瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
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十二歳になった。
布団から起き上がり、手のひらの上に小さな水の球を浮かべさせる。
これはもはやモーニングルーティンとなっていた。
魔術はあの盗賊の一件以来五年練習をしたおかげで、今は使えるようになったし大分練度も上がった。
火以外の魔術はどうやって出すのかを色々試して見たところ、感覚はそのままに頭の中でイメージした物が発現するみたいだ。
ただその魔術を発現させるまでに最初はとても苦労した。
何せ体の魔力操作に関してはずっと行ってきたから上手くできるが、体の外の魔力操作は今までした事がなかったからだ。
まあ一回放ってしまえばそのまま飛んでいくし、ある程度距離が離れると制御が出来なくなる。
だけど肝心の放つ瞬間の魔力操作が出来ないとそもそも発射できないし、発射したらしたで全然違う方向へ飛んでいくわで散々だった。
苦労に苦労を重ねて三年経った十歳の時にようやく魔術が撃てるようになったところだ。
そこから別の属性の魔術を出すのに一年かかったりと大変だった。
多属性の魔術を使う事は、そもそもこの世界じゃ瞳の色に対応した一属性しか使えないので普通の人なら無理だろう。
魔術の本にもそう書いてあったし、ガルアさんもそう言っていた。
ただそれはあくまで『人族』の中での話であり、人族と敵対関係にある『魔族』は個人差こそあれど五属性全て扱えるらしい。
ということは俺が人前で何も考えずに適当に色んな属性の魔術をぶっ放したら「魔族だ! 魔族がここにいるぞ! 」とか言って即処刑とかされるんだろうか。
……いや、確か魔族は特徴的な黒色の瞳をしていると聞くしそれは無いな。
とりあえず人前で魔術を使う時は火属性だけにしとこう。
偽りの瞳は他の色にも変えることができるみたいだけど、めんどくさいから初期設定の赤色なままだし。
まあどうしてもって時はもちろん使えるだけ魔術を使う。
あと今までは身体強化しかして無かったから体の外に魔力を出したことが無かったけど、魔術が使えるようになって初めて魔力切れという物を体験した。
まあ普通の戦闘じゃ魔力切れはしないだろうし、空っぽになった魔力も三日ぐらい魔術を使わなければ回復することも分かったから問題ないとは思う。
そして一番大事なのは人前で魔術を使う時には絶対に詠唱をしないといけないということ。
ガルアさんは何故か何も言わないし、そもそもアレスとマナティアは魔術を詳しく知らないしで気にもとめてなかったが、よくよく考えると無詠唱はマズイのではないかと思えてくるのだ。
魔術の本にはもれなく全ての魔術には詠唱が付いていたし、仮に詠唱が神に呼びかけその力の一端を借り受ける物ならば無詠唱は神への冒涜にあたるのではないだろうかと魔術の本を読み返している時にふと思った。
だから人の前で魔術を使う時は、俺が詠唱しても魔術は発動しないけどそれでもやるべきだと思う。
「ニル、早く降りてきなさい」
「今行きます! 」
いけないいけない、今日の朝はガルアさんから大事な話があると言われていたのをうっかり忘れてしまっていた。
急いで部屋を出て目の前の木の板の階段を下る。
階段を降りるとテーブルの前にはマナティア、アレス、ガルアさんがそれぞれ自分の席に座っている。
「珍しいじゃないニルが寝坊するなんて」
「俺はもう朝ご飯食べたぜ」
「あはは……ごめんごめん。少し考え事しててさ」
そう言ってアレスの隣、テーブルの右端の椅子へ座る。
「さてニルが起きた事だしさっそく話始めるが構わないね? 」
「はーい」三人で声を揃えて返事をした。
「……被せるなよ」と小声で言うアレスがマナティアを睨みつける。
対して「被せたのはそっちでしょ」とマナティアが睨み返す。
あれから五年経った、確かに出会った当初よりは仲が良くなったと言えるかもしれないが、アレスとマナティアはこうしてちょくちょくどうでもいい事で喧嘩を始める。
「はぁ……今はよしなさい二人共、大事な話と言ったろう」
ガルアさんの少し怒りを滲ませたような声に流石にマズイと思ったのか二人は声を揃えて「はい……」と言った。
やっぱこの二人仲が良いんじゃ……?
