瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
※2023年4月8日追記
こちらの作品は連載中止にします。正確にはもう一度構想を練り直して滞りなく連載できるようにするため中止します。この作品を読んでくださった皆様には大変申し訳ありませんが、どうかご容赦を。
十三話 旅立ちの日に
十二歳になり、明日はついに数ヵ月後に入学するルベルラル学園のある中立国家レルポートへと向けて出発する日。
移動経路は馬車を使う予定なんだが大体一ヶ月かかるらしい。
しかし実際には何が起こるか分からないのが旅というもの、万全を期す為に予定より少し早く出発することになった。
前世の交通機関を体験してる身としては長すぎると思ってしまうが、そこは仕方が無い。
出発は明日の朝で今日は色々と準備をする日なんだが……朝からアレスが見当たらない。
別に何してたっていいんだけど、やっぱり最後の日くらいは皆で過ごしていたい気持ちもある。
そんな訳で俺とマナティアの二人で街中を探し回ったがどこにもアレスの姿は無い。
アレスの行きそうな場所はあらかた探し終わった。
「アレス、どこに行ったんだろう」
マナティアがしょんぼりと肩を落として言う。
「とりあえず街中にはいないみたいだし他のとこを探そう、街以外であいつが行くとこなんて大体限られてるけどね」
それから少し街から外れたところにある、草原を見渡せる少し高い丘まで歩く。
ここは何年か前、マナティアの誕生日に何がいいかとアレスと話していた時に「ニル、あいつに花とかどうかな? 」と言われて、いい場所が無いか探していた時に偶然見つけた場所だ。
その時は春でたくさんの花々が咲き誇っていたのだが、今はその花達は見えない。
咲くのはまた数ヶ月後だろうが、俺達はその時にはもう学園に入学してしまっていて見ることは出来ない。
しばらく丘を登るとてっぺんへと辿り着く。
その上に座り込んだ一つの人影があった。
「あ、アレス! やっと見つけた。今日は最後の日なんだから何も言わずに外に出ないでよ。心配したじゃん」
「……ごめん、なんか来たくなっちゃって」
そう言ってアレスが立ち上がる。
もうお互い十二歳、身長もそれなりに伸びてきた。
俺も街中で見かける同世代の子と見比べても高い方ではあるのだが、アレスはその俺より頭一つ分背が高い。
正直、少し羨ましい。
マナティアは女の子だから俺らより早く伸びて、一時期は「あんた達……ちっさ」と俺とアレスは小馬鹿にされていた。
でも、主に俺達と言うよりはアレスに対して言っているように聞こえたが。
まあ結局は俺達の方が今は大きくなってしまっていて、アレスなんかマナティアの身長を追い越した日にはその時の仕返しか、散々マナティアを煽りまくっていた。
でも最近はその光景を見守ることが、俺の心にとって癒しになっている。
出会ったばかりの時のトゲのある争いと言うよりは、今はただの痴話喧嘩にしか見えない。
「懐かしいわねここ。ただ、花が見れないのが残念」
下一面に広がる地面を見つめてマナティアは呟く。
「そうだね……あ、そういえばねマナティア。あの時君に花をプレゼントしようって言い出したのアレスなんだよ」
その言葉を発した瞬間にアレスは「は? ニルおま、何言って……」と動揺、マナティアは「そんな訳ないでしょ」とからかうように言う。
まあ俺自身アレスの話を聞いていたにも関わらず信じられない。
アレスも成長したということか。
「とにかく! ガルアさんが僕達の帰りを待ってる。早く僕達のお家に帰ろう。またいつか帰ってきた時に、今度は三人で花を見よう」
アレスとマナティアの二人は頷いて三人で孤児院へ歩き出す。
「ただいまガルアさん、アレス連れて帰ってきたよ」
玄関を開けて中へと入る。
なんだかんだでもう夕方だ、明日は朝が早いし今日は夕飯を食べてから少ししか皆で過ごす時間は無いだろう。
「おかえり皆、別に無理して探してこなくても良かったんだけどね」
「最後の日に何も言わずに外へ出歩くなんて何考えてるの全く」
マナティアがアレスの方を見て愚痴をこぼす。
「うるせえ、何も言わなかったのは悪いけどそこまで言われる理由は無いだろ」
「なにか言った? 」
「あ? なんだ? 」
「こらこら、二人ともそこまで怒る必要無いだろう」
二人が火花を散らし始めたのですかさずガルアさんが止めに入る。
もはや二人が喧嘩してそれをガルアさんが止めるという、様式美とも言える光景が見れなくなるのが悲しく思えてきた。
いや、今度は俺がガルアさんの役になるのか……大変だな、全く先が思いやられる。
「さて明日は早いだろう、もう夕飯の支度を始めるとしようか。マナティア手伝ってくれるかい? 」
「はーい」
そうしてガルアさんとマナティアはキッチンへと向かった。
「おいニル、なんでバラしたんだよあの事」
アレスは声を潜めて尋ねてくる。
「いやなんとなく」
本当はそれを言ったら二人の恋仲に少しでも貢献できるんじゃないか、そんな考えがあったとは口が裂けても言えない。確証も無いし。
まあ、今の腹が立っているであろうアレスには言えないことに変わりは無い。
「はぁ……もういいや。あいつは結局信じてないし気にしないことにする」
あれ、案外あっさり許された……?
