろう、ていうかそうでないと何も分からない。

 

 そもそも前世の俺の先祖がなんでニルとなった俺に話しかけてくるんだ……転生の仕組みがよく分からないけど、肉体は違っても記憶はあるから魂は同じとか?

 

 もういい、考えるの辞め……朝ご飯食べよう。

 

 頭の片隅に夢の話を追いやり、部屋を出て階段を降りる。

 

 するとそこには海のような深く青い髪を肩まで伸ばした青い瞳の少女、マナティアが座ってテーブルの上のスープとパンを頬張っていた。

 

 マナティアもこちらに気付いたのか目が一瞬合ったがすぐに逸らされた。

 

 はぁ……せっかく昨日仲直りしたと思ったらすぐこれか。

 

 ため息をついてマナティアの向かいの椅子に座り、俺も朝食を口にする。

 

「おはようマナティア、その……またなんか気に食わないことでもあったの? 」

 

「別に……違うわ、ただその……いきなり普通にするのは変な感じというか……」

 

 もじもじとするマナティアだったが、その態度は今までには俺達に見せることの無かった物だ。

 

 つまり昨日で仲直りはしたという解釈で間違いは無いと思うが、そりゃあ昨日の今日でいきなり仲良くしようなんて無理な話だよなとは思う。

 

 俺も少し気まずい気持ちがある。

 

「そう、だよね。別に無理する必要は無いと思うよ、少しずつでもいいから。まあよろしくね! マナティア」

 

「そうよね、そうさせてもらうわ。こちらこそよろしく、ニル」

 

 彼女がここまで大人しい少女だとは思っていなかった、これはガルアさんが俺達の喧嘩を予想できない訳だ。

 

 ガルアさんと二人きりの時は大人しかったんだろう、でもそれは恩があるからか。

 

 いきなり何も知らない男子二人と一緒に暮らす事になるなんて嫌だろうな、俺とアレスが女子だったらあの喧嘩も無かったのだろうか。

 

 正直あのキーキー耳に響くような声で喧嘩するのはもう辞めて欲しいけどね。

 

「おはようニル」

 

 突如後ろから聞こえてくる声に振り向くと、緑の瞳に赤黒い紫色の短髪の少年、アレスが居た。

 

 マナティアと話してて階段降りてきたのに気付かなかった。

 

「おはようアレス」

 

 ん? アレス? マナティアに挨拶しないの?

 

 何やらアレスは意図的にだろうか、マナティアの方を一切向こうとしない。

 

 やっぱアレスはそこまで割り切れはしないか、いきなり仲良くなんてアレスには無理な話だもんな……このくらいの子ならそれが普通なのかもしれないけど。

 

「ちょっと……なんでニルには挨拶して私にはしないのよ! 」

 

 うっ耳が……ほら怒っちゃったじゃん。

 

 マナティアは机をドンと両手で叩き席を立ち上がる。

 

 その顔は頭に血が上って赤くなっていた。

 

「あー……忘れてた」

 

 アレスは興味が無さそうな顔でそう言う。

 

 はぁ……結局これかぁ。

 

「まあまあ落ち着いてよ二人共、ね? 」

 

「ニルは黙ってて、これはこいつと私の問題なの」

 

「そいつの言う通りだよ、だからニルは退いてて」

 

 えぇ……これはどうしたものか。

 

 前世で妹二人の喧嘩は何度も見てきたしその度に間に割って入っては止めたことがあるけど、男女の喧嘩は専門外だ。

 

 俺自身も妹の絵莉とは年後だったからよく喧嘩したけど、一番下の唄葉とは一回も無いな。

 

 仕方無い、これは二人の問題だとして俺はそれを見届けよう……二人で解決しないとこの先もやってけないだろうし。

 

 それにこの喧嘩はなんだか、前とは違う感じがする。

 

 喧嘩するほど仲がいいというやつだろうか、そっとしておこう。

 

 その後二人は十分程下らない言い争いをしたところで、外から帰ってきたガルアさんに止められた。

 

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