「さて、それじゃ話すとしよう。君達は十二歳になっただろう? 」
「はい、それがどうかしたんです? 」
「急な話ですまないのだが、君達には来年から中立国家レルポートにある『ルベルラル学園』へ通ってもらうよ」
ん? 学園? そう言ったよな今。
この世界にも学び舎があるのは知っていたけど、孤児である俺達に学校へ行かせるというのはどういう意図があるんだろうか。
第一学費とかはどうするんだ。
「その学園? て、僕達孤児でガルアさんに育ててもらっているのにいいんですか? お金とかは大丈夫なんでしょうか」
「ニル、子供が余計な心配をするものじゃないよ。それに私とその学園の学長とは古い付き合いがあってね、まあ色々あって君達全員分の学費を免除させてもらったからそこは大丈夫だよ」
学費……免除!?
その言葉に驚く、何故なら前世で学校へ行ける事の有難みを知っている俺にとって、その言葉は大変神聖なる響きに聞こえるからだ。
これはガルアさんさまさまと言ったところだな。
「その、詳しい事は分からないのだけれど学園で何をするのかしら」
マナティアが首を傾げそう尋ねる。
確かに、学費免除に気を取られていたがこの世界で学べる事と言ったら魔術や剣術とかだろうか?
正直実生活で使う数学とかなら前世で履修済みなのでやってもつまらない。
「そうだね、特に何をするという訳では無いよ。君達の好きなように学園生活を過ごすといいさ、一度外の世界を体験してみるのも悪くないだろう? 魔術や剣術も学べる筈だ、私なんかよりも上手い教え方をする教師もいるだろう」
「俺勉強嫌だけど……剣術学べるなら行くぜ」
「まあ私はあまり乗り気がしないけれど……でも行きます」
実にアレスらしい回答だな、だけどマナティアは何か嫌な思い出でもあるんだろうか。
そういえば俺はマナティアの過去もアレスの過去も知らない、どのような理由で孤児院へと来たのかすら。
お互い知られたくない過去だってあるだろうから聞かなかったし言わなかったんだろうけど。
「それで、ニルはどうするんだい? 」
ガルアさんが俺の方を見つめてくる。
「もちろん、僕も行きますよ」
その言葉にガルアさんが首を縦に振った。
「とは言っても、学園での生活が始まるのは一年も先の事だ。その間に考え方が変わるかもしれないし、まだ無理に決める必要は無いけれど……どうやら不要な心配だったみたいだね」
ガルアさんがにかやかな笑みを浮かべる。
学園生活か……前世じゃ家の事ばかり気にしてて部活動も友達も疎かだったけど、今度の人生なら色々とやりたいことができるのではないだろうか。
ただ、万が一俺の瞳の色が白だとバレると厄介な事になりかねないから、細心の注意を払って生活しなければなるまい。
アレスやマナティアはその事を知らないようだから、外では絶対に黙っておくように言わないといけないな。
それに、ご先祖さまを名乗る謎の人物が言っていた「邪神は生きている」という発言……十二年この世界で生きてきたが、依然として知らない事ばかりだ。
本である程度の知識は知っているつもりになっていたが、実際には外の世界にあまり出ていない俺が何を知っていると言うのか。
ただ一つ言えるのは、その出来事が起こりうるかもしれない事ならば後悔をしないよう対策することだ。
あの時ご先祖さまを名乗る人物が言っていたようにガルアさんやアレス、マナティアの三人の亡骸で将来俺が悲しむ事になるのは避けたい。
もう二度と、前世と同じように家族との別れを味わいたくない。
あのご先祖さまモドキの言う事を信じて、まずは邪神を倒すための力を手に入れないといけない……学園か、丁度良かったのかもな。