でもこうなると後が怖いんだけどね、寝てる間にいたずらとかしないでくださいよアレスさん。
「ごめんごめん、今度からは気をつけるから」
その後夕飯を皆で食べて積もる話も程々にして明日に備え、自分の部屋に入り寝ることになった。
今日のはガルアさん達の気合いが入っていたのか、なんだかとても美味しかった。
俺もアレスもおかわり三昧で、珍しくマナティアもおかわりをしていた。
「太るぞお前」
とかアレスが言ってまた喧嘩してたけど……。
それにしても新たな学校生活の始まりか、でも別にやりたい事は特に無いんだよな。
あるとするなら新しい友達作りが目標、かな。
前世じゃあまり友達と遊べなかったどころか友達がいなかったし、その分たくさん友達を作っておきたい。
さてと明日は早いし、もう寝ようっと。
うぅ……この感覚は……。
確認の為周りを見渡すが、暗闇が広がるだけだ。
前にも見たことのある光景、ならそろそろ……。
「久しぶりだね、随分と大きくなったじゃないか。魔術の方も順調そうだね」
案の定、以前に聞いたことのある男の声がした。
俺の先祖を名乗り、同時に俺自身でもあるという人物の声。
いや、聞こえるというよりは頭に直接響いていると言った方が正しいか? まあそんなことはどうでもいい。
久しぶりって、ここ何年も顔を出さなかったのはどういう理由なんだ? 別に会いたかった訳じゃない、だけどいきなりあんな事言われて整理がつくわけが無いだろう。おかげでこっちはモヤモヤしたまま過ごしてたんだ。
「まあまあ、そう怒らなくてもいいじゃないか。ここ数年話しかけなかったのは単なる充電切れってやつだよ」
男はふざけた口調で誤魔化すように言った。
こんなのが俺の先祖……? 信じられない。
充電切れってのは分かった、じゃあ前に話してもらったこと詳しく聞かせてもらえるか? いくら何でも説明不足が過ぎる。
「うーん……言ってもいいんだけどさ、なんかこういうのって少しずつ明かしていく方が面白いと思うじゃん? だからちょっとだけのヒントなら上げてもいいかな」
……は? そっちから言っといてそれはいくらなんでも無責任すぎるだろ。大体前にあんたの言ったこと全部が、本当の事かどうかも区別がつかないんだよこっちは。俺はあんたをどれくらい信じたらいい?
男の言ったことに段々腹が立ってきて、口調を荒らげる。
「……いやー悪かった悪かった、少しふざけ過ぎたみたいだね。基本的に私の言ったことは信じてもらって構わないよ、だから邪神の話もアレス達の亡骸の前で君が悲しい思いをするってのも本当だよ」
そう、なんか俺も腹を立ててすまん。じゃあ、アレス達が死ぬのは本当って事なんだね……。
まだ完全に信用してはいる訳では無い、でも先程までとは違う雰囲気でそう告げられたら少し信じてしまいそうになる。
だけど、こいつが嘘を言っている方が俺にとってはありがたい。そんな未来は嫌だから。もう大事な人を……家族を失いたくはないから。
「安心しなよ、その未来を回避する方法はある。君が強くなっていって、いずれ現れる邪神を倒してくれればいいんだ。それで全て解決する問題だよ」
そう、なのか……なら良かった。まだその未来が決まったわけじゃないのか。
男の言葉に少し安心して、無い筈の体がその場に座り込むような錯覚を味わう。
「まあ要は強くなればいいんだ。これから学校に行くんだろう? 丁度いいじゃないか。あの魔術本もいい加減読み飽きただろうし、君にはアレス程剣術の才能は無い。このちっぽけな孤児院という世界から出て、広く新しい世界を知ればいい」
そう言って男の声と共に意識が遠のいて行く……。
男と夢の中で会話をして目覚めた後はすぐに出発の支度をした。
マナティアは俺よりも早く起きていてすぐにでも出ていける状態だったが、案の定アレスは寝ていたので二人で叩き起した。
不機嫌なアレスは目を擦りながら渋々と支度を済ませる。
「それじゃ、行ってきます」
「ルベルラル学園に着いたらその手紙を見せるんだ、校長と会える筈だよ。最悪私の名前を出しても構わない」
「はい! では」
ようやく三人の準備が整い、最後に玄関の前でガルアさんと別れの挨拶を交わした後、俺達三人は歩き出した。
「気をつけるんだよ」
後ろからガルアさんの声が聞こえてくる。
目指すは中立国家レルポートのルベルラル学